第5話─私は一緒に寝たいの。
ピピピピピピピ………
あと4日。僕の寿命は残り半分になった。そういえば、レイナは僕が居なくなった後、どうするのだろうか?また、死神に戻るのだろうか?それとも、この家で1人暮らすのだろうか?
もし1人で暮らすなら、この家に彼女の好きな物を置いた方が良い。だから今日は模様替えをする。
「レイナ、起きてー。」
「んー…あと5ふんー。」
「だーめ。起きて。」
「えー。」
「今日は模様替えするよ。」
「わかったぁ……もう少し寝てからでもいい?」
「…。」
僕は我慢できずに彼女が寝ている布団の掛け布団を思いっきり引っ張って無理やり起こした。
「うわぁぁ寒いぃ。」
「ほら、起きてぎゅーしよう?」
「…ぎゅ。」
彼女は僕の”ぎゅー”という言葉で素直に起き上がって抱きついてきた。彼女は面倒くさがりだけど、子供みたいに素直だ。
「ダーリン、あったかい。」
「ふふ、そう?」
「うんっ。」
彼女を数分抱きしめたあと、身支度を始めた。
「先にお風呂入ってくるから、レイナは……」
と、言いかけたところで彼女は「その…」と話を遮って、なんだか落ち着きの無い様子で僕に言った。
「一緒に、入らない…かな?」
「……え?」
「あ、えっと…嫌なら…いいの。」
どうやら今回は冗談じゃないらしい。彼女の望みなら叶えてあげるのが恋人というものだ…と思った。実際のところ、今の僕たちは恋人と言えるのか分からない。けれど、少なくとも意識は恋人だ。
「いいよ。」
「ほ、ほんと!?やったぁ…!!」
「じゃあ…お、おいで?」
「うん…!」
それから衣服を脱いで一緒に湯船に入ったが……とてつもなく気まずかった。
「……。」
「………。」
「…今日って模様替えだけするの?」
「…うん。時間余ったら他のこともしよう。」
「…そう、楽しみ。」
「………。」
「…………。」
数分後、流石に耐えられなくなってお互い頭と身体を一瞬で洗ってお風呂から上がった。
「…ぷっ。」
「どうしたの?」
「なんでそんなに私の身体ジロジロ見てきたのかなって。」
…僕は無意識の内に彼女の身体を見てしまっていたらしい。でも言い訳をしたい。それは単なる下心ではなく、死神なのか人間なのかを確認するためだった……はず。
でも、しっかりと人間だった。もはや、死神だった面影もないくらい人間だった。彼女はしっかりとそこに存在していて、彼女は人間として僕のそばに居てくれていた。
「ねぇ、また見てる。」
「み、見てない見てない!!」
「…へんたい。」
「違います………。」
そんなこんなで僕たちは身支度を終えて家の外へ出た。
「さーてと、今日は…。」
家の隣の小さなガレージの扉を開けると、昨日の内に磨き上げてしっかりと整備もした自転車が姿を現した。
「わぁ…綺麗。」
「これなら乗れるよね。」
「でも、自転車って1人用じゃない?」
「ふっふっふ…。」
僕はその奥にある本命の乗り物を指さした。
「あれに乗るんだよ。」
「あれって…車!?」
僕は昔から車に乗ることに憧れていた。免許を取ってからはよくひとりで近くの遊園地に行ったものだ。
「あれ、乗るの?」
「そう。」
彼女を助手席に乗せて僕は運転席に座った。そしていざ発進すると久々で少し操作がおぼつかなかったが、少し経った頃には昔の感覚が戻ってきて安定して運転できるようになった。
「ねぇ、あれなにー?」
「あれは遊園地。昔よく行ってたんだ。」
「そうなんだ…!綺麗ー!」
彼女は窓から遊園地を眺めていた。いつか、連れて行ってあげよう。
「そういえば、これからどこ行くのー?」
「これから色々なお店回って色々買うよ!」
「わかったぁー!」
それから数十分後、近くのホームセンターに着いた。ここのホームセンターはここら辺では多分一番でかいと思う。中には家具、衣料、それから花屋や雑貨屋といったお店がずらりと並んでいる。
「わぁ、ここすごい広い…。」
「広い分色々な物があるよ。」
「楽しみー!」
「今日はレイナの好きな物たくさん買っていいからね。」
「本当!?じゃあいーっぱい選んじゃお!」
そう言うと彼女は足早にホームセンターへ駆けていった。
「あっ、ちょっと先行かないでよー!」
「ふんふふ〜ん♪」
「あっ、これ欲しい!」
彼女は猫の形をしたテーブルライトを指さした。
「…猫、好きなの?」
「ねこ?なにそれ!」
どうやら猫が好きな訳ではなく、偶然だったようだ。
「猫って言うのはね…」
スマホで画像検索をし、彼女に見せると即座に瞳がハートの形に変わった気がした。
「わぁっ…かわいい!!」
「ふふ、かわいいでしょ。」
