集う思いはクワイア
突然、ゼルとの戦いが始まった。
ゼルと一緒にいた明らかに怪しい男。大方、エンドとフィシュの仲間か……それとも、第三勢力か。
前者であればシンプルで分かりやすそうだが……ま、わざわざゼル単体に接触してきたところを見るに、後者で間違いないだろう。
さっき聞こえた……なんだっけ。《ティンプルノイザ》ってのが、そのまま素直に組織名だとすると……やはり第三勢力だろう。
「お前の薄気味悪さが、やっと暴けてきたな」
「薄気味悪さ?」
「そうだ。ゼル……お前には、二つの光が交わっている。永遠と、正義の味方。その二つは、近しけれど決して相容れない」
ゼルは、一応軍人経験はない……それは、ルフランの華麗な動きに魅入られた俺が直接聞いたから、嘘をつかれてない限りは間違いないだろう。
嘘をつかれてたら? うん……そん時はそん時。
「永遠がお嫌いで?」
「どうだろうな。必要が必要な盤面なら、いくらでも手に入れる為に奮闘すると思うが」
「つまり、あまりお好きではないと。自分には理解がしづらい感情ですね。幸せは長く続いて欲しい……その想いの果てが、永遠というものです」
口には出してやらないけど、分かるさ。
そう言う感情もあったと、俺の脳天中に染みつき残った記憶が答えてる。
「貴方は……自分を否定したいのですか?」
「ちょっと気に食わないんだよ、お前。熱い魂が心の根っこにあるのに……それを、お前は木漏れ日程度しか出してない」
いや、正確には出しているのだろう。
特にルフランに乗って戦っている時は、俺には聞こえてないだけでかなり出してるらしい。
それに……内容は教えてくれなかったが、クリルラ博士に自分の過去を教えたこともあるらしい。
「永遠を求めるのは構わない……ってわけでもないか。でもちゃんと、理由全部俺に吐き出してみろよ‼︎」
ビルの中に入り戦うが、やはり手加減されてるな。使い慣れない銃一つじゃ、それよりも武器種が豊富で戦い慣れてる奴じゃ、そもそも本来は戦いにすらなんないか。
そもそも見切り発車で始めたせいで、いつ止めるかどうやって止めるか分からない。
ゼルの考え的には恐らく、良いところで俺を倒して〜とか思っているんだろうが、正直俺は潜入には懐疑的だ。
こういう潜入の定番の仲間を殺せ、とかはまだいい。どちらかというと、ゼル本人の無事が心配だ。あいつら、ほぼ実質人外集団だからな。
《ティンプルノイザ》ってのの正体が何かは分からないんだが、まあなんであれこんな世界で俺らと敵対するのはどうせ碌な奴らじゃない。
「……それで、自分が本当に喋るとお思いで?」
「さあ? でも多分俺はその為に今、戦ってる。少しでも俺の思いを分かって欲しいから、ぶつけるんだよ‼︎」
その瞬間、油断していたゼルに拳の一撃が入った。
当たると分かってたわけじゃない。本気を出されていた場合であれば奇跡に等しくあったが、どうせ油断していただけだろう。
「ゼルは、普通の人生を歩んだ。親は方言がキツく、小中のサッカー部時代はとても楽しかった。高校はバレーボール部だったか。仲間と楽しくやれてたよ」
「今のお前とは似ても似つかないな……幸せな記憶だな」
薄気味悪さともまた違う。
ゼルの顔は、どこか寂しそうだった。郷愁ともまた違う、どこか……空想や妄想を尊ぶような瞳だった。
可能性が、過る。
「まさか、偽りなのか?」
俺も、今の世界を受け入れられるまで時間はかかった。そもそもリーリがいたから、というのもある。夢と現実の乖離というものは、いつだって人を惑わし苦しめるから。
ゼルは、ゆっくりと頷く。
肯定。それを表していた。
その先を聞いていいのかと、今更な事を考え始める。もはや、ここまで来て言わせたくないと口を閉ざさせるわけにもいかないだろう。
そうしてゼルは再び、言葉を紡ぎ始めた。
「幸せな記憶。幸福な世界……そんなのは、どこにもなかった。俺がかかっていたそれは、ある種の催眠に近いものだった」
それは、一つの白昼夢だった。
自分が覚えてる最初の呼び名は、被験体番号184。子供を拐かして、人体実験を行なっていた犯罪組織。そしてその子供の中の、一人。
いつも感じていた幸せな感覚は、常日頃投入されていた薬物によるもの。
その犯罪組織は結局すぐ瓦解したが、一部の子供たちは残党によって連れ出され、犯罪組織の兵として売り捌かれた。その間もずっと、薬物は投入され続けた。
「薬物を投入され続けると、普通は人って使い物にならなくなるんじゃないか?」
「……天才が、いたんですよ。まあ……犯罪の、ですけどね。そいつが、人を兵にする完璧な調合を発明したらしいと後々に別で生き残った被験者に聞きました」
「その才能を、もっと世界に活かしてほしかったな。全く」
そして使い潰され続けて数年。
