迷宮都市ストラスフォード 2
瑠璃は基本的に人見知りなところがあるから会話は俺が対応する事が多い、それに割って入ってくるというのは普段の瑠璃からすれば珍しい事だ
それでも口を開いたという事は、それだけ目の前の状況に納得がいかないという事なのだろう
「ははは、お嬢さん、何を言ってるのかね?私の査定が間違っていると?一体、何を根拠に?」
「少なくとも金貨100枚以上の品を半値で買い取ろうとする人間を信用はしないわ」
俺達はこの世界についてはあまりにも知らない事が多すぎる、それなのに瑠璃はまるで相場を知っているかのような口調だ
「あー、瑠璃?相場を把握してるのか?」
「そうじゃないわよ。ただ、魔眼では大体皇国金貨100枚くらいって言ってるのよ。で、本当のところはどうなの?」
「そ、それは……」
店員は明らかに動揺した様子を見せた、瑠璃が魔眼で見たという毛皮の価値が査定より倍の値段だった
まあ商人は可能な限りコストを抑えて大きな利益を得る為に行動するのは基本中の基本だ、それを責めるつもりはないのだが倍の値段を吹っ掛けるのは少しやり過ぎだな、個人的には二割までなら許さなくもない
「き、金貨100枚というのは、私達が貴族様に売るとした時の値段でして私達の利益を上乗せしなければならず……」
「なら金貨80枚辺りでも良かったじゃない。それに、買ってくれる貴族によっては更に値段を吊り上げられるでしょ?何しろ、滅多にない程に綺麗に解体されたレアな魔物の毛皮なんだから。それに、それだけの品を仕入れる事が出来たとなれば貴族様の覚えもよくなると思うわ。コネクションが作れるのだから、金貨30枚を上乗せするくらい安いものじゃないかしら?」
店からしたら此処まで的確に指摘してくる客は厄介だろうな
何しろ誤魔化しが効かない、利益を多く得ようとしても相場を知っているから吹っ掛けようとしている訳ではないと理解している、単に適正価格で買い取ってくれと言っているだけなのだから
「き、金貨85枚で買い取らせて頂きます……」
「良い判断ね。今後も何かあればお願いしようかしら?」
お詫びの意味で五枚を上乗せしたけど瑠璃の止めの一言で店員が泣きそうになっているが、安く買い叩こうとしたのは向こうだから何も口は挟まない
その後、カウンターで皇国金貨を85枚受け取った、ちゃんと十枚ずつの束を八本並べて端数の五枚に分けてあったので、計算が楽だった
それから店を出たのだが、正直に言えば瑠璃の意外な一面を見て驚いている
「まさかお前が此処までやるとはな」
「本当に魔眼で見ていたら表示されたのよ。多分だけど、本当にその買い取り金額なのか疑ってたからね」
「《看破の魔眼》、つまりは店員の嘘を看破したってところか?」
「そうかもしれないわね。でもお陰で大金が手に入ったんだから良いじゃない」
「お前に嘘を吐こうとしても吐けないって事が分かったよ。まあ、嘘を吐く必要があるか分からんが」
「多少の小さな嘘なら良いわよ。それより、次は何処を回るの?」
「そうだな、武具屋か錬金術関連の店だな。《月の涙》があればエリクサーが作れるだろう?」
他の材料も二本分だがドルム村で貰っていた
それに《月の涙》を加える事で肉体の欠損でさえも治癒してしまうエリクサーが作れるのだ
「そうだったわね。でもかなり珍しい素材じゃなかったかしら?お金足りるの?」
「まあ在庫があるか、値段はどれくらいか、その辺りを見るだけでもな。おっと、武具屋があったし、覗いてみるか?」
「分かったわ。でも、アンタに武具って必要なのかしら?」
「まあな。いつまでも鉄の剣じゃあ心許ないし、どうにも軽くて使いにくいんだ。もう少し重めで刀身の長い剣が良い」
「銃はあまり使わない方が良いものね。でも希望の剣があれば私が造れるわよ」
「そうなのか?」
「剣の形に加工するくらいなら出来るわ。アダマンタイトを使えば丈夫な剣が出来ると思うんだけど」
