戦果確認と旅立ち / 勇者達の今
ジェノサイドグリズリーとの戦闘の結末が少し悲しい物となったが、俺達はその日の夜、改めてジェノサイドグリズリーから得た物を再確認していた
「取り敢えずで熊鍋っていうのを作ってみたけど、大丈夫かしら?私、日本料理なんてあまり作った事がないのよね」
「おお、美味そう!十分大丈夫だと思うぞ、この出来なら!」
ジェノサイドグリズリーから得られたのは魔核の他に肉類だ
そしてその肉は今、瑠璃の調理によって鍋へと変化している
一応は熊の手も部位としてはあったのだが、瑠璃が調理方法について見当がつかないという事なのでポーチの中で保管されたままになっている
確か中国では高級食材とされていたと思うが、俺も調理方法は知らないからな
「じゃあ、早速戴きます」
「どうぞ。私もどんな味になったか楽しみだわ」
まずはメインの熊肉、鍋に薄めに薄めた《鬼辛子》が入っていて、その匂いが獣臭さをとってくれているらしく、その辺りが気にならない
そして味だが、脂が多めに見えて、サラッとしている、くどくない
逆に野菜やスープの方に旨味が溶け込んでいるのか、ただの白菜よりも美味い、何よりもピリ辛まで薄めた《鬼辛子》の辛味で食欲が刺激される
「うん、この肉なら幾らでもいけそうだな」
「へえ、こんな味なのね。カナ、今度見付けたらまた狩ってみましょう」
「そうだな。今度は真正面からぶつかってみるか」
そんな会話をしつつ、俺達は熊鍋を食べ進めていった
「さて、早速だがジェノサイドグリズリーの魔核をCPに変換しようと思う」
「随分と大きな物が手に入ったわよね。ゴブリンの何体分かしら?」
ジェノサイドグリズリーの魔核だが、大体でラグビーボールくらいのサイズをしている
魔核の質は大きさの他に、溜め込んでいる魔力の多さで決まるらしいが、ゴブリンの魔核が小石サイズだったのを考えればかなり期待出来るだろう
そんな訳で早速とばかりに端末を操作して魔核を変換、魔核が光って粒子が端末の画面に吸い込まれて変換は終了した
そして気になるCPだが、なんと《100,694CP》になった
銃を購入した事で殆んどポイントが残っていなかった事から、今の魔核のみでおよそ10万CPの価値があったという計算になる
「流石はランクB+といったところか。凄まじい数値だな……」
「そうね。これ、頑張れば一ヶ月以上生活出来るわよ」
「そうだな。とはいえ、機体の強化も行わないといけないから、取り敢えず一つ装備を追加して、その弾薬を弾倉一つ分ずつ購入するぞ」
「それは構わないけど、どんな装備を付け足すの?」
瑠璃の質問に対し、俺は端末を操作して画面に表示する事で答えた
そこに映っているのは一つのキャノン砲であり、《三式施条砲》と名前がついている
口径は200ミリ、初期に買える装備としては優秀な方で、暫くは買い換える必要のないレベルの完成度を誇る装備であり、少し他の装備より割高だが、先行投資と考えれば問題ないだろう
機体の背部に取り付けられる形のバックパックに搭載しているメインのバーニアに干渉しないよう、バックパックの左右に取り付けるタイプであり、砲身はAFの半分程の長さがある
特徴としては砲身の後部に弾倉を三つ装備可能で、対象に応じて弾種の切り替えが行える、弾倉一つにつき五発の砲弾が入るから、全部で十五発だ
「使うかは分からないが、火力があって困る事は少ない。防御力の高い敵に対してや、集団を吹き飛ばす時に使える装備だ」
「そうなのね。私にはよく分からないけど、アンタが必要だって思ってるのよね?」
「まあな。ドラゴンとか、アサルトライフルじゃあ歯が立たない相手が出てくるかもしれないし、この施条砲なら命中精度も高い。弾次第で相手を選ばずに使えるのが魅力だ」
「なら買いましょう。予算は足りてるのよね?」
「ああ、砲自体は75,000CPだからな。弾も予備を含めて5,000CP分は欲しいな」
「なら残りは20,000CPくらいね。他にウルフは魔核もあるから十分過ぎるくらいよ」
「そうか。なら購入しておくぞ。多分、メンテナンスベッドの方で取り付け作業が行われる筈なんだが―――」
端末を操作して言った途端にハンガーの後ろの方から駆動音が聞こえてくる
何やらバチバチという音も聞こえる事から装備が取り付けられているんだろう
「―――ちょっとの間、中に入らない方が良いな。とはいえ、直ぐに終わるだろう。夜通し作業してて眠れない、なんて事はない筈だ」
全身フル改造とかなら暫く掛かったかもしれないが、キャノン砲の取り付けくらいならそこまで掛からない
そう言っている内に終わったらしく、もう音が聞こえなくなっていた
元からAF用の装備な訳で、取り付けも規格があっているのだろう、メンテナンスベッドの方に行ってみると本当に短時間で終わっていた
「今後はコイツの出番も作ってやらないとな」
「そんな相手からまた魔核を取り出して機体を強化して、また強い相手から魔核を奪う。そういう訳ね」
「まあな、相手がプレイヤーか魔物かって事以外はゲームの時とあまり変わらん。さて、明日からは南に向かって移動するんだ。早めに寝て休もうぜ」
今日はジェノサイドグリズリーとの戦闘で、囮として引き付けた時に全力疾走したからな、追われる恐怖もあって少し疲れた
運転席のシートをベッドにして眠り、そして翌朝には森から平野へと出た俺達はハンガーを使って南へと向かい移動を開始した
まだ目的はあまり果たせていないが、ゆっくりとでも前進すればいい
まずは南にある隣国、エクレニウス皇国を目指して移動する
そこに辿り着いてからの事は色々と考えてはあるが、いつか陽葵達とも情報の交換をしないと
やるべき事は沢山だ、それでも俺達は元の日本に帰る為に立ち止まる訳にはいかないからな
さあ、俺達の戦いはこれからだ!
