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第14話 1学期期末試験

「さあ、皆さん! いよいよ王立学校初等科、波乱に満ちた一学期の締めくくりである『期末試験』の日程が発表されましたよ!」

白亜の巨大校舎、初等科一年一組の教壇。

担任のマチコ先生が、いつものキリッとした銀縁メガネを中指でクイッと押し上げながら、教室全体を見渡すように力強い声を響かせた。

シャープなショートヘアが微かに揺れ、スパルタ教師としての気高いオーラが教室の空気をキリッと引き締める。もっとも、その教壇の隅に置かれた私物バッグからは、なぜか前日の放課後に私が差し入れた「特製・冷めても美味しいだし巻き卵」の出汁の香りがほのかに漂っており、マチコ先生自身もどこか誇らしげな(しかし教師としての威厳を必死に保とうとする)絶妙な表情を浮かべていた。

――一学期期末試験。

王立学校の初等科において、この試験の成績は単なる点数以上の意味を持つ。特進クラスの序列、夏休み前の特別実習の配属先、そして何よりも貴族やエリートたちのプライドがすべて懸かった、一大イベントである。

その言葉を聞いた瞬間、教室のあちこちから「いよいよ来たか……!」「我がアルベルト家の名にかけて、今度こそ首席を取るぞ!」と、貴族の子息たちの闘志に満ちた声が上がった。

その中でも、一番激しく燃え盛っていたのは、昨日の模擬バトルでもチームを組んだライバル貴族の少年・ローランくんだ。彼は席からガタッと立ち上がり、琥珀色の瞳をギラギラと燃え上がらせながら、我が家の双子の席へと猛然と歩み寄ってきた。

「ふ、ふん……! タケル、エヴァ! 聞いたかい!? いよいよ一学期の総決算、期末試験の到来さ!」

ローランくんは胸を張って、鼻高々に宣言した。

「これまでの小テストやダンジョン実習では、君たちのその……なんだ、変な規格外のパワーのせいで色々持って行かれたけれどね! この筆記と実戦が融合した総合期末試験においては、長年エリートとしての英才教育を受けてきた僕の『論理的頭脳』が君たちを完全に凌駕する予定だ! 覚悟したまえ、首席の座は必ず僕が奪い取るからね!」

見事なまでのツンデレ王国代表スピーチである。

それに対し、我が家の次男エヴァは、冷徹な深紅の瞳を細め、フッと冷ややかな笑みを浮かべた。

「……ふん。相変わらず自信に満ち溢れているね、ローラン。だが、君のその『論理的頭脳』とやらは、僕がお母さんのために毎朝復習している基礎問題集の難易度にも満たない。首席の座は、すでに僕の脳内論理プロセスの第一ステップで予約済みだよ」

「なっ……! またそんな生意気な口を……っ!」

エヴァの容赦ないロジックパンチに、ローランくんは顔を真っ赤にしてプルプルと震え始めた。

その横で、赤髪の長男タケルは、黄金の『勇者の闘気』をパチパチと楽しげに弾かせながら、ローランくんに満面の笑みを向けた。

「ローラン、一緒に頑張ろうね! テストが終わったら、おかーたんが僕たちのために『特製カツ丼』を作ってくれるんだって! 点数が良くても悪くても、みんなで食べたら絶対美味しいよ!」

「かつどん……? 何だいそれは、また君たち平民の怪しい魅惑の肉料理の名前かい……っ! くっ、そんな美味しそうなワードで僕の集中力を乱そうとしても無駄だからね!」

ローランくんは耳まで真っ赤に染めながら自分の席へとトコトコと引き返していった。相変わらず、我が家の「美味しいご飯の誘惑」に対する彼の耐性は紙のように薄かった。

その様子を、教室の後方の見学席から、私は温かい目で見守っていた。

(ふふふ、みんな青春していて可愛いわねぇ。……にしても、一学期期末試験かぁ)

私の脳裏に、前世のOL時代に経験した数々のデスマーチや、四半期ごとの面倒な業績評価の記憶が蘇ってきたが、幸いにして今の私の立場は「最強の双子を溺愛するお母さん」である。

試験勉強のサポート? 問題ない。我が家には、六百歳の元エルフ大魔導士にしてスパルタお受験講師のシリウスさんがついているのだから!

