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英雄達の忘備録  作者: 雪下ソユキ
Record3:コンチェルト・フィナーレ
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17/24

表裏一体のカデンツァ

「俺は、どうすればいい?」


「大丈夫。大丈夫だから……貴方が何もしなくても、出来なくても、私がちゃんとすればいいから」


 夢というのは、どんなに馬鹿げていても目覚めるまで夢と気づかない事が多い。それでもこれは、ありえない夢だとよく理解できる。

 

「さてと、今日のご飯はシチューだから」


「お、楽しみだなぁ」


 なんつうかさぁ……夢の中の俺、とんでもないヒモ男じゃない? 会話的に、仕事も家事もやってもらってるわけでしょ? 俺、あの夢の中もこんな感じだったか?


 それにしても、なんか結果的に夢の中の自分を鑑賞するはめになってる。まさか、こんな夢があったとは。


「最近は物騒だねぇ。どこもかしこも、テロやら不可能犯罪やら……もう少し良いニュースないのかな」


「清田は、何してるかな」


「探偵だもんね……まあ、あんな事があっても生き残ったんだから、簡単に死ぬわけないと思うけど」


「そうだな……あれは、悲しい事件だった」


 どうやらシリアスパートに入ったらしい。あまりにも物騒がすぎるだろ……なんだよテロやら不可能犯罪やらって。もうちょい幸せな夢にしてくれよ。


「はい。あ〜ん」


 これは……リーリとやってたからだろうか。




 起きた。


「あんま寝ないでくださいよ」


「うわぁびっくりしたぁ‼︎」


 起きると目の前に俺の顔をじっと見つめているゼルがいた。いや、顔の良い男が近くにいたらめちゃくちゃびっくりするじゃん? そういうものよ。


 金髪の、なんつ〜かすっげぇイケメンで、なんか瞳とかもめっちゃ綺麗なんすよ。


「……どうかしたのか?」


「いや、なんでもない。ちょっと俺の気持ち悪さが全面に出そうになったから、戦争仕掛けただけだ」


「まあ……いいんだが、ようやく人数が集まってきたんだ。なるべく早くこれを仕上げないと」


 前回の戦闘からまたしばらく経ち、十数人の生存者を見つけ、また少し街が賑やかになった。

 そして今、クリルラ博士とゼルと俺、それとルガ三人衆で新たな戦力を開発している真っ最中。起動兵器と呼ばれるもので、まあ普通のロボットだ。


 グラシャライに比べればリアルロボット路線の代物になる予定だ。


 それを俺たちは、ルフランと名付けた。


「……グラシャライの強化路線から、突然ガチのロボットを作ろうって言ったのは誰だっけ」


「ゼルだ」


「わしもだ」


 ゼルと、ラルガか……ラルガは元々、そういうロボットアニメ好きだったし、夢の中でもロボットのパイロットだったほどらしいが、ゼルは知らん。


 というか、「ゼルだ」って字は違えど聞く分にはただのゲームキャラやないかい。


「それで、ラルガはどうしてそんなロボットが好きなんだ? いやまあ、あんまし記憶ないだろうけど」


 記憶が消えてる現象は、今のところ全員共通である。


「いや、ロボットについては少し記憶がある。すぐ死んだ親父と一緒に見ていたのが最初で、そっから高校の頃にはプラモを作って飾ったり、高いフィギュアを金貯めて買ったり」