◆
一方、奏多達がエクレニウス皇国へと進路を定めた頃、ヴィレージュ王国の王城、その一室には勇者達が集められ、この世界の一般的な常識を学ぶという名目で座学が行われていた
しかし、学校でのそれと違い生徒達はまるでゲームの攻略情報や設定でも聞いているかのような感覚であり、基本的には誰も居眠りなどをしたりはしていない、勉学に於いて重要な興味を持つという事が達成されているのだ
「―――このように、女神リリウム様より魔法の力を授かった我々人類はこの後、魔物に一方的に敗北するだけでなく、徐々に生活圏を広げ、広大な国を築くまでに至ったのです」
そして講義を行っているのはリリウム教に仕える神官の一人であり、時としてリリウム教に対する熱心な教えを交えて講義を行っていた、元より信仰心の薄い日本人の生徒達は話し半分に聞き流しているが
だがその勇者達の中に一人、講義をあまり聞いておらず窓から見える空を眺めている者がいた、遠藤陽葵だ
「くあぁ……」
(うあぁ、暇ッスよ……何が悲しくて頭のおかしい宗教狂いの講義なんか聞かないといけないんッスか……)
今も欠伸を噛み殺しながら早く終われと思いつつ、昼食のメニューを考えている
それでも講義であり、中には有用な情報も含まれているだけに眠気と格闘しつつ講義を聞く、が今は必要のない宗教の勧誘のような話になっているので全て切り捨てている
(こんな事ならセンパイ達についていった方が良かったッスかね……向こうは絶対に退屈しない筈ッスよ、だってセンパイが居るし)
彼女にとって奏多とは面白い事を引き起こすセンパイであり、彼女の腐的な趣味の他にも一緒にいる理由だった
今は『瑠璃センパイの為に漢を見せているセンパイの為に、たまには役に立とう』と思い立ち、こうして別行動をしてはいるが本音を言えば一緒に行きたかったのだ
とはいえ既に奏多達がこの街から離脱して四日が経っている、今から合流しようにも向こうの居場所が分からないのではどうしようもない
だが此処で講義の終了を告げる鐘が鳴る、自分達の興味を引く内容とはいえずっと座って話を聞いているだけという行為には他の生徒達の中にもやっと終わったかといった様子の窺える顔がちらほらとあった
「んん~、やっと終わったッスね~」
「お疲れ様、やっぱりあの宗教の話には慣れないよね」
「司センパイ~、ショタ成分を補充させて欲しいッスよ~」
「はいはい、ボクはキミより歳上だからね。それより、次は実技訓練だよ。準備は大丈夫?」
「装備ならいつでも呼び出せるので問題なしッス!今日もあのイケメン面をボッコボコにしてやるッスよ!」
なお、実技訓練では一対一の模擬戦があるのだが、彼女の相手は勇者の中で総合力の高い桐生正義になる、それ以外だと彼女の速度についていける相手がおらず、一撃で勝敗がついてしまうのだ
しかしスピードで勝っている為に桐生であっても彼女の相手は厳しい、一撃の威力は低く、鎧を通らずとも衝撃はあるので何度も受けると危険なのだ
そして彼女は勇者達の中で最強とされる桐生をボコる事を楽しんでいた、周りが止めに入らない絶妙な力加減で攻めながら
今日もまた桐生は彼女によってボッコボコにされたのだ、それでも日に日に動きに慣れてきていている事から彼の能力の高さを物語っているが
なお、司は魔法使いとして魔法の練習を行っていた
レベルこそ低いが既に複数の属性の魔法を扱え、その威力も申し分ない
また他の勇者達も大なり小なり、それぞれ一般人を超える能力を備えている
日々動きが洗練されている彼等の実力はこの世界でもかなり高いものとなっていた
「あ~、終わったッスねえ。早くご飯が食べたいッスよ~」
「お疲れ様、今日も大立回りだったね」
「まだ軽めッスよ。手の内完全に晒すわけにはいかないッスからね」
「そうだね。奏多達が警戒していたし、いざという時の為の切り札は残しておかないと」
そして訓練が終了した後、体を休めるという理由をつけて他の勇者達より遅れ、陽葵と司は二人で歩きながら城の廊下を進んでいた
この後は昼食と長めの休憩の後で再び座学の時間となっている
昼食は城の食堂でとるのだが、そんな二人の視界の中に肩を落として歩く人物の姿が見えた