とある探偵によって救われた事によって、まだまだ子供な自分は入院する事となった。
「お前には、これから二つの道がある」
回復してもう退院が可能となった頃、面倒を見てくれた探偵がそうやって聞いてきた。
「一つ。今のお前は中学生程度の年齢だろうから、とりあえず孤児院に入る。俺の家はなしだ」
その人が言うには、自分は真面目な探偵ではないからやめた方がいい……だそうだ。
「二つ。知り合いの探偵に引き取ってもらう。ちゃんとした事務所だし、最近お前より少し大きい程度の奴が、若き天才探偵として活躍してる」
「天才……探偵?」
「そう。晴山涼って言うんだが、多分仲良くやれそうだからな」
「どうして、その二択?」
「お前が、何かを為したい顔をしている……まあ、いつか俺を支えてくれたらありがたいな〜みたいな打算も込みではあるな」
「二つ目で」
「……決まりだな」
ゼルはゼルを救ってくれたあの探偵の支えとなる為、別の探偵事務所に引き取られた。
「晴山涼だ。お前の、名前は?」
「……ゼル。ゼルは、ゼルです」
誰かがかつて、自分をそう呼んだ。それがずっと耳に残り続け、今に至る。名前の決め方なんて、その程度で十分だった。
「そうか。じゃあこれから、よろしく頼む」
それから成長を続け……もう、これからは自分も記憶が危うくなってるな。
「……何か?」
「いや、想像の三倍くらいの密度だったから」
覚えてないらしい直近の記憶まで考えても、かなりの苦労をして生きてきた事がよくわかる。
俺なんかより、ずっと辛い世界で生きてる。
「記憶はなくても、この手には大勢の命を奪った感触が残ってる。奪ってしまった命の分、大勢の人の命を救いたいという願いを抱いた」
「だから……」
「そう。だから……永遠が、欲しい」
俺の思っていたより、高潔な男だったらしい。
そりゃあ、薄気味悪いわけだ。人として、正義を為す者として、完成されている……のに、碌でもない生まれと育ちが原因でどこか人として乖離してる。
「お前は……」
言葉が上手く出ない。
これは、俺が認めたくなかったのかもしれない。こんな人間は存在しないって、否定したかったのかもしれない。
「なんで、事情を言わなかったんだ?」
「分かってました。自分でも……変な一人称だったり、自称医大生なのに妙に実戦慣れしてたり、まあその他含めた今までの行動は、気味が悪い自覚はあります」
「じゃあ、なんでなんだ……?」
ゼルは、息を大きく吸った。
「この魂が、お前を敵だって言ってるんだよ‼︎」
本音、なんだろう。冗談でこんな事言うわけない。
「俺が……敵?」
「貴方はゼルの事を知らないでしょうが……水田愛音‼︎ 本当にお前は、人類の味方だったのか?」
俺が聞きたい。無責任だが、実際そう思っていた。
俺はなんなのか。そもそも、どうしてグラシャライに選ばれたのか。
俺は一体、誰なんだ?
「信じてくれなくても良い。そもそも俺も、自己の善性なんて信じてない。だけどな……例え過去に悪を為したとしても、今の俺を信じてくれ」
俺はお前に、何回も助けられた。信じられない気持ちをなんとか割り切って、俺に協力してくれたのだろう。
「俺が何かをやらかしたら、お前の手で殺してくれたっていい。その為の用意は、既にしてある」
「……それは、チョーカーですか?」
「そ。チョーカー型爆弾……ここに来る前に、博士に作ってもらったもの。遠隔操作型だから、いつでもどこでも爆発が可能となっております」
「悪質なテレビショッピングか?」
「とりあえず、これ……やるよ」
投げ渡す。まあボタン自体は、ちゃんと乱雑に扱っても大丈夫なよう設計されてるから……いや、やっぱ命に関わるものの扱い方じゃないな。反省しよう。
「数は?」
「一個。それだけだ」
二、三個作ろうかと思ったが……正直、作って誰に渡すかを全く考えてなかったのでやめにした。
「……なぜ?」
「正直、言われる前からずっと思ってたんだよ。俺は一体誰であり、どうしてこんな人生を歩んでいるのかってな」
「どうして、このタイミングで?」
「そうだな。姫花は、どうやら昔の俺と会ったことがあるらしい。そしてどうやら、俺が何かやった。それも、やらかした側みたいだ。何をやったかは、分かんないけどな」
懸念があった。
終わりの地の惨状を生み出したのは、もしかしたら俺なのかもしれないって。
それであれば、最初に目覚めた事も。夢の中でエンドが接触してきて、意味深な問いかけをしたのも。エイジーが俺をあまり快く思ってないのも、分かる気がするから。
「昔の俺がどうだったかは知らないが、少なくとも今は守るべき者の為に戦ってるつもりだ……足りないか?」
これを誠意と呼んでいいか怪しいが、やれる事はやったつもりだ。あとは、俺は頼み込むしかない。
