鏡面上の偽想曲
「準備はいいな?」
「もちろん‼︎」
「グラシャライ……発進‼︎」
エンドとフィシュの拠点探索はまだ続いているが、生存者探しなども行なっている分中々進まない。エンド達、脅威ではあるが優先度的に上があるからな。
それより今は、この怪獣をどうするかだ。
「どうなってる⁉︎ この怪獣、グラシャライの見た目に変化したぞ⁉︎」
「擬態? いや、コピーの言った方が正しいです」
コピー能力か……強いイメージも弱いイメージもない。厄介そうなのは確かだろうが、精度次第だな。
「見た目は同じ。力も同じ。こいつ……かなり強いぞ。どうする? 何か策とかないか?」
「どれだけ近づけようとも、似ようとも、贋作者は所詮贋作者。精密な贋作も価値はありますが、決して本物と成ることはありません」
「……そうだな。モノホンの力、見せてやろうぜ‼︎」
「当然です‼︎」
完全に、動きの癖まで同じではない。むしろ、怪獣の方が癖がある行動をしている。
問題は、こいつ肉弾戦がかなり強い。俺より強い。
「コピーとかコピーじゃないとかの問題じゃないな。このままじゃ、殴り殺されストレート負けだ」
エンドネスパンチやエンドネスキックなどの、必殺技の使い方がかなり上手い。隙に的確に使ってくるから、全く気が抜けない。
「確かに、想像以上ですね。このままのグラシャライの性能では、勝てる可能性は低いと予見されます」
「性能の差は、戦力の決定的な差ではないらしいが?」
ラルガから聞いた話である。様々な主人公は、力だけでなくテクニックや叡智を活かして戦っていると。それ故に、決定的ではないと言っていた。
「……無理なものは無理です。諦めなさい」
「弱気すぎるだろ‼︎ 少しの知恵程度で、この状況をどうやってひっくり返せばいいか分かんないけど」
「正直でとてもよろしい。人には、役割があります。今の貴方には、大切な仲間がいる。ただ敵を倒す事だけ目的にするのをやめれば、明かりが見えてきますよ」
エイジーが何を言いたいのか。俺にどういう行動を求めてるのか。やっと、分かってきた気がする。
直接彼に伝えたわけではないが、エイジーの正体はもう薄々察している。なるべく俺に寄り添うようにしているけの、考えている正体が正しければ彼の本質はリアリストとロマンチストを同居させたような所であろう。
「エンドネスフルビーム‼︎」
ビームを、あえて怪獣の足元へと放つ。すると、爆発と砂埃で怪獣が影しか見えなくなる。だが、怪獣は反撃しようとしてこない。こちらの姿が見えていないのだろう。
「ルフラン……出る‼︎」
怪獣はルフランの姿に気づかず、反撃も出来ないまま連続攻撃を受けていく。
そう。エイジーが言いたかったのは、どうせ勝てないんだからルフランが勝つ為の動線を作っておけという事だった。
「貴様は、間違いなく厄介な奴だ。暇も与えず、最短最速で叩き潰す‼︎」
煽りに反応したのか、怪獣も必死に反撃しようと動く。だが予想した通り、ゼルは怪獣を圧倒。
言うならば、攻撃を受けたと理解した頃には、次の攻撃を受けている……という感じだろうか。
「抵抗しても無駄だ。言わなかったか? 俺を敵に回した時点で、お前は運命から抜け出せない‼︎」
怪獣の動きが鈍くなり、懐に潜り込んですぐにビームブレードを抜刀。結果、怪獣に一度も反撃をさせずに一方的に撃破したのだった。
撃破時に一瞬、怪獣が怪しく輝いた気がした。
目が覚め、気づいた時にはさっきまで戦っていた場所で倒れていた。
いつも戦っている場所は拠点から少し離れた荒野で、そこだけ辺り一体何もないから、いつも戦いやすいし、被害が少なくなるからありがたい。
って、ありがたみを感じるのもいいがとっとと帰らないとだな。
「……いつもと雰囲気が違う?」
拠点に近づくにつれ、何処か違和感を感じた。なんだか、いつもに比べて盛り上がってる気がする。私が戻ってくると歓声が上がるっちゃ上がるが、まだ戻ってきてない。
嫌な予感……? いや、流石に考えすぎか。
「ま、日々日々変化していくんだ。常時違和感を感じながら生き続ける方が楽しいって、誰かが言ってたし」
誰か……誰だっけ。偉人や変人のセリフなんて、一々覚えてないからな。偉人への敬意がないって、誰かに言われないといいが。
「……いや、でもちょっと怖いからとりあえずゆっくり行こう。そうしよう」
ちょっとした違和感なんて、戦闘と比べれば些細な恐怖だろう。正直気にしないでいいはずだが、気にしないでいい程度だからこそここは怖がろうと思う。
こういう時に怖がらないと、乱数調整できないからな。
「そういうところも、いつも通りだね」
拠点の方からアリアスの声が聞こえる。なんかとっても楽しそうだが、誰と話してるんだ?
