決意へのキャロル
エンド達の隠れ家は洞窟の中にあった。
そこはまるで研究施設のような場所で、かなり気味が悪かった。あまり霊感はないが、ここ実はそういう霊が出るスポットだったりするのだろうか。
危険だからと、途中から俺は目隠しされ、洞窟に着いた後は、俺の手は縛られてフィシュに引っ張られている。
「並んで見ると壮観……よりかは、不気味さが勝つな。まさか、地下の中に隠れているとはな」
洞窟の奥には、大量の巨人がいた。
そしてその周りには、いくつかの牢屋のようなものがあった。
「これは、誰か閉じ込めてい……」
牢屋を覗き込むと、大量の人々が縛られていた。なにか投薬されたような跡もあり、かなり劣悪な状態だった。
「なんだ、なんだこれは⁉︎ まさか、まさかお前らが教えてやるって言っていた巨人の正体は‼︎」
「そう‼︎ 巨人の正体は、人間だよ。元はね」
元は、という事は不可逆という事なんだろう。
エンドはずっと笑顔で、フィシュはこういうのは苦手なのか苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「俺とフィシュはこの世から見放された存在で、幸せな夢を見ることすら不可能だった。だけど、ある日絶望した人類を巨人へと変える力を生み出した」
「絶望……怪獣も、元は人間なんだな?」
「そう。巨人の中でごく稀に生まれるのが怪獣で、投薬しているのはそれを誘発させる為だ」
薬……詳しくはないが、精神系の代物だろうか。
「人類を巨人へと変化させる。これこそが人類の救済だ」
「これが、救済か? この惨状が、この人々が苦しんでいる惨状を見て、救済なんて正気か?」
「人は死ねば終わり。それは、生きるという地獄から永遠に解放されるという事だ。ただただ守りたいものだけを守るために戦うのは、馬鹿らしいと思わないか?」
「生は希望だ。エンド……俺とお前が分かり合える事はない」
「生は絶望だよ」
ずっと口を閉じていたフィシュが、唐突に口を開いた。
「ソースは私」
「……そうかよ」
自分と意見の合わない奴の比率が多い空間だと、自分の意見が歪んで気が狂いそうになる。
「どうして、これを教えた?」
「そういうのは、自分で考えるべきだ。まあ、自分と向き合ってみろって話だ」
目覚めると、俺は拠点から少し離れた場所にいた。
俺は一人で帰還すると、そのまま桜木とアリアス、ルガ三人衆と、あとゼルとクリルラ博士を集めて、俺が見たものをありのまま伝えた。
「結果的に俺は、十を超える数の人を殺していた事が分かった。司法制度が残ってたら死刑かな」
「けど愛さんは、私達を守るために‼︎」
「やめておけ。こういう時、自罰を考えたくもなる。人を殺すという行為は、理屈も消し去るほどのインパクトを持っているものさ」
「でも私は……‼︎」
「俺もこういう状況に陥った事があるが、そっとしておいて欲しいって感じるよ」
「……そうだな。ちょっと一人で考えてくる」
俺は、グラシャライのコックピットの中で一人蹲っていた。そこで、自問自答していた。
もう二度と、人を殺したくない。
「身勝手だな。それだと、怪人によって大勢の被害。それどころか、こっちは全滅だってありえる」
そうだ。だから、戦わないわけにはいかない。
「だが、それでお前の罪が消えるわけじゃない。それどころか、罪はもっと増えていく」
皆んな優しいから、受け止めてくれる。
「だがその優しさが……温もりが、自分を最も惨めにしてるって理解している。そうだろう?」
じゃあどうすればいいんだよ。
「投げやりだな。さっきあの男も言っていただろう? 戦う決断をした時に満足したのか、それ以降は運命にただただ流されているだけだ」
そもそも、何故あいつは巨人を生み出す。怪人を生み出す。あいつは、何を見て生まれてきた。
「案外あいつが、死こそが、本当の救済かもしれないぞ。皮肉だな。お前、今生きてる事で苦しんでるぞ」
