反撃の太陽神
テラスから託されたアマテスの容体を見ているが、どう見てもおかしい。血だらけなのに、傷は少ししかついていない。
血の量に対して、傷が見合っていないぜ。
「……大丈夫ですよね?」
「あぁ。ちょっとしか話してないけど、この子はテラスが想像しているよりきっと強い子だぜ‼︎」
強い子云々を置いといても、良い子なのはよく分かっている。だけど……絶対普通の子ではないんだぜ。
監禁されていた事以上に、どこか危うさを覚えるし、明らかにこの村の暗部に直結しているはずだぜ。
おっと、結界らしき何かの外に出れたぜ。
「えっと、てっささん……? この、アンテナ? みたいなのは、何をしておられるんですか?」
「ん? ああ、これかだぜ? これは、とりあえず今の現状を報告して月面帝国に協力を要請しているんだぜ。きっとこの村は、俺の想定よりやばいっぽいからだぜ」
だけど、それも一筋縄ではいかないぜ。月面特殊部隊エイアは、暇なときは退屈なくらい暇なのに、忙しくしてる時はめちゃくちゃ忙しい。
最近は物騒な案件が多いし、後者の可能性が高い。
「とりあえず、作戦会議を始めようぜ‼︎」
作戦会議か……まあ、確かに重要かもしれない。だけど、てっささんがどう思ってるかは分からないけど、目標は結構シンプルな気がするな。
「とりあえず、村長が色々と知っているみたいだから全身全霊でぶっ飛ばす。それで黒幕がいたら黒幕の情報を聞き出して、村長が黒幕だったらそのまま終わり……みたいな感じですかね、てっささん?」
「……そうなんだぜ。俺達が得られる情報にも限りがあるだろうから、やっぱりシンプルにそれが一番だろうけど、あのお面の集団とか多分村の人だろ? それはどうするんだぜ?」
「出来れば、みんな生きて終えたい。でも、もしアマちゃんを壊すんだったら……」
自分には優先順位がある。一番にもちろんアマちゃんがいて、二番目に子供グループのみんな。三番目がてっささんで、四番目が村のみんな、最後が自分だ。
多分、この順位が揺らぐ事はないだろう。
「ま、とりあえず了解だぜ。にしても、大切なモノの騎士に成ったって事か。良いな‼︎ 愛と忠義の戦士って!」
「ちょ……それが二つ名ですか⁉︎」
愛と忠義の戦士か……なんか、合ってるわけだし悪くはないんだけど、こう、ちょっと、その二つ名はやめてほしい気がする。
そもそも二つ名以前に、ちゃんとした名前をあの神装した姿に名付けられてないんだから。
よくよく考えると、ジャンズマグナムみたいな変わった後の姿の名前って、実質的な二つ名なのだろうか。
じゃあ、まさか三つ名になるのかな?
「だって、ちょっと羨ましいくらいなんだぜ? ちゃんと守りたい大切なモノがあるのって」
「え、てっささんにはないんですか? こんな、命懸けの仕事に就いているのに? 本当なんですか?」
てっきり、「月面にいる人達みんな救いたいぜ‼︎」とか、「生きている人達、みんな大切だぜ‼︎」とかそんな感じの事を言うのと思ってた。
守りたい大切なモノがないのに、どうしてここまで自分の命を懸けられるのか……モチベーションはどこから?
「モチベーションはどこから来るかって? もちろん俺は鼻から……とか言いたいところだけど、俺は孤児で軍人に育てられてたから、あんまり選べる道なかったんだぜ」
軍人として、人や怪物と戦う術しか教えられなかった。それで、どうやってここまで好青年になれるのか。
例え、広い広い銀河の中へ行けたとしても、自由を持てない者は持てない。その真実が、僕の心の中に深く深く突き刺さった。
「自由は、欲しくなかったんですか?」
「逆に……自由って、なんで必要か分かってるんだぜ?」
何も、返事できなかった。
分かってるつもりだった。分かってるから、自由な宇宙へと行きたいのだと思っていた。なんで、僕は月に行ってみたいと思ったの?
