狩り
翌朝、レーションによる朝食を簡単に済ませ、俺達はハンガーの外へ出た
事前にリサーチした結果、この森には強力な魔物はおらず、《マスタング》で向かおうものなら赤字になるだろうという考えと、瑠璃のスキルを使用するのに一々機体を乗り降りしなければならない手間、そして俺が生身での実戦経験をより多く積みたいという理由からだ
服装は着替えてグリーンの操者用スーツであり、瑠璃も動きやすそうなシャツとズボンに着替えている
プレイヤーの私服用といった設定でマイルームの中に初期から置いてある物で、俺の体格に合わせてあったから少し大きめに見えるが、小さいよりマシだろう
武器は教会で騎士達から奪っていた剣をそれぞれ持っているが、今日の狩りで手に入った魔核のポイントによっては歩兵用の銃を購入しておこう、まずは瑠璃の護身用に拳銃を一つ
その前にこの森の魔物を倒せればと思うが、まあ問題はないだろう
アーカイブの情報によればこの森に出る魔物はゴブリンやウルフといった魔物で、格はそれほど高くはないらしくランクFとなっていた
そのランクがどれ程の強さなのか分からないが、平均的なステータスを見る限りだと一般人で何とか勝てるレベルだった
俺達は《勇者》の称号こそないがステータスは同格、一般人のステータスが基本的に30辺りである事を考えれば油断しない限りこの森で大怪我をするような事もないだろう
「ハンガーは片付けておくぞ。見付かるリスクは極力避けたい」
「そうね。ところで、また出す時のMPは足りるの?」
「俺の戦闘用のスキルだと《AF召喚》とかを使わなければな。使う時は、それだけヤバい相手だって事だから、回復まで野宿で我慢しろ」
「そうね。そんな相手が出ない事を願うわ」
MPだが寝たからか既に満タンまで回復している
休息をとれば回復するらしいが、正確な回復の速度は分からない為、最悪は一晩野宿も視野に入れた方が良い
こればかりは何らかのMP回復手段を確保するか、俺のレベルが上がってMPの総量が増えるのを待つしかない
とはいえまずは狩りへと出発しようと思ったが、瑠璃が近くの木の根元で何やら作業をしている
何らかの植物を摘んでいる事から、採取か?
「それ、何に使えるんだ?」
「さあ?取り敢えずは私の魔眼に出てきたから採っただけよ」
「ああ、確か《看破の魔眼》だったな。成る程、相手のステータスだけでなく物の名前も分かるのか」
「そうよ。簡単には言えば、偽装の効かない鑑定スキルみたいな物ね。何か見付けたら採取して、後でアーカイブで何に使えるか調べましょう」
そう言って瑠璃は採取した植物を腰のポーチに収める
だが俺のバイザーに、その植物の説明が出てきた
◆
月の雫:森林地帯の内、日の差さない場所に生える薬草の一種。様々な薬の薬効成分を強化する働きがあり、回復ポーション等を作成する薬師や錬金術師に需要がある。
使用レシピ
・下級回復ポーション
・中級回復ポーション
・下級MP回復ポーション
・中級MP回復ポーション……
◆
「瑠璃、俺のバイザー、アーカイブと繋がってるわ、多分」
しかもレシピのリンク先には更に詳細な内容というか、材料が表示されている
例としてはこの薬草と《滋養草》という薬草と水で下級回復ポーションが作れるようだ
「本当なの!?私の眼、名前しか出てこないんだけど!?」
「ほら、そこの日が当たる場所、《滋養草》生えてるぞ。それと水で下級回復ポーションになるらしい」
「嘘ッ!?そんなに楽に作れたの!?」
食料ではないが、現時点では貴重 な回復アイテムとなるポーションが作れるのは正直に助かる
しかも俺と瑠璃はそれぞれバイザーと魔眼が名前を表示してくれるから発見も容易だ
加えてレシピの検索をアーカイブで出来る俺が居るから瑠璃の錬金術師としての能力が即座に活用出来ていた
「水、水筒にあったヤツでいけるわね。早速やってみましょうよ、ね?」
水筒は元から瑠璃がお茶を入れていたのを、マイルームのキッチンの水で満たした物だ
「まあ、回復アイテムがあれば心強いよな」
「そうでしょう、早速やってみるわ!」
それだけ錬金術を試したかったんだろう、瑠璃は錬金術師になった時に付いてきたポーチの横に付いている小さな鍋を外し、地面に置く
するとポンッという音がして鍋が絵本に出てくる魔女が使っているような大鍋になった、ご丁寧に混ぜ合わせる為の棒まで付いている、というか―――
「水、既に張ってるな」
「そうね。水が基本的に必要って事なのかしら?」
まあ魔法の道具らしいし、使用する時に魔法で出してくれるんだろう、多分
