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二 日本語お上手ですね

 ここに来てから、はや何日経ったのだろうか。体感は一か月ほどである。

 城の中の一室で、半ば軟禁されている。

 一応、馬車のときと違って、大きな窓から外の景色は見える。一面に現代とは全く異なる街並みが続いている。最初は上村も誘拐と疑ってはいたが、こんなにも大掛かりなことをできるはずもないとは思い、徐々に諦めと、異世界への受け入れが生まれていた。

 そろそろ……。

 コンコン。

「どうぞー」

 ガチャッと扉が開くと、いつも通りリチュームがいた。

「はい、お昼ご飯です」

 ザ・和食をリチュームを持って来てくれる。美味しいこと結構であるが、上村はリチュームへの警戒心がとうに融解したのもあって、日ごろの疑問をぶつけてみた。

「どうして、リチュームは日本語が喋れたり、和食を出してきたり、こうも造詣が深いんだ?」

「ゾウケイ?」

「よく理解しているってこと」

 分からない単語は多少はあるものの、使う語彙や滑らかさは、格段に上がったような気もする。

「ああ」

 四角いお盆をテーブルに置いて、そのまま部屋から出ると、少しして、一冊の本を手にそそくさと戻ってきた。

「それは……!?」

 上村の知らない書物。そう、彼の追っていた漫画の最新刊だったのである。

「私が、転送魔法を使えるのは知っていますよね? もともとあなたを転送する前に、物質、そして小動物と、少しずつ試していたのです」

 漫画をパラパラとめくる。

「日本語も、転送した沢山の書物を使って、王国の学者をみんな集めて、学ばせたのです」

 ちら、と上村を見る。

「私がこのように日本語を使うのも、いっぱい勉強したからです」

 そんなこと、どうでもよいと思うように、ふつふつと上村の怒りがこみあげてきていた。

 いきなりリチュームの足元につかみかかって、駄々をこね始めた。

「どうしてそんなに娯楽が沢山あるのに、黙って隠していたんだ!」

「わ、わ、そんなこと言われても……」

「しかも、小動物も転送させたんだろ?」

「見ますか!?」

 また、ちょこちょこと出て、すぐに戻ってきた。可愛い猫を抱えていた。

「地球……? には、人間や悪魔のように、こんなに柔らかい動物が沢山いるんですね」

 なんだか、上村にはどうでもよくなっていた。立ちあがって、扉に向かう。

「もういい、外に出て行ってやる」

「それは駄目です」

 リチュームに腕で制された。またか、と上村は壁に丁寧にかけられた杖を見る。

「俺は、救世主じゃなかったのか? なんで、やっていることが引きこもって食って寝ているだけなんだよ」

「そ、それは……」

 一呼吸置いた後、ようやくリチュームは真面目な顔になった。

「それでも、悪魔とずっと争っていた時代は、最近、終わりました」

「何もしていないのに?」

「はい。上村様が、破滅の魔法を持っているからです」

 使っていない破滅の魔法が、本当にあるなど信じられない。リチュームは、自信満々に言ってはいるが。

「ただ、たまには街の人々と会って話しても楽しそうですね。変なことを言わなければ、良いですよ。明日、行きましょう」

「えっ」

 急にとんとん拍子で決まった。出せるなら早く出してくれ……そう思いつつも、ひとまずの解放に喜ぶことにした。


 広場に集まると、あの集会の人まではいかないものの、それでも上村の周りには大勢の人が集まっていた。

「カミムラ! こんにちは!」

 小さな子たちが、はしゃいでいる。こんにちは、と言われて少し驚きもした。

「日本語、みんな色々なところで勉強しているんだな。嬉しいけどさ」

「ええ。救世主様の使う言葉なので、みんな学んでいます」

 少し安心もした。軟禁生活のせいで、ここの言葉は全く分からない。挨拶が、「ジトシリルン」なことぐらいだ。

「ホイホイ、カミムラ!」

 今度はガタイの良い男の人に話しかけられた。袖をいきなりめくると、

愛知!

 刺青がでかでかと彫ってあった。

「アイチ! カッコイイ!」

 すごい、と褒めた後、ひそひそ話をした。

「リチューム、あれ意味分かってるの?」

「心を知る、って教えました」

 リチュームはいたずらたらしい笑みを浮かべた。

 でも、こちらの世界でも同じような人はいた気がする、そう上村は思い直した。

 その日は、マスコットのように見物人の対応をするだけで一日が過ぎてしまった。

「いやあ、この一か月分の孤独がなくなったよ。これからも、たまに会いたいな」

「そうですね。救世主様として、しっかり話していたので良かったです」

 少し、リチュームに見定められた様子でもあった。評価は及第点、か。まあ良しとする。


{コノーア、カウム! コノーア、カウム!}(カウム様! カウム様!)

 使い魔のコウモリがキンキンとした声で話しかけてくる。

 カウムは城の屋根から上村とリチュームの接客を見守っていた。

 例の救世主か……本当に、魔法が使えたのか。

 真の実力は分からないが。……厳重に警戒すべきかもしれない。

{ドュテレアジーペン}(帰ろう)

 魔方陣を展開すると、スッとカウムは消えた。コウモリだけが残された。

{コノーア、カウム! コノーア、カウム!}

 コウモリも、黄色い光を帯び、やがて消えた。

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