24. だから何?
むんずと、目の前にいた妖精の一匹を掴みます。やっぱり、持てる。
「は!? 何をして……」
顕現化させたからか、妖精には実体がある。
「舐めないでください。私、一度死を覚悟して、命を投げ出した身なんです」
王家や教皇を敵に回して、ずっと空気を読んで何も言えずに死んだまま生きるのと、言いたいこと言って足掻いて死ぬのとを考えて、全部吐き出しました。
「絶望はもう、経験済みです」
ライアン様が手を差し伸べてくれなかったら、私はあの時死んでいた身で、とっくのとうに死を覚悟していました。
「チェンジリング? ……普通に、理不尽ですよね」
妖精を握る手を少し強めました。このまま力を強めたら、パンっと弾けて潰れてしまいそうです。私の邪悪な考えを読み取ったのか、妖精が叫びます。
「放せっ! 女神様の天罰が下っても知らないぞ」
「嫌です。そもそも、今の私にあなたたちを信仰する義務はありません」
放すわけがありません。これは人質であり見せしめです。私は、妖精には好き勝手にされるような存在ではない。
私の態度に焦り始めたのか、他の妖精達も喚きます。
「放しなさい!」
「罪を背負って生まれてきたのはあなた」
「私たちは愚かな行いに報いを受けさせただけ」
「その罪とかいうの、私に関係ないですよね?」
明かされた時は聖女ではないどころか、孤児でさえなかったことに驚いて、何も言えませんでしたが、今なら言えます。
「私は実の親の顔を知りませんし、罪なんて何も知りません。あなた達が慕っている真の聖女は私への虐めを止めなかったし、フォローしてくれることもなかった」
何が聖女か、何が罪を背負った令嬢か。
「そして私は、無理やりとはいえ、多くの人を救いました」
血筋で今まで積み重ねた行動は覆りません。助けた人からすれば、私が清らかな聖女で、彼女が断罪を受けた侯爵令嬢なのです。
「そもそも、入れ替えたのなら、なぜ私に癒しの力があるのですか?」
石碑に力を込めた分、癒しの力を失ったはずでしたが、今は力が沸いています。ここにいると、どこからか力が満たされていく感覚が強くて、これは女神様に分け与えていただいている力なのだとわかります。
「……それは」
聖女らしいと言われた澄んだ金髪も碧眼も、貴族の生まれだったからと言われれば納得しますし、高尚な願いなどなく自分の快適な生活を望んだ私が本来の聖女ではないのは、確かにそうなのでしょう。
「とにかく、放せ!」
「そこにいる男がどうなってもいいのか?」
「領民もよ!」
妖精たちは慌てますが、小物感が強くなるだけ。
妖精たちを従える女神様が、私に力を与えたことに変わらないというのに。
「しもべであるあなたたちが魔法をかけるのと、愛された力を持つ私が手に力を込めるも、どちらが早いでしょう?」
なぜかはわかりませんが、力を分け与えるくらいには私も愛されていて、それは女神様に愛された子、本来の聖女と変わらない。
「もう二度と、私の邪魔をしないでください」
私は、妖精よりも、強い。
「約束を違えれば、地の果てまででも追って、一匹残らず潰しますから」
妖精たち全員と目を合わせ、にっこりと笑いました。
私に罪を押し付けたあなたたちが、私との約束を破るなんて、そんなことしないですよね?
「ああ、誤解しないでください。私、今の自分に満足はしていますし、結果的にはお礼まで言えます」
私を弄び、結婚式をめちゃくちゃにした妖精へのとどめです。
「だって、もし侯爵家の娘のまま育っていたら、ライアン様と結婚できませんでしたから」
私、私よりも早く怒って、舌打ちまでした人を知っています。