*

その日の放課後。ルミナ村から王都の仮住まいに引っ越した我が家のリビングルームは、完全なる「スパルタ進学塾・期末直前特訓キャンプ場」と化していた。

「いいかい、タケル! 魔法理論における魔力回路の接続角度は、常に黄金比率の四十五度を維持しなさい! 闘気が強すぎて答案用紙を燃やしてしまったら、一発で零点だぞ!」

「うえぇぇ、シリウス先生、ペンを持つだけで勝手に聖剣のイメージが暴走しちゃうんだよぉ!」

赤髪のタケルが、涙目で燃え盛るペン先を必死に抑え込んでいる。

その横で、次男のエヴァは、すでに前世の総務部時代の上級管理職を思わせる冷徹な手つきで、古代帝国語の難解な文法問題を秒速で解き進めていた。

「……シリウス先生、こちらの期末想定問題の第十五問、この数式には二通りの解釈が存在します。出題者の意図を汲むならば、王宮魔導院の公式テーゼに基づいたこちらの論法を採用するのが最適解ですね」

「なっ……! まだ六歳のエヴァが、王宮魔導院の高等研究論文のレベルまで理解しているとは……恐ろしい子だ……!」

シリウスさんは白銀の長髪をかき上げながら、自分の指導者としてのプライドと、愛弟子(と夕食のハンバーグ)の成長の凄まじさに感動の涙を流していた。

そんな賑やかな勉強部屋の片隅で、私はせせっせと「試験前日の栄養補給用スペシャル夜食」の仕込みをしていた。

「みんな、お勉強お疲れ様! 頭をたくさん使った後は、血糖値を上げて脳をリフレッシュさせないとね。今日は、ガッツリスタミナがつく【特製ポークチャップ】を作っているからね!」

「ポークチャップ……!!」

その魔法のワードが聞こえた瞬間、タケルとエヴァ、そしてシリウスさんの動きが完全にピタリと止まった。

タケルはペンを放り出し、エヴァは解いていた答案用紙を綺麗に整えて立ち上がり、シリウスさんは美しいロングヘアを揺らしながらキッチンへと滑り込んできた。

「お母さん! ポークチャップって、あの、甘酸っぱいトマトソースとお肉がジュワッとするやつ!?」

「そうよ! 厚切りの豚ロース肉をじっくり焼き上げて、特製のトマト&ウスターソースの旨味をこれでもかと絡めた、我が家の自慢の一品よ!」

「くっ……! この期末試験前の最高のタイミングで、私の胃袋と学術的モチベーションを同時に最高潮まで引き上げるとは……カオリ殿の采配は、まさに国家元首レベルの神業だ……!」

シリウスさんは両手を合わせて感嘆の声を漏らし、双子も「早く食べたい! 勉強頑張るから!」と、さっきまでの疲労感を一瞬で吹き飛ばして気合を入れ直した。

足元では、我が家の絶対的権力ピラミッド第二位・ララ先生が、優雅に尻尾を揺らしながら日本語でツッコミを入れてくる。

「にゃーお(まったく、この駄目エルフも双子も、カオリの美味しいご飯で釣られまくりにゃ。だが、今回の期末試験で首席を取ったら、ご褒美のメニューはさらにランクアップしてもらうにゃよ)」

