旅立ち 3 / 勇者達の今 2
俺からの要求を全て受け入れた教会騎士達は早々に馬車へと乗り込むと北へと進路をとって出ていった
恐らくは首都の教会へと向かって今回の件の報告を行ったりするんだろう、口を滑らせたように見せ掛けて嘘の情報を与えたりもしたから今後の追撃を撹乱する事が出来るだろう
「すまない、オレが迂闊だった……」
「いや、気にしないでくれ。それで、今後の事なんだが大丈夫か?」
「ああ、それは良いんだが本当に平気なのか?義理もないのに村を救ってくれたアンタ達を悪者にするなんて」
俺がこの村に居た事でダンの言葉が嘘になる事の解決策として、俺がそう言うように脅しつけていた事にした
向こうの《鉄騎兵》を三機行動不能にしたのも奪い取る為、その奇襲を仕掛ける為に注意を引き付けさせた、そんなシナリオだ
その為だけに破壊した《鉄騎兵》は手足を集めれば完全に一機分が揃うようにしてあるのだから
正直、ダンが俺達を庇うような発言をした事から少しばかり厳しいが俺達の事を悪役にしたい教会の連中からすれば喜んで飛び付くような話だろう
その結果、学校の連中には俺が悪事を働いたように伝わるだろうがそれは仕方ない、俺の醜聞よりは村の人間の命の方が大事に決まっている
「良いさ、別にこの国にどう思われようと構わないからな。それに礼を言うのは俺の方だ。俺は瑠璃を助けたいが為に、この国の連中を全て敵だと思い込み始めてた。アンタの話を聞いてそれが払拭されたんだ。だったら周りがどう思おうと構わないって、そんな気になったんだ」
危うく出会う相手は全て敵だと思い込んで疑心暗鬼な性格になるところだった
慎重にはなるが少しは人の事を信じてみようと、そう思えたんだ
だから死なせたくない、助けたいと考えて行動した、そこに後悔なんてある筈がない
「あの《鉄騎兵》を回収したら出ていくよ。残骸は好きに使ってくれ。鋳潰して鉄に加工しても良いし、また来た教会騎士達に渡してもいい。後は《タラスク》の素材も少し置いていく。持っていけなかったと言って誤魔化してくれ」
「何から何まで……この恩は絶対に忘れない、例え外に話せなくとも村で語り継いででも後世に残すからな……」
「それは気恥ずかしいな。まあ、真実を知っている人間がいるなら報われるよ。それじゃあ、次の機会があればまた会おう」
「ああ、その時は少しでも恩を返させてくれ」
最後にがっしりと握手を交わし、俺はトレーラーを出して乗り込んでいく
それで破損して乗り捨ててある《鉄騎兵》の内、一番状態の良い物と他の機体の手足をクレーンで回収しハンガーに収めると出発の準備は全て整った
「それじゃあ、また次の機会にな!」
「また来てくれよ!今度は美味い飯をご馳走してやるからな!」
「辛いだろうけど負けないでね!応援してるよ!」
「兄ちゃーん!おれ、でっかくなったら絶対に外に出るから、また会おうな!」
運転席から顔を出して集まってくれた村人達に向かって手を振る
それに対して村人達も手を振り返して見送ってくれる、この世界に来て初めて心の底から温かい気持ちになった
トレーラーを走らせ、やがて丘を越えて村の姿が見えなくなった頃、瑠璃が口を開いた
「良い村だったわね」
「そうだな。幾つか薬草も分けて貰って、手紙も書いてくれて、本当に助かった」
「やっぱり人助けして正解だったわ」
「ああ、俺も道を踏み外さなくて良かったと思うよ」
「じゃあ、次は国境の砦ね。確かにカレスコ砦だったわよね?」
「ああ、地図によれば少し東に向かう必要がある。真っ直ぐ南って訳にはいかないようだ」
「別に良いじゃない。また村を見付けたら立ち寄って必要なら人助けしてみる?」
「そうだな。必要なら、だが」
無理に恩の押し売りみたいな形になるのは嫌だからな、本気で困った事があったらまた取引って形で持ち掛ける程度にしておこう
警戒ばかりしていた今までの旅路とは違い、軽くなった気持ちで俺はトレーラーを走らせていった
目指すはカレスコ砦、そして越境してエクレニウス皇国だ!
