第5章 奪還
ゴードン伯爵の居城は、港町ヴェントから馬で2日、内陸へ戻った丘の上にあった。
貴族同士の付き合いを放り出し、冒険や放蕩に明け暮れてきたツケが回った。
俺は、ゴードン伯爵の領地がどこにあるのかすら、正確には知らなかったのだ。
エレノアがどこへ連れていかれたのかを突き止めるだけで、3日もかかった。
そして、俺は馬で2日の道を、1日で走った。
氣で身体を強化し、夜明けから日暮れまで、ほとんど足を止めなかった。
ゴードン伯爵の居城へ忍び込むのは、決して容易ではない。
だが、居場所を探る3日の間に、使える情報は洗いざらい買い集めてあった。
警備が交代する刻限。
見張りの手薄な北側の塀。
番犬の数と、繋がれている場所。
花嫁が押し込められている離れの位置。
金貨は、面白いほど人の口を軽くする。
城下へ着いてから、最後の穴も埋めた。
婚儀を明日に控えた城下町は、祝いの酒と噂話で緩みきっていた。
酒場で酔いつぶれた兵士は、明日の婚儀の警備について愚痴を零した。
出入りの商人は、花嫁衣装や宝石が離れへ運び込まれたと話した。
下働きの男は、伯爵が式を急がせ、屋敷中が準備に追われていると教えてくれた。
――婚儀は、明日。
猶予は、今夜しかない。
◇
月が雲へ隠れた頃、俺は城の裏手にある森へ潜んでいた。
氣で気配を殺し、闇に目を慣らす。
塀の上を、見張りの松明が一定の間隔で流れていく。
右から左へ。
心の中で、200まで数える。
次の灯りが来るまで、また200。
その隙間だけが、俺の通り道だ。
黒い服へ身を包み、金属の留め具には布を巻いてある。剣も短剣も、動いた拍子に音が鳴らないよう固定した。
懐へ手を入れると、硬いものが指先に触れた。
港町でエレノアからもらった、貝殻の笛だった。
『君も、何かあったら3回鳴らせ。私が、迎えに行ってやる』
あの時の、少し得意そうな顔が浮かんだ。
「迎えに来るどころか、自分が捕まってどうするんですか」
松明が遠ざかる。
――今。
地を蹴り、塀へ取りつく。
氣で強化した脚力なら、石壁の半ばまでは一息で届く。指先を石の継ぎ目へ差し込み、そのまま身体を持ち上げた。
塀の上へ手をかけた、その時だった。
真下で、足音が止まった。
交代の見張りが、予定より早く戻ってきたのだ。
松明の明かりが、塀の根元をゆらゆらと舐める。
俺は石壁へ張りついたまま、呼吸を殺した。
氣で気配は消している。見つかりはしない。
それでも、心臓の音までは消せる気がしなかった。
「明日の式が終われば、警備も元に戻るんだろうな」
「さあな。新しい奥方が、すぐに死ななければだが」
真下から、兵士たちの笑い声が聞こえた。
「前の女たちと同じなら、長くは保たんだろう」
「今度は公爵令嬢だぞ。伯爵様も、少しくらい丁寧に扱うんじゃないか」
「式が終わるまでは、な」
笑い声が重なった。
石を掴む指に、力が入る。
今すぐ飛び降りて、2人とも地面へ叩きつけたい。
だが、騒ぎを起こすのはまだ早い。
どく、どく、と胸の奥で鳴る音を聞きながら――ふと、頭の隅に、場違いな問いが浮かんだ。
なあ、トーリ・トーリントン。
お前は、何をやってるんだ?
