陸皇亀タラスク 2
「魔物の情報……そんな物で良いのか?」
「ああ、俺達は魔核を、それもより上位の魔物から集めている。上位の魔物程、燃料としての質が良いからな」
「いや、だがあれはそんな簡単な物じゃないんだ!あんなデカい魔物、見た事がない!」
「落ち着け、特徴さえ教えて貰えればこっちでも調べられる。それに、俺達の武器は生身じゃない、《鉄騎兵》だってあるんだ」
正式にはAFだがこの世界で通す為に《鉄騎兵》と偽っておこう
性能はそこらの《鉄騎兵》とは比べ物にならない程に上だから単騎と侮られる事があるかもしれないが、その時はその時だな
「《鉄騎兵》を……アンタ、一体何者なんだ?」
「吸血鬼の錬金術師を護衛して世界を回ってる旅人だ。必要だというなら俺の機体、《マスタング》を実際に見せる事も出来るぞ」
「……本当に、ヤツを狩ってくれるのか?」
「相手によるが、そんじょそこらの魔物相手に後れをとる事はないだろう。何にせよ、まずは知らなければ何も出来ない」
魔物の種類によっては《マスタング》で対応出来ない物もあるだろうから、まずは相手の種類を特定する事からだな
「……分かった、アンタを信じるよ。どちらにせよ、損はないからな。ヤツは川から上がってきたんだ。デカい、家みたいにデカい亀みたいな魔物だったんだ」
亀、という事は水中でも行動可能なタイプか
《マスタング》は水陸両用には出来てない、水陸両用にするにはフレームから手を加える必要がある、戦闘を行う時は陸に誘き寄せる必要があるな
「成る程、他には?」
「それは……おい、誰か他にヤツを見てたのは居るか?」
「オレは見たが、足が六本あった。それに、口から火を噴いたんだ。それで家を焼かれた。知ってるのはこれくらいだ」
「道理で消火作業が出来ない訳だな。川に水を確保に行けば、ヤツがいるかもしれないって訳か」
「ああ、用水路を引いてたんだが、ヤツに踏み壊された。魔法で何とか消火しようにも、魔力が足りないからな。燃え広がらないように先に建物を壊した方が早かったくらいだ」
「成る程、今の情報で何か該当する魔物がいないか少し調べてみるよ」
得られた情報から検索を行いアーカイブの情報を閲覧しようと左手首の端末を操作する
名前が分からない時の為に特徴を入力すれば検索出来るようにしてあるのは助かる機能だ
しかし検索の前に、瑠璃から追加の情報が来た
「カナ、その魔物だけど似たような魔物を知ってるわ。《タラスク》って調べてくれない?」
「《タラスク》?聞いた事のない名前だな」
とはいえ情報には違いない、試しに《タラスク》の名前のみで検索を掛けたところ、確かに一件のみヒットした
カラー写真も付いており、それを左手首の端末から投影し、空中に表示する
言われた通りに亀のように甲羅を背負った六本足の怪物、頭から尻尾まで全長は平均で20メートル、高さは5メートルはあると記されている
頭はライオンとか虎とかの猫科肉食動物に近いな
「コ、コイツだ!間違いない、この村を襲ったのはコイツだ!」
「当たり、か。凄いな、この外見でドラゴンの一種らしい。地竜と水竜のハーフとされているが、分類上は地竜。その威容から《陸皇亀》の異名を持つ。ドラゴンの中でも防御力に優れる地竜の中でも一段と防御力に秀でている、とあるな。その分、かなりの鈍足らしいが。いや、その鈍足を補う為に聴力が発達していて、水中に身を潜めて水辺に来た獲物を捕食するのか」
情報通りなら遠距離で炎のブレス攻撃がある、その甲羅の防御力がどれだけ高いか分からないが、キャノン砲で貫ければいいな
「それにしても、よくコイツの名前を知ってたな」
「フランスの怪物よ。タラスコンっていう街の由来にもなったの。川に住んでいて、川辺にいた人間とか、船を沈めては中の人間を食べるみたい」
「成る程、因みに退治されたりしたのか?」
「聖書では聖女が聖水と十字架で降参させて縛った後、剣や槍を使って皆で囲んだ倒したそうよ」
聖水と十字架か、手持ちにはないな
というか吸血鬼になった瑠璃の口からその二つが出ると違和感を感じるな、本人曰く真祖たる吸血鬼はそんな弱点は存在しないとの事だが
血も吸わないし、本当に見た目が変わっただけなんだよな、コイツは
「一度、やりあってみないとな。《マスタング》を呼ぶ、それから川に探しに行ってみる」
「そう、ならトレーラーも持ってきてくれる?ポーションと炊き出しくらいしか出来ないから私は此処に残るわ」
「分かった、今呼ぶ」
左手首の端末を操作し、トレーラーを近くまで移動させる
正直に言うとあまり人目に触れさせたくはないが、古代の遺物とでも言っておこう、ファンタジー作品には付き物だしな、やたら近未来的な古代文明
まあこんな状態の村人達が何か手出ししてくるなんて思えないからだが、いざという時は事前に決めていた通りに、だ
操作を終えて少しすると丘の向こう側からトレーラーがやってくる
サイズからして《タラスク》と勘違いしたのか村人が慌てた様子を見せたが、やがて近付いてくる影が違うと気付いたのか今度は首を傾げている
そして近くまできたトレーラーが停止し、その荷台が開くと中からメンテナンスベッドに固定された《マスタング》が現れる
改めて見たがちゃんと右肩の方にキャノン砲が追加されており、カラーリングも黒地に白のライン、左肩には白で一筋の流星のエンブレムもちゃんと付いていた
