15. 総員退避!!
採寸が終わり、お話が済んだのち、
「任せてーん! 元王都一のデザイナーの名にかけてちょっぱやでサイコーなの作ってあげるから」
と、デザイナーさんは大きなトランクを軽々と抱えて去っていきました。
「あいつに任せればすぐできるだろうが、数日は見た方がいい」
ライアン様は信頼しているらしく、私もドレスを作るのに何日かかるか知らないものですから、とりあえず頷きました。
後でフォセット様に聞いたところ、数日でできるなんて人間じゃないけど、お針子さんもたくさんいる超有能デザイナーだから、と仰っていました。
とにもかくにも、ドレスができるまでの間、辺境伯領での日常が始まりました。
「起き、たくない……嘘……お腹空いたから起きる……」
お祈りも掃除もないので、もうすっかり日が上ってから起きます。隣にライアン様がいないのは寂しいですが、起きられないのだから仕方がありません。無理やり起きて目眩でぐるぐるするのはもうごめんです。
身支度を済ませて、ベルでメイドさんを呼びます。まだあまり役に立っていないのに……とも思いますが、主人が起きたことを伝えるのは大事なのだと聞きました。
「ブランチを用意いたしますね!」
「よろしくお願いします」
執事長から、健康のために外で日の光を浴びながら食べた方が良いのではと提案され、バルコニーで食べることになりました。
老人の知恵だと仰っていましたが、日の光には体の調子を整える作用があるのだとか。あと骨にもいいのだとか。執事長の腰が曲がっていないのも納得です。
「今日も美味しい……」
「料理長が喜びます!」
味がする食事は素晴らしく、パン粥は甘くてとろとろで、野菜は新鮮です。吐き気はないですし、力が湧いてきます。
「日に日に顔色が良くなっていらっしゃるので、私も嬉しいです」
「そうなんですか?」
「ええ! 実は朝起きる時間も少しずつ早くなってるんですよ!」
メイドさんに言われてはたと気づきます。
王都にいた頃の私は不健康の塊でした。体はボロボロだったでしたし、癒しの力を自分に使いたかったくらいです。
朝起きられないのって、あの頃のツケが回ってきているってことなのでしょうか。
「やっぱりあの教会は潰すべきなのでしょうか」
「エステル様が潰す前にご当主様が潰すと思いますよ」
真顔のメイドさんの通りです。それもそうでした。まあ潰したら路頭に迷う人が多いでしょうから、殺るとしても教皇や上の連中でしょうが。
食事を完食し、軽くストレッチをして、今度は騎士団へ向かいます。少し遠いですが、裸足で歩いていた頃に比べればどうってことはありません。
騎士団では訓練中に怪我をした人の治療をします。大抵擦り傷や筋肉痛ばかりなので、軽い仕事です。
「どうですか?」
「すげえ!! 治った!! 団長見て見て治りましたよ!!」
「わぁーかった。わかったから子供みたいに見せつけなくていい! うちの三歳児かっ!」
通っている間に、騎士団の皆さんのこともなんとなくわかってきました。
団長は幼馴染の奥さんと三歳の息子さんを溺愛中。ライアン様からの信頼も厚く、部下から慕われています。
「はしゃいでないで、見回り組はそろそろ交代だろう」
副団長は最年長で落ち着いていて、皆のまとめ役。
「また酒場で振られたんだが」
「オレは一緒に行ってやれん。すまん」
「お前のカミさんはおっかねえからな」
隊長クラスは右から彼女募集中、恐妻家、ケツ丸出しさん。ケツ丸出しさんは、ずっこけてズボンが破れていたのに気付かず、その日の訓練中ケツ丸出しだったのだとか。
「あ、ケツ隊長、タオルどうぞ!」
「おう、ありがとうな」
「ケツ隊長、今度稽古つけてくださいよー」
「今度な」
騎士団の皆さんは知らない内輪ノリも教えてくださるのがありがたく、見習い騎士の方々もいい人たちで元気が良いです。
皆さんが汗水垂らして頑張っているところを見ると、私も持て余している力がウズウズしてきます。私、もっと強くなれる気がしています。
「稽古といえば……私もその、体を動かしてもいいですか?」
春になってきて陽気も良いですし、運動日和でしょう。
騎士団の皆さんはなぜか固まり、団長が息を吸います。
「総員退避!!!!」
大きな声と共に、騎士団員の皆さんが私から離れました。
「えぇ……」