◆
奏多達が旅立ち三日、国境近くまで移動した頃になり奏多によって撃破された教会騎士達が首都に帰還し、教会上層部への報告が行われた
それは王国側にも伝えられ、夕方になり夕食も食べて後は寝るだけといういつもとは違い普段は講義に使われている一室に集められた勇者達は突然の召集について雑談を交わしていた
「いきなり呼び出しって、何かあったのかな?」
「う~ん、魔物の発生とかッスかね?他には魔族に動きがあったとか考えられるッスよ」
「陽葵ちゃん、落ち着いてるね……私はちょっと恐いかな……」
「だって何が来たとしてもやるしかないッスからね。それならドンと構えていた方が余計なストレスにならなくて楽ッスよ」
その中で司、陽葵、鈴音の三人はひとかたまりになって話していた、以前に奏多の行動について周囲との差異があった事が分かってからはこうして一緒に行動する事が増えているのだ
「でも何でッスかねえ、なんかセンパイ絡みの案件なような気がしてきたんッスよ」
「えっ?何で奏多絡みって思ったの?」
「いえ、そろそろセンパイなら何かやらかしてそうかなってだけッスよ」
「それは……奏多なら有り得るかも……」
「で、でも灰村くんの行き先が分かるなら良いことだよね?」
陽葵は短い付き合いながらも勘で、司はたまに他校の不良とトラブルになる事があった奏多との付き合いから否定しきれず、鈴音は少しでもポジティブな方向へと考えを持っていこうとしていた
まだ何の情報も入っていないのに三人共既に奏多が何かやらかしたという意見で一致していた
そしてその時になって部屋へと一人の人物が入ってきた、この国の宰相であるブレンダン・アーキソンである
「突然の呼び出し申し訳ございません、勇者様方。実は皆様にご報告しなければならない事がございまして、お呼びさせて頂きました」
「宰相さん、それは何か問題が起きたという事ですか?」
一番に立ち上がり訊ねたのは桐生であった、宰相もその言葉に頷き、更に続ける
「はい、確かに問題と言えば問題なのですが、それ以上に皆様にお聞きしたい事がありまして。実は、皆様と共に召喚されたカナタ・ハイムラとルリ・フォンテーヌの足取りが分かったのです」
その言葉に室内ではざわめきが起きた
確かに彼等は奏多に対して最初の戦闘での惨劇を起こしたという錯覚から良い感情は抱いていない、それでも行方を眩ましていた同じ世界、同じ学校の人間に対して全くの無関心という訳ではなかったのだ
ざわめき立つ生徒達と、やっぱりかという顔をしている陽葵達ではあるが、宰相は更に言葉を続けた
「その、先程教会より連絡がありまして、此処より南の方に位置するドルム村という村で発見し、交戦したとの事です」
「交戦って、戦ったんですか!?」
「ええ、教会ではフォンテーヌ様を魔族として抹殺対象にしておりまして、それを庇うハイムラ様も共に大罪人としていますので、恐らくは教会騎士達が仕掛けた物と。幸い、何名か負傷してはいますが死者は出ておらず手加減された物と見ています」
事前に纏めて来たのか用紙に書き込まれた内容を淡々と述べる宰相、それに一番に反応するのも桐生なので、他の生徒は話を聞く事に集中していた
「しかし、その際にドルム村は既に大型の魔物による被害を受けており、教会側の主張はハイムラ様達が村を囮に使って魔物を仕留めたと言っています。また、教会騎士の部隊を発見して奇襲を仕掛ける際の囮にしたとも言っておりまして、我が国としては後日調査団を送り詳細を確認するつもりです」
そう言ってまず一枚目の紙を机に置き、次の用紙を読み上げようとした宰相だったが、それに待ったをかけたのも桐生であった
「待って下さい、宰相さん。アイツが何の罪もない人達を巻き込んで利用したっていうんですか!?」
「はい、教会側の報告はそうなっております。ただ、前述の通り教会は彼等二名を大罪人として扱っておりますので、彼等が不利になるように虚偽の報告を行ったとも考えられます。そこで調査団を派遣するのです」