ゲーム内での俺の機体のカラーリングそのままの《マスタング》だ
「ねえ、カナ。いつの間に色を塗り替えてたの?」
「キャノン砲取り付けた時に、ちょっとな。塗装やエンブレムを再現するのが少し面倒だった」
なお塗装自体は無料だ、色の種類を追加する時だけ費用が掛かる
エンブレムは素材データから組み立てても良いし、一から自分で用意してもいい、俺はエンブレム自体は割りと簡単な構造だから自作している、何しろ大きめの星と二本の尾を描くだけだからな
その《マスタング》だが、メンテナンスベッドの拘束が外れると勝手に荷台から降り片膝をつく駐機姿勢を取る
胸部のコックピットハッチも開いており、後は俺が乗り込むだけだ
「あ、あれは本当に《鉄騎兵》なのか?」
「さてね。傭兵っていうのはあまり自分を語りたくないんだ、手の内っていうのは大事な商売道具だからな。詳しくは聞かないでくれ、あまり大事にしたくない代物なんだ」
「あ、ああ、分かった。あのバケモノを倒してくれるなら、何でも良いさ」
「そういう事だ。ほら、離れろ離れろ。今からちょっとドラゴン退治だ」
リーダーの男に答えつつ、《マスタング》へとワイワイと集まってきていた子供達を離れさせる
やはりどの世界、どの時代であってもロボというのは子供達の心に響くらしい
子供達が完全に離れたのを確認してコックピットに乗り込み、システムを完全に立ち上げて機体を起立させる
補給も済んでおり推進剤も弾薬も満タンだ
「それじゃあ行ってくる。もしも武装が通用しなかったらなるべく遠くまで誘導するからな」
ついでに外部スピーカーから外へと伝えると、村人達が手を振って見送ってくれる
瑠璃の事を見ても何も言わなかった村人達だし、この国の人間に対する俺の見方が少し変わってきた気がする
とはいえ今はドラゴン退治だ、《タラスク》はランクにしてA+となっていた、この間のジェノサイドグリズリーよりも格上の相手だ
だから動きが鈍重だからといって油断できる相手ではない、初撃で決めるつもりで行こう
村から発進し、ブースト移動で川の近くまで来たが、やはり周囲に大型の魔物が居るのは確認出来ない
とはいえ川も広いので深いところに潜んでいる可能性もある、だから威嚇射撃として近辺の水面に向かってアサルトライフルで攻撃、反応を探る
だが水面には何の変化もなく、既にこの辺りには居ないのかと思ったその時、上流の方で何かが光った
怪しい動きがあれば回避行動をとる、体に染み付けた動きにより反射だけで操作を行いブースト移動で機体を素早く後退させる
それから視線を川の上流に向けると水面から画像で見ていた《タラスク》の頭が覗いていた
その頭に向けて右手のアサルトライフルを放つ
三点バーストに設定した為、三発ずつ三度放たれた銃弾はしかし水面に当たるばかりで《タラスク》には当たらない、水中に潜った事で弾が水面に当たり目標を捉えられなかったのだ
《マスタング》では水中に入れない、このままでは何も出来ないがアーカイブを開いた時の情報を元に一手だけ策がある
「榴弾装填、ファイア!」
右肩に装備した三つの弾倉を装備する事で最大三種類の砲弾を使い分ける事が可能な《三式施条砲》、それを一発放つ
砲弾は弧を描いて川へと着弾すると爆発し轟音を響かせる
「ゴガアァァァァァァァァァァッ!?」
それから一泊置いて《タラスク》が悲鳴を上げながら水面へと飛び出してきた
今撃った榴弾は着弾してから爆発する弾で、今回は《タラスク》に当てる事を目的とはしていない、《タラスク》の情報に『水中から水辺の獲物を捕らえる為に聴力が発達している』という点から大きな音を出す事を狙ってだ
そして狙い通り、轟音に驚いたのか聴力がやられたのか、あわてふためいた様子の《タラスク》が岸から揚がってくる、また水中に撃ち込まれたら堪らないからかな
「さて、ようやくまともに戦える訳だが……」
頭を中心に先制攻撃としてライフルを発砲、再び三点バーストによる攻撃で弾倉に残っていた弾を全て吐き出した
しかし弾丸は《タラスク》の表面を傷付けるだけに止まる、頭は少し効果があって血が噴き出していたが骨に止められたのか致命傷とは程遠い
アサルトライフルの口径は30ミリ、結構大きめの筈なんだが貫けなかったか
それでも脅威を感じさせる事には成功したらしく、《タラスク》はまんま亀のような見た目通りに頭を甲羅の中へと収めてしまう
同時に手足も中に収納し完全に防御特化の体勢になる、しかも頭や手足を収納した穴にはスライドしてきた甲羅の一部が塞ぐ形になっており、穴から中へと砲撃する手は使えそうもない
「ならコイツでどうだ?徹甲弾装填、ファイア!」
200ミリの口径を持つ肩のキャノン砲、アサルトライフル以上の威力を誇る一撃ならばと《タラスク》に向けて撃つ
だがそれも甲羅に命中した途端に弾かれ、砲撃は放射線を描いて《タラスク》の後方へと飛んでいく
「角度的に、傾斜装甲みたいに逸らされた感じか。なら―――」
どうやって防がれたのか、AFW内で似たような防御を行った敵を思い出した俺は機体を飛び上がらせて空中からもう一度キャノン砲を放つ
「グガアァァァァァァァァァァッ!?」
「―――ビンゴ!」
痛みで咆哮を上げる《タラスク》、俺の放った二発目の徹甲弾はその甲羅に確かにヒビを入れる事に成功したのだった




