第33話「待ち続けた者」
人影が立っていた。
白の中心。
大きな光の前。
輪郭だけが見える。
顔は見えない。
男なのか。
女なのか。
それすら曖昧だった。
だが。
分かる。
ずっと。
この場所にいた。
そんな気配だけはあった。
「……誰だ」
クロノが問う。
人影は答えない。
ただ。
静かにこちらを見ている。
ミナが一歩前へ出た。
「ねぇ、聞いてるんだけど」
反応はない。
「無視?」
「やめろ」
クロノが止める。
なぜか。
敵意を向けてはいけない気がした。
すると。
人影が初めて動く。
ゆっくり。
ゆっくりと。
右手を上げる。
そして。
『来たか』
声。
今まで何度も聞いた声。
クロノの肩が脈打つ。
「お前が」
『そうだ』
「ずっと話しかけてきた奴か」
人影は否定しない。
『少し違う』
「何?」
ミナが首を傾げる。
『話しかけていたのは私だけではない』
その瞬間。
周囲の白が揺れた。
ひとつ。
またひとつ。
まるで呼応するように。
『ここにいる全員だ』
ゾワッ。
空気が震える。
クロノが周囲を見る。
無数の白。
今まで記憶だと思っていたもの。
今まで感情だと思っていたもの。
違う。
それだけじゃない。
見られている。
そんな感覚。
「全員……?」
『お前を待っていた』
ドクン。
肩が脈打つ。
『長く』
『長く』
『長く』
その言葉と共に。
周囲の白が明滅する。
まるで。
同意するように。
「意味が分からない」
クロノが言う。
「俺はお前達を知らない」
『そうだろうな』
「なら何故だ」
少しの沈黙。
人影が答える。
『忘れたからだ』
クロノが固まる。
ミナも目を見開く。
『お前は』
『何度もここへ来た』
『何度も私達と話した』
『何度も』
『決断した』
頭痛。
視界が揺れる。
「っ……」
知らない。
そんな記憶はない。
あるはずがない。
なのに。
心の奥が。
否定できない。
『だから』
人影が一歩近づく。
『まず問おう』
顔は見えない。
それでも。
笑った気がした。
『今のお前は』
『誰だ?』
クロノの思考が止まる。
名前ではない。
そう感じた。
『世界を止める者か』
『誰かを救う者か』
『諦めた者か』
『それとも』
『まだ思い出していないだけか』
沈黙。
答えられない。
答えを持っていない。
すると。
隣で。
「クロノだよ」
ミナが言った。
「え?」
「クロノはクロノ」
人影が黙る。
ミナも続ける。
「まだ分かんないならそれでいいじゃん」
「ミナ……」
「だって今決めろって無理でしょ」
人影はしばらく黙っていた。
やがて。
『なるほど』
小さく笑う。
初めて。
少しだけ。
優しい声だった。
『確かに』
『昔のお前なら』
『そう答えなかった』
クロノの目が揺れる。
『だが』
『悪くない』
その瞬間。
大きな白が輝く。
部屋全体を包むほどに。
そして。
人影が言う。
『では』
少しだけ。
懐かしそうに。
『思い出せ』
白い光が弾ける。
「っ――」
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