そうだな。とっても皮肉だ。
「怪人が迫ってきています。発進を‼︎」
「……エイジー。俺は、どうすればいい?」
まだ全然まとめきれてないのに……この襲撃も、エンドの作戦の一つなのだろうか。
奴の狙いは把握しきれないが、狙いの一つに俺のメンタルダメージが含まれているというのはよく分かる。
馬鹿正直に受けてるのも、惨めさを加速させる。
「行きましょう。発進しましょう」
「い……いや、俺は、まだ戦えるような状態じゃない。いや、行かなきゃなのは、いや、俺は、違う、俺は‼︎」
「……このグラシャライの正体を、私から明かす事はありません。ですが、その人が貴方を選んだんですよ。私はあまり信頼してませんでしたがね」
「お前、想像以上に俺のこと嫌いだな?」
「相性自体は良いと感じてますよ。ですから、その人以上の信頼はしてませんね」
「どうしてそいつは、俺なんかを選んだんだ? もっと扱いやすい奴もいただろうに」
「その人は、一緒に罪を背負ってくれる人を望んでいました。罪を憎みながらも、それでも背負える優しい心を持った者をね」
「優しい……心?」
俺には、いじめられた記憶しかない。けど、何故か懐かしい感じがした。
それが、とても大切だったはずなのに。
「行くぞ。相棒」
「分かった。行こう」
「グラシャライ……発進‼︎」
いつものように巨人を倒そうとする。が、拳が当たる前に止まってしまう。違う。俺が、止めてしまう。
倒さなければならない。だけど、恐怖が俺を支配する。
戦え‼︎ なんとかしろ‼︎
声が聞こえる。歌声が、聞こえる。
想いが、夢が、重なり合って、綺麗なハーモニーを奏でていた。温かいし、心地よい。
「リーリちゃんからの応援っていう激強の手札を使っちゃったからどう励ますか悩んじゃったんだ……こんな事しか出来ないけど、皆んなから愛さんへの感謝の気持ち」
「……いつ、コックピットに電話できるように?」
「それは愛さんが連れ去られてる間に、クリルラ博士が勝手に改造してたよ」
「なるほどな。ありがとう……元気が出た」
「あいおさんっ‼︎ がんばって‼︎」
「ありがとうリーリ。俺、頑張るから」
元気が出たので、その流れで一気に巨人を撃破。残るは怪獣と……フィシュのダクディーバだ。
「元気、でちゃったんだ」
「へぇ、俺が苦しむ姿がご所望だったかい? なら残念。俺には優しい仲間達がいるからな」
「でもね。ここからが、本当の地獄だよ」
「そうか。何度でも強くなれるって事か‼︎」
グラシャライとダクディーバが拮抗し合う。先の戦闘でもそうだったが、エンドネスパンチとダクディーバのダクソードは拮抗するようだ。
決着がつかないからか、ダクディーバは後退。
「今度は怪獣か……」
怪獣は咆哮を上げ、こちらへと突進する。この怪獣は二足歩行という事を考えると、近接戦でもするのか?
すると予想通り、巨大な爪を使い襲いかかってきた。
回避をする分には問題ないが、避けるのに精一杯で攻撃する暇がない。捨て身覚悟で攻撃するには、あまりにも爪が大きすぎる。
捨て身攻撃しようとして、先にノックアウトされるなんて論外だ。
「こっちも忘れられちゃ困るよ……バーストミサイル‼︎」
「やはりフィシュも来るか‼︎ やっぱさ、こっちは飛べないのに……そっち飛べるなんて卑怯だろ‼︎」
「うるさい‼︎ ダクディーバガン‼︎」
神回避。そうとしか表現できない回避を、今起こした。怪獣の攻撃を避けながらミサイルの間を潜り抜けてビーム攻撃を回避した。
こんな奇跡、何回も続かないぞ……‼︎
ダクディーバの方を見ると、足や肩にくっついたミサイルポッドが無くなっていた。使い捨て式か。ありがたい。
「さあてと、一体どうするか」
やはり、彼だけでは荷が重すぎる。
言うのが遅れたがゼルは……自分は、もうとっくに戦う決意は済んでいる。彼のような体験も既に終えて、後はもう戦いに身を投じるだけである。
