狩り 3
翌日、再び朝から狩りを始めた俺達だが、銃を手に入れた事により一度の戦闘時間はかなり短縮されていた
ゴブリンに通用する事は確認済みの銃だが、ちゃんとホーンウルフにも命中する
一定の距離まで近付けば、後はAGIの高さによる動体視力でウルフの動きを見極め、引き金を引くだけで良い
剣では届かない位置にいる敵も楽に倒せ、肉を断つ感覚がないからか瑠璃も昨日より積極的に魔物を狩る事が出来ていた
昼までには俺もレベルが13になり、瑠璃も一気に7まで上昇している
そして今、昼食の為に俺が周辺の警戒をし、瑠璃が腰のポーチから色々と取り出していた
某国民的ロボットの持つポケットのように条件さえクリアすれば色々な物を無制限に入れられ、更には重さも軽減されるという、便利なポーチは何故か料理を入れられた
錬金術に関連するアイテムという条件は何処に消えたのやら
「本当に便利よね、このポーチ。錬金術に関連する物ならって言うけど、それって当てはまらない物なんてあるのかしら?」
「料理が入ってるのが不思議だもんな」
「あら、料理は立派な錬金術よ。昔の地球で行われていた錬金術が料理に使われるなんて事もあったんだから」
「言われて見れば、確かに……」
料理でも化学反応を利用する物は確かにある、それを考えれば確かに錬金術と呼べるか
あれ、そうなると本当に制限なんてあるのか?
魔物の素材も、薬草を始めとした植物も、金属を始めとした無機物も、全て錬金術の材料として使える
それにレシピも決まってはいるが、応用が出来るのか、未知のレシピはあるのか、そういった事も検証していない
今はまだ素材があまり集まらないが、生活に余裕が出来て色々と買えるようになったら材料を揃えて検証してみるのも良いかもしれないな、面白そうだし
「はい、アンタの分よ。ウルフ肉が余り過ぎてるから、ちょっと考えないといけないわね」
「まあ、この森ではホーンウルフの方が効率が良いからな。ポーチに時間停止の能力が付いていて良かった良かった」
「献立を考えるのが大変なのよ。それで、今夜は何か希望がある?」
「そうだなあ。塩だけでステーキとか、良いかもなあ」
「そうね。ハンバーグ、カツときてステーキ。その辺りしかレパートリーが思い付かないわ」
「俺もだ。まあ、何であれ瑠璃が料理すると美味いけど」
「料理スキルか、素材そのものの影響かしらね。私も此処まで美味しくなるなんて思ってもみなかったわ」
今日の昼食はウルフ肉のカツサンド、ポーチのお陰で出来立ての状態で食べられるからありがたい
どちらかと言うと淡白に感じられたウルフ肉だが、甘辛いタレが染み込んだ衣と、しゃきしゃきしたレタスの食感がとても合っている
渡されたのは少し大きめの物が四つだったが、直ぐに平らげてしまった
食休めという訳でバイザーを使って周辺の様子を窺っていたんだが、森の中に続々と光点が出現する
だがその色は黄色、ゲーム内では味方ではないが積極的に敵対している訳でもない対象に付けられる色だ
第三勢力が主に当てはまったが、今回のこれは予想しか立てられないが、その中心にある赤い光点から、恐らくは何か強大な魔物から他の魔物が逃げていると考えるのが妥当だろう
昨日話していたバーサークグリズリーが一番可能性が高いが、どうだろうな
「瑠璃、昼食中のところ悪いが、早めに片付けた方が良い。強力な魔物が一体、森の中に入ってきた」
「モグモグ、それって昨日言ってた熊のこと?」
「ああ、多分な。周辺の魔物が我先にと逃げ出しているよ。今、詳細を確認してみる」
バイザーのマップを呼び出し、更に赤い光点の詳細な情報を呼び出し、確認する
◆
・ジェノサイドグリズリー
