第23話「接続」
黒い筋が、脈打つ。
ドクン。
肩の奥で。
心臓とは違う場所で。
何かが、動いている。
「……ちょっと!?」
ミナの声が震えた。
「クロノ、それ……!」
クロノは答えない。
視線は、自分の肩へ向いていた。
制服が崩れている。
皮膚の上を走る黒い筋。
そして。
微かに。
伸びている。
(増えてる?)
嫌な予感がした。
見ている間にも。
黒い線が、ゆっくりと先へ進んでいる。
血管みたいに。
根を張るみたいに。
ドクン。
また脈打つ。
その瞬間。
視界が揺れた。
「っ……!」
頭を押さえる。
一瞬だけ。
世界が二重に見えた。
黒い空。
崩れた校舎。
そして。
知らない何か。
暗い場所。
どこまでも続く黒。
その中心で。
何かが脈打っていた。
巨大な。
生き物みたいな。
心臓みたいな。
――違う。
(見てる)
それは。
こっちを見ていた。
「クロノ!」
ミナの声で、意識が戻る。
何かが消える。
目の前には、いつもの境界。
黒が広がる世界。
「どうしたの!?」
「……なんでもない」
「なんでもなくないでしょ!」
即座に返ってくる。
クロノは眉を寄せた。
今のは。
なんだった。
幻覚か。
侵食か。
それとも。
(見せられた?)
ドクン。
肩の筋が脈打つ。
同時に。
黒の奥も脈打つ。
完全に一致していた。
ミナも気づく。
「……同じ」
「何が」
「今の」
ミナの顔色が悪い。
「それ、向こうと同じタイミングで動いてる」
沈黙。
クロノも分かっていた。
認めたくなかっただけだ。
ドクン。
黒。
ドクン。
肩。
まるで。
繋がっているみたいに。
「切る」
クロノが言った。
「え?」
「繋がってるなら切ればいい」
足元の破片を拾う。
割れたコンクリート。
鋭く尖った断面。
「ちょ、待って!」
ミナが慌てる。
だが。
クロノは止まらない。
黒い筋へ向けて。
破片を振り下ろした。
ガッ。
皮膚が裂ける。
赤が滲む。
だが。
黒い筋は消えない。
「……っ」
もう一度。
さらに深く。
ガッ。
鈍い音。
血が流れる。
それでも。
まだ。
まるで。
そこだけ別のものみたいに。
「やめて!」
ミナが腕を掴んだ。
「やめてよ!」
珍しく。
怒鳴るような声だった。
クロノが動きを止める。
「意味ない!」
「……」
「そんなの絶対違う!」
呼吸を荒げながら言う。
クロノは黙ったまま。
ミナの手を見る。
震えていた。
怒っているんじゃない。
怖がっている。
本気で。
クロノが傷つくことを。
ドクン。
また脈打つ。
その瞬間。
黒が揺れた。
奥で。
何かが動く。
今度は。
二人とも見た。
「……え」
ミナが息を呑む。
黒の深部。
脈動の中心。
その手前。
誰かが立っていた。
人影。
遠い。
輪郭も曖昧。
だが。
確かに人だった。
「……誰」
ミナが呟く。
人影は動かない。
ただ。
こちらを見ている。
クロノの背筋に冷たいものが走る。
知らないはずなのに。
見覚えがあった。
その立ち方。
その姿勢。
その視線。
ドクン。
人影の背後で。
巨大な脈動が響く。
次の瞬間。
人影が、ゆっくりと腕を上げた。
そして。
こちらへ向かって。
何かを示した。
黒のさらに奥。
脈動の中心を。
「……あれ」
ミナが小さく呟く。
だが。
クロノは違うものを見ていた。
腕。
上げられた右腕。
その肩口に。
黒い筋が走っていた。
自分と同じ場所に。
同じ形で。
まるで。
鏡みたいに。
ドクン。
黒が脈打つ。
人影が揺れる。
そして。
消えた。
後には。
重い沈黙だけが残った。
「……今の」
ミナの声が掠れる。
クロノは答えなかった。
答えられなかった。
肩の黒い筋が。
今までよりも。
少しだけ。
奥へ伸びていたから。
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