「その調査団、僕も参加させて貰って宜しいでしょうか?」
「ええ、それは希望という形であれば受け付けますが、どうしてですか?」
「同じ学校の、同じ世界の人間としてアイツが迷惑を掛けたようならそれを償わなければなりません。だから行きます、行かせて下さい」
そう言って宰相に向かって頭を下げる桐生に、宰相は少し考え込むと一つ頷いて許可を出した
「まだ確定した訳ではないので勇者様方が償う必要はありませんが分かりました、そのお心遣いに感謝致します。それと、他の皆様も城での生活に少し息苦しさを感じていると思いますので、遠征がてら如何でしょうか?」
その宰相の提案には他の生徒達も頷いた、未だに城での訓練ばかりを行っていた生徒達は初めて異世界の景色を見る事が出来る事から賛成したのだ
そうして宰相は改めて二枚目の用紙を取り出すと話の続きを始めた
「えー、それとこれが勇者様方にお話を伺う一番の理由ですな。実は、ハイムラ様が見慣れぬ武器を扱っていたという報告がありまして。クロスボウのような形なのですが、筒から炎と光、それに大きな音が鳴った次の瞬間には負傷していたというのです。そしてこれが負傷した教会騎士の傷より摘出された物です」
「嘘、あれって……」
「銃弾……何でそんな物があるんだよ……」
続いて懐から取り出したのは小さなガラスケースに収められた銃弾であり、生徒達のざわめきは大きくなっていく
「う~ん、予想はしていたッスけど、センパイって銃使えたんッスね」
「陽葵ちゃん、納得するところはそこじゃないと思うよ?」
「でも何処に持ってたんだろうね?奏多の荷物で銃が入りそうな物ってあったかな?」
「司センパイ、あれってライフルとかの弾ッスよ。少なくともセンパイの持ってたカバンとかには入らない代物ッス」
「じゃあ、何処かで入手したって事だよね?でも宰相さんが知らないって事は、この世界にも銃はないって事だし、あれ?」
「もしかして、それが灰村くんの能力って事かな?」
「その可能性が一番高いッスね。あのロボットもセンパイがやってたゲームの物らしいですし、一度全部を見てみたいッスよ」
他のざわめき立つ生徒達と違い、陽葵達の三人は冷静に話しており、その様子は宰相の目にも止まった
「どうでしょうかシイナ様、この武器について心当たりはありませんか?」
「えっ?あ、その、多分なんですけど私達の世界の武器だと思います。その、詳しい構造とかは分からないんですけど、火薬と呼ばれる物を使って金属の弾を高速で飛ばす武器なんです」
「成る程、他には特徴はありますでしょうか?」
「えっと……すみません、あまり詳しくなくて……」
「ふむ、分かりました。他に勇者様の中で詳しく知っている方はおりませんか?」
宰相の言葉に大抵の生徒は黙り込んでしまった、彼等も銃の存在は知っていても詳しくは知らないのだ
手を挙げた生徒も銃は連射出来る物がある事、日本では滅多に入手出来ない事、弓矢の届かないような長距離から攻撃出来る事などの基本的な情報であり、奏多がどうして銃を保有しているのか等は分からないでいた
「ありがとうございました。引き続き何か分かりましたらご連絡致します。後日の調査団派遣についても日程が決まり次第連絡致します。今日のところは解散としまして、突然のお呼び出しでしたが後はしっかりと休息をとって下さい。それではまた」
それらの情報をある程度纏め他に何も情報が出なくなった辺りで宰相は切り上げて退室していった
生徒達もまたバラバラに部屋へと向かっていくが、その口から出るのはやはり奏多の話題についてであった
陽葵達も同じく解散しその日は部屋に戻って就寝となった、それから二日後に調査団の派遣が正式に決まり、翌日には生徒達を乗せた馬車は奏多達の居た村、ドルム村へと向かったのだった




