第38話「拾う」
白が。
傾いている。
無数に。
静かに。
クロノは立ち尽くしていた。
『選べ』
人影の声だけが響く。
選べと言われても。
違いなんて分からない。
全部。
同じ白だった。
「……どれを」
呟いた瞬間。
足が動く。
「……え」
自分で。
動いた。
……違う。
足が止まる。
ひとつの白。
他と何も変わらない。
それでも。
目が離せなかった。
白へ手を伸ばしながら。
しゃがみ込む。
そっと触れた。
温かい。
白だったはずなのに。
春の日差しみたいに。
少しだけ。
温かい。
その瞬間。
白がほどけた。
『やった!』
弾む声。
泥だらけの手。
転んで。
膝を擦りむいて。
それでも。
笑っていた。
『もう一回!』
小さな背中が。
駈けていく。
転ぶ。
笑う。
また立ち上がる。
ただ。
それだけの景色。
「……」
クロノの頬を。
一粒。
涙が伝う。
「なんで……」
知らない。
知らないはずだ。
それなのに。
懐かしかった。
胸の奥が。
少しだけ。
温かい。
どくん。
肩が脈打つ。
白が舞う。
またひとつ。
またひとつ。
音もなく。
ゆっくりと。
舞い上がっていく。
真っ白だった世界。
だったのに。
その中に。
一粒だけ。
青。
「……え」
クロノは息を飲む。
人影は動かない。
白も。
何も語らない。
ただ。
青だけが。
静かに。
そこにあった。
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