「あ〜。貴方にとってロボットとは?」


「なんだそのテレビ番組の締めの挨拶みたいなのは。だがこれはもう決まってる。俺の人生そのものだ」


「ちなみに、それ以外の記憶は?」


「成人してからの記憶はもうほぼないな。ガルガとイルガに、少し布教したような記憶の形跡はあるが」


 あまり、ロボットに触れてきた記憶はない。そもそも俺が覚えている記憶は、小中の頃に長々といじめられてたくらいだ。

 夢の中で清田と一緒に見てたはずだが、清田は現実にもいたのだろうか。


 俺の記憶は、不幸だった頃の記憶しかない。見た目的にも肉体的にも二十歳以下らしい。


 せめて清田くらいはいて欲しいけど、いじめられ続けてきた俺の人生に、果たしてそう簡単に幸福が訪れるだろうか。


 俺の現実と夢は、どこまでも境界(さかい)が曖昧だ。





 自分の名前はゼル。一人称をゼルとしているのは、自分という存在を他の人に印象付ける為……という、親からの変な教育の癖がまだ残ってるだけだ。


 今更俺や僕に戻せないから、自分を一人称にしようと努力しているが、咄嗟の時に一人称がゼルになってしまう。


「そういえば貴方、愛音さんに自分の事を医者の端くれと言っていたそうですが、医学部生は医者ではありませんからね? あまり自惚れないでほしいです」


「そうだな……俺、咄嗟に喋ると変な事口走っちゃう癖があるからな」


 親は、すっごい方言がキツい人達だった。周りは標準語ばっかりだったから、家庭と外で色んなギャップを感じる事が多かった。

 色々と適応能力が高いから、友達もそこそこ出来て、小中のサッカー部じゃかなり活躍してた。


 平凡な日々と、その記憶たち。

 何気ない日常と、それを当たり前のように謳歌する大切な人に囲まれて生きてきた。


 という……




「それは……なんとも風変わりな人生を歩みましたね。ですが、どうして医者になろうと思ったんですか?」


「いや、むしろ分かりやすいと思うが……」


「まあ、そうですね。それじゃあもう一つ。貴方は私を知っていたみたいですし、科学者を志していたとしても違和感がないほど、知識が豊富なようです。それは何故ですか?」


「それは俺の求むるものが、永遠だからですよ」


「……なるほど」





 また、リーリと旅をしていた。


「大丈夫ですか?」


「だいじょうぶ?」


「死ぬ……死ぬぞぉ。死んじゃうぞぉ‼︎」


 うつ伏せで寝ている不思議な少女がいた。ツインテール薄ピンク髪の、とにかくかわいらしい少女だった。


 とりあえず起き上がらせ、汚れを払った。


「私の名前はフィシュ。貴方達の名前は?」


「俺の名前は愛音。水田愛音だ」


「わたしは、りーり‼︎」


 フィシュの瞳は虹色で、どこか神秘的。というか、誰かの面影を感じる気がする。


「か、か、かわぁいいいいいいい‼︎」


「きゃっ‼︎」


 めっっっっちゃ勢いよく、フィシュはリーリに抱きついた。確かに可愛いが、ここまでする感覚は理解できない。


 今日のリーリの服装は、どこかお姫様を彷彿できてとても可愛い……そしてあの姉妹の趣味が溢れてる。まあその分、移動しづらい気もするが。


「とりあえず、今分けれるのはこれだけ」


「はむっ……ん、美味しい‼︎ めっちゃ美味しい‼︎」


 食わせたのはガトーショコラもどき……と言う割には、クオリティーの高いガトーショコラである。



 んで、拠点に戻ったってわけ。


「え、あの服貴方達が作ったの⁉︎ あのリーリちゃんの服、とっても可愛くて驚いたんだけど‼︎」


「そうだよ?」


「え〜っと、名前は?」


「私の名前はアリアス。それで、こっちは妹のルイス。ふふん‼︎ 私達を褒め称えよ‼︎」


「姉さん。やめなさい」


「なんか妹のお姉ちゃん属性が強い‼︎」


 楽しそうでなによりなにより。それにしても、さっきからこの既視感はなんだろう。


「何の騒ぎですか?」


「桜木か。騒ぎってほどでもないが、新メンバーだ。あのピンク髪の子。フィシュと言うらしい」


「へ〜」


「あんまり興味なさそうだな」


 そういえば、桜木さんは独身なのだろうか。冒険家との結婚生活とかちょっとどうなってるか気になるけど、わさわざ聞くほどではない。


「こんにちはお嬢さん」


「……誰?」


「あ、いや、ゼルはゼルという名前です。よろしくお願いしますと言いにきたんだ」


 いつの間にかゼルがフィシュに話しかけていた。あいつ、いつも律儀に挨拶するからな……立派なもんだ。




「皆々様、ご機嫌ようでございます‼︎」


 そうだそうだ。フィシュの元気さ、最近どこかで見たって思ったら、エンドのハイテンションと似てるんだ。


「……誰も、反応くれないのか?」


「いや、どうしてここに来たのかとか聞きたい事は山ほどあるが、なんか気力がない」


「酷い‼︎ 貴方達は、ジャスティスの心がないんですか‼︎」


「どの口が言ってるんだよ‼︎」


「この口だよぉ‼︎」


 なんかこいつが可哀想に思えてきたな。ま、全部俺がやった事なんだけどな。あれ? これ俺もどの口案件?