ここで失敗すれば、俺も捕まる。
捕まらずとも、騒ぎを起こせば、母の故郷へ渡る道は閉ざされるかもしれない。トーリントン家にまで追及が及ぶ可能性もある。
冷静に考えれば、引き返すべきだ。
エレノアは、自分の意思で伯爵のもとへ行った。
俺には、他国へ渡るための金も、偽の身分証もある。
1人なら、今からでも船に乗れる。
海を渡り、魔物を狩り、魔導具を作って生きていけばいい。
――1人で。
朝、テーブルに並ぶカップが2つ。
おかえり、という声。
魚1匹で威張る顔。
革の靴1足で跳ね回る姿。
波に追われて上げる悲鳴。
屋台の串を頬張る横顔。
それから――「隣に君がいる」と、さらりと言ってのけた、あの声。
そんなものは、もう何もない。
朝になっても、木のカップは1つしかない。
誰もいない部屋で、貝笛を3回鳴らす。
それでも、迎えに来る者はいない。
そんな未来が、はっきりと頭に浮かんだ。
胸の奥が、刃物を突き立てられたように痛んだ。
俺はずっと、この感情へ名前をつけないようにしていた。
厄介事を放っておけないだけ。
寝覚めが悪いだけ。
家の裏山で死なれては困るだけ。
そうやって、いくらでも理由を並べてきた。
だが、もう誤魔化せなかった。
エレノアが死ぬのが嫌なのではない。
エレノアのいない場所で、俺だけが生きていくのが嫌なのだ。
あの女と、明日も飯を食いたい。
海の向こうで、くだらないことで言い争いたい。
俺が帰れば、迎えてほしい。
彼女がいなくなれば、何度でも迎えに行きたい。
……ああ、くそ。
認めるしかないじゃないか。
俺は、エレノアに惚れている。
愛している。
あの口が悪くて、強がりで、変に律儀で、笑い方をやっと思い出したばかりの女を。
だから、ここにいる。
惚れた女を、取り戻しに来た。
理屈なんて、初めからそれだけだったのだ。
「待っていてください」
貝笛を握り、懐へ戻す。
腹の底にあった冷たい怒りの隣に、温かなものが灯った。
恐れは消えていない。
だが、もう足を止める理由にはならなかった。
真下の足音が動き出す。
松明の明かりが、遠ざかっていく。
行こう。
迎えに行くと、決めたのだから。
俺は塀の上へ身体を引き上げた。
壁の内側には、細い魔術線が張られている。
触れれば、警報が鳴る仕組みだ。
土魔法で足元の石をわずかに盛り上げ、魔術線を跨ぐための足場を作る。
警報を解除する必要はない。
触れなければいい。
塀の内側へ飛び降り、着地の寸前に風魔法で勢いを殺した。
音は、ほとんど鳴らなかった。
植え込みの陰へ身を伏せた直後、番犬を連れた兵士が角から現れる。
犬が鼻を動かした。
俺は風魔法を薄く広げ、自分の匂いを逆方向へ流す。
番犬は顔を上げ、誰もいない厩の方角へ唸った。
「どうした?」
兵士が犬に引かれ、そちらへ向かう。
その背後を抜け、厩の裏へ回った。
干し草の陰へ、小さな魔石と油を染み込ませた布を仕掛ける。
合図を送れば、東の物置から火の手が上がる。
逃げる時に、屋敷中の目を引きつけるための布石だ。
離れへ続く道には、2人の兵士が立っていた。
正面から通る必要はない。
小石を拾い、風魔法で庭の反対側へ飛ばす。
石が温室の硝子へ当たり、甲高い音を立てた。
「何だ?」
「見てくる」
1人が持ち場を離れた。
残った兵士がそちらへ目を向けた瞬間、背後へ回り込む。
首筋を打ち、声を上げる前に気を失わせた。
倒れる身体を支え、植え込みの中へ寝かせる。
温室へ向かった兵士にも、同じように眠ってもらった。
殺す必要はない。
今夜ここで死ぬべき人間がいるとしても、少なくとも、この2人ではなかった。
庭を影伝いに進む。