タラスクの甲羅から精練可能なアダマンタイトか、確かにあれを使えば丈夫な剣くらい造れるだろう
「なら形の参考にって所か」
「そうね。どうやら形のイメージが鮮明なだけ強い剣が造れるみたいよ。それなら気に入った剣を購入して、それを見ながら造る方が良いわね」
手ずから作った職人には申し訳ない話だけどな
そんな訳で見付けた武具屋に入り、剣の置かれている場所を中心に見ている
大剣って程に大きくなくて良いんだよな、それでいて長さもあって片手で扱える剣となると、バスタードソードか
「この辺りなんて良さそうだな」
刀身の長さは凡そ90センチ辺り、片手と両手で使用可能であり両手で持つ必要のある両手剣や片手で盾と併用する片手剣の中間のような剣だ
ただし両手剣と片手剣とは重心が違うので両方を扱う為には独自の訓練が必要である、使いこなせれば利点を生かせて強いのだが、それ以上に使い手を選ぶ
因みに俺は使える、VRゲーム《ソード&マジック》とその続編に出てきた剣は全て使った事があるからな
その中でもバスタードソードは不人気の剣だった、初期装備であり初心者の頃に使い慣れた片手剣より重いし、一撃の威力を出すなら両手剣の方が強い、中途半端な剣だからだ
だがメリットがあり、俺はその為にバスタードソードを使用していた、《ソード&マジック》の続編となる《ソード&マジックⅡ》では武器毎にシステムアシスト付きの《剣技》と呼ばれるスキルが追加されて剣での戦闘が一気に楽になったのだ
スキルに応じた構えを取り、《剣技》の名前を唱えると発動するシステムであり、このシステムにより片手剣と両手剣のスキルの双方を扱えるバスタードソードは他の剣士に比べて単純に《剣技》の数が倍となり戦術の幅が広がり、初代では見向きもされなかったバスタードソードに日の目が当たったのであった
長くなったが以上が俺がバスタードソードを使い慣れている理由だ
そして目の前に並ぶバスタードソードは他の剣よりかなり品揃えが少ないが、職人が丁寧に打っているのだろう、他の品と比べても遜色ないように見える
「試しに手にとって見ますか?」
しかし勝手に手に取る訳にもいかず、鞘に収まっている剣を柄の形状や刀身の長さから重量や想像していると後ろから声を掛けられた
振り向けば眼鏡を掛けた女性が立っていて、服装からして鍛治職人のようだ
この場にいる職人という事であれば店の人間なんだろう、俺は改めて訊いてみた
「良いのか?」
「はい、実際に振るってもみずに剣を買おうとするような奴なら叩き出せ、っていうのが父の言葉なんです。あれだけ真剣に見ていましたし、試しにどうですか?」
「なら、お言葉に甘えて」
促されて俺は並んでいた剣の中でも一番気になっていた剣を取る、ただひたすらにシンプルであり、飾りなんて一切ないバスタードソードだ
柄を手に取った途端、手に馴染む感触に驚き、持ち上げてその軽さに驚いた
身体能力が上がっているとはいえ、羽のように軽く感じられながら確かな重さを持っている事が鞘から現れた刀身の輝きで分かる、こういうのを本物と言うのかもしれない
「どうですか?お気に召しましたでしょうか?」
「正直、予想以上だ……」
「それは良かったです。バスタードソードを扱うお客さんは少なくて、店でずっと眠ったままなんです。この子も外の世界で冒険したいと思ってる筈ですよ」
剣が実際にそう思ってるかはともかく、この剣がこの先も此処で眠っているとなると途端に勿体なく思う
バイザーで解析すると材質はミスリルと出た、これもまたファンタジー作品では定番の金属だが、この世界にも存在したのか
「材質はミスリルです。魔力伝導率も良くてスキルを扱う剣士にはピッタリですよ」
「ううむ、正直欲しいな……」
値段は値札が置いてあったから分かる、金貨30枚と結構な金額だ
