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逃走 2

目を開くと、そこは《マスタング》のコックピットの中だった


そこまで広くはないスペースで、シートが限界まで倒されていて、俺がそこに収まっている


体を起こすと左脇腹が突っ張るように痛む、どうやら止血パッドにより出血は止まっているが、傷口は完全に治り切ってはいないらしい


だがそれも少し経てば塞がるだろう、あの注射は設定ではナノマシンにより傷の治療を行うとなっていた、ゲームの時なら一瞬で回復していたが、現実ではそうはいかなくても回復はしてくれる筈だ


事実、痛みも最初よりは収まっている事から完治は間近なのだろう、とはいえこのスキルで《マスタング》を手に入れてなかったら危なかったな、正直なところ瑠璃だけでも逃がす事を優先して俺が生き残る事を後回しにしていた


単に運が良かったという事だが、さっきの夢や、意識を失う前に見た瑠璃の顔を見たら俺も生き残らないと駄目だと、今ならそう思う


それから何とか上半身だけでも起こし、周囲を見回す


モニターは外の様子を映しており、森の中なのは変わらなくとも周囲はすっかりと夜になっている


そして、俺の左側には瑠璃が眠っている、狭いコックピットの中で、何とかレバーや計器に触れないよう器用に横になっている


シートの後ろならまだスペースがあるだろうに、目元にある涙の跡を見て、俺の事を心配してくれていたんだろうな


今の時刻は……機体の時計では午後八時、俺が眠っていたのは数時間だけか


とはいえその間に何があったのか、連中は俺達に対して追手を差し向けたのか、残ると言っていた司や陽葵達は今頃何をしているのか、色々と気になるが、今は分からない事は置いておこう


それより、レーダーによると周囲には敵性反応が複数ある、どれも小型で生体センサーへの反応である事から野生動物や魔物といった怪物と思われる


そのいずれだとしても脅威になるとは思えないが、何も知らない以上油断は出来ないか


さてと、移動するにしても瑠璃が寝ていて計器が見えない、心配させておいて申し訳ないが、起こすか


「おい瑠璃、起きろ。起きてくれ」


「ん、カナ……?」


寝惚けたように呟き、うっすらと開いた目で俺を見る瑠璃だが、次の瞬間には跳ね起きて俺へと掴みかかってくる


「カナ、平気なの!?傷は!?意識は!?」


「お、落ち着け!お前のお陰で助かった―――って、うおあっ!?」


「キャアァッ!?」


掴みかかった拍子に何処かに触れたのか、機体が大きく揺れる


俺は機体に体を固定してないし、瑠璃も不安定な立ち方をしていた事で揺さぶられ、姿勢が崩れる


俺はシートに倒れ、瑠璃は俺の上へと覆い被さるような形で手を付き、操作が終わったのか揺れは収まる


「あっ……」


そして、俺達は互いの今の状況を確認する


俺はシートに仰向けに寝ていて、瑠璃がその上に乗っているのだが、さっきまで腕を伸ばして転ばないようにしていたが耐えきれずに俺に密着する形となってしまった


胸の辺りにふよふよと柔らかな感触がして、厚手のスーツである事が悔やまれる―――ではない、この状況でそんな疚しい事を考える訳にはいかない、今後の活動に於いても互いの関係が気まずくなる


