第19話「敵性」
黒が、脈打つ。
ドクン。
ドクン、と。
そのたびに、空間が軋む。
世界そのものが、“こちら”を拒絶しているみたいだった。
クロノは、空を見上げたまま動かない。
裂け目の奥。
黒。
そのさらに奥。
“何か”がいる。
もう、疑っていなかった。
「……クロノ」
隣で、ミナが小さく呼ぶ。
「さっきの、ほんとに聞こえたの?」
「ああ」
短く答える。
「多分、気のせいじゃない」
ミナは少しだけ黙って。
「なんて?」
と、聞いた。
クロノは、一瞬だけ言葉を止める。
そして。
「……“見つけた”って」
その瞬間。
ミナの表情が、わずかに固まった。
「それって……」
「ああ」
言いながら、視線を空へ戻す。
「向こうから見えてる」
沈黙。
重い。
だが。
不思議と、絶望感はなかった。
むしろ――
(やっと繋がった)
そんな感覚に近い。
何千回も繰り返してきた世界。
ずっと、“理由”が見えなかった。
ただ崩れて。
ただ終わるだけだった。
でも今は違う。
相手がいる。
意思がある。
だからこそ――
(変えられる)
クロノは、ゆっくり息を吐いた。
そのとき。
ドクン!!
黒が、強く脈打つ。
空間が、大きく歪む。
「っ!」
ミナが顔をしかめる。
景色が、崩れる。
道路が反転する。
ビルが溶ける。
重力が、乱れる。
だが。
クロノは、すぐに違和感に気づいた。
(……違う)
今までの崩壊と。
歪み方が違う。
ランダムじゃない。
広範囲でもない。
むしろ――
(狭い)
集中している。
こちらに。
「ミナ、下がれ!」
「え?」
「来る!」
次の瞬間。
黒の一部が、“伸びた”。
空の裂け目から。
黒い線みたいに。
一直線に。
クロノへ向かって。
「っ!!」
反射的に飛び退く。
黒が、すぐ横を通り過ぎる。
触れてもいない。
なのに。
通った場所の空間が、崩れ落ちた。
「……え?」
ミナの声が震える。
今のは。
明らかに。
(攻撃)
クロノの表情が変わる。
今までは違った。
崩壊に巻き込まれるだけだった。
でも、今のは。
完全に――
(狙われた)
黒が、脈打つ。
ドクン。
ドクン、と。
まるで。
こちらの反応を観察しているみたいに。
「……おいおい」
クロノは、小さく笑った。
「急にゲーム性変えてくるなよ」
「ゲームとか言ってる場合!?」
ミナが叫ぶ。
その瞬間。
再び、黒が伸びる。
「っ!」
今度は、ミナ。
クロノが、とっさに引き寄せる。
黒が、すぐ横を通り抜ける。
空間が、裂ける。
「……私も狙われてるの」
ミナが、息を詰める。
「ああ」
否定しない。
もう確定だった。
黒は。
“排除”を始めている。
そして。
優先順位がある。
(俺たちだ)
干渉した存在。
傷をつけた存在。
世界を書き換えようとしている存在。
だから――
敵。
「……クロノ」
ミナが、小さく言う。
「これ、結構まずくない?」
「かなりな」
即答だった。
だが。
クロノは、目を逸らさない。
黒を見る。
その動きを。
脈の間隔を。
伸びるタイミングを。
(……読める)
ほんの少しだけ。
法則がある。
完全な無秩序じゃない。
「ミナ」
「ん」
「次来たら、右」
「え?」
「いいから合わせろ」
「……おk!」
ドクン!!
黒が脈打つ。
来る。
(右)
「今!」
二人同時に飛ぶ。
次の瞬間。
黒が、左側を貫いた。
空間が崩れる。
だが――
避けた。
「……っ!」
ミナが目を見開く。
「避けれた!?」
「ああ」
クロノは、空を見上げる。
黒。
起点。
その奥。
そして。
こちらを見ている“何か”。
(完全じゃない)
向こうも。
まだ。
絶対じゃない。
その事実に。
クロノは、ほんの少しだけ口元を上げた。
「……なるほどな」
「え?」
「殺しに来るなら」
黒が、脈打つ。
ドクン、と。
まるで、続きを待つみたいに。
クロノは笑った。
「避ければいい」
その瞬間。
黒が、大きく揺れた。
まるで。
苛立ったみたいに。
読んでいただきありがとうございます。
少しでも続きが気になったら、フォローや評価いただけると嬉しいです。




