21. 結婚式は
結婚式の日が来てしまいました……。
あれからキスに慣れたかといえばそんなことはなく。寝る前などに何度か試してみようとしましたが、逆にライアン様が頷きませんでした。
『それは良くない』
『何が良くないんです!?』
良くないの一点張りでそれ以上言わないので、諦めました。そのくせ昼間にライアン様からの不意打ちは多いので、不服です。
控え室でそんなことを思い出していると、ノックなしにドアが開きました。少し身構えましたが、顔を見てすぐに肩の力を抜きます。
「……綺麗だ」
ライアン様でした。
おっしゃる通りで、私も綺麗だと思います。デザイナーさんのウェディングドレスは白くてふわふわでひらひらで、布の量的に重いはずなのに全然そんな気がしません。
「エステルの良さを引き立てている」
「え、そっちですか?」
「それ以外の何がある」
相変わらずの大真面目な顔のライアン様に、自然と口元が緩みます。ブレない人です。普段は黒い服を着ていることが多いですが、真っ白なスーツも似合います。
「ライアン様も、かっこいいですよ」
「そうか?」
謎に袖や足元を確認し始めるところも含めて。
「そろそろですか?」
「ああ、そろそろだ」
手を差し伸べられて、思わず握手をしてしまいました。
「最初に会った時みたいだな」
「同じ状況だと思ったみたいです」
「そうか」
仕切り直して、手を取ります。
孤児の私にはバージンロードを一緒に歩く人はおりませんので、最初からライアン様と一緒に歩きます。
ドアが開くと、たくさんの人がこちらを見ました。聖女だった頃はこれ以上の人に見られていたはずなのに、なんだか怖く感じます。
「大丈夫だ。前だけを」
ライアン様が小声で仰いました。その通りに視線を上げます。
辺境伯領で一番大きく格式の高い聖堂は美しく、前に立つ司教様は小さいです。ふがふがしてらっしゃいます。横の最前列にいらっしゃるヴェクサン家の方々を見て、少し落ち着きました。
事前に聞いていた通りに式は進みます。聖女として何度も立ち会ってきたはずなのに、不思議な感覚です。
もし聖女のままだったら、私は王太子と結婚していたのでしょうか。教皇は金に眩んで差し出すかもしれませんが、聖女性を尊ぶ人は断固として渡さず、内部が荒れたかもしれません。そして私はきっと、民衆の納得する形を……。
「新郎ライアン・ヴェクサン。 貴方はここにいるエステルを、悲しみ深い時も喜びに充ちた時も共に過ごし、愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」
「誓います」
ライアン様の力強い声で、想像から現実に戻ってきました。
今の私に、もし、なんていりません。
「新婦エステル。貴女もまたここにいるライアンを、悲しみ深い時も 喜びに充ちた時も共に過ごし 愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」
「誓います」
ライアン様は、聖女ではなく、私を雇い、慈しみ、愛すると誓ってくれたのです。
私がすべきは、それに応える事でしょう。
「では、女神様との誓約を」
ライアン様が私の肩に優しく手を置いて、かがみこみます。
私は急に顔がこわばって、手の置き場に迷います。殴らないようにと考えて、私もライアン様の腕をがっしりと掴みました。太いので掴みづらいですが、そこはこの無駄な力の見せ所です。
でも、想像していた感触は、なくて。
「フッ……ハハッ」
ライアン様の笑い声が響きます。眉尻は下がり、口角は上がった……幸せそうで楽しそうな笑顔が目に入ります。
「なっ、なんで笑って!」
「凄い顔だ」
……凄い顔。
確かに、目は無くなるんじゃないかってほどぎゅっと瞑っていますし、唇は変に窄めてしまっているかもしれませんが、それでも、そんな笑うことないじゃないで……いいえ、無茶を言いました。想像すると笑わない方が無理ですね。でも。
「緊張しているんです!」
「そうだな、うん」
ギャンと鳴いてもライアン様は楽しそうに優しく微笑むだけ。
「エステルらしい」
ライアン様は私の緊張が緩んだ瞬間を見逃さず、丁寧に口付けました。
私は口元を押さえ、席からは歓声が上がります。
「新たな夫婦に妖精の祝福あれ」
────その瞬間、教会のガラスが全て割れました。




