表裏一体のカデンツァ
「俺は、どうすればいい?」
「大丈夫。大丈夫だから……貴方が何もしなくても、出来なくても、私がちゃんとすればいいから」
夢というのは、どんなに馬鹿げていても目覚めるまで夢と気づかない事が多い。それでもこれは、ありえない夢だとよく理解できる。
「さてと、今日のご飯はシチューだから」
「お、楽しみだなぁ」
なんつうかさぁ……夢の中の俺、とんでもないヒモ男じゃない? 会話的に、仕事も家事もやってもらってるわけでしょ? 俺、あの夢の中もこんな感じだったか?
それにしても、なんか結果的に夢の中の自分を鑑賞するはめになってる。まさか、こんな夢があったとは。
「最近は物騒だねぇ。どこもかしこも、テロやら不可能犯罪やら……もう少し良いニュースないのかな」
「清田は、何してるかな」
「探偵だもんね……まあ、あんな事があっても生き残ったんだから、簡単に死ぬわけないと思うけど」
「そうだな……あれは、悲しい事件だった」
どうやらシリアスパートに入ったらしい。あまりにも物騒がすぎるだろ……なんだよテロやら不可能犯罪やらって。もうちょい幸せな夢にしてくれよ。
「はい。あ〜ん」
これは……リーリとやってたからだろうか。
起きた。
「あんま寝ないでくださいよ」
「うわぁびっくりしたぁ‼︎」
起きると目の前に俺の顔をじっと見つめているゼルがいた。いや、顔の良い男が近くにいたらめちゃくちゃびっくりするじゃん? そういうものよ。
金髪の、なんつ〜かすっげぇイケメンで、なんか瞳とかもめっちゃ綺麗なんすよ。
「……どうかしたのか?」
「いや、なんでもない。ちょっと俺の気持ち悪さが全面に出そうになったから、戦争仕掛けただけだ」
「まあ……いいんだが、ようやく人数が集まってきたんだ。なるべく早くこれを仕上げないと」
前回の戦闘からまたしばらく経ち、十数人の生存者を見つけ、また少し街が賑やかになった。
そして今、クリルラ博士とゼルと俺、それとルガ三人衆で新たな戦力を開発している真っ最中。起動兵器と呼ばれるもので、まあ普通のロボットだ。
グラシャライに比べればリアルロボット路線の代物になる予定だ。
それを俺たちは、ルフランと名付けた。
「……グラシャライの強化路線から、突然ガチのロボットを作ろうって言ったのは誰だっけ」
「ゼルだ」
「わしもだ」
ゼルと、ラルガか……ラルガは元々、そういうロボットアニメ好きだったし、夢の中でもロボットのパイロットだったほどらしいが、ゼルは知らん。
というか、「ゼルだ」って字は違えど聞く分にはただのゲームキャラやないかい。
「それで、ラルガはどうしてそんなロボットが好きなんだ? いやまあ、あんまし記憶ないだろうけど」
記憶が消えてる現象は、今のところ全員共通である。
「いや、ロボットについては少し記憶がある。すぐ死んだ親父と一緒に見ていたのが最初で、そっから高校の頃にはプラモを作って飾ったり、高いフィギュアを金貯めて買ったり」
「あ〜。貴方にとってロボットとは?」
「なんだそのテレビ番組の締めの挨拶みたいなのは。だがこれはもう決まってる。俺の人生そのものだ」
「ちなみに、それ以外の記憶は?」
「成人してからの記憶はもうほぼないな。ガルガとイルガに、少し布教したような記憶の形跡はあるが」
あまり、ロボットに触れてきた記憶はない。そもそも俺が覚えている記憶は、小中の頃に長々といじめられてたくらいだ。
夢の中で清田と一緒に見てたはずだが、清田は現実にもいたのだろうか。
俺の記憶は、不幸だった頃の記憶しかない。見た目的にも肉体的にも二十歳以下らしい。
せめて清田くらいはいて欲しいけど、いじめられ続けてきた俺の人生に、果たしてそう簡単に幸福が訪れるだろうか。
俺の現実と夢は、どこまでも境界が曖昧だ。
自分の名前はゼル。一人称をゼルとしているのは、自分という存在を他の人に印象付ける為……という、親からの変な教育の癖がまだ残ってるだけだ。