「ふふ、もちろんよ、ララ先生! 二人が首席を取ったら、週末はみんなで大好物のオンパレードにしてあげるわ!」

我が家の家庭内は、期末試験に向けた「美味しい報酬制度」によって、完璧なまでのモチベーション維持に成功していた。

*

そして迎えた、一学期期末試験の当日。

王立学校初等科の試験会場は、これまでのどんな模擬試験よりもピリピリとした緊迫感に包まれていた。

広い大講堂の机が整然と並べられ、一席ずつ離して配置された特設の試験会場。教壇の上では、担任のマチコ先生が厳格な眼光を光らせ、試験官の教師たちが目を光らせている。

「これより、初等科一学期期末試験の第一科目、『基礎魔導理論・筆記試験』を開始する。制限時間は六十分。不正行為が発覚した者は、即座に一族連座で補習地獄行きとする。……はじめ!」

シャッ! と一斉に問題用紙がめくられる音が講堂に響いた。

私は、校舎の外の保護者待合室のベンチで、祈るような気持ちで温かいお茶をすすっていた。

(大丈夫……! シリウスさんのスパルタ授業も完璧だったし、何より二人は毎日私の美味しいご飯を食べて頭の回転がバッチリになってるんだから……!)

その試験会場の中では、まさに「知的戦闘(インテリジェンス・バトル)」が繰り広げられていた。

ローランくんは、額にびっしりと汗をかきながら、愛用の高級万年筆を凄まじい勢いで走らせていた。

(くっ……! 今回の問題は、先月までの応用範囲からさらに一段階ひねった難問が多いぞ……! だが、アルベルト家の名にかけて、こんなところで躓くわけにはいかない! 全問完璧に解いて、あの双子を見返してやるんだ……!)

ローランくんは渾身の力を込めて最後の論述問題を書き上げ、フッと満足げに息を吐いた。彼の前には、見事に全ての空欄が埋まった美しい答案用紙が仕上がっている。ふと横を盗み見ると、ライバルであるエヴァがどうしているかが気になった。

――が。

その隣の席で、次男のエヴァは、試験開始からわずか十五分で全ての記述を完璧に終え、余った時間を使って、問題用紙の隅に「今日のお夕飯のポークチャップを食べるお母さんの美しいイラスト」を精密なタッチで描き上げていた。

(……ば、化け物め……。あんな難問の論述を十五分で書き終えた上に、なぜあんなに緻密な絵画を描いているんだ……っ!)

ローランくんは自分のペンをへし折りそうになるのを必死でこらえ、視線を前方へと戻した。

そのさらに前方の席では、長男のタケルが、少し眉間に皺を寄せながらも、

(ええと、シリウスお兄ちゃんが言ってたのは……あ、そうだ、この魔導回路の接続は右回りに修正しなきゃ!)

と思い出しながら、サクサクと問題を解き進めていた。彼の身体からは、時折うっかり漏れ出した黄金の闘気がパチパチと発火しそうになり、近くの試験官の先生が「ひっ……! 答案用紙が焦げるから闘気を抑えなさい!」と青ざめながら注意するという微笑ましい(?)ハプニングが起きていた。

*

筆記試験、そして午後の『実戦魔導術・実技試験』の全日程が、無事に終了した。

夕暮れ時の王立学校の校門前。

「みんな、お疲れ様! テストどうだった!?」

私――鈴木カオリは、大きな風呂敷包みを抱えながら、試験を終えて出てきた双子とローランくん、そしてなぜかこっそり見学に混ざっていたシリウスさんに出迎えた。

「おかーたんただいま! テスト、ちょっと難しかったけど、全部埋めたよ!」

「お母さん、ただいま。筆記試験の全科目満点、および実技試験における『周囲の建造物を破壊しない最小限の魔力制御』のプロセス、すべて完璧に完了した。したがって、首席は僕のロジック通り確定しているはずだね」

タケルとエヴァが私の両足にそれぞれのっそりと抱きつき、嬉しそうに見上げてくる。

そこへ、少し離れたところから、ローランくんが肩を落としながらフラフラと歩いてきた。彼の顔には「やり切ったけれど、精神的にボロボロです」という見事な敗北の文字が刻まれていた。