離れが近づく。
懐の貝笛を、服の上からそっと確かめた。
「今度は、俺が迎えに行きます」
窓から、ぼんやりと灯りが漏れていた。
窓の中に、彼女がいた。
息が止まりそうになった。
豪奢な純白のドレスを着せられ、髪を結い上げられ、宝石で飾り立てられて、エレノアは椅子に座っていた。
まるで、飾られた人形のように。
だが、その横顔は――俺の知っているエレノアの、どんな絶望の時よりも空っぽだった。
窓の外を、ただ見ている。
何も映していない目で。
星も月も、彼女の瞳には届いていない。
俺は窓の錠を土魔法でこじ開け、音もなく中へ滑り込んだ。
「エレノア」
彼女の肩が、びくりと跳ねた。
ゆっくりと振り返り、俺を認めて――その顔に浮かんだのは、喜びでも、驚きでもなかった。
「……今更、なんですか」
掠れた、氷のような声だった。
その声が、妙に遠く聞こえた。
目の前の俺に話しているはずなのに、王都の夜会で誰かに別れを告げているような、よそ行きの響きがある。
あの小屋で魚を自慢していたエレノアが消え、見知らぬ公爵令嬢が立っているようだった。
胸の奥に、寂しさと苛立ちが混ざったざらつきが生まれる。
なぜ彼女が、そんな話し方をするのか。
その理由まではわからない。
今は問いただしている場合でもなかった。
俺はその感情を、息と一緒に飲み込んだ。
「私を、連れ去ろうとでも言うんですか。今更」
「そうだ。迎えに来た。一緒に来い、エレノア」
「勝手なことを言わないで」
彼女は力なく笑った。
壊れた笑い方だった。
「もう、遅いのよ。全部、知ってしまったの。……あの伯爵の使いは、嘘をついていた。子爵家なんて、捕まっていなかった。私が身を差し出す必要なんて、初めからなかった」
エレノアは、自分を嘲るように口元を歪めた。
「私は、ただ、まんまと騙されて、自分から死にに来ただけ」
やはり、気づいていたか。
だが、それだけではない。
彼女の絶望は、もっと深いところまで沈んでいる。
「私を逃がした魔法のことも、聞いたわ」
「転移魔法が、どうした」
「あれは、ランダム転移ではなかったの」
エレノアは、膝の上で拳を握った。
「王都が陥落するような事態に備えて、王家と4大公爵家だけに伝えられている避難用の転移魔法。転移先は完全な無作為ではなく、王家に忠実とされた貴族領の数か所に限定されている。トーリントン領は、その1つだったのよ」
頭の中で、これまで引っかかっていたものが、音を立てて繋がった。
伯爵が、エレノアの生存を確信していた理由。
行方もわからないはずの彼女を、貴族家に絞って探していた理由。
そして俺たちが港町まで逃げても、伯爵の使いが先回りできた理由。
「ゴードン伯爵は、公爵家の使用人から魔法の秘密の一端を聞いていた。だから最初から、転移先に指定された貴族家だけを調べさせていたの」
エレノアは俯いたまま続けた。
「トーリントン領に私が現れた痕跡を掴んだ後は、領地から国外へ逃げる道を予測して、最寄りの関所と港を見張らせた」
「それで、ヴェントに……」
「ええ。私たちは、自分たちで逃げ道を選んだつもりだった。でも伯爵には、最初から候補を絞られていたのよ」
迂闊だった。
俺の落ち度だ。
もっと思考を巡らせていれば、ゴードン伯爵の狙いを見抜けていたはずなのに。
「聞いてしまったの。伯爵と、家の者の話を」
エレノアの指が、ドレスの布を握りしめる。
「……お父様が、ルクレール公爵が、伯爵と取引をしたのよ。私を伯爵に売った。公爵家の名を使わせてやる代わりに、厄介な娘を引き取らせる、と。実の父が、私を商品みたいに」
指先が白くなるほど、強く布を握っている。