バーサークグリズリーが進化し、理性を備えた存在。獲物と見なせば死ぬまで追い掛ける性質は変わっていないが、攻撃一辺倒の戦いから回避や防御を行うようになった。ランクB+
◆
「あ、駄目だこれ。もっと上位種が来てた」
「ちょっと、上位種ってどんな相手なの!?」
「簡単に言うと、突撃バカな熊から、賢くなった熊だな」
「……大丈夫、なのよね?」
「まあ、《マスタング》を使えば一瞬で終わると思う。その前に、ちょっと腕試しでやってみたいが……」
「私にも何か手伝える事はある?」
「そうだなあ。あまり時間もないし、凝った事は出来ないんだが、こうしよう」
熊に効きそうな作戦を立て、俺達はジェノサイドグリズリーを狩る方向で話を進める
ランクFの魔物の魔核はポイントが少ないが、あの熊からならどれだけのポイントが稼げるのか、まだとらぬ狸の皮算用だが、俺達は準備を進め、自分達の方から熊へと向かっていった
「成る程、あれがジェノサイドグリズリーか。結構デカいな」
「私には見えないんだけど、どれくらいなの?」
「腕が近くにある木と同じくらい太い。体は、四足でも3メートルはありそうだな。立ったら5メートルはいくんじゃないか?」
「熊って、そんなに大きかったっけ?」
「さあ?まあ、かなりデカいのは間違いない。今は寝てるな。近くに肉片が散らばってるから、満腹になったってところか」
惜しいな、ライフルならこのまま頭を撃ち抜ける自信があったが、手持ちの武器はそこまで遠距離に対応していない
距離にして500メートル、途中で何本か木があるが、あの巨体が突っ込んできたら薙ぎ倒されそうなレベルなので遮蔽物としては期待できない
俺はバイザーの望遠機能を使って観察しているが、強者の余裕とでもいうのか視線の先のジェノサイドグリズリーは間抜けにも腹を出して寝ている
たまに腹を掻いている仕草とかオッサンに見えるが、この辺りにはそもそもジェノサイドグリズリーの脅威になりそうな魔物がいないから余裕ぶっているんだろう、その余裕を今から打ち砕く訳だが
「じゃあ手筈通り、俺が先に仕掛けるから援護頼んだ」
「ええ、気を付けてね」
不測の事態に備えて幾つかの策を用意したが、可能なら使わずに済むようにしたい
さてと、アイツが起きるまでどれだけ近付けるかな
「グウゥゥゥ……グウゥゥゥ……」
「本当に良く寝てるな……コイツ、本当に野生の魔物か?」
何処かの金持ちが飼っていたのが逃げ出したとか言われても信じるレベルで警戒していないジェノサイドグリズリーに、残り10メートルという距離まで近付けた
正直、拳銃ではとっくに射程内なのだが、瑠璃にも活躍の機会を与える為にM500の出番はない
その代わりHK45Tの方を抜き、ジェノサイドグリズリーの頭に狙いを定める
ダメージを与えられるだろうが、骨を貫通はしないだろうという事で選んだ場所で、立て続けに発砲して頭から足の方へ向けて狙いを変えていく
それによりジェノサイドグリズリーの体から血が噴き出すが、その出血量は少ない、あまり弾が刺さっていないのだ
「ガァァァ!?グウゥガウゥゥゥゥゥ!」
「ハッ、ようやく起きたか!こっちだ木偶の坊!」
だが痛みはあるのだろう、油断しきっていたジェノサイドグリズリーは、まさか自分が傷つけられるとは思ってなかったのか、その咆哮には驚いたような響きがあった
しかし俺の姿を確認した途端にそれは憤怒の色に変わる、俺はリロードしたHK45Tで顔を集中して狙い、更にその怒りを煽る
「グルゥゥゥ……ガァァァ!!」
「そうだ、そのまま追い掛けて来い!」
森の中を全力で疾走する、背後から追い掛けてくるジェノサイドグリズリーの巨体から発せられる威圧感はかなりのものだ
だがヤツは今、完全に頭に血が上っている、周りがあまり見えてないのか木々を薙ぎ倒しながら俺を追ってきている