あまり科学的に考えても仕方ない事だから気にしないでおこう
同じく考えない事にしたのか瑠璃は大鍋に採取したばかりの《滋養草》と《月の雫》を入れて混ぜ始める
ぐるぐるぐるぐる、どういった原理なのか水に浮かんでいた薬草が溶けていき、次第に水がキラキラと光を放ち始める
混ぜれば混ぜるだけ光が強くなっていき、最後に眩しく光ると大鍋が空になり、一度縮こまると逆に伸びて、ポンッと吐き出すようにガラスの小瓶を放り出す
瑠璃は危なげなくキャッチしたが、終始ゲームかアニメみたいな演出だったな、これが普通の錬金術なのかはしらないが
「出来たわね、下級回復ポーションよ」
「何で初めて錬金術をやっておきながら大鍋を普通に使えるのか、疑問なんだが?」
「なんとなく使い方が頭の中に浮かんできたのよ。それより見なさいよこの下級回復ポーション、どんな効果なの?」
「はいはい、ちょっと待ってろ」
どうやら自分で作っても名前しか表示されないらしい瑠璃の魔眼
それで俺に鑑定を頼んできた訳だが、大人しく《スキャニング》で鑑定する
◆
下級回復ポーション(錬金):錬金術によって作成されたポーション。HPと傷を回復させる。飲む、患部に振り掛けるのどちらかで効果を発揮する。錬金術製は使用後、即座に効果を発揮する。
◆
「―――という事らしいが」
「そんな効果なのね。分かったわ、ありがとう」
それにしても、何故ガラスの小瓶が一緒にくっついてきたのか、気にはなるが分からないという事になるんだろうな
うん、もう気にしない、魔法関連で物理的におかしな事は、『魔法だから』の一言で片付けるようにしよう
それと、ちょっと騒がしくし過ぎたかな
「瑠璃、敵が来てる。多分、速さからしてゴブリン、三体だ」
「何処からか分かる?」
「あっちだな。向こうは錬金術の光に反応したらしい。遠くて、俺達がいる事には気付いてないんじゃないか?」
バイザーのマップに表示される赤い点、確認してみればゴブリンと表記され、それが一定の速度で此方へと近付いてきている
恐らくは森の中を歩いていたら何かが光っていたから気になって近付いてみた、そんなところだろう
何しろ森は木々でいりくんでいて、俺達がいる少し開けた土地が少しある程度だ
木々の間も、剣を振るうくらいなら問題はないが、気をつけて振らないと木に刺さるだろう
そんな間抜けを晒さない為にも、此処は大人しく開けたこの場所で待ち構えるとしますか
「俺がやってみるから、瑠璃は囮な。またポーション作って、向こうには気付いていないフリをしてくれ。俺は連中に背を向けとく」
「分かったわ。材料を拾って、また鍋を出せばいいのね」
そう言って手早く材料を集めると、今度は複数本の薬草を混ぜ始める
どうやら複数本、一気に錬金する事も可能なようだが、それなりに時間はかかるらしい
俺もマップに注意しつつ、連中に背を向けて大鍋の中を見ているかのように装いつつ待機する
そして、連中が俺達に気付いたのか、開けた場所から少し離れた位置で止まる
襲うべきか迷っているようだが、少し経つと一気に走って此方へと近付いてきた
そしてゴブリンが俺達までもう少しといったところで、俺は剣を持って駆け出す
緑色の肌をした1メートルもない小鬼、アーカイブで見ていたゴブリンの写真そのものの姿だ
「ゴブゥッ!?」
気付かれていた事に驚いたのか、俺の動きを見て先頭の一体が止まろうと足でブレーキを掛ける
だがそこは既に俺の剣の届く位置であり、その胴体を袈裟懸けに斬る
包丁で肉を切った時より弾力がある感触だが、やっぱり生き物を斬ったという実感が沸いてくる
だがやらなければやられる、そして俺達が生きる為にと剣を振り抜き、まずは一体を仕留めた
仲間が一撃でやられた事に動揺しているのか、残りの二体は右往左往しているが、そのチャンスの間にもう一体の頭を割る
頭の半ばまで埋まった剣を、ゴブリンの死体を足蹴に抜き、最後の一体を見れば既に遠くへ逃げようと背を向けて走り出していた
それを逃がしてもいいが、背を向けているというのはこれ以上ない程のチャンスを突かない手はないし、瑠璃の為にも一体は残しておいた方が良いだろう
逃げるゴブリンへと追い付き、その片足を切り飛ばすと、俺は瑠璃の方を向いた
錬金の方が今終わったのか、ポンポン飛び出てくるポーションをキャッチしては腰のポーチに収納している
あれも錬金術用の大鍋と同じく覚醒した時に、他の連中の武器のように手に入った物で、錬金術に関するアイテムを幾らでも収納できるという代物だ
どうやら錬金術師という職業は事前に毒物などのポーションを作成して敵に投げたり、味方をポーションで回復するのが本来の戦闘方法らしい
