日常はインテルメンツォ
珍しい日常回。
Iが旅立つ前日、新居が完成してやっとテント生活から抜け出せた俺、リーリ、アリアス、ルイスはどういう流れか一緒の家に住むことになった。
いや、どうして……?
「愛さん、ふっかふかだよふっかふか‼︎」
「ふっかふっか‼︎ ふっかふっか‼︎」
スカイツリーの周りには、少しの住宅街ができた。それで二人は、用意されたベッドに一目散に飛びついてこの様である。
リビングやキッチン、洗面所など少し懐かしい気もするけど現代の家って感じだ。
「すみませんねうちの姉さんが」
「気持ち自体は分かるし……まあ、喜んでもらった方がルガ三人衆や開発に携わった皆んなも喜ぶだろうし」
「そうですか。そういうものなんですか……」
アリアスと比べ、ルイスはそういうものへの興味がそこまでないのだろうか。
「せっかくだし、ルイスも飛びついてみたら?」
自分があんな状態になってからそれを言うとか、悪魔かなんかだろうと思う。
俺も興味がないわけではないが、夢の世界ではヒカレとよく一緒に寝てた。それを思い出すからか寂しいかのどっちか分からないけど、近づき難い。
「え? あっ、じゃあ姉さんが言うなら……」
ルイスがベッドに飛びつき、離れなくなった。堪能してくれるなら良かったが、ちょっとした地獄絵図だな。
女性メンツは広い三人部屋。誘われたからといって、そこに入った俺も悪かった。三人が布団に抱きついているのをずっと眺めてる……側から見れば滑稽かもな。
「これは……ダメですよ。私、このままじゃここから離れられなくなっちゃう。中毒……これが中毒……‼︎」
「やっぱあんたも堕ちるんかい」
ふわふわ布団の凄さは理解しているつもりだが、まさかここまで人をダメにするとは。
夜。
大量の保存された食料の中に、冷凍餃子があった。今頃別の家でも、餃子パーティーが開催されている頃だろう。
「ほらほら、どんどん食べてね?」
「あ、ありがとうございます」
餃子のタレも入っていたが、これを用意した者はかなりの餃子好きだったのだろうか。ラー油がないのだけは、ちょっっっっと解せないけど。
やっぱり、餃子はとても良い。箸が進む。
「愛兄さん。餃子を食べ進めるのもいいですが、ちゃんと野菜も食べてください。せっかく畑で取れたキャベツなんですから」
「そうだな。ありがたくもらうよ」
Iの件についてゼルと相談している間に、保存された種を育てる班が育てることに成功させ、水を浄化する班も成功させていた。
少し妙なくらいに、皆んな優秀だな。
最近の種は不思議なもので、植えたと思えばあっという間に育ってしまった。
俺はその辺よく知らないから、それが普通なのか異常なのかは分からないけど、とにかくありがたい。
「ルイスは本当、しっかり者だな」
「……私は? 私は、お姉さんなんですよ? なんか、言葉にちょっと含みってものを感じるんですが?」
意図してなかった……ってのは言い訳だろうか。
「姉さんは慌ただしいでしょ」
俺が返答に悩んでいると、ルイス本人から火種が飛んできた。
やばい。爆発確定演出かもしれない。
「あいおさん、あ〜んして‼︎」
「はいはいわかりました……やべぇ。この爆破寸前の空気の中で、リーリだけが尊むべき天使かも」
リーリは良い意味で変わらないから、いつも清涼剤となってくれる。
それに、リーリの応援は俺をいつも奮い立たせてくれている。今まで俺が戦ってこれたのは、リーリがいたからと言っても過言じゃない。
「というか、姉さん前は認めてたじゃん。私の方がお姉さん力が高いって……どうして急に手のひらくるっとしたの?」
「あの時はノリでそんな事口走っちゃったけど、よくよく考えたらルイスに負けるのちょっと癪‼︎」
俺が戦々恐々しているのは、どっちの味方にもなれないのが分かっているからである。
お姉さん力の高さであれば多分ルイスのような気もするが、別にアリアスにお姉さん力がないかと言われれば全然そんな事はない。
正直言って、どっちも未知数なのである……いや、興味ないの方が正しいかもしれない。
「というか、姉さんは危なっかしいんです。安心感なんてあったものじゃありませんよ」
「え、いや、そんな事は……というかそれって、母性の方なんじゃないの⁉︎」
確かに。言われてみればそんな気もするな。
「それに、愛兄さんと会った日だって……」
俺とリーリが出会って数日の頃。
ただひたすら歩いていて、髪もボサボサだった。そんなんだから、アリアスとルイスに話しかけてもすぐに逃げられるんだ……と、今では思う。
「ルイス‼︎ あれゾンビだよゾンビ‼︎」
「この子抱えてるとはいえ、女性二人に追いつけない俺の筋力って……」
「なんか言ってる⁉︎ なんか言ってるよ‼︎」
「いや、あれって……?」
「に〜げ〜る〜よ‼︎」
まあ逃げるのに必死だったのか、二人は逃げ場の少ないビルへと入っていく。お望み通り……ってわけでもなかっただろうが、追い詰めた。屋上に。
「ゾンビに追い詰められた……⁉︎」
「いやいや、アイムノットゾンビ。アイムヒューマン。髪ボサボサなだけで、ちゃんと生きてるから」
「ほらほら姉さん。死人みたいな顔してるだけで、多分生きてるから。姉さんが見てたゾンビ映画は、こんなに喋ったりするか?」
「喋ってたけど……あ、いや違くて。ごめんなさい……確かに人間だねって、あ‼︎」
足を踏み外して、落ちた。どうしてこんな綺麗に落ちるのかとか、足元見とけやとか……まあ思いはしたけど、すぐに彼女の手を掴んだ。
やっぱり筋力なかったから、落ちかけたんだけどね。
「だ、大丈夫ですか〜?」
「あ、ありがとうございます……」
振り返ってみると、確かに危なっかしい。
手を掴んでいると、すぐに死んでしまいそうな儚げな感触があった。
「確かに、危なっかしいけど……」
「あ、愛さん⁉︎」
「でも俺はそれが、良いところだと思う。完璧、究極なお姉さん属性なんて存在しない。少しイメージから欠けた方が、それっぽい気がするかも」
真面目に答えたつもりだけど、逃げてるだろうか。お姉さん属性100%って言われると、なんか詐欺っぽく感じるかもだしな。
いや、詐欺っぽいとかでもないのか。
「愛さん大好き‼︎」
「うぇうあああ⁉︎」
アリアスが突然抱きついてくるのに反応出来ず、素っ頓狂な声を上げてしまった。
「ほら、愛兄さんが困ってるでしょ‼︎」
そう言ってルイスが引っ張るのは、アリアスではなく俺の手だった……いや、そこはアリアスを引き剥がすんじゃないのかよ。
「なんというか、はちゃめちゃだな……」
こんな日常も悪くはない……のか?




