11. 聖女よりも戦士
「皆に紹介する。妻のエステルだ。癒しの力を持っている」
「「おおーー!!」」
低い声の歓声が響きます。何かの動物の唸り声みたいです。
騎士団はたくさんの筋肉の集まりでした。肉体美と弾ける筋肉です。王都に比べれば数は少ないですが、その分歴戦の猛者が多い印象。
「ライアン様にもついに春が」
「癒しの力って神話の中だけじゃなかったのか! これで戦線に早く復帰できる〜」
「王都の腐れ外道共、守ってもらっといて素知らぬ顔だったもんな」
口々にする内容を聞くに、気のいい方々のようでした。癒しがいがあります。
ライアン様は慣れた様子で困ったように呆れ、ちょうどよいところで咳払いをします。
「ンン……静粛に」
一瞬にして静かになり、ライアン様は横目でチラリと私を見ました。これは私が何か言う場面なのでしょう。そんなのは決まっています。グッと拳を握りしめます。
「エステルと申します。高待遇に見合った働きをしますので、期待していてください」
平面なのに、ライアン様が転けました。騎士団の方々は……あれ、なぜか遠い目をしています。
「おい、その変なのが来たって顔はやめろ」
ライアン様が眉間を押さえてそう仰ると、広がる私語。
「まあ、ライアン様の奥方ですもんね」
「わかってた。わかってましたけど。また濃いの拾ってきましたねぇ」
「あれじゃね、あの王都の聖女様みたいなのが来ても扱いに困ったし、変くらいがちょうどいい……」
その来たら扱いに困ったであろう聖女なのですが。
流石に辺境伯領にまでは話が出回ってないんですね。というか、空気を読まない私って、そんなに聖女らしさが欠如しているのですか……?
ショックが溢れ出ていたのか、ライアン様が私の肩に手を置きます。
「諸事情あって遅くなったから、今日はここまでとするが、各自俺の妻であることを念頭において丁重に扱うように」
「「「はい」」」
ヴェクサン家の女性にそんな命知らずな真似をできるわけがない。入団初日にブリジット様にぶっ飛ばされたことをいまだに夢に見る。あの族に嫁げるのなんてあの人しかいない……などなど様々な私語が聞こえてきます。
「遅くなってしまったが、騎士団について色々案内しよう」
「はい」
大まかな仕事内容は、町の警備と国境の監視。有事の戦闘。非番の日はどこで鍛錬をしていて、医務室はどこにあるのかなど。
「彼らが騎士団長と副団長だ」
「……ライアン様、それだけっすか?」
「なんかもっと紹介してくださってもいいのでは?」
私を聖女と思ってなかった方が、騎士団長でした。
役職持ちとも顔合わせを済ませ、今後の予定などを確認し、見習いの訓練を見学します。ライアン様は少し離れたところで騎士団長と軽く打ち合わせをしているようでした。今日はもう模擬戦らしく、木剣の交わる音が聞こえてます。
見習いとはいえ、流石にあの木剣で不意を突かれたら負けるかもしれないと、そう思っていたときでした。
カァンと、一際大きな音がします。
「……奥方様、危なっ」
「えっ?」
ゴッ。ミシッ。バラバラ。
その、私は人間ですから、危険が降り注いだら、身を守ろうとするわけです。木剣が頭上に降ってきたら、払い除けるわけです。
「「「…………」」」
そう、軽く払い除けただけなのに、木剣が、木っ端微塵に折れました。
騎士さんたちが絶句。ライアン様が絶句。私も、絶句。
前々から戦士の方が向いているかもなんて冗談は話していましたが、こんなこと、あります?
「ここまででは、なかっただろう。何か、心当たりは……」
それもそうです。もし最初からこうだったら、令嬢の顎が粉砕しています。
心当たりなんて……ライアン様と出会ってから、ぐっすり寝て、お腹いっぱい食べて、癒しの力を酷使してません。
「あれ?」
そういえば、聖女になったばかりの頃は擦り傷を塞ぐので精一杯でした。それが、毎日毎日癒しの力を使うようになって、今や小動物であれば瀕死でも難なく癒せます。
「癒しの力って、一体、何……?」
医学でもなんでもない、この世の理を無視した力。説明ができず、理屈もわからない。
もしかして、癒しの力を使わない私は、強い?