「自由が必要な理由は、そっちの方が幸せになれるからだぜ。逆に言えば、不自由でも幸せなら万事OKだぜ‼︎」
「……じゃあ、僕はどうして月へ行きたかったんだろ。こんな事になるんだったら、僕は——」
思い出すのは、僕を運んでいた時の父の声。あれは、今思い出すと「自由になれ」という言葉だった。
父さんは、僕が常日頃「月に行きたい」と言っていたのを知っている。父さんは、色々と気づいていてそれだから処刑もされた……って感じだと思う。
もしも……もしも、僕がこんな夢を持たないで普通に生きていれば、この村の闇も何も見ずに幸せに生きていたんじゃないかって、どうしても思ってしまう。
「それは……ダメなんだぜ」
「……? なんでですか? というか、そんなに僕の考えてる事って分かりやすいんですか? 僕、一切何も口に出してませんよね」
「見てれば、どんな事考えてるかくらい薄々分かるぜ。さっきも似た事言ったが、夢と自由は生きる原動力だ。それが無かったら、そもそもこうやって俺と話せてないかもだぜ?」
「確かに、そうかもですけど……‼︎」
「それに、過去ばっかり見てるとあんま楽しくないぜ? もうここまで来たら、アマちゃんと一緒に月に行くために頑張るんだ〜‼︎ みたいに考えたらどうだぜ?」
確かに……夢も、希望も、アマちゃんに捧げれば良い。
自分はアマちゃんの騎士になったんだから。自分の幸福も、願いも、その全てを彼女に捧げたい。今はきっとそれが、一番幸せだから。
「決意は固まったぜ?」
「うん。今はアマちゃんの為に全てを投げ出す。自分の幸福や自由は、後で考える事にするよ」
「ま、急ぎすぎても仕方ないしな。とりあえず、ここに食料埋めてあるから、掘り出して食べて……とにかく寝ようぜ。決戦は明日って事で」
「……そうですね。そうしましょう」
てっささんは埋めてあった諸々を使って火を起こし、その上で何かを温め始めた。黄色く、細長い物体。多分食料なんだろうけど、正体が分からない。
「ん、これか? これはな……フライドポテトって言うんだぜ‼︎ 普通は揚げるんだけど、これは既に完成してる冷凍食品ってやつだから」
あげる……上げる、挙げる? 何かしら調理する系の概念なんだろうけど、皆目見当がつかない。
不思議に思っていると、突然てっささんが僕の口の中にその黄色い……フライドポテトなる物を突っ込んできた。
「え、あ、あつ……けど、美味しい‼︎」
「それならベリベリグッドネスベターベストなんだぜ‼︎ どの星でも人気な食べ物だったからあんまり心配してなかったけど、口に合うなら嬉しい限りなんだぜ‼︎」
味わった事のない感覚だ。こ、こんな……こんな極上の美味しさがこの宇宙にはある。そう考えると、確かにこの村はとても狭いなぁと感じる。
その日は、ずっとてっささんに色々な食べ物を食べさせてもらった。
目が覚め、周りを見渡しても何処にも何もない。目線を下にやると、まだテラスは寝ている最中だった。
「良い寝顔だ。子供の寝顔は、少し可愛さを覚える……ぜ」
かつて、孤児になった日。友も、家族も、その他全てを失い、孤独となった日。
あの時あの瞬間、間違いなく⬛︎⬛︎の人生は終わったんだ。そこから今まで、この体と精神は月面の平和の為に捧げてきた。
だから、大切なモノを守ろうとただひたすら頑張っているテラスが眩しく思えるのだろう。
「そもそもなぁ、このてっさって名前よ。カリバー隊長がたまたまその時フグの養殖に協力してたからってさぁ」
最近は気に入ってきたけど、普通ふぐの刺身の名前じゃ中々気に入れないはず……というか、カリバー隊長のネーミングセンスは絶望的なんだぜ。