「……分かりました。今のあなたを信じることにします」
「ありがとう。ゼル」
「お〜やおやおやおやおや。どうなってるかと楽しみにしてたのに……結局、仲直りしたんですね」
「……色々と、忘れてましたね」
そうだった。元々は、ゼルの潜入の為の戦いだったっけか。姫花から逃げてきたのか、服はかなりボロボロだった。余裕そうに登場したから、少し意外だった。
「ごめん。なるべくこいつ……アラベスクって名前だったっけ? なるべく倒そうとしてたけど、途中で勝てないと判断した途端逃げ出したんだよね」
即時撤退をちゃんとするのは厄介そうだが……いや、普通は合理的な判断を選ぶに決まってるか。
「仕方ありませんね。滅ぼしてあげましょう‼︎」
そう言い残し、アラベスクは消えた。
「転移か。よく悪役が逃げる時に使う技だな」
そこから数秒、世界が轟いた。
慌てて今いたビルの屋上へと駆け上がると、少し遠くで巨大な怪獣が鎮座していた。
「今までとは、雰囲気が全く違うな」
四足歩行で巨大なのは結構な頻度でそうだからあまり変わらないが……威風堂々、圧と呼べるものだろうか。
「行こう。ゼル‼︎」
「もちろんです‼︎」
俺は時計からグラシャライを呼び出し、そういう機能のものがないゼルは姫花に連れられて飛んで行った。
「グラシャライ……発進‼︎」
「ルフラン……出る‼︎」
同時に怪獣へと接近し、これまた同時に一撃を叩き込む。が、同時に怪獣も謎の衝撃波を発動して俺たちを吹き飛ばす。
いや、それでも一撃は当たったはずだ。
「硬い。怪獣といえども、基本は生物に近しいはず。だがこの感触は、まさに金属と言ってもいい」
「とにかく、攻撃力が足りてないのか」
「……星?」
衝撃波と思われていたものは、そのまま俺たちの周りに結界を展開。それはまるで、プラネタリウムのような、星々を映し出すものだった。
そしてそこから、流星がこちらへと……それも大量に突撃してきた。
「まじかよ。そんなんありかよ⁉︎」
回避したつもりでも、その流星は逃げ道を塞いでいた。どれだけ回避しようとも、隙間なんてない。俺とエイジーに出来たのは、ダメージを最小限に抑える事だけだった。
それに対してルフランは、自慢の空中機動力でほとんどを回避していた。
「ゼル。流石だな」
「そちらこそ。最初の頃より全然強いですよ」
あの流れ星は、本物ほどの大きさもないのに恐らくは本物と同程度の威力を誇っていると思われる。
「これが最強の怪獣……大銀河怪獣ギャッシャスです‼︎」
少し遠くから、アラベスクの声が聞こえた。そう思っていたら、よくよく見たらギャッシャスというらしい怪獣の肩の上に乗っていた。
「《ティンプルノイザ》が巨人の集まりだからと言って、怪獣が弱いわけではありません。むしろ、凝ってる分めちゃ強ですよ?」
「だからと言ってこれは、ヤバすぎるだろうが‼︎」
アラベスクと怪獣に警戒していたせいで、他の流星より巨大な太陽らしき星の接近に気づかなかった。
「絶対回避だ。グラシャライだろうと太陽の熱に当たれば全て焼却されてしまう‼︎」
エイジーが叫び、警告音も激しく鳴り響いていた。
勢いよく操縦桿を動かして、無茶な動きをする。かなりの負荷を耐えてもらってるが、なんとか耐えてくれ……ここで倒れるわけにはいかないんだ。
「止まれ愛音。それは罠だ‼︎」
ゼルの警告も遅く、太陽を回避した先には今度はブラックホールのようなものが迫っていた。
ルフランに遠距離はない上に、俺もこの勢いだとどうやっても避けられない事は明白だ。
詰み。その言葉が、頭の中に浮かんできていた。
「ダクディーバガン‼︎」
ブラックホールはグラシャライと激突する前に消滅し、そのまま飛来したダクディーバに連れられて結界の外へと脱出する。
ルフランもその後追いだが、なんとか脱出した。
「大丈夫? 二人とも」
「感謝するよフィシュ……なるほど。《ティンプルノイザ》というのはどうやら、俺達の共通の敵ってわけか」
「あんな事言ってたけど、あの怪獣は私たちの切り札。私たちの製法で到達しうる最高点だったんだけど、あのままあいつらに強奪されるなら倒そうかなって」
色々と経緯はありそうだが、ダクディーバが味方にいてくれるだけで今はとてもありがたい。
「とりあえず、一時休戦って事でどう?」
「了解です。あの《ティンプルノイザ》とかいう奴らに、一泡吹かせてやりましょう」
「さあ、三人で行こう‼︎」
あの怪獣は、今までにない強敵だろう。攻撃力も防御力もこれまでと比べてもトップレベルに高い。だけど、俺はそれでも恐れてなんていなかった。
俺達が本気を出せば、きっとなんとかなる。
愛音、ゼル、フィシュの三人は平時の時であれば全然仲良くやってると思いますね。