そして事前に予め仕掛けを施しておいた場所の目印を見付け、俺はその場で跳躍する
ジェノサイドグリズリーはそれに何の関心も見せず、変わらずに地面を疾走して追い掛けてくるが、次の瞬間、前のめりに転倒する
この辺りには大量の小さな穴を掘ってある、ちょうどジェノサイドグリズリーの腕が入るくらいの大きさで、ヤツはその一つに足を取られ転倒したのだ
今までの勢いもあって、そのまま地面を横滑りに進んでいくが、草木をつけてカモフラージュしていたネットに突っ込み、もがく
その辺に大量に生えていた蔦を束ねて編んだ即席のネットだ、基本を作った瑠璃の腕が良いのか頑丈で、そう簡単には引きちぎれない
しかもネットは一枚じゃない、三枚の重ねがけにより絡まり合い、暴れまわるだけのジェノサイドグリズリーは余計に動きを制限されていく
「今だ、瑠璃!」
「ええ!食らいなさい!」
そして、俺の合図と共に近くに潜んでいた瑠璃がガラスの小瓶を投げ付ける
小瓶はジェノサイドグリズリーの顔を目掛けて飛んでいき、ぶつかると粉々に砕け散り、中に入っていた赤い液体をばら蒔く
それがジェノサイドグリズリーの顔にかかった瞬間、今までに聞いた事のない程の苦悶の鳴き声をあげた
「ガウゥゥゥゥゥ!?」
「うっわ、キッツ、こっちまで匂ってきた!?」
「そっち風下よ!早くこっちに来なさい!」
「分かってるよ。それにしても、思ったよりえげつない兵器になったな、《鬼辛子》……」
あの小瓶もまた瑠璃の錬金術で作ったものだが、近くに生えていた《鬼辛子》という実を使った
その《鬼辛子》だが、説明によるとオーガでさえも食べれば一口でダウンするという、劇物扱いの植物だ
唐辛子の仲間で、うっすらと実の表面に鬼のような模様が浮かんでいる事で見分けるとあるが、たまに唐辛子と間違って市場に流れた物を食べる人間が地獄を見るらしい
一応はタバスコの材料として扱われている、十倍以上に薄めるらしいが
そして、そんな《鬼辛子》なのだが俺達がやったのは辛味成分の抽出と凝縮だ
具体的には一本分の量になるよう、三十本程を凝縮した
その原液を俺達はジェノサイドグリズリーに対する目潰しとして使用したのだ
「嗅覚が鋭いとキツいだろうし、口の中や目にも入ってたな。どれだけの激痛が走っているのやら」
「匂いだけで凄いわね。何でこんな物を作ってしまったのかしら」
「どっかの国が暴徒鎮圧用にこんなの研究してた気がするけど、催涙弾とどっちがマシなんだろうなあ」
既にさっきまで暴れていたジェノサイドグリズリーが、今は四肢を痙攣させて倒れている
これは使用には厳重注意という事にしておこう、少なくとも人間に使っていい兵器ではなさそうだ
「もう、コイツに同情心まで沸いてきたよ。せめて、慈悲の一撃にならん事を」
「そうね、悲しい戦いだったわ」
瑠璃も戦闘に参加出来るようにと色々考えた結果、このような惨劇になってしまったのだ
普通に生きていれば味わう事のない種類の苦痛を味わわせてしまった事の罪悪感から俺はM500を抜き、ジェノサイドグリズリーの額へと照準を合わせ、発砲する
HK45Tよりも更に重い衝撃を腕に受けつつ、リボルバー拳銃である事から肘を使って反動を逃がす
強化されたステータスでなら確かに普通の銃と同じに扱えるが、多用するのは少し怖いな
やっぱりメインはHK45Tを使うとして、撃たれたジェノサイドグリズリーは既に動かない
後はいつものように瑠璃が錬金術で《分解》して終わりだ、予想外の相手ではあったが、見方を変えれば大量のポイントをゲット出来るチャンスでもあったのだ
せめてその命を無駄にしないようにと思いながら、俺は大鍋に吸い込まれていくジェノサイドグリズリーを眺めていた