リーリとかルイスとかが妥当だろうか。
さてと、正解は……?
「いやいや、いつも通りなのが良いんだよ。いつも通りがいっつも通りだし‼︎ だからいつも通りなんだよ」
「愛音さん、ここだけはいつも通りじゃないかも」
「……あいおさん、ちがうの?」
「いやいや、違わない違わない……多分」
誰だ、あれは。あそこでアリアスと喋ってるのは、どう見たって俺だ。声も、形も、その他人を形成する全てにおいて、違わないと証明されている。
「意味不明さが天上突破だな……」
まさか、分身能力でも手に入れたのだろうか。もしそうなのであれば便利な事この上ないが、流石にそんな都合の良い能力はないだろう。
思い当たるのは、こんな現象が起こる可能性があるとするなら、さっき戦った怪獣。あの怪獣は、グラシャライの姿をコピーしていた。
その能力で、人間もコピー出来るとしたら?
「その仮定が正しいとしても、今からあの中に入ってったとて、周りからどっちが本物かなんて分からないしな」
まず対策を立てないと、それも一人で。
「何やってるんだ? さっきまで、拠点の方にいたみたいだが……」
拠点から少し離れたビルの中で考えていると、後ろからゼルがやって来た。全く気配を感じさせてなかったが、こいつ元は暗殺者なのか?
「信じてもらえるかは別だが、あっちにいた私と今の私は別みたいなんだ。多分、あっちのはさっきの怪獣が生み出した偽物だと考えてるが……」
「少しは理解したが、かなり突拍子のない話をするなぁ。まあ今更だが」
逆に、今更突拍子のあるなしを考える方が珍しいような気もするが、慣れって怖い。
「まるで鏡写しだな。あの完成度……見た目どころか、記憶すらそのままのように見える。心すら同じとなれば、もはや擬態とも呼べないな」
「……擬態は何処か違う場所があるから擬態。転じて偽物なのであって、全て本物と同一になったらそれは偽物とは言えない……って事か?」
意図があまり分からないが、少し危険な匂いがする。
鏡で見る自分の姿は、ほぼほぼ自分と同じだ。そこに広がっているのは反転された世界だから偽物だが、映し出す方を本質と捉えると、本物とほぼ同義となる。
「お前、いつまで自分が本物だと認識するつもりだ?」
そこに現れたのは、もう一人の愛音だった。
「私は……」
いや、愛音の一人称は『俺』のはずだ。
「鏡の怪獣と呼ばさせてもらうが、あのコピー能力は凄い。グラシャライの性能は据え置きで、グラシャライ単体じゃ間違いなく倒せなかった」
もう一人の……いや、愛音はそう語り始めた。
「エイジーが怪獣が爆破する時に、俺らしき見た目をした何かを目撃してな……故に、一芝居打たせてもらったよ」
俺なんだからその後くらい分かるだろ? とでも言いたそうな目線を、私にぶつけていた。
まあどうせ、ゼルはドッキリでいう仕掛け人で、私からどのレベルのコピーかを聞き出すのが目的だろう。愛音がいつも通りじゃないのは、演技だったからか。
あとは、私に本物を偽物だと思わせる為だろう。
「さてと、私はこのままお前に殺されるべきなんだな?」
人の形をしているからって、所詮は怪獣。いつ人を襲うか分からないただの危険物。
「流石、俺というだけの事はある。きっと同じ立場だったらそうするだろうってのがよく分かるよ。だが、だからこそお前にそれは選ばせない」
「……何が言いたい?」
「怪獣という存在は確かに危険だ。それでも、お前は俺で俺はお前だ。俺は俺を世界で一番信頼してないが、同時に世界で一番信用している……伝わるか?」
伝わってるさ。自分の事は一番嫌いだから信頼できないけど、自分の事だから理解はできるし信用してる。
「お前は、このまま生きろ」