「テラス。どういう意味かは知らないけど、俺なんかよりかはとっても愛されてる名前に感じるぜ」
そこの実がどうなのか分からないが、何故か神のようなものに愛されているように思える。
アマテス……テラス……思い当たるのは、アマテラス。天照大神と呼ばれる日本神話に在る神。この村は、かつて日本と呼ばれた地にある。
その神から名付けたと考えたら、初めから二人で一つとして完成される構造だ。
「何かしら、仕組まれてる気がするが……まあ、どっちみち本人の決意は本人のモノなんだ。そういう方面の事は、あんまり気にしない方がいいんだぜ」
「ん……何か、言いましたか?」
あ、テラスが起きちゃったんだぜ。
「いいや、なんでもないんだぜ?」
てっささんに朝飯を食べさせてもらい、寝ているアマちゃんをその辺にあった台車に乗せて運んだ。森を抜け、村に着いたが……村の人はどこにもいない。
もう少し探すと、灯りがついている場所を見つけた。さっき、父さんが死んでいた場所だ。
「力押し、パワーは力であるが、力はパワーではない。概して、無慈悲……悪逆……神託の前では天地も許容す。故にと、もはや王手は打たれた」
「「お前……‼︎」」
池の周りには、十字架のような物にボロボロになった子供達が吊るされていた。周りにいる大人たちは、全員仮面をつけている。
やっぱり最初から、村ぐるみで何かやっていたんだ。
「武器を下せ、たくさんの命を失いたくなければな」
僕もてっささんも、大人しく武器を下ろす。
後ろから仮面の大人達が僕達を十字架に拘束すると、何かするわけでもなく離れていった。
「神託児は、ど〜こ〜だ〜?」
「神託児?」
「貴様が、アマちゃんとかいう愛称つけて呼んでる者だ。その名の通り、神を託される児だ」
このまま、村長達にアマちゃんを渡すのはダメな気がする。だけど、ここのすぐ近くまで台車で運んでしまっている。連れてかれるのも、時間の問題か。
「私が目的?」
「アマちゃん⁉︎」
じ、時間以前の問題だったぁ⁉︎
「ごめんね、テラス君。だけど、村長の狙いは私だから。私さえそっちに行けば、やり方によっては二人を助けられる。神託児の、私なら」
アマちゃんは、躊躇いながらも村長のいる方へと進んでいく。
このままじゃだめだ。でも、ここからどうすればいい? やっと、決心できたのに。それが……こんな、こんなところで終わる?
それは、あっちゃいけないんだよ⁉︎
既に戦う武器がない以上、戦う方法なんてもう何も無い。後悔しても遅いなら、僕が此処に在る意味はなんだったのだろうか。
「さぁ……神託を始めなさい」
池の中心、神聖という言葉が似合うほど美しい御水の中でアマちゃんは何かを受け取っていた。
物理的なものじゃない……もっと神々しく、同時にもっと禍々しいように見えるもの。まさか、ここまで摩訶不思議なものだとは考えていなかった。
神秘的……これを人は、神と呼んだのだろう。
真に、神と呼べる存在かは関係がない。だけど、神と呼べるほどの御業を成したナニカを神と呼んだ。
「人は例え、それがただの現象だとしてもそれを神と呼んじまうんだぜ。神はいないとか、信じても救われないとか言うつもりはないけど……なんというか、哀れだぜ」
「そうだよ。あれを神と崇めているのは、愚かでしかない」
僕達がここまで断言する理由。それは、既にこの村の真実を朝飯中に教えてもらっていたから。
てっささんの相棒——うぐいすさんに。
やっとうぐいすさんに話が回って来ましたね。




