第10話「干渉の結果」
世界は、まだ崩れている。
それでも。
終わってはいなかった。
空に走る亀裂は途中で止まり、
黒い“何か”も、広がるのをやめている。
まるで。
時間そのものが噛み合わなくなったように。
「……ありえない」
クロノは呟く。
何千回と見てきた光景。
何千回と迎えた結末。
その“最後”だけが。
今だけ違っていた。
「ねぇ」
隣で、ミナが空を見上げる。
「これ……止まってる、よね?」
「……ああ」
肯定するしかない。
否定する理由が、どこにもなかった。
本来なら。
この時点で、すべてが消えている。
街も。
人も。
空も。
光も。
何もかも。
「……なんで?」
単純な問いだった。
だからこそ。
答えられない。
「分からない」
クロノは即答した。
「ただ一つ言える」
空を見上げる。
「これは――例外だ」
「例外……」
ミナが小さく繰り返す。
「お前が動いた」
あの瞬間。
壊れるはずだったものへ。
手を伸ばいた。
「干渉……したってこと?」
少しだけ間を置いて。
クロノは頷く。
「本来、変えられない流れに」
「割り込んだ」
その結果が。
今、目の前にある。
止まった世界。
終わりきらない崩壊。
成功か。
失敗か。
まだ分からない。
そのとき。
空の奥で。
何かが動いた。
「……っ」
ミナが息を呑む。
黒い“何か”。
崩壊の中心にあったそれが。
ゆっくりと。
形を変え始める。
「止まって……ない?」
「違う」
クロノは低く言う。
「変わった」
本来の崩壊じゃない。
終わりでもない。
別の何かへ。
変わり始めている。
「……最悪だな」
「え?」
「終わりが決まってる方が、まだマシだった」
ミナが顔をしかめる。
「なんでそんなこと言うの」
「終わりが見えていれば」
「迷わない」
短く答える。
「これは違う」
「どこへ向かうのか分からない」
予測できない。
繰り返しも効かない。
「……初めての世界だ」
静寂が落ちる。
「……じゃあさ」
ミナがぽつりと呟く。
「よかったじゃん」
クロノは眉をひそめる。
「何がだ」
「だって」
「今までと違うんでしょ?」
こんな状況なのに。
ミナは笑っていた。
「終わらないなら」
「まだ、できることあるじゃん」
否定できなかった。
言葉が。
出てこなかった。
その瞬間。
黒い“何か”が。
大きく脈打つ。
ドクン。
生き物の鼓動みたいに。
「……来るぞ」
「うん」
ミナが一歩前へ出る。
また。
考えるより先に。
体が動いていた。
「やめろ」
「だめって言ったでしょ!」
その声と同時に。
空間がわずかに揺れる。
黒い“何か”の動きが。
一瞬だけ止まった。
「……っ!」
クロノの目が見開く。
偶然じゃない。
今のは。
確かに。
「……お前」
ミナは、自分の手を見つめていた。
「……今、止まった?」
クロノは答えない。
ただ。
目の前の変化だけを見ていた。
干渉した世界は。
もう。
以前と同じ動きをしていない。
「……次も来る」
静かに言う。
「でも」
ミナが振り向く。
「止められるかもしれない」
その言葉を。
クロノは、もう否定しなかった。
空の亀裂が。
再び、ゆっくりと広がる。
黒も。
静かに動き始める。
終わりは。
確かに変わった。
そして。
二人は、その変化を見つめ続けていた。
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