アイデアマン! 序章・アイデアを隠す世界
この世界には、誰もが認める「最強」が存在する。
最強のサイトは、Amazon。
最強のゲームは、Minecraft。
人々は、より優れたサービスやゲームを生み出そうと日々競い合っていた。だが、この世界には、もうひとつ無視できない問題があった。
通称「漁夫の利」。
それは、他人が考えたアイデアを盗み、その本人よりも先に形にして世に出し、利益や名声まで奪ってしまう行為のことだった。
どれほど素晴らしいアイデアを思いついても、誰かに話せば先を越されるかもしれない。企画を見せれば、知らないうちに別の誰かの作品として発表されてしまうかもしれない。
だから人々は、自分のアイデアを口にしなくなった。胸の内にしまい込み、何も考えていないような顔をして、黙って過ごす。それが、この世界で身を守るための処世術だった。
そんな世界に、一人の青年がいた。
見た目は、いかにもひ弱そう。体つきも頼りなく、強気な人間に囲まれると、なおさら小さく見えてしまう。周囲の者たちは、そんな彼をからかうのが好きだった。
ある日のこと。いつものように、数人の者たちが彼を取り囲んだ。
「おい! お前のアイデア、言ってみろよ!」
突然そう言われ、青年は一瞬だけ間を置いた。もちろん、本当のアイデアを話すつもりはない。この世界で自分の考えを簡単に明かすほど、彼は無防備ではなかった。
そこで、彼は適当な嘘を口にした。
「……テトリスのブロックを、ミミズにする」
一瞬の沈黙。その直後、周囲から大きな笑い声が上がった。
「ギャハー! それ、全然二番煎じじゃねえか!!!」
一人が腹を抱えながら、得意げに言い放つ。
「いいか? 上に上がるには、見たこともない画期的な、なおかつ面白いものを生み出すアイデアマンが勝っていく社会なんだよ!」
別の者も、わざとらしく感心したような声を出した。
「いや! 確かにある意味画期的だぜ! ミミズが勝手に動いて、空いてる隙間に入って揃う。まさに初心者だけには優しいゲームだな。クソつまんねえけど!」
「ギャハハハ!」
笑い声が響く。青年は言い返さず、ただその場をやり過ごした。
――いいさ。今に見てろ。
彼は心の中でつぶやく。
お金が十分に貯まったら、これを開発会社に持って行く。自分のアイデアを形にしてもらうのだ。彼は、その日を通称「最後の審判」と呼んでいた。
そこまでたどり着けば、自分の中に眠っている力も、きっとみなぎってくるはずだ。
この世界では、自分でゲームやサービスを作ることも不可能ではない。だが、多くの人は、より良いものを作り上げるために開発会社へ依頼する。企画を考える者、資金を用意する者、技術を持つ者。それぞれが役割を担い、ひとつの作品を完成させていくのだ。
むしろ、自分一人の力で企画から開発までやり遂げる人間は珍しい。何もないところからアイデアを形にするその姿は、まるで錬金術師のようだとさえ言われていた。
青年は、錬金術師になろうとしているわけではない。自分のアイデアを実現してくれる開発会社に依頼するため、まずは資金を貯めようとしているのだ。
周囲は彼を笑う。彼のアイデアを知らないまま、価値がないと決めつける。
それでも彼は、まだ何も明かしていない。
彼の頭の中には、ずっと温め続けている「攻略本ゲーム」がある。
それが本当に面白いのか。世の中に通用するのか。誰もまだ知らない。
そして彼自身も、それを証明できる日を待っていた。