「この結婚は、繋がりを作るための道具。そして式が済めば、私は用済み。……殺されるのよ。事故か、病か、うまく取り繕われて」
彼女の声が、わずかに震えた。
「私は『王子を害そうとし、聖女を虐げた、世紀の悪女』として、歴史に名を残して死ぬの。誰も本当の私なんて知らないまま。真実さえ、私には残らない」
視線が、また窓の外へ逃げていく。
「王子も、聖女も、公爵も、伯爵も。私1人を不幸にして、消し去るために、みんなで手を組んだ」
自嘲するように笑った。
「……こんなに大勢に憎まれて、望まれて死ぬ女なんて、いっそ大したものよね」
「エレノア」
「帰って」
彼女は俺を見なかった。
「帰ってよ。死ぬからって、何なの。私を愛している人なんて、この世に1人もいないのに」
親も。
兄弟も。
王子も。
伯爵も。
「……これから何のために生きればいいのか、わからないんだから。悪女として死ぬことくらい、何よ。せいぜい綺麗に着飾って、大人しく死んであげる」
――ふざけるな。
俺は彼女の両肩を掴んだ。
空っぽだった青い瞳が、ようやく俺を映す。
「よく聞け、エレノア。お前は、何1つ悪くない」
彼女の目が揺れた。
「王子の心変わりも、聖女の悪意も、公爵家の打算も、伯爵の欲も、全部お前とは関係ないところで動いていた」
肩を掴む手に力が入る。
「お前は務めを果たそうとしただけだ。それを、あいつらは寄ってたかって食い物にした。女の子1人を不幸にするために、王家と公爵家と伯爵家が雁首揃えて筋書きを書いたんだ」
はっきりと言い切る。
「――お前が悪女なんじゃない。お前を悪女に仕立てたやつらが、悪党なんだよ」
「そんなこと……勝手なことを。どうして、あなたにそんなことがわかるの」
「わかるんだよ。わからなかったら、こんなところに来るもんか!」
声が跳ね上がった。
取り繕う余裕なんて、とうに消えていた。
「そして、もう1つ、お前は間違ってる」
エレノアが息を呑む。
「――愛している人が、1人もいないだと?」
「……何を」
「愛してる」
彼女の呼吸が止まった。
「愛してるんだよ、エレノア。誰がって? 俺だ」
もう、誤魔化す必要はない。
「トーリ・トーリントンが、エレノア・フォン・ルクレールを愛してる。わかれよ、いい加減に」
「……なんで」
彼女の目から、涙が堰を切ってこぼれ落ちた。
飾られた頬を、幾筋も伝っていく。
「なんで、あなたが……」
「惚れた女を、死なせたくないからだ。愛してるからだ。それじゃあ、駄目かよ」
「……駄目よ」
しゃくり上げながら、彼女は首を振った。
「駄目。私たち、もうこの国にいられなくなる。トーリントンの家にだって、あなたはいられなくなるのよ。あなたには、帰る場所があったのに――」
「その心配なら、いらない。俺は、もう死んだ」
「え……?」
「親父は、俺を山中の事故で死んだことにするつもりだ。ハンスじいから聞いた。形ばかりの葬式も、もう手配してある」
トーリ・トーリントンは、もうこの世にいない。
エレノアが言葉を失う。
「そんな……あなたには、家族が」
「三男坊だからって、政治を面倒くさがっていた俺の落ち度だ。まあ、どんなに立ち回りが上手くても、王家と公爵家と伯爵家を敵に回して生き残れる貴族なんて、この世にいないだろうけどな」
俺は、涙に濡れた彼女の頬へ手を添えた。
「だから、帰る家なんて、俺にはもうない」
エレノアの濡れた瞳を見つめる。
「俺が帰りたい場所にいるのは、お前だ」
彼女の唇が、かすかに震えた。
「――世界中を敵に回してでも、俺はお前と生きたい。生きろ、エレノア。俺と一緒に、生きてくれ」
