第34話「忘れていたもの」
眩しい。
何も見えない。
白。
白。
白。
どこだ。
そう思った瞬間。
景色が切り替わる。
空だった。
青い。
どこまでも青い。
風が吹いている。
「ありえない」
誰かの声。
聞き取れない。
だが。
楽しそうだった。
笑い声。
知らない。
知らないはずなのに。
懐かしい。
「……なんだ」
クロノが呟く。
すると。
景色の向こうで。
誰かが振り返った。
黒髪。
自分と同じ。
「っ」
息が止まる。
顔は見えない。
だが。
分かった。
あれは。
自分だ。
今より少し若い。
少しだけ幼い。
クロノだった。
そのクロノが笑っている。
楽しそうに。
心の底から。
「……違う」
思わず声が漏れる。
知らない。
こんな自分は知らない。
こんな顔をする自分を。
知らない。
景色が変わる。
次。
誰かと話している。
また笑っている。
次。
誰かを助けている。
次。
誰かに怒られている。
次。
失敗している。
それでも。
笑っている。
「なんでだよ……」
クロノの声が震える。
失敗している。
なのに。
絶望していない。
立ち上がっている。
何度も。
何度も。
何度も。
景色が流れる。
成功。
失敗。
成功。
失敗。
成功。
失敗。
それでも。
前へ進む。
前へ。
ただ前へ。
そこで。
声が聞こえた。
『楽しいな』
若いクロノの声。
『次は上手くいく』
景色が止まる。
クロノの思考も止まる。
『次は』
『もっと上手くできる』
その言葉に。
胸が痛んだ。
なぜだ。
なぜ。
こんなにも。
苦しい。
失敗しているのに。
悔しそうなのに。
それでも。
嬉しそうだから。
『諦める理由にはならない』
若いクロノが笑う。
『だろ?』
その瞬間。
景色が砕けた。
ガラスみたいに。
音もなく。
砕け散る。
「っ!」
クロノが手を伸ばす。
届かない。
消えていく。
若いクロノが。
笑顔のまま。
消えていく。
『だから』
最後に。
声だけが残る。
『なんで忘れたんだ?』
ドクン。
肩が脈打つ。
目の前が暗転する。
そして。
再び。
白の部屋。
大きな白の前。
人影が立っていた。
『見ただろう』
静かな声。
『お前が捨てたものだ』
クロノは答えられなかった。
ただ。
胸の奥だけが。
ひどく痛かった。
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