表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/30

第24話「残響」

 肩の黒い筋が、脈打つ。

 ドクン。

 ドクン。

 黒の奥。

 境界の深部。

 そこから響く脈動と。

 完全に重なっていた。

 誰も喋らない。

 ミナも。

 クロノも。

 ただ。

 さっき見たものが頭から離れなかった。

 黒の向こう側。

 あの人影。

 同じ場所にあった黒い筋。

(……なんだよ)

 考えようとする。

 だが。

 まとまらない。

 違和感だけが残る。

 知っている気がする。

 なのに思い出せない。

 初めて見るはずなのに。

 どこかで見た気がする。

 そんな感覚だけが。

 妙に生々しかった。

「クロノ」

 ミナが呼ぶ。

 少しだけ慎重な声。

「……あれさ」

「なんだ」

「見たことある?」

 クロノは答えなかった。

 代わりに。

 黒の奥を見る。

 もう人影はいない。

 脈動だけが続いている。

「ない」

 短く答える。

「でも」

 言葉が止まる。

 ミナが待つ。

「……分からない」

 それが一番正確だった。

 ミナも何も言わない。

 たぶん。

 同じだった。

 見覚えがあるような。

 ないような。

 そんな気持ち悪さだけが残っている。

 ドクン。

 肩が脈打つ。

「っ……」

 思わず顔をしかめる。

 今までより強い。

 痛みじゃない。

 違う。

 引っ張られる。

 そんな感覚。

「また?」

 ミナが近づく。

 クロノは肩を押さえたまま。

 黒を見る。

 筋が。

 微かに伸びている。

 さっきより。

 ほんの少しだけ。

「増えてる」

 ミナが呟く。

 クロノも否定できない。

 黒い筋は。

 肩から首元へ向かっていた。

 ゆっくりと。

 生き物みたいに。

「最悪だな」

 思わず漏れる。

 そのときだった。

 視界の端。

 何かが動く。

「――っ」

 振り向く。

 誰もいない。

 崩れた校舎。

 割れた空間。

 黒い霧。

 それだけ。

(今……)

 いた。

 確かに。

 何かが。

 立っていた。

 ドクン。

 肩が脈打つ。

 同時に。

 また見えた。

 今度は反対側。

 遠く。

 黒の中。

 誰かが立っている。

 瞬き。

 消える。

「クロノ?」

 ミナの声。

「どうしたの」

「……いや」

 言いながら。

 もう一度見る。

 いない。

 何も。

 最初から存在しなかったみたいに。

(見えてるのか?)

 侵食の影響。

 その可能性が頭をよぎる。

 だが。

 それだけじゃない気がした。

 ドクン。

 脈動。

 そして。

 一瞬だけ。

 知らない何かが流れ込む。

 冷たい床。

 湿った空気。

 遠くで響く水音。

 誰かの呼吸。

 誰かの足音。

 そして。

『まだか』

 男の声。

 知らない。

 聞いたことがない。

 なのに。

 妙に近い。

「うわぁ!」

 クロノが叫ぶ。

 何かが消える。

 境界へ戻る。

 目の前にはミナ。

 脈動する黒。

 それだけ。

「今のは……」

 思わず漏れる。

「え?」

「聞こえなかったか」

 ミナが首を傾げる。

「何が?」

 沈黙。

 聞こえていない。

 クロノだけだ。

 ドクン。

 肩が脈打つ。

 まるで。

 答えるみたいに。

 嫌な予感がした。

 これは。

 幻覚なんかじゃない。

 ただ見えているだけでもない。

 もっと。

 別の何か。

 そのとき。

 黒の奥で。

 何かが光った。

 一瞬。

 本当に一瞬だけ。

 小さな白。

 黒の中には存在しないはずの色。

「……あれ」

 ミナも気づく。

 視線が奥へ向く。

 白は消えていた。

 だが。

 二人とも見た。

 確かに。

 黒の中心近くで。

 何かが光った。

 クロノは目を細める。

 脈動。

 人影。

 黒い筋。

 聞こえた声。

 そして。

 白。

 今まで存在しなかった異物。

(増えてる)

 異常が。

 一つずつ。

 確実に。

 増えている。

 ドクン。

 脈動が響く。

 その奥で。

 何かが待っているみたいに。

読んでいただきありがとうございます。

少しでも続きが気になったら、フォローや評価いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