そうだ落ち着いて素数を数えよう、と思ったところで瑠璃が俺の背に腕を回し、強く抱き締めてくる


その顔を見れば泣いていた


「良かった……本当に、生きていてくれて良かった……」


「あー、すまん。心配かけたな」


「もう、二度と死にそうな無茶はしないで……」


「分かった」


「絶対に帰ってくるって、約束して……」


「ああ」


分かっている、俺も夢の中でそれを確認して、伝えようと思ったのだから


「瑠璃、改めて約束する。俺はお前を護るし、俺も俺を護る。生きて日本に帰ろう」


「ええ、私も一緒に生き抜くから。アンタの事を支えていくわ」


「ああ、頼んだ」


まだ少し涙ぐんでいる瑠璃を落ち着かせる為に、俺もその背に手を回してポンポンと優しく撫でて続けていった




「さて、それで現状確認といきたい訳だが」


「そうね。今後、どういった活動をするのかを決める為にも、確認は必要ね」


互いにさっきまで抱き合っていた事の気恥ずかしさもあって可能な限り意識しないように全力で確認へと移る


瑠璃も言ったように今後の活動に於いても重要な事だけに、浮わついた気持ちはさっさと切り換えなければならない


「まず、《マスタング》なんだが、現在の状態は機体ステータスは良好。ただ、推進剤が残り半分、バッテリーが八割ってところだ」


「この機体、バッテリーで動いてたの?」


「ああ、歩いたりモニター点けたり、基本的な動きはバッテリーの電力でやってる。そしてブースト移動とかのバーニア使ってる時に推進剤を使うんだ」


「どうやって補給するのよ?」


「ハンガーで補給を行える。まあ、試しにやってみようぜ。スキル、《ハンガー》」


消費MPは200と、レベルが上がってなければ使えなかった上に、今もMPがカツカツだが、使用すると《マスタング》の外に大型のトレーラーのような物が現れた


ふむふむ、てっきり《マスタング》を整備する為の設備のみかと思ったが、これは予想以上に使えるスキルかもな


「何よ、この車」


「これな、AFWでプレイヤーの最初の拠点になるハンガー兼マイルームだな。しかも自衛用に機関砲が二門ついてる」


機体の方から遠距離操作も可能で、試しにハンガーを開くと荷台に当たる部分の上が開き、機体を固定するベッドと呼ばれる整備用の設備が伸びる


そこまで機体を歩かせると機体が固定され、トレーラーの内部へと格納されていく


完全に動きが止まった後、仰向けに寝かされた《マスタング》から出てハンガーの中を歩き、一つのドアの前に立つ


扉の横の端末に手を翳すとドアがスライドし、その奥へと進めるようになる


「これがマイルームだ。快適な逃亡生活になりそうだな」


「ええ、本当に」


冗談めかして言うと、瑠璃も笑って返す


マイルームというのはその名の通りプレイヤー個人の部屋だ


このマイルームは最初期のプレイヤー用とはいえ基本的な生活に必要な物は揃っている


棚に衣類箪笥に机に椅子、それにベッドと、奥にはキッチンやユニットバスもある


とはいえ一人部屋だからな、俺は移動と防衛が素早く出来るように機関砲の操作パネルとハンドルのある運転席の方で眠ろう


その前に、色々と確認しなければならない事は多いのだが


「ちょっと端末を確認しても良いか?これがゲームと同じ設定なら幾つかの機能がある筈なんだが」


「端末って、まんまパソコンね。それで、何が出来るの?」


「まあ見れば分かるが、取り敢えずはこれだな」


そう言って俺は壁際に設置されている机の上に乗ったパソコン型の端末を操作する


ゲームの時はミッションの受注を始め、色々な機能を持っていたのだが、その差異の確認だ


まずミッションは当然ながら受けられない、そもそも発行していないのだから当然だが、瑠璃に見せた機能は生きていた


《ショップ》、その名の通りアイテムの売買を行える機能であり、俺が《マスタング》の中で使った応急キットなんかも売っている、AFWはロボット戦のみでなく機体を降りてからの破壊工作やゲリラ戦のような真似も出来る、幅の広いゲームだったのだ


「とはいえ、所持金がないから何も買えん」


「機体パーツに、武器、弾薬、家具に回復アイテムに、食料品。凄いラインナップね」


「まあゲーム内のラインナップだからな。食料品が買えるならありがたいんだが」


言って、俺の腹の虫が情けない音を立てる


昼にあんパンを一つ食べただけで、既に空腹になっていた


「まずはご飯にした方が良さそうね。それで、何かあったかしら?」


「カバンの中にカレーパンが残ってはいるが、一つだけだな。あとは、応急キットの中にレーションが残って無かったか?」


「私もお弁当がそのまま残ってるから、それを食べないと。レーションって、軍隊用のご飯よね?」


「ああ、確か基本的なブロック状のクッキーがあったと思うんだが、数があるから数日は持つだろう。設定では一本で一食分だった筈だし」


「味は大丈夫なの?」


「お菓子感覚だな。ゲーム内の物だし、味は保証する」


とびきり美味いという訳でもないが不味くはない、そういった食べ物だ


しかし、そうなると今後の活動に於ける最優先事項が見えてきた


「まずは食料の確保だな。もうちょっと調べてみるか」


端末の画面に映っている所持金のところには《0CP》とあるが、これはクレジットポイントの略で、今はゼロになっている


機体のパーツを買うにも、弾薬を買うにも、燃料を買うにも、何をするにしてもこのCPが必要となる


だが何気なく画面に触れた時、俺の知らない情報が表示された


『現在0CPです。魔核(コア)をチャージして下さい』


魔核という物が何なのか、俺は知らない、AFWにも存在しなかったアイテムだ


だが要求されている、そして文面を確認する限りCPと関連のある事なのだろう、魔核という単語にリンクが貼られているのを見て、再びそれにタッチすると、AFWなどに関する情報が記録されている筈のアーカイブへと飛び、魔核のページが表示された