なんとも金が飛びそうな職業だが、殆んどの錬金術師は戦場に出ないから生産職としての活動で儲けているとか
まあ薬師の作るポーションが怪我の治る速度を早めたりするのに対し、即効性のあるポーションの方が売れるのは道理だろう
その分、単価は高くなるしそもそも錬金術師は少ないという事なので、コイツも街に行けば一気に金持ちになれるという事だ、戦闘特化の俺とは大違いだな
「瑠璃、コイツにはお前が止めを差せ」
「えぇっ!?わ、私が!?」
「この世界で生き抜くなら必要な事だろう」
「うっ……そ、そうね…………やらないと、ダメよね……」
剣を構え、恐る恐るといった様子で転がり回るゴブリンへと近づく瑠璃
ゴブリンは体と同じく緑色をした血を垂れ流しながら近付いてくる瑠璃の姿を見て黒目しかない目に涙を溜めていた
「ゴブッ!?ゴブブッ!ゴブゴブッ!」
「ごめんね、あなたを殺さないと、私達が生きられないのよ……ごめんなさい!」
言葉は分からないが命乞いをしているゴブリンに対し、瑠璃は目を閉じて両手で頭上に掲げた剣を振り下ろした
「ゴ、ブ……」
「ハァ……ハァ……ハァ…………ウッ!?」
剣がゴブリンの頭を捉え、左右に割る
瑠璃は息を荒くし、目を開けてゴブリンの死骸を見ると口元を押さえ駆けていく
半ばまで割れた頭蓋から灰色のゼリーのように溢れ落ちる脳と、緑色の血を垂れ流している姿を見れば無理もないだろう
俺だって、平然としているように見えるかもしれないが、こんな物を直視していたくはない、必要だからと割り切っているから出来ているだけに過ぎないのだ
とはいえ瑠璃にはまだ早かったかもしれない、もう少しこの世界に慣れてから経験しても良かった事だ
「大丈夫か?すまん、いきなりハードルが高かった」
「ケホッ、ケホッ!へ、平気よ……気にしなくて良いわ……」
「そう、か。取り敢えず水で口を濯げ。次からは俺がやる。お前は……銃が手に入ったら挑めばいい」
「そうね……ごめんなさい……」
「気にするな。互いに適した事をしよう。俺だってお前がいなければ出来ない事が幾つもあるんだ。いや、居てくれるだけで助かる」
少なくともこの状況で一人なんて精神的に堪えるだろう、苦楽を共にしてくれるだけでどれだけ救われる事か
「少し休んでいろ。俺は魔核を摘出してくる」
そう、狩って終わりではない、そこから魔核を手に入れなければ無駄に命を奪っただけになってしまう
魔核は魔物の体内に精製されるという、ならゴブリンの死骸を解体して摘出しなければならない
そんな解体作業を今の瑠璃に見せるのは精神的にキツいだろうから、俺だけでやるつもりだ
「待って、それなら私がやるわ。それに適したスキルがあるのよ」
「……平気なんだな?」
「ええ、まだあの時の感触が手に残ってる感じがするけど、大丈夫よ。もう何もお腹に残ってないもの」
「そ、そうか……」
まあ、直接は見ていないが盛大にぶちまけたようだからな、スッキリはしたんだろう
とはいえ瑠璃がやると言っているのだ、それがどんなスキルかは分からないがやる気を削ぐような真似はしない、その覚悟を見届けよう
瑠璃は先程のゴブリンの死骸の前まで行くと、再び鍋を腰のベルトから外して地面に設置した
「行くわよ、《分解》!」
恐らくはスキルの名前だろうが、目の前で大鍋サイズに変換した鍋がゴブリンの死骸を周囲にあった分を含めて三体分全て吸い込んでいき、何処から出てきたのか蓋によって閉じられた
「実は蓋を閉じるだけで錬金って勝手にやってくれるのよね」
「なら何で手でかき混ぜてたんだよ」
「気分よ、気分」
そうか気分ならば仕方ない、俺もAFWではたまに気分で装備を変えていたりしたからな
中で何が起きているのか、ガタガタと音を立てて揺れ始める大鍋に、ちょっと距離をとって眺めていると不意にボンッという音がして煙と共に鍋の蓋が飛び上がる
そして再び吐き出すように大鍋から出てきたのは何かが入った袋と小さなクリスタルだった
「袋の中身は灰だな。火葬でもされたのか?」
「使い道のない部分はそうみたいね。ゴブリンは魔核くらいしか手に入らないって書いてなかった?」
「確かにそうだったな。灰は森に蒔いてやるか」
使い道のない素材が灰になるなら、せめて森の養分となるようにしてやろう
近くの木の根元に灰を蒔き、瑠璃も大鍋を片付けて移動できるよう準備は整った
まずは森から出るように移動し首都ヴィレージュを迂回して南に向かおう
改めて剣を握り直し、俺達は森の中をマップに従って歩き出した




