アイデアマン! 第2章 憧れとライバル
そして、僕にはもう一人、どうしても意識してしまう人物がいる。
天音優。学校で最も優秀だと言われている生徒だ。家も裕福で、思いついたアイデアを実現するための資金も環境も整っている。僕とは違い、考えたことをすぐに形にできる立場にいる。
彼のアイデアは「ソムリエゲーム」だ。
プレイヤーは銃専門店の店主となり、店を訪れる客に商品を提案する。ただし、客の言葉をそのまま受け取ればいいわけではない。客が口にする希望と、本当に求めているものは違うことがある。
客の話し方や視線、服装、持ち物、商品の見方、何気ない一言。そうした手がかりを読み取り、その人が本当に欲しがっているものを推理する。そして、相手に合った品を選び、ソムリエのように上品に提案するのだ。
銃が好きな男の子にも楽しめるし、ソムリエのようなエレガントな対応に憧れる大人の男性にも刺さる。男にとっては隙がない。そんな魅力を持ったゲームだった。
正直、うらやましい。
昔は天音優とも家が近くて、親友だったんだけどな……。最近は、めっきり話さなくなってきた。
昔は一緒にドッジボールや鬼ごっこをして遊んだり、尊敬している人が作ったゲームを一緒に遊んだりした。『星のカービィ』や『マリオ』も。
あの頃は、何をするにも一緒だった。
「ぐすんっ……」
……少し、寂しいな。
「あ! そろそろバイトの時間だ!」
僕は時計を見て、慌てて帰り支度を始めた。
弄りA「おいおい! そんなしょうもないアイデアのくせに、お金貯めか?」
弄りB「いや。自分に絶望してるから、上をいくのを目指すのはやめていて、安定の道に行くために少しでも金貯めてるんだろうぜ」
弄りC「もしミミズテトリス出したら教えてくれよ! 宣伝ぐらいはしとくぜー! 話のダシにしたいからよー! ギャハハ!」
また笑い声が響いた。
……うるさいな。
僕は何も言い返さず、その場を後にした。
恐らく、攻略本ゲームを完成させるには数百万円は必要だ!
200万か? 300万か?
正確な金額はまだ分からない。でも、届かない数字じゃない!
いつか必ず実現してやる。
そして、いつか必ずなってやる。最強に!
そもそも、なぜ僕が最強を目指しているのか。
この世界では、ボクシングのチャンピオンやサッカーの国代表になれる人間は、ほんのひと握りだとされている。
しかし、アイデアは無限だ! 人間の想像力はパワフルだ! その力は絶大だ!
誰にだって、まだ見ぬ何かを生み出す可能性がある。
そして、最強を目指す理由は単純だ。金と名誉。それらが約束されるからだ。
もちろん、ここでいう最強とは、アニメのように身体が強くなったり、超人的な力を手に入れたりすることではない。アイデアマンとして頂点に立つという意味だ。
この世界が現実世界と大きく違うところは、まだ実際に作られていないアイデアであっても、そのポテンシャルが目に見えて分かってしまうことだ。
ただし、それはあくまでもポテンシャルだ。最後の最後に、そのアイデアが流行るかどうかは運次第になる。時代の影響もあるだろう。
例えば『Among Us』は、コロナ禍だったからこそ、家で遊ぶゲームにブーストがかかっていたのかもしれない。
どれほど優れたアイデアでも、時代に恵まれなければ大ヒットには届かない可能性がある。最終的には、運すらも味方につけなければならない。
それでも、人々は上を目指す。
プロから「これ面白いですね」と言われることも大切だ。だが、この世界では、それ以上に「目に見える不思議なオーラ」がある。そのオーラは嘘をつかない。だからこそ、プロの評価以上に確実性があると考えられている。
だからこそ、みんな必死になってアイデアを想像し、それを形にしようとする。
しかし、この社会にはもう一つ難しい問題がある。
この世界は、アイデアであふれ返っているのだ。
人々が生み出すアイデアは、大きく分けて三つの方向性に分かれている。
一つ目は、既存のものを改良する方法。すでにあるものに手を加え、形や仕組みを変え、さらに面白くする。
二つ目は、既存のもの同士を組み合わせる方法。一見関係のなさそうなものを掛け合わせ、そこから新しいものを生み出す。
そして三つ目は、完全新規型。誰も見たことがない、誰も想像したことがないようなものを一から作り出す。
どれが正解というわけではない。改良によって大成功することもあれば、組み合わせから新しい価値が生まれることもある。もちろん、完全に新しい発想が時代を変えることだってある。
ただ何かを思いつくだけでは足りない。あふれるアイデアの中で、どれだけ人々を驚かせ、楽しませ、価値のあるものを生み出せるか。
それが、この世界のアイデアマンたちの勝負なのだ。