ダンジョンでは魔物が金属をインゴットで落とす事があるから金属は基本的に安めなのだが、ミスリルはアダマンタイト程ではないにしても貴重な金属だ
それを使って打たれた剣となれば高額になるのも頷ける、だがまだ探索者組合にも登録していない無職の段階でこれだけの金額の買い物をするのは気が引けるな
「金貨30枚ね。なら安いものじゃない」
「いや、安いってお前、確かに買っても余裕はあるが今後の事とか考えるとだな」
「今後の事を考えたからこそよ。いい、アンタが主に戦闘を担当してるんだから、アンタに投資しないでどうするのよ。その剣があればアンタはより強くなれるんでしょう?」
「まあ、今の剣よりは遥かにな」
「ならそれで良いじゃない、必要な買い物よ、これは」
結局、瑠璃のその一言で俺は剣を購入した
古い剣は何かの時の予備にするとして《アイテムインベントリ》に仕舞い、ミスリル製のバスタードソードを代わりに腰に提げる
「結局、アダマンタイトの剣はお預けになったな」
「アンタはその剣に惚れ込んだんでしょう?なら私が真似しようとしても絶対に出来ないわ」
「分かるのか?」
「どれだけ近付けても完全に一緒にはならないわよ。それこそ次はアダマンタイトを渡して同じ人に打って貰えばいいじゃない」
「それもそうだな」
今はそこまで強い魔物を生身で相手にする予定はないし、もしこの剣で足りないのであれば同じ職人に打って貰おう
この剣のバランスとかも俺に誂えたようにピッタリとフィットしてるんだ、最初からオーダーメイドで造って貰えばどれだけの剣が出来るか楽しみだ
「よし、じゃあ後は薬の素材だな。多分、薬屋だ」
出来れば錬金術師のやっている店が良いな、実際のポーションの相場とかを調べられるし、瑠璃のお手本にもなるからな
そんな訳で道行く探索者に聞き込みを行った、周囲の店を見ても薬屋とは書いてあっても錬金術師がやっている店かは分からないからだ
そして教えてくれた探索者にチップとして換金の手間もあるだろうから王国銀貨を五枚支払い、教えて貰った店に入る
店内は棚に幾つもの薬が入ったビンが並んでおり、入り口近くのカウンターには青年が立っていた
薬草なのか植物の匂いで満ちているが、お目当ての物は置いてあるかな?
「カナ、こっちが素材売場みたいよ。結構な種類が揃ってるわ」
「へえ、やっぱり売ってるものなんだな。干されて加工されてるのか。直ぐに使えるって感じだな」
見覚えのある薬草が乾燥されている事から、基本的に乾燥して保存されるらしい
その中で俺達は《月の涙》と呼ばれる薬草を探したのだが、棚には置いてなかった
「すみません、《月の涙》って取り扱ってます?」
「《月の涙》ですか?あれはそうそう出回りませんからね、我々も必要になれば直接探索者組合に依頼して採取して貰っているんです。それでも依頼を出してから結構な時間が掛かるんですよ」
「そうなのか。因みに、値段って大体どのくらいなんだ?」
「そうですねえ、素材のまま売ったりはしないんですが、探索者組合への依頼料から考えると一本で金貨30枚は軽く超えますね」
「そんなに……」
まさかこの腰の剣と同じだけの値段になるとは思わなかった
だがそうなると購入は現時点では諦めた方が良い、外に出た時に運良く見付けるか依頼を出しておいた方が良いかもしれないな
「ありがとう、薬を作る事になったらまた寄らせて貰うよ」
「またどうぞお越し下さい」
仕方ないので他のポーション類の値段も確認してから店を出た
取り敢えずは直ぐに行く予定だった店はこれで全て回った事になる、後は適当に見ながら南の探索者組合に向かうか
「あら、何かしら?向こうの方が騒がしくない?」
「本当だな。少し見てみるか」
大通りの方から騒々しい物音が聞こえてきた、人の動きもまた音の方へと流れている事から何かあったのかと俺達も大通りへと向かった




