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英雄達の忘備録  作者: 雪下ソユキ
Record1:狭間に生きる者達へ
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いつか見た夢の始まり

これでRecord1は終わりです。

「貴方がいたから、私はこれまで頑張ってこれた。私はかつて貴方のお父様に仕えていたのに、結局あの人は私に本名すら教えてくれなかった。だから、どこまでも私を見てくれる貴方がとても大切だった‼︎」


「どうしてそこまで人を……いや、他者を憎む? その言い草だと初めからか? 俺以外の他人には、あまり興味がないように見える」


「そうだ。私は他者が嫌いだ‼︎ だから他者が存在しない世界を作る。それが……‼︎」


「まさか、お前の目的は世界征服でもない……⁉︎」


「そう。人類全ての抹殺だ」


 肉体が変化した俺は、トルギスと殴り合いを続けていた。戦った事なんてなかったが、流石首領の息子というだけはある。俺はトルギスと互角だった。


「貴方は知らないと思いますけど、貴方の親友の幸多さん。その父を殺したのは、私なんですよ?」


「なに⁉︎」


 その隙を狙ったかは分からないが、俺が動揺した隙をついてトルギスは強力な一撃を与えた。痛い。


「全ての始まりは三十年前。今の貴方と同じくらいの時に遡ります」


「お前……結構歳いってるんだな」


「かつて……」


「あ、スルーするんか」


 俺の年齢から考えるに、四十代後半? アラフォーで白髪赤眼のイケメンってどうかしてるな。


 過多やろ過多。


「私は元々ハーフで、片方は日本人でもう片方はその時戦争を起こしている国だった。何度も陰湿ないじめを受け、怪人の姿がバレたら命を奪うレベルまで達しました。それで人に絶望している時……あの人と出会った」


「《ヴィツィオ》のボス……俺の父親か」


「そう。その時はまだ怪人の存在が世間では知られてきたばかりの頃。あの方ははぐれ者になった私たちを、差別などせずまとめてくれた」


 それは、違うだろう。

 口にはしなかったが、俺はそう感じていた。トルギスの異常な執着が、それを証明してる。


 それに、《ヴィツィオ》という組織の雰囲気は、子供の俺でも分かるほど異質だった。


「それは詭弁だ。お前も俺と同じなんだ。何かを言い訳にして逃げ、その罪悪感を更に別の理由をくっつけて認識しようとしていないだけだ‼︎」


「そうです‼︎ 私は、言い訳をせずに全てを耐え切れるほど高潔な存在ではないんですよ‼︎」


「誰だってそうさ。だけどいつまでも逃げていられるほど、この世界は簡単に出来ていないぞ」


 今さっき学んできた事だ。

 逃げないのは難しいが、それでもいつかは向き合わなければならない時が来る。


「怪人の力さえあれば、本来であればそんな事気にせずとも自由に生きれた。それが、どうだ? 人間が勝手に世界に不自由を敷き、押し付けたんです‼︎」


「人の言う不自由とは、自由よりも大切なものを得る為のちっぽけな代償だ。人はお前が思うほど、落ちぶれてなどいない‼︎」


 肉弾戦は完全に互角。だが厄介なのは奴の吸血鬼としての能力で、恐らく対象にした者から確定で出血をさせる事が可能らしい。

 怪人の俺への効力は薄いが、流石に持久戦は無理だろう。


「何故……何故、人間を信じるんです⁉︎ 人は、いつも根本に差別偏見を抱え、いつも攻撃する事しか頭にない‼︎」


「怪人だって同じだろう‼︎」


「違う‼︎ 怪人の本質は、生物の殺気や悪意を感じ取る事だ。ハーフの場合は、人間のくだらない感情と混ざってしまうが、本質はそっちだ‼︎」


「人は悪か? 違うだろう‼︎」


「人間は悪です。悪でしかありません‼︎」


 めちゃくちゃ口論して少しヒーローらしくないかもしれないけど……まあ父さんはもっと酷かったらしいからいっか‼︎


 そうやって考えると、つまり生みの親と育ての親が壮絶な口論してた可能性あるのか。

 見たいような見たくないような……絶妙な気分。


「確かに悪い人だって沢山いる。だが、俺は人間に紛れて生きた中で沢山見た。簡単に切り捨てられるほど、愚かでもないはずだ‼︎」


 そう。俺は柚子と幸多、それから多くのヒーローやそれを手伝う人を見てきた。


 確かに、幸多も言ってようにどれだけ押し殺そうと心のどこかではまだ差別や偏見が残ってる。だけどそれでも変えようと立ち上がる人がいる。


 俺は、そういう人達を信じたい。


「私は……信じたくない。私がいた場所はいつも、相手が人間じゃないと分かったら平気で人の形をしたものを燃やしてくるような奴だ。貴方は受けた方があるか? 冬の凍え死ぬほどの寒さの川に息もできない状態で落とされ、それに生き残ったら今度は縛られて色んな道具で痛みを与えられ、それにも耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて……いつまでも耐え続けて」


 俺には何も言い返せなかった。


 俺は所詮、人に恵まれただけで、人の形をした人外への反応なんて、こんなもんだ。こんなもん。世界にはそういう側面がある事も、事実なのは分かってる。


 それでも、俺は進み続ける。


「羨ましかったんですよ? 私は。貴方を監視し続けて、貴方があの二人と仲良くしていると心が苦しくなったし、誰も友達がいなかった私がバカらしくなった」


 トルギスは殴り合いから、空中から攻撃からの即空中へ逃げる戦法にシフトしていた。


 このままじゃ不利か……?