「さてと、帰るぞ。フィシュ」


「……はい?」


 つい咄嗟に腑抜けた反応をしてしまったが、エンドの瞳も綺麗な虹色だった。繋がる要素はあるか。


「……は〜い。分かったよ、お兄ちゃん?」


 お兄ちゃん。つまり、兄妹という事か。確かに納得できるが、納得したくない俺の心もあった。少しの時間だったが、フィシュにあまり敵対を感じられなかった。


 演技だとしたら……いや、演技なのだろう。


「「さあ、物語を始めよう‼︎」」


 エンドとフィシュが天に手を掲げると、空が光り輝くと同時に遠くから大量の巨人と怪獣が迫ってきた。

 エンドとフィシュの方に視線を戻すと、二人は既に何処かへと消えていた。


 俺も、すぐにコックピットへと移動した。


「グラシャライ……発進‼︎」


 およそ二十体ほどの巨人。数で来られると厄介だが、逆に数を生かした攻撃を警戒していればただただ鈍いだけである。


「まるで怨念だな……」


 いや、何故俺は今、怨念と言ったんだ? そんなイメージ、怨念にはあったか? いや、まあいい。後回しだ。


「とにかくとっとと片付ける‼︎」


 手刀で首を切り裂いても倒せる事が分かり、更に効率が良くなった。


「……だけど、いつものようにはいかないか‼︎」


 鎮座していた怪獣が強大な砂嵐を発生させると、グラシャライや巨人達を一瞬で包み込んでしまった。

 砂嵐によるダメージはあまり強力なものではないが、それによる視界不良はかなりキツいものとなる。なんとかして、気配を読み取るしかない。


「だが、その程度で終わるほど……俺は弱くはない‼︎ あまり舐められては困る‼︎」


「そうだ‼︎ 私が合図をするから、それに合わせろ‼︎」


「分かった。ありがとう‼︎」


 エイジーのおかげで、思ってたよりもサクサクと巨人を倒していき、残りは怪獣だけだ。


 その、はずだった。


「……なにか、来てる。あれはなんだ?」


 何かが、砂嵐の中で動いている。少し、ダメージを受けた。あれは、黒かった。


 なんだ? 巨人でも、怪獣でもない。その攻撃は、熱量を持った攻撃だった。だがそれは、少し斬撃に似ていた。似て非なるものだった。


 砂嵐だから見えないのではない。それだけだったら、エイジーが捉えられないわけがない。とてつもないスピードで、俺の周辺を旋回している。


 少し、風が変わった。音が変わった。


「反応した⁉︎」


「くぅっ……起動兵器だとぉ⁉︎」


 グラシャライの拳と、敵のビームの剣がぶつかり合う。熱量は、あのビームの剣のせいか。


「それに、お前……フィシュか‼︎」


「そうだよ‼︎ そしてこの機体の名前はダクディーバ。そしてこれは、ダクソードだ‼︎」


 このままぶつかり合っても状況は変わらないと察したのか、ダクディーバは後退。また見えなくなる。


「エンドレスブーメラン‼︎」


 目の前に足だけ現れたと思えば、そこから発射された巨大なビームのブーメランに両手を引き裂かれる。


 痛覚共有はしてないが、そのショックは通ずる。


「止めの……ギルティアックス‼︎」


 俺はまた、死を覚悟した。



「その人は、やらせないぃぃぃぃ‼︎」


 未完成のルフランと、ゼルの声。驚く俺を置き去りにするかのように、不意打ちでダクディーバの腕を斬る。


「そしてぇ‼︎ ここだぁぁぁぁぁぁ‼︎」


 勢いよく地下へと潜り、砂嵐が消える。地面の中に怪獣が隠れていて、そこに攻撃したようだ。


「これで、オワリダァァァァ‼︎」


 振り払おうとする怪獣にしがみつきながらビームブレードをぶっ刺し、そのまま怪獣を撃破した。


 だが、同時にルフランも機能を停止した。


「邪魔は入ったけど、怪獣が倒されただけ。そうつまり、私の勝ちは確実‼︎ よっし‼︎」


 どれだけ動かそうとしても、グラシャライは動かない。


「動けよ……ここまでお膳立てされて、仲間が頑張ってくれたのに動けないのかよ。動けよ。動いてくれよ‼︎ 動きやがれこのバカロボットがああああああ‼︎」


「今度こそ、これで‼︎」




「……いや、待て」


「今度はなに? お兄ちゃん」


 エンドが、フィシュの攻撃を止めた。何故かは分からないが、とにかく助かったの……か?


「お前、怪獣と巨人の正体……知りたくないか?」


「そもそも、教えてくれるのか? こういうのは、隠しておきたいものだと思うが」


「別に隠すようなものじゃないさ。着いてこい」


「いや俺、今動けない」


「……じゃあ、フィシュ。運んでやってくれ」


「は〜い。分かりました〜」


 グラシャライから降り、ダクディーバに乗り込む。もうちょい正確に言うと、ダクディーバの掌に死なない程度に掴まれていた。




 俺はそこで、真実を知る事となる。軽い気持ちで求めてはいけなかった、残酷な真実を。

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