「無理だな。人間の姿をした怪獣を生かすなんて、お前らにとっては大きな爆弾を抱えるようなものなはずだ。何故助けようとする?」
伝わってるからこそ、無理なものは無理だと否定する。
私自身、合理主義者とかいうわけでもないが、自分の命に執着があるわけでもない。
「逆に聞くが、自分を生かそうとする事に合理的な理由があると思うか?」
「詭弁だな。私と愛音は、似て非なる存在と言える」
偽物と分かっているはずなのに、感情や想いが巡っているこの感覚が気持ち悪い。それはお前のじゃないはずなのに、ここに在ると主張してくる。
盗人猛々しい。吐き気がする。
「俺たちはまだ、怪獣の事も巨人の事も少ししか知らないんだ。ただ倒すだけじゃ、知識は得られない」
「だったら仲間を捌いて確かめればいいじゃないか。内部構造が分かれば、今までと比べれば間違いなく理解は深まるはずだぞ」
「お前、俺がそれを良しとしない事を知ってるくせに」
「私は、それが甘いと言っているんだ。二人とはいえ、相手はかなり手強いぞ。間違いなく、普通では勝てない」
エンドとフィシュは、片方が餓死しかけてた通りあいつらなりに極限状態で生きているのは分かる。
だがあれは、精神的な極限状態に見える。何か私達とは違う価値観の中での、大いなる使命。戦力的には、むしろまだ余裕があるように見える。
あちらから見た私達の存在は、最悪勝てるけど厄介な存在というところだろう。
今のままでは、勝てない。
「お前は生きて、そして救われ、その上で死ね……そうやって、グラシャライは言っていた」
「……は? グラシャライがって……は⁉︎」
「声が聞こえなくても、感情くらいなら分かる。だが今回は珍しく、グラシャライの中の人の意思がよく感じられた気がした。間違いなく、グラシャライはそう言った」
「そうなのか。いや、だとしても——‼︎」
「俺はお前に、それとグラシャライに賭けてみたいんだ。だから、頼む……‼︎」
グラシャライがなんなのか、真に信頼して良い存在なのかも分からない。だが少なくとも今の私たちには、あれを使うしか生き残る道はなかった。
私に賭けてみたい……か。
「分かった。私も、生きてみるとしよう」
「欲しいものがあるって言ったと思えば、まさか狐の面を要求されるとはな」
「同じ顔がいたらややこしい。当然の措置だ」
「……まあ、そうだな」
私はこれから、エンドとフィシュの住処を探す旅に出る。それはそれとして定期的に帰ってきて、戦力になるつもりでもある。
所謂、非常勤に近い感じになるはずである。
「旅の中で見つけられると良いんだがな。怪獣となる前の、中の人の記憶とかも」
「そうだな。私、という一人称は蘇ったんだ。可能性は低いだろうが、賭けてみる価値はあるだろう」
不可逆の可能性が高い。どころか、ほぼ確実でそうだろう。だからって、諦める理由にはならない。
「そういえば、お前の名前はなんて呼べば良い?」
「名前なんて必要か?」
「いやいや、名前ってもんは、ないまま放っておいたら結局後々必要になってくるもんだよ」
「そうか。じゃあ……Iとでも呼べ」
「Iか……良いんじゃないか?」
俺はまた、夢を見た。清田と一緒にカフェで会話している夢だったが、その夢で一つ思い出した事がある。
確か、あの長い夢の中で清田の役職は、探偵という話が何処かであったはずだ。そして俺は最近、探偵がつく名前を見た事がある。
「《怨念探偵》か……まさか、清田が?」
グラシャライの中身が清田なのか、それともグラシャライの誕生秘話に深く関わっているのか。
鈍鎧清田。そもそも彼は、何者なのか?
どっかで聞いた事のある苗字ですね。




