第31話「残された願い」
ギィ――。
重い音を立てて。
扉が開く。
白い光が漏れ出す。
眩しいほどではない。
むしろ。
どこか弱々しい光だった。
クロノとミナは。
ゆっくり中へ入る。
「……」
言葉が出なかった。
部屋は広く。
天井も。
壁も。
見えない。
ただ。
暗い空間の中に。
白い光だけが浮かんでいた。
ひとつ。
ふたつ。
いや。
数え切れないほど。
無数に。
漂っている。
「なに……ここ」
ミナが呟く。
クロノは答えない。
分からなかった。
見たことがない。
はずなのに。
胸の奥がざわつく。
懐かしい。
そんな感覚だけがあった。
ドクン。
肩が脈打つ。
すると。
近くの白い光が。
ふわりと揺れた。
「っ」
自然と手が伸びる。
指先が触れる。
その瞬間。
景色が流れ込んだ。
――走っていた。
誰かを探して。
必死に。
必死に。
探していた。
だが。
見つからない。
間に合わない。
届かない。
それでも。
最後まで。
諦めなかった。
『助けたかった』
声。
知らない声。
なのに。
どこか自分に似ていた。
「はぁ……これって……」
息が漏れる。
苦しい。
今まで流れ込んだものとは違う。
絶望じゃない。
後悔でもない。
ただ。
胸が締め付けられる。
「クロノ?」
ミナが覗き込む。
「平気」
反射的に答える。
だが。
平気じゃなかった。
ドクン。
肩が脈打つ。
また別の光が揺れる。
今度はミナだった。
「あれ?」
そう言って。
白へ触れる。
瞬間。
ミナが目を見開く。
「っ……」
「見えたのか」
ミナはゆっくり頷く。
「誰かいた」
「誰だ」
「分からない」
首を振る。
「でも」
少しだけ迷って。
続けた。
「すごく頑張ってた」
クロノの視線が止まる。
「頑張ってた?」
「うん」
ミナは白を見る。
「諦めてない感じ」
その言葉が。
なぜか引っかかった。
諦めていない。
そんなの。
当たり前だったはずなのに。
今は。
遠い言葉みたいだった。
クロノは小さな別の光へ触れる。
今度は短い。
本当に短い断片。
『守りたかった』
次。
『まだ終わりたくなかった』
次。
『もう少しだった』
次。
『あと一歩だった』
次。
『頼む』
次。
『忘れるな』
そこで。
クロノの手が止まった。
忘れるな。
聞き覚えがある。
何度も。
何度も。
聞いてきた気がする。
なのに。
思い出せない。
「クロノ」
ミナの声。
振り返る。
彼女は白い光を見上げていた。
「なんだ」
「この人たちさ」
少し考えて。
言葉を探す。
「ずっと待ってたんじゃない?」
クロノは眉をひそめる。
「誰を」
ミナは当然みたいに答えた。
「クロノを」
「……は?」
「だって」
ミナは周囲を見回す。
漂う白。
無数の光。
消えそうで。
それでも消えないもの。
「全部」
「クロノのこと知ってるみたいだから」
ドクン。
肩が脈打つ。
その瞬間。
部屋の奥で。
ひとつだけ。
少し大きな白が脈打った。
今までより強く。
まるで。
こちらへ応えるように。
クロノとミナは顔を上げる。
部屋の最奥。
闇の向こう。
そこに何かがあった。
見えない。
だが。
確かにある。
そして。
脳裏に声が響いた。
『ようやく』
男の声。
聞いたことがある。
何度も。
何度も。
聞いてきた声。
『辿り着いたな』
クロノの表情が固まる。
その声は。
今まで聞こえていた声と。
同じだった。
部屋の奥の白が。
再び脈打つ。
まるで。
待っていたかのように。
静かに。
静かに。
――呼んでいた。
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