13. 戦うことはないでしょう
「そ、それは一体、どういう、え?」
既成事実。よく懺悔しにくる人が言っていたのは……子!!!!
ライアン様はヴェクサン家の当主。浮気したくないと言っていたのだし、後継ぎは確かに死活問題です。
とはいえ、突然すぎて、覚悟ができていません。貴族の方々は政略結婚やら責務やらお話していましたが、普通に怖いです。
「妻にと言っただろう」
「はい」
……ライアン様は貴族でした。
私とは感覚が違います。
「結婚式を行って民に知らしめ、女神様に誓い、公的な事実を作ってしまわなければならない」
…………ライアン様はライアン様でした。
誰とも感覚が違います。
「だから明日はドレスの採寸をしたかったんだが、騎士団の方は遅くなってかまわないか?」
「全くもって何もかまいません」
少しでも勘違いしてしまったのが気恥ずかしくて、繋いだままの手をブンブン振りました。
ライアン様の隣は居心地が良いので忘れがちですが、私はまだ、ライアン様についてよく知らないのです。
「夕飯はなんだろうな」
「なんでしょうね」
「食べたいものはあるか?」
「お昼に食べたスープが美味しかったです」
そんな会話をしていると、ライアン様がふっと笑いました。私の緊張がバレていたのでしょうか。だとしたらなんだか腹が立ちます。なぜ立つのかは分かりません。
「ねぇ、ライアン様」
「なんだ?」
「いつか必ず、形勢逆転しますからね」
でも、宣戦布告をしておきました。ライアン様は目を見開き、気まずそうに口を開きました。
「……俺以上に鍛えるのは無理じゃないか?」
「誰もそんなこと言ってません」
夕食を摂って、暖かいお風呂と入り、柔らかい寝巻きに着替えて、寝ます。ライアン様はまだお仕事が残っているようで、隣にいません。
「私もできるようになれば……一緒に寝られますか?」
そもそも教育に力を入れていましたし、学園で恥をかかぬように頑張って学びました。学べば、役に立つとは思います。
「勉強は嫌いですけど……」
隣にライアン様がいない方が、よっぽど嫌でした。目を瞑っても、眠れません。遅くなってから戻ってきたライアン様はお疲れな様子で、薄目で確認したのち、寝たふりをしました。
「寝れているようで、よかった」
寝たふりだったはずなのに、ライアン様がベッドに入ってきて、頭を撫でられて、そのまま寝てしまいました。
翌日、屋敷にデザイナーさんがやってきました。高身長でヒールで、切り揃えられた髪が特徴的な方でした。喉仏を隠すようにあしらわれたフリルは上品でした。瞬きをする間もなく採寸され、腕の高さを確認します。
「あら、奥様ったら細すぎねぇん。たくさん食べさせてもらいなさい。それにしてもご当主様って面食いで……」
デザイナーさんは口も手も止めず、大きなトランクを開きます。
「はい、事前にお聞きしていた大まかなサイズでサンプルもご用意いたしましたーん!」
純白のドレスがたくさん入っていました。メイドさんも手伝ってくれて、一着ずつ試着します。
そして、ライアン様はそれを見て、頷きます。
「うん、綺麗だ」
その言葉を受けて、デザイナーさんが何やらメモを取り、また別のドレスを着ます。
「ではこちらは?」
「綺麗だ」
めんどくさくなってるんじゃないかと疑うところですが、心のこもった賛辞です。本心から全部綺麗だと言っているようです。
「そう言われてしまうと、決め手にかけますね……」
「好きなのを選ぶといい」
好きなの。好きなの、ですか。
王都で豪華でふわふわしたドレスを見るたびに、重くて装飾のない自分の聖女の服と比べて羨ましく思いましたっけ。
聖女は清貧であるべきで、贅沢な服に憧れてはいけませんでした。
「これにします」
「うん、いいと思う」
選んだのはお姫様のような、スカートにボリュームのあるドレス。戦いづらそうですが、結婚式で戦うことはないでしょう。
「エステルが嬉しそうで、俺も嬉しい」
そう言って、ライアン様はデザイナーさんと納期について話しています。
ライアン様って、本当に、謎です。
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『まだ慣れないな』
寝たふりをしていたはずが、すぐに寝落ちてしまったエステルを見て、そう呟いた。