「ぐあぁっ、まさか‼︎」


「行って‼︎ ヒーロー‼︎」


 俺達が互いに全力集中し続けている隙に、ミナスさんがトルギスに攻撃を当ててくれた。


「ヒーローといえば、必殺技だろう?」


 俺は高く跳躍し、落下の勢いでキックする。


「明日への一撃(ファイナルブレーカー)‼︎」


 俺の必殺技と、トルギスの拳が火花をあげながら激しくぶつかりあっていた。


 この一撃で、勝負が決まる。


「自己と違うモノを恐れ、除災する事しか知らない人類の未来があって……どうして私達らには未来が無いのですか⁉︎ どうしてヒーローは、それでも守るのですか⁉︎」


「大衆全てを守るなんて、そんな高潔で傲慢な事は誰も自分からやりたいなんて望まないよ」


「なら、何故⁉︎」


「ヒーローというのは、大切なモノを守る存在だ。ただただ大切なモノを守る為に、世界を少し良くする。だけどその積み重ねで生まれた温かみを、また次の世代に託していってるだけ」


 誰かを助けて、助けられる。そんな救済の輪なんて、世界のどこにでもあるありふれた美談だ。


 役職としてのヒーローじゃない。多分それは、もっと温かいモノを生み出す者。それがヒーローで、誰かを助けた人は誰でもヒーローだ。


「綺麗なモノですね、貴方は……」


 納得、したのだろうか。

 拮抗が崩れ、トルギスは地面に叩きつけられた。それでも生きているのを確認した俺は、トルギスに手を差し伸べた。


「……何故?」


「俺はさ、幸多や柚子がいるけどそれはそれとして友達あんまり多くないからさ……」


 トルギスは左手で顔を隠してよく見えなかったが、間から少しの水滴が見えた。


「……友達になろうよ。トルギス」


「そうか。私はずっと、友達が欲しかったのか。私からもよろしくお願いしたいです……来世でも、覚えておきたいくらいだ」


「え?」


 よく見たら、トルギスの体が徐々に崩れ始めていた。それは俺からのダメージからというより、また別の何かがトルギスの体を蝕んでるように見えた。


「貴方が悲しまないでくださいよ。これは元々、あの方との約束なんですから」


「……約束?」


「そう。あの方の子孫を酷く傷つけたら、その時は命で支払ってもらうっていう約束……というか、契約ですね」


 なんで、やっとこれからもっと分かり合えると思っていたのに。これから、やっと全てをやり直せるタイミングだったのに。


「……貴方が悲しまないでください。私は、いつか見た夢が叶って本当に嬉しかったんです。だから、私の中だけでもハッピーエンドで終わらさせてください」


 なんとか、なんとか泣き止もうとしたけど、涙はポロポロと溢れ落ちていく。


「……さようなら。来さん」


 トルギスは、完全に灰となって消えた。





「変わったけど、変わらないな……お前」


 幸多が近くで待っていた。幸多は少し遠くで見ていたのか、双眼鏡を持っていた。


「ごめん。何度でも言うけど、信じてやれなかったこと、後悔してる。多分、一生後悔し続ける」


「謝るなよ。ちゃんと見ててくれたんだろ? お前と、柚子がいたから変われた。俺にとってのヒーローは、父さんと……お前らだよ」


 二人で抱擁して、泣けるだけ泣き合った。




「大変申し訳ございませんでした……」


 ミナスさんに案内され、俺は柚子の病室に辿り着いた。

 深く頭を下げ、今までの経緯を全て説明した。柚子は何も言わず、じっくりと聞いてくれた。


「う〜ん。まあ、私から言う事は特に無いよ? 追い詰めちゃったのはこっちだし」


「え? は? え?」


 想像の225°上の返答が返ってきた。

 許されない事をしたと思ってたし、それ以上にあまりにも軽すぎる。反応が。


「そういえば、来に対して色々と言ってたが、お前あんなに推理力高かったっけ」


「ふふん……実はねぇ、私はあのムーン・ミナスの妹なんだよ‼︎」


「「え? はあああああああああああ⁉︎」」


 柚子はミナスさんの腕を掴んで、頬をすりすりしていた。していた……うん。していた。ああ、ええ〜、う〜んとこ、え。


 脳みそが空処されそうだ。


「昔はね〜姉妹二人と幸多と来で遊んだこともあったけど、流石に覚えてないか〜」


 そうだった。あの夢に出てきた少女二人は、柚子とミナスさんだったのか。マジかぁ。


「とりあえずこの子はこのムーン・ミナスが責任持って預かるから、これからよろしくね? 来くん」


「あ、よろしくお願いします」





 数ヶ月後。


「あ……あ、千葉の銚子辺りに怪人出現。私単独じゃ厳しいから。来てよ、私達のヒーロー」


「了解。いつでもお前達のヒーローでいるさ」


「もう慣れた? ヒーローの生き方は」


「まだだな。でも、せっかくずっと焦がれてたものに手が届いたんだ。頑張るよ……俺」


 俺達は日常に戻り、変わらない……いや、少しだけ変わった日々を謳歌していた。

 それで最近は、ミナスさんの手伝いをしている。


 トルギスを倒した事で組織再結成は阻止されたが、まだ怪人は暴れている。


「さあ行くか……変身‼︎」



 Even when the story ends, life goes on.

焦がれ狭間に生きていた少年が、ヒーローになるまでの物語でした……と言う割には、トルギスがなんか大暴れしてましたね。

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