彼女は、しばらく俺を見つめていた。
空っぽだった瞳に、ゆっくりと光が戻ってくる。
「……もう1回」
「ん?」
「もう1回、言って。愛してるって。そうしたら――生きる。あなたと、生きる」
俺は彼女の手を握った。
冷え切っていた指に、ようやく体温が通い始めている。
「好きだ、エレノア。愛してる」
「……ふふ」
涙のまま、彼女は笑った。
今度は壊れてなんかいない、本物の笑顔で。
「私もだ。私も、愛してる。トーリ」
その手を、彼女がぎゅっと握り返した。
飾られた人形は、もういなかった。
そこにいるのは、生きることを選んだ、1人の女だった。
「行くぞ。しっかり掴まってろ」
「ああ」
俺は窓辺へ、油を染み込ませた布と小さな魔石を仕掛けた。
離れを出た後、少し時間を置いて燃え上がるよう調整する。
そして、指を鳴らした。
合図だ。
遠く、東の物置が轟音を上げて燃え上がる。
屋敷中が騒然となり、衛兵たちが火の方へ殺到していく。
その隙に、俺はエレノアを抱え、離れの窓から夜の庭へ躍り出た。
氣を全開にし、塀へ向かって駆ける。
背後で、もう1つ火の手が上がった。
もぬけの殻になった離れが、俺の仕掛けた火に包まれていく。
燃え落ちる花嫁の部屋。
中には、誰もいない。
だが、それを確かめる者は、しばらく現れないだろう。
「……私の部屋が、燃えてる」
「ああ。花嫁は、あの火事で死んだ。そういうことにしておく。追手をまくには、ちょうどいい」
エレノアは燃える離れを振り返った。
それから、俺の胸へ顔を埋める。
「さようなら、エレノア・フォン・ルクレール」
かつての自分を、炎の中へ置いていくように。
俺は夜の闇を駆けた。
腕の中の温もりだけを、確かに抱えて。
◇
――同じ頃、ゴードン伯爵の居城。
「離れが火事だと!? エレノアはどうした!」
寝間着姿のゴードン伯爵が、廊下で怒鳴り散らしていた。
「まだ離れの中かと。懸命に消火しておりますが、なにぶん火の回りが早く……おそらくは、エレノア様ご自身が火を放たれたものかと」
側近の家令が、額の汗を拭いながら答えた。
伯爵は忌々しげに舌打ちする。
「あの馬鹿娘が。せめて式が済んでから死ねばいいものを。……公爵には、なんと言えばいい。花嫁が式の前夜に焼け死んだなどと」
「――代理を立ててしまわれてはいかがです」
家令が声を潜めた。
「花嫁の顔は、式の間じゅうヴェールで隠しておけばよろしい。適当な娘を座らせ、式だけ済ませる。その後、あらためて火事で亡くなったことにしてしまえば、公爵との話は成った形になります」
「立て続けに、火事を起こすのか」
「1度目が放火なら、2度目も放火でなくては、同じ下手人の仕業には見えませぬ」
家令は淡々と続けた。
「犯人は、その辺りの罪人を下手人に仕立てればよろしい。式の後は初夜でございます。そこを狙われた。ですが伯爵様は、公爵との話し合いが長引き、屋敷へ戻るのが遅れておられた」
恭しく頭を下げる。
「ゆえに花嫁だけが逃げ遅れ、亡くなる。筋は通ります」
伯爵は顎を撫でながら、下品な笑みを浮かべた。
「ふむ……体裁は繕えるな。まったく、小娘1人のせいで余計な出費だ」
燃え上がる離れを窓越しに眺め、鼻を鳴らす。
「だが、出世祝いに屋敷を新調できると思えば悪くない。今度は、俺好みに作り替えてやろう」
「大きな寝台の部屋が要りましょうな」
「女を飼っておける部屋もな」
「では、設計しておきます」
「仔細は任せた。後で確認させろ」
「御意」
燃え落ちる離れの炎を眺めながら、2人は満足げに頷き合った。
――花嫁が、とうに城の外へ攫われていることなど、露ほども知らずに。