魔核:魔物の体内より入手可能なクリスタル。魔物が魔術を行使する際に必要な物質とされ、様々な魔法や魔道具の燃料として用いられている。個体差はあるが強力な魔物ほど上質な魔核を保有している傾向が強い。


そしてそのページにも様々なリンクが貼られているが、当然ながらAFWの頃には存在しなかった単語にリンクがついている


つまり、アーカイブもまたこの世界に適応して変化しているという事だ


そして、それは俺達にとって貴重なこの世界の事を知る情報源という事でもある


ついでにCPについても検索してみたが、《クレジットポイント》から《クリスタルポイント》へと変化していた


どうやら魔物を倒し、その魔物から魔核を取り出してポイントに変換する必要があるらしい


「明日からは魔物狩りだな」


「そうね。弱そうな魔物ばかりなら良いんだけど」


取り敢えず、魔物を狩り続けて魔核を確保さえ出来れば俺達は餓えずに済む可能性が高い、まだCPをショップで使っていないので確定ではないが、活動方針の一つが決まった、まずは魔物を積極的に狩る


そして、アーカイブにはまだまだ俺達の知らない大量の情報が残っている、俺達は話し合いつつ、気になった疑問を、それが分かりそうなキーワードを使って検索し、分からない単語はリンクから飛ぶなどして調べる


そうして集めた情報の中で、重要な点を次に纏めてみた


・魔王:魔人大陸を統治する魔族の王。魔法に関して絶大な力を持つが、現魔王は長らく融和路線の政策を進めている。現魔王はブラッドフォード・サタン・アッシュフィールド。


・ヴィレージュ王国:北東大陸の中央部に位置する国王を頂点とした封建制国家。国力は周辺諸国より総じて高いが現在は戦争による領土拡大を止め、内政に力を入れていた。しかし、それを快く思わない軍部が存在する為、火種を抱えている。


・リリウム教:北東大陸に於いて広まっている宗教であり、女神リリウムを唯一の神として崇めている。ただし、上層部では腐敗と権力闘争が横行しており、元の『全ての種族は例外なく女神に愛されている』といった平等を謳っていた面影はなく、現在は魔族を排除する事を教義として定めている。総本山は北東大陸北部の街、カレリーナ。


その他にも細々とした調べものは行ったが、その中で一番注目すべき点はこの辺りの情報だろう


何しろ、魔王が融和路線で政策を進めているのであれば、召喚された時の説明と食い違うからだ


やはり俺達が召喚された事には王国か教会の思惑が絡んでいるらしい


「案の定というか、予想の範囲内だな」


「そうね。取り敢えず、魔王とはわざわざ敵対する必要もなさそうだし、戦争に参加しないで平気じゃないかしら?」


「そうだな。それで、俺達の今後の方針なんだが


1.魔物を倒して魔核を確保。生活に必要なリソースを得る事とAFによる戦力の拡充が目的。


2.独自で日本への帰還方法の調査、発見を行う。


3.王国や教会の目的を探る。そして此方に正当性があれば妨害を行う。これは主に腹いせが理由。


こんな感じにしようと思うんだが」


「三つ目が酷いわね。でも、それで良いと思うわ。それで、何処に向かうの?」


「地図を見てくれ。俺達がいる北東大陸の南部、ヴィレージュ王国の南に位置する国でエクレニウス皇国がある。この国は魔族と人間が共生してる国だ。取り敢えずは此処を目指して移動して、その北部の街の何処かを拠点にしようと思ってるんだ。どうにも魔族と共生してる国は南側、リリウム教が存在している国は北側に集中しているらしい」


地図はアーカイブにも、俺の頭のバイザーにもついており、世界地図を初めて開くと地図の上下左右に四つの大陸があった


俺達のいる北東大陸はその名の通り地図の右上、北東に位置する大陸で北アメリカ大陸みたいな形をしている


とはいえメキシコの辺りが無いから更に南にある魔人大陸とは陸続きではない、そして魔人大陸はアフリカ大陸を南北逆にしたような形である


地図の左側の上下にも大陸が二つあるが、距離があるようで航路も発見されておらず、未だに交流はないらしい


その内、二つの大陸とも航路が繋がるのかもしれないが、今は思考から排除して良いか


「成る程、私もそれで良いと思うわ。じゃあ、明日から行動開始ね」


「おう、頑張って魔物狩りと行こうぜ!」


その後、アーカイブで主に現在地の周辺情報を集めつつ食事を行った


レーションは長持ちする食料なので取っておいて、カレーパンや弁当といった物を先に消費する


それからは眠りについて、明日からの行動に備える事にした

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