今更俺や僕に戻せないから、自分を一人称にしようと努力しているが、咄嗟の時に一人称がゼルになってしまう。
「そういえば貴方、愛音さんに自分の事を医者の端くれと言っていたそうですが、医学部生は医者ではありませんからね? あまり自惚れないでほしいです」
「そうだな……俺、咄嗟に喋ると変な事口走っちゃう癖があるからな」
親は、すっごい方言がキツい人達だった。周りは標準語ばっかりだったから、家庭と外で色んなギャップを感じる事が多かった。
色々と適応能力が高いから、友達もそこそこ出来て、小中のサッカー部じゃかなり活躍してた。
平凡な日々と、その記憶たち。
何気ない日常と、それを当たり前のように謳歌する大切な人に囲まれて生きてきた。
という……
「それは……なんとも風変わりな人生を歩みましたね。ですが、どうして医者になろうと思ったんですか?」
「いや、むしろ分かりやすいと思うが……」
「まあ、そうですね。それじゃあもう一つ。貴方は私を知っていたみたいですし、科学者を志していたとしても違和感がないほど、知識が豊富なようです。それは何故ですか?」
「それは俺の求むるものが、永遠だからですよ」
「……なるほど」
また、リーリと旅をしていた。
「大丈夫ですか?」
「だいじょうぶ?」
「死ぬ……死ぬぞぉ。死んじゃうぞぉ‼︎」
うつ伏せで寝ている不思議な少女がいた。ツインテール薄ピンク髪の、とにかくかわいらしい少女だった。
とりあえず起き上がらせ、汚れを払った。
「私の名前はフィシュ。貴方達の名前は?」
「俺の名前は愛音。水田愛音だ」
「わたしは、りーり‼︎」
フィシュの瞳は虹色で、どこか神秘的。というか、誰かの面影を感じる気がする。
「か、か、かわぁいいいいいいい‼︎」
「きゃっ‼︎」
めっっっっちゃ勢いよく、フィシュはリーリに抱きついた。確かに可愛いが、ここまでする感覚は理解できない。
今日のリーリの服装は、どこかお姫様を彷彿できてとても可愛い……そしてあの姉妹の趣味が溢れてる。まあその分、移動しづらい気もするが。
「とりあえず、今分けれるのはこれだけ」
「はむっ……ん、美味しい‼︎ めっちゃ美味しい‼︎」
食わせたのはガトーショコラもどき……と言う割には、クオリティーの高いガトーショコラである。
んで、拠点に戻ったってわけ。
「え、あの服貴方達が作ったの⁉︎ あのリーリちゃんの服、とっても可愛くて驚いたんだけど‼︎」
「そうだよ?」
「え〜っと、名前は?」
「私の名前はアリアス。それで、こっちは妹のルイス。ふふん‼︎ 私達を褒め称えよ‼︎」
「姉さん。やめなさい」
「なんか妹のお姉ちゃん属性が強い‼︎」
楽しそうでなによりなにより。それにしても、さっきからこの既視感はなんだろう。
「何の騒ぎですか?」
「桜木か。騒ぎってほどでもないが、新メンバーだ。あのピンク髪の子。フィシュと言うらしい」
「へ〜」
「あんまり興味なさそうだな」
そういえば、桜木さんは独身なのだろうか。冒険家との結婚生活とかちょっとどうなってるか気になるけど、わさわざ聞くほどではない。
「こんにちはお嬢さん」
「……誰?」
「あ、いや、ゼルはゼルという名前です。よろしくお願いしますと言いにきたんだ」
いつの間にかゼルがフィシュに話しかけていた。あいつ、いつも律儀に挨拶するからな……立派なもんだ。
「皆々様、ご機嫌ようでございます‼︎」
そうだそうだ。フィシュの元気さ、最近どこかで見たって思ったら、エンドのハイテンションと似てるんだ。
「……誰も、反応くれないのか?」
「いや、どうしてここに来たのかとか聞きたい事は山ほどあるが、なんか気力がない」
「酷い‼︎ 貴方達は、ジャスティスの心がないんですか‼︎」
「どの口が言ってるんだよ‼︎」
「この口だよぉ‼︎」
なんかこいつが可哀想に思えてきたな。ま、全部俺がやった事なんだけどな。あれ? これ俺もどの口案件?