本当なら、代わってやりたかった。ああいうタイプは、こういう戦いには向いていない。
「だからこそ、自分が今できる最大の行いを‼︎」
「先の戦いでかなり欠損したからどうなるかと思いましたが、結果的に試験代わりとなって安心しました」
「結果オーライってやつだな」
「ルフラン、発進準備完了。準備はいいな?」
「そりゃそうだ。ルフラン……出る‼︎」
ルフランの戦闘方法はシンプル。武器なしの格闘を基本とし、止めにビームブレードを使う。
「愛音‼︎ 今度こそ、一緒に戦うぞ‼︎」
「……ゼルか‼︎ そっちのダクディーバは頼んだぞ‼︎」
「任された‼︎」
近接戦を挑もうとしても、その前に一旦距離を引かれてしまう。何処かで、隙をつかなければ。
「前は名前を聞き忘れたけど、その機体は何と呼ぶ?」
「ルフランだ。繰り返す悲しみや辛さを、断ち切る為に作られた機体だ。その力を、今‼︎ この瞬間に‼︎ 永遠にお前の脳みそに叩き込んでやる‼︎」
「啖呵は終わり? じゃあ、始めよう」
ブーメランを踏み台にしながら、ジェットパックを起動させる。斧は蹴り飛ばし、鞭は逆に相手に近づく為に利用してみる。
「厄介……‼︎」
「多種多様な武器。選択肢の量は強みだが……それに現を抜かしているだけでは、ゼルには勝てないぞ」
「舐めるな……‼︎」
散々煽り散らかしているが、こっちもまだ攻撃を当てられていない。こっちの狙いは、煽られた事により動きにミスが生じる事だ。
「終わりだ……ビームブレード‼︎」
一刀両断とはいかないが、中心部に大幅なダメージは受けただろう。
「……逃げなきゃか」
「追うか……? いや、誘われてるかもか」
ダクディーバとの連携が厄介だっただけで、この怪獣の近接戦は遠距離攻撃で対処可能だ。問題は、遠距離攻撃を必殺技のビームしか持っていない事なんだが。
だが、エネルギーを貯めている隙に攻撃されるのがオチだろう。
「だが、遠距離だけが突破口ではないぞ‼︎」
「えっ、え〜っと、あ、ラルガか‼︎」
「忘れるなよ……まあ気にせん。とにかく、こういう相手には実体剣だ。実体を持つ剣……まあ普通の剣だな」
実体剣。ビームやそれを纏ったものではない、一般的な剣という事らしい。
「にしても、なんで実体剣で?」
「爪というのは切り裂くのに優れていても、なんだかんだ簡単に割れるものだ。怪獣も同じとは限らないが、やってみる価値はあるはずだ。それに……」
「それに?」
「今君は、何か大きなものを乗り越える最中だろう。大きなものを乗り越える為には、少しリスキーさがないとな」
巨大な刀が飛んできて、それを掴む。
「アルカナブレード‼︎」
爪と正面から斬り合えば、こちらが不利だと予想。ならばと、馬鹿正直に突撃してくる怪獣の攻撃を避けつつ角度少し斜めから斬り込む。
「やはり人の知性や温かみを感じない。だけどその魂も、俺が連れて行ってやる」
怪獣や巨人には、人としての面影を感じない。会った事ないんだから当然と言われればそうだが、人の魂としての力が消えている気がする。
やはり、不可逆なのか……?
「この刀ならば、そのまま怪獣を斬り裂けます」
「了解だ。エイジー‼︎」
今はそんなこと考えてる暇ないか。
「グラシャライ……フィニッシュ‼︎」
最後だけは正々堂々、正面からの突き刺しで撃破した。リスキーさを用いて乗り越えたと言えるかは、怪しい気がするが……まあ気にしないでくれるか。
帰還後、アルカナブレードは刃こぼれなど諸々で暫くは使えないと聞いた。ラルガが残念がっていた。
「いつも怪獣や巨人を倒した後、人の温もりに近しい温かい何かをいつも感じている……それが、俺にとってはたまらなく嫌になる」
魂というのは、何処へありつくのか。
聞いたら、神は答えてくれるのか。
他と違って、この人は歪んだだけで常人ですからね。




