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18/20

18. 全てを破壊する女


「無理はしなくていい。俺はエステルの意思を尊重する」


 勇んでいる私を落ち着けるように、優しい顔で首を横に振るライアン様。

 ねぇ、私、知っています。嘘まみれの舞踏会で、私のために迷わず本音を返してくださったからこそ、私は貴方を信じたのですから。


「いいえ、無理じゃありません。私が、慣れたいんです!」

「……っそうか。慣れ、たいのか」


 契約とはいえ、妻なのですから。ライアン様は浮気したくないのですから。

 ライアン様は謎に驚いていらっしゃいますが、教義に反したくないからではないのです。これは私の、私との戦いです。


「ええ、ライアン様の顎を粉砕しないように!」

「うん、流石に顎が粉砕は困るな」


 ライアン様は真面目に頷きました。ええ、そうでしょう。結婚式どころではなくなりますし、お仕事にも支障が出ます。


「だからその、お付き合いしていただけますか?」

「ああ、もちろん付き合おう」


 こうして、私はライアン様に慣れる練習を始めました。バスケットを持って戻ると、騎士団の皆さんが可哀想なものを見る目をしていました。理由はさっぱりわかりませんが、私はまた何かを間違えたようでした。


 夕方、一度お仕事に戻ったライアン様が迎えに来てくださったので、騎士団の帰りから早速始めます。まずは少しの接触から。少しの接触といえば、握手。教皇もよくやっていました。


「……握手はもうしたことありますね」

「初対面でだな。手を取るのではなく、握ってきたから驚いた」

「契約成立、みたいな気分だったので」


 思い出してみれば、そうでした。元より癒しの力を使う時に相手の患部に触れますから、特に何も思わなかったのです。

 出鼻をくじかれた気がしましたが、事が早く進んで良いという事で次は手を繋ぐ事でしょう。


「じゃあ手を……すでに繋いでますね」

「そうだな」


 私が靴に慣れずに転びかけるせいで。実はいまだに慣れていません。異物感がします。


「安全第一だ」

「いつもありがとうございます」


 照れていた覚えもありますが、転びかけすぎてそれどころではなくなったのです。私の命綱です。

 これどうしよう……と思いながら、屋敷に帰りました。夕食を取り、寝支度をしながら考えます。特に思いつきません。ええと、懺悔という形の許されざる淡い恋の惚気では、他にどんな段階がありましたっけ?

 悩んでいる間に夜も更けて、ライアン様が寝室にやってきました。


「どうした」

「何も、思いつかないんです」

「フォセットが頼んだ土産の恋愛小説でも読んでみるか?」

「恋愛小説……あ!」


 私にそんな娯楽は許されていませんでしたが、少し思いつきました。


「二人で出かけてみるのは……領地に着くまでそういう感じでしたね。そんな時間もありませんし」

「俺一人で出席だったからな。王都は遠い」

「経費削減ですね」


 またやってました。もう色々一足飛びで抱擁しかないのでしょうか。一応親愛の文化もありますし、と体をばっと広げました。


「……うん」


 あったかくて、安心して、ライアン様のいい匂いがします。規則的な鼓動が心地よくて、このまま眠れそうな……そんな……。


「すでにたくさん抱きしめられてますね??」

「ああ、寝てるときも寄ってくることが多い」

「うぇ?」

「俺は暖かいようだ」

「さすが筋肉です」


 もう認めます。私が全ての雰囲気を破壊しています。

 これ、ライアン様が慣れてなかったら、女性だらけの家に生まれてなかったら可哀想でした。考えてみれば、出会って初めてのおんぶはゲロで、馬車の中や馬の上での抱擁もゲロで、もっといえばライアン様のシャツを着ていたのも理由はゲロです。そんなの手を繋ぐのが当たり前にもなります。

 妻じゃなくて、放って置けない庇護対象扱いじゃないですか。そして私も、今も安心しきって、力が抜けたままです。


「そもそもライアン様、こんな私とキスなんてできるんですか?」

「できる」

「はは、ですよねぇ……え!? 即答!?」

「ああ、できる」


 耳を疑いましたが、ライアン様の声は低くてよく通ります。


「言っただろう。俺は一途にエステルを愛する。側妻は作らない」


 一瞬年下好きが頭に浮かびましたが、そんなはずはありません。ライアン様は、案外若いのです。まだ二十五も超えていません。


「ひぇぇ……」


 変な声がでました。

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