「ねこっていうんだ…かわいい…!」
「このテーブルライトも猫の形に似たデザインだね。」
「たしかに…!これ欲しい!」
「いいよ。」
それから僕と彼女は買い物かごに次々と彼女の欲しいものを入れていった。
「その箱、何に使うの〜?」
「んー、内緒。」
「けちー。」
「…お金足りるかな。」
そう冗談を言うと彼女はとてつもなく不安そうな顔をしたので慌てて付け足した。
「じょ、冗談だから安心して!?」
「…ほんと?」
「もちろん。ちゃんと買えるから安心して。」
「ふふ、やったぁ!」
今、僕の彼女の笑顔は世界一かわいいと思った。それからレジへ行きお会計をした。合計額は30000円ほど。思ったよりも安かった。
「ごめんね、いっぱい買っちゃった…。」
僕が荷物を重そうに持っていたのを見て心配してくれたようだった。
「大丈夫だよ、このくらい平気平気…。」
実際は全くもって平気では無い。こんな大荷物を運ぶのはあまりにも久しぶりでもう少しで腕が外れそうだった。
「あ、お布団も買っておけばよかったかな。」
僕がそう言うと彼女は不満そうな顔で言った。
「え…やだ。一緒に寝れなくなっちゃう。」
僕は思わず吹き出してしまった。話を聞いたら、僕と一緒の布団で寝ることが彼女にとっては至福の時…らしい。
「だから、私は一緒に寝たいの。わかった?」
「わ、わかったよ…。」
「ふふふ…わかればよいのだ!」
不意に、僕はこの生活がずっと続けばいいな…そう思ってしまった。あと3日で終わってしまうというのに。
家へ着く頃には夕方になってしまっていた。彼女はせっせと荷物を運んで早速部屋を飾り付けていた。
「これはここ…これはこっちかな…」
「テーブルライトは机に…。」
そして数時間経って完成した、半分彼女の色に染まった部屋が出来上がった。
「ふぅ、完成!」
「すごいオシャレになったね。」
「ふふ、たしかに!」
「レイナはセンスがいいね。」
僕が冗談交じりに言うと彼女は本気にしたようで照れながらドヤ顔をしていた。
「そ、そう〜?ふふ〜ん。」
「明らかにご満悦だ…。」
「え〜?そんな事ないも〜ん。」
「ふふ、かわいいね。」
「……ふ、ふんふふ〜ん。」
「あ、今ちょっと照れた。」
「て、照れてないし…!!」
「照れてたよ。」
「照れてないったら…!」
彼女は照れ隠しのぎゅーをしてきた。
「ねぇ…疲れたぁ。」
「いっぱい歩いたもんね。よしよし。」
「ん〜。」
「レイナ、写真撮ろうよ。」
「しゃしん…?いいよぉ。」
「ふふ、ほらその眠たそうな顔こっちに見せて。」
「む…。」
パシャッ
「…ふっ。」
「な、なに笑ってるのぉ!!」
「かわいいなって。」
「も〜。私も撮る!!」
「あっ、ちょっとー!!」
パシャッ
「へへへ、撮ってやったぜ……って、めちゃめちゃブレちゃってる…。」
「はいスマホ没収〜。」
「あっ!も〜!!」
「ふふふ、まだ写真を撮るのは100年早かったみたいだね。」
「じゃあ100年後に天国で撮ってやるもん!」
「そっか…ふふっ。待ってるよ」
「もう夜遅いし…一緒に寝ようか。」
「うん、寝る!」
「おいで。」
「ん…むぎゅーっ。」
「ちょっと…べたべたしすぎだよ…。」
「寒いから温まってるの〜。」
「…ぎゅっ。」
「えへへ、ぎゅーし返してくれた。」
「ほら、寝よう?」
「うん、寝る!」
「おやすみ、レイナ。またあした。」
「うん、また明日…。」
今日はたくさん歩いて疲れたようで、レイナはそのあとすぐに寝てしまった。僕はというと、変に目が覚めてしまって寝れなくなってしまった。
「明日は何しようかな…。」
残っているのは室内キャンプ、お菓子作り、写真の撮り合い…はさっきした。手紙交換、恋バナ、人生相談…。
「もうこれだけしかないのか…。」
今日はたくさん歩いて疲れたので、明日は手紙交換と恋バナでもしよう。恋バナ…って、どんなことを話せばいいんだろう?手紙交換ならお互いに手紙を書いて渡すものだと分かる。
でも、恋バナはあまりしっくり来ない。彼女を好きになった理由も、動機もない。僕の望みを叶えるために彼女は僕の恋人になった。だから、僕たちには恋バナなんて出来ないんじゃないか?
そんなことを考えていて、もしかしたら彼女は僕のことを”好きではない”のかもしれないと思った。
彼女は僕の望みを叶える為だけに、僕と一緒に過ごしているのではないか?彼女は恋人の”役”としてそばに居るだけなんじゃないか?どうしても、彼女の言動は全て嘘なんじゃないかと考えてしまう。
そんなことを考えているうちに、気づけば眠りに落ちていた。