「さてと、帰るぞ。フィシュ」
「……はい?」
つい咄嗟に腑抜けた反応をしてしまったが、エンドの瞳も綺麗な虹色だった。繋がる要素はあるか。
「……は〜い。分かったよ、お兄ちゃん?」
お兄ちゃん。つまり、兄妹という事か。確かに納得できるが、納得したくない俺の心もあった。少しの時間だったが、フィシュにあまり敵対を感じられなかった。
演技だとしたら……いや、演技なのだろう。
「「さあ、物語を始めよう‼︎」」
エンドとフィシュが天に手を掲げると、空が光り輝くと同時に遠くから大量の巨人と怪獣が迫ってきた。
エンドとフィシュの方に視線を戻すと、二人は既に何処かへと消えていた。
俺も、すぐにコックピットへと移動した。
「グラシャライ……発進‼︎」
およそ二十体ほどの巨人。数で来られると厄介だが、逆に数を生かした攻撃を警戒していればただただ鈍いだけである。
「まるで怨念だな……」
いや、何故俺は今、怨念と言ったんだ? そんなイメージ、怨念にはあったか? いや、まあいい。後回しだ。
「とにかくとっとと片付ける‼︎」
手刀で首を切り裂いても倒せる事が分かり、更に効率が良くなった。
「……だけど、いつものようにはいかないか‼︎」
鎮座していた怪獣が強大な砂嵐を発生させると、グラシャライや巨人達を一瞬で包み込んでしまった。
砂嵐によるダメージはあまり強力なものではないが、それによる視界不良はかなりキツいものとなる。なんとかして、気配を読み取るしかない。
「だが、その程度で終わるほど……俺は弱くはない‼︎ あまり舐められては困る‼︎」
「そうだ‼︎ 私が合図をするから、それに合わせろ‼︎」
「分かった。ありがとう‼︎」
エイジーのおかげで、思ってたよりもサクサクと巨人を倒していき、残りは怪獣だけだ。
その、はずだった。
「……なにか、来てる。あれはなんだ?」
何かが、砂嵐の中で動いている。少し、ダメージを受けた。あれは、黒かった。
なんだ? 巨人でも、怪獣でもない。その攻撃は、熱量を持った攻撃だった。だがそれは、少し斬撃に似ていた。似て非なるものだった。
砂嵐だから見えないのではない。それだけだったら、エイジーが捉えられないわけがない。とてつもないスピードで、俺の周辺を旋回している。
少し、風が変わった。音が変わった。
「反応した⁉︎」
「くぅっ……起動兵器だとぉ⁉︎」
グラシャライの拳と、敵のビームの剣がぶつかり合う。熱量は、あのビームの剣のせいか。
「それに、お前……フィシュか‼︎」
「そうだよ‼︎ そしてこの機体の名前はダクディーバ。そしてこれは、ダクソードだ‼︎」
このままぶつかり合っても状況は変わらないと察したのか、ダクディーバは後退。また見えなくなる。
「エンドレスブーメラン‼︎」
目の前に足だけ現れたと思えば、そこから発射された巨大なビームのブーメランに両手を引き裂かれる。
痛覚共有はしてないが、そのショックは通ずる。
「止めの……ギルティアックス‼︎」
俺はまた、死を覚悟した。
「その人は、やらせないぃぃぃぃ‼︎」
未完成のルフランと、ゼルの声。驚く俺を置き去りにするかのように、不意打ちでダクディーバの腕を斬る。
「そしてぇ‼︎ ここだぁぁぁぁぁぁ‼︎」
勢いよく地下へと潜り、砂嵐が消える。地面の中に怪獣が隠れていて、そこに攻撃したようだ。
「これで、オワリダァァァァ‼︎」
振り払おうとする怪獣にしがみつきながらビームブレードをぶっ刺し、そのまま怪獣を撃破した。
だが、同時にルフランも機能を停止した。
「邪魔は入ったけど、怪獣が倒されただけ。そうつまり、私の勝ちは確実‼︎ よっし‼︎」
どれだけ動かそうとしても、グラシャライは動かない。
「動けよ……ここまでお膳立てされて、仲間が頑張ってくれたのに動けないのかよ。動けよ。動いてくれよ‼︎ 動きやがれこのバカロボットがああああああ‼︎」
「今度こそ、これで‼︎」
「……いや、待て」
「今度はなに? お兄ちゃん」
エンドが、フィシュの攻撃を止めた。何故かは分からないが、とにかく助かったの……か?
「お前、怪獣と巨人の正体……知りたくないか?」
「そもそも、教えてくれるのか? こういうのは、隠しておきたいものだと思うが」
「別に隠すようなものじゃないさ。着いてこい」
「いや俺、今動けない」
「……じゃあ、フィシュ。運んでやってくれ」
「は〜い。分かりました〜」
グラシャライから降り、ダクディーバに乗り込む。もうちょい正確に言うと、ダクディーバの掌に死なない程度に掴まれていた。
俺はそこで、真実を知る事となる。軽い気持ちで求めてはいけなかった、残酷な真実を。