「……ローランくん、お疲れ様! テスト、大変だったでしょう?」

私が優しく声をかけると、ローランくんは私をじっと見上げ、それから双子を複雑な表情で睨みつけ、最後に大きな深呼吸を一つした。

「……カ、カオリ殿。……僕の負けさ。全力を出し切ったけれど、あのエヴァの化け物みたいなスピードと正確無比な記述量には、どうしても一歩及ばなかったよ。……くっ、悔しいけれど、今回の首席はあの黒髪の奴のものだ」

ローランくんは悔し涙をほんの少し浮かべながらも、どこか清々しく、堂々と言い放った。

その姿を見たエヴァは、珍しくフッと穏やかな笑みを浮かべ、スッと一歩前に出た。

「……君の論理的思考力と、最後まで諦めない粘り強さは見事だったよ、ローラン。次回の試験では、もう少し僕を苦しめてみせるといい」

「っ……! な、上から目線で言わないでくれよ! でも……ありがとう、エヴァ」

ライバル同士の間に、本物の「熱い友情とリスペクト」が芽生えた瞬間だった。

(あぁ……最高だわ……。原作の鬱々としたライバル関係が、私の手料理とマザコン教育のおかげで完全に少年漫画の王道アツい友情ストーリーに上書きされている……! オタクとして、これ以上の喜びはないわ……!)

私は心の中で感動の涙を流しながら、一人ひとりの頭を優しく撫で回した。

「おい、そこまでだ。……二人とも、素晴らしい戦いぶりだったよ」

そこに、少し気だるげな、しかし誇らしげな声を響かせながら、担任のマチコ先生が歩いてきた。彼女の銀縁メガネの奥の瞳は、満足そうな光を帯びていた。

「マチコ先生!」

「今回の期末試験の結果速報が出た。……結果は、以下の通りだ」

マチコ先生は手元の成績表を軽くめくり、告げた。

【初等科一学期期末試験・総合順位】

第1位:エヴァ・スズキ(全科目満点・実技特級優)

第2位:タケル・スズキ(筆記高得点・実技総合特優)

第3位:ローラン・フォン・アルベルト(優秀賞)

――見事すぎる、鈴木家のワンツーフィニッシュ、そしてローランくんの堂々の3位入賞だった。

「やったあぁぁぁーーー!! 首席だ!!」

タケルが飛び跳ねて喜び、エヴァも「当然の結果だね」と胸を張る。ローランくんも「くっ、3位か……でも、前回の模試より順位を上げたぞ!」と悔しがりながらも自分を褒めていた。

「二人とも、本当におめでとう! よーし、約束通り、今夜は盛大にお祝いのパーティよ!」

私が声を弾ませると、シリウスさんがすかさず手を挙げた。

「素晴らしい! 首席と次席のダブル受賞の報酬として、かねてより私がリクエストしていた、あの【ポークチャップ】の特別増量バージョンを、今夜こそ心ゆくまで堪能させてもらうとしよう!」

「うにゃ(首席の私が一番美味しい部位をもらうにゃよ、カオリ)」

足元でララ先生も得意げに喉を鳴らした。

*

その日の夜。

我が家の食卓には、分厚い豚ロース肉に濃厚で甘酸っぱい特製トマトソースがたっぷりと絡み、湯気をもうもうと上げる【究極のポークチャップ】の山がそびえ立っていた。

「「「「いただきます!!」」」」

甘酸っぱくてジューシーなお肉の旨味が口いっぱいに広がり、みんなの顔に最高の笑顔が咲き誇る。

王立学校の一学期という大きな試練を、美味しいご飯と、家族の温かい絆と、最強の仲間たちと共に鮮やかに乗り越えた双子。

光の勇者と闇の魔王を両腕に抱きしめ、鈴木カオリの異世界子育て奮闘記は、いよいよ最高に楽しい夏休みへと向かって、さらに美味しく、そして賑やかに加速していくのだった。

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