二人の知り合いでもある女子生徒、椎名鈴音である
彼女は奏多達が離脱した後からずっとこの調子であり、桐生達がなんとか励まそうとしているが未だに回復する様子はない
陽葵達も変化する周囲の状況と、そもそも奏多を通して知り合った為に上手く声を掛けるタイミングを逃していたのだ
だが今は椎名一人であり、周囲には人影も見えない事から陽葵は声を掛ける事にした
「椎名センパイ、お疲れ様ッス!」
「えっ?ああ、陽葵ちゃんか。お疲れ、陽葵ちゃんは訓練は大丈夫だったの?」
「大丈夫ッスよ!今日も桐生センパイをボッコボコにしてきましたッス!」
「あ、あはは、元気だね、陽葵ちゃんは……」
後輩の子が幼馴染をスピードで翻弄してタコ殴りにする様を見ていた椎名は陽葵の言葉にひきつった笑みを浮かべる
とはいえそれで彼女の顔が晴れた訳ではない、すぐに落ち込んだ表情に戻ってしまった
「椎名センパイ、何に悩んでるんッスか?奏多センパイの事が心配だっていうなら、多分ッスけど大丈夫ッスよ」
「うん、そうなんだけどね……ちょっと、頭が混乱しそうな事があって、それでね……」
「ふーん、それってどんな事があったんッスか?」
「うん、実はね……あの、灰村くんが、瑠璃ちゃんの為に、本当に騎士の人達を何人も斬ったと思う?」
「……それは、どういった意味ッスか?」
「その、実はね、私も最初は灰村くんが騎士の人を斬ったように見えたんだよ。でも、何かおかしい、おかしいって思ってたら、斬られた筈の騎士の人は顔に殴られたような傷があるだけで、さっきまで床に流れてた血も消えてたの。何が起きたのかよく分からなくて、灰村くんがロボットに乗って行っちゃうまで、何も出来なくて……ねえ、私って変なのかな?灰村くんがあんな事をしないって思い込んでたから、幻を見ちゃってたのかな?」
その言葉を聞いた途端、陽葵は司と顔を見合わせると、小さく頷いた
そして改めて周囲に誰もいない事を確認すると、椎名に話し始める
「椎名センパイ、実を言うとセンパイはとてもまともッスよ。ウチ等は最初から奏多センパイが誰も斬ってないところを見てたッスから」
「そう、なの……?」
「そうッスよ。ところで、その話って他にも誰かに話したッスか?」
「うん、正義達にね。でも、誰も信じてはくれなかったの。ショックで幻覚でも見てたんじゃないかって」
「なら今後は誰にも話さない方が良いッスよ。それと、ウチ等の話も他言無用でお願いするッス」
「う、うん……」
「あの日、あの時になんッスけど、センパイが斬り込んだ時に何か弾くような感覚があったんッスよ。多分、何かの魔法を掛けられたんッスね」
「そんな!?それじゃあ、その魔法を掛けたのは―――」
「十中八九、教会側の人間ッスね。だから奏多センパイは離脱する事を選んだし、ウチ等も残って探ってる訳ッスよ。今度会ったらウチも離脱するッス。向こうの方が絶対に楽しいッスよ」
「そっか、やっぱり灰村くんは灰村くんなんだね……ねえ、二人とも。その時は私も一緒に行って良いかな?それに、他の皆も話せば分かってくれるかも!」
しかし椎名の提案に陽葵と司は微妙な顔をする
なぜ二人がそんな顔をするのか分からない椎名は首を傾げるが、代わりに司が口を開いた
「その、多分なんだけど誰も信じないと思うんだ。それこそ彼等が魔法を使ったっていう決定的な証拠があればだけど、もう証明のしようがないからね」
「でも……」
「無駄ッスよ。言っても正義感だけの馬鹿が邪魔するに決まってるッス。奏多センパイには基本的に反対の姿勢の人間には、何を言っても無駄なんッスよ」
「それは、そうかもしれないけど……」
「それに、奏多と桐生君なら、他の皆は桐生君を信じるよ。奏多、あまり快く思われてないからね」
「まあ、ウチ等はセンパイを待つだけッスよ。なので椎名センパイ、本当に他言無用でお願いするッス」
「ごめんね。教会の人達が信用出来ないから、今バレる訳にはいかないんだ」
「うん、分かった。私も何かあったら連絡するね」
そう言った椎名の顔に迷いはなく、先程までの悩んでいた様子もない
こうして陽葵と司は勇者達の中でも仲間を作る事に成功した、そしていつの日か奏多達と合流する事を目指し、情報収集を行っていくのであった




