プレリュード・2115
「リーリは、親とかいないのか?」
「わたしは……親とか、あんまり覚えてません。わたしをうんでくれたのに、思い出せないのはいけないことでしょうか」
「あんまりか。そうだな……確かに、産んだ親からすると辛いだろうが、俺も昔の記憶が思い出せないし、色々と受け入れていくしかないよ」
「いろいろと……うけいれる?」
「そう。受け入れて、進んでいくのさ」
リーリと出会ってから、体感約一週間が経過した。既に六人の生存者を見つけ、寂しさは消えてきた。
東京スカイツリーが、あるから東京だと思っていたのだが、探索してみると恐らくだが違うという事が分かってきた。
確証はまだないが、恐らく何かの拍子に陸地が崩壊していき、残った大陸達が一つになってこの大陸を構成しているようだ。
俺達はこの大陸を、終わりの地と呼んでいる。
「そろそろスカイツリーの方へ戻るか」
「りょうかい‼︎ あいおさん‼︎」
あの時拾った少女に何故リーリと名付けたかは、自分でもよく分かってない。なんとなく、似合う気がした。
「おはっす‼︎ お二人さん‼︎」
「おお、桜木か‼︎ 今日はどうだった? なにか、発見とか生存者とかはいたのか?」
「生存者はいなかったです。だけど、恐らく海は汚染されちゃっててダメですね。やっぱり、しばらくは偶然見つけた井戸水で補うとして、浄水装置を早く作らないと」
「海の汚染か……どんな感じだった?」
「あれは酷いですよ。触りませんでしたが、恐らく触れただけで溶けてしまいますよ」
「マジかよ……」
こいつは、俺とリーリの次に見つけた生存者。名前は、桜木龍平というらしい。冒険家だったらしいので、生存者探索の仕事を与えている。
スカイツリーのすぐ下に作った拠点に帰ってくると、残りの生存者がそこに集まっていた。
「「「おお‼︎ 戻ってきたか‼︎」」」
この三人の名前は、イルガ、ラルガ、ガルガ。三人共、身長がめちゃくちゃ低い。普通に考えたら兄弟とかだが、本人達によると、特に血縁関係ではないらしい。
奇跡というか運命というか。こんな事あるんだ。
このルガ三人衆……あ、これ俺が勝手にそう呼んでるだけね。は、三人揃えばマジの無敵で、なんか1日も経たずに建物を建てれる。どうなってるかは分からん。怖い。
その上で頑丈なのが、さらに頭をおかしくさせる。
「あ、愛さんおかえり〜」
「リーリちゃんもおかえり」
「「ただいま〜」」
この二人の女性の名は、アリアスとルイス。この二人は正真正銘の姉妹である。金髪姉のアリアスと、銀髪妹のルイスである。
この二人は、主に料理や裁縫などを担当してる。
今俺達が着ている服も、アリルイ姉妹が作ってくれたものである。ちょっと趣味が強いけどね。
「今日の飯はなんなんだ?」
「あ、愛さん。今日はねぇ……なんかビーフシチューの素が入ってたから、ビーフシチュー‼︎」
「いい匂いがするわけだ」
「愛兄さん、姉さんに近づきすぎです」
アリアスは愛さん、ルイスは愛兄さんと俺を呼んでいる。桜木は、呼び捨てで、ルガ三人衆は愛っさん呼びである。人それぞれだ。
飯については、地下から大量の保存された食料が出てきて、とりあえずはそれを食べている。
誰が、どういう目的で、どうやって保存したかは全く分からないけど、入ってたメモの中に勝手に使えと書いてあったから、ありがたく使わせてもらっている。
翌日。俺はまたリーリと旅をしていた。
「あまりに、全てが上手く行っている。いや、行きすぎているとも言える。なんつーかすっごい……不気味だ」
「いいことじゃないんですか?」
「優秀なメンバーと、ある程度の素材が揃ってるなんて、もはや誰かに仕組まれているとしか思えない。エイジーも何か知ってそうだけど、教えちゃくれないし」
今、色んな場所から素材をかき集めてスカイツリーを中心とした生活圏を作ろうとしている。色々と厳しいと思ってたのに、上手くいっている。
「はい。あ〜ん」
「ん……ありがとう。リーリ」
昼食を食べている。どうしてなのかは分からないけど、リーリは俺によくあ〜んをする。夢の中だと、ヒカレと何回もやってたはずだけど、現実でやると恥ずかしい。
「……どこまでも死体だらけで、嫌になるな」
「そうなんですか?」
「なんでそんな死体耐性あるかなぁ〜?」
普通、死体耐性のある子供ってあまりいないはずなのに、なんか違和感が仕事をしてない。それどころか、既視感すら感じる。
記憶ないけど、想像以上に血生臭い世界にいたのだろうか。
「お〜い誰かいませんか〜‼︎」
「いませんか〜?」
新しい地点に来たので、生存者を探している。この周辺は、少し日本と違った雰囲気を感じる。崩壊してない中で最も高いビルの上に登り、周りを見渡す。
「あれ、なんですか?」
「あれ?」
「あの……おおきいおひとのてっぽいの」
大きい人の手っぽいの……まさか、巨人⁉︎ いや、どちらかといえば石っぽいな。石像? 有名で、巨大な、石像といえば、一つ思い当たるものがある。
「自由の女神……猿が出てこないといいが」
「じゆうのめがみ? さる?」
「自由の女神。アメリカっていう国の、自由の象徴にして多分世界一有名な石像。まあアメリカが作ったわけじゃないんだけど。猿は……そういう映画」
だから気にしない方がいいとも付け足した。
自由の女神は、崩壊したビルの瓦礫に埋もれている。これを見ると、世界が崩壊した事を再び感じる。自由という名の希望は、既に壊れてしまっていた。
「じゆう……」
なにか、思い詰めている顔をしていた。リーリは、仕草などで感情を理解できるが、表情自体はあまり変わらない。まるで、人形のよう。
「おい、こっちだ‼︎」
声がしたのは、俺達のいるビルのすぐ近く。金髪の男が、怪我をしている一人の男を抱えながらこっちに向かって移動している。
すぐさま、俺達はそちらの方へと向かった。
「これは……致命傷じゃないのか⁉︎」
抱えられてる男は、既に死んでてもおかしくない量の血が流れていた。
「ところがどっこい。こいつ、生命力が強いのかまだ全然ピンピンしてるぜ。ゼルも医者の端くれだ……あ、俺の名前はゼルだ。よろしくな」
「俺は愛音。こっちはリーリ。とにかく分かった。どう考えても異常だが、とにかく無事を喜ぼう」
抱えられてる男は、クルリラという名前らしい。科学者で界隈では有名らしい。聞き覚えはあるが、やはりあまり思い出せない。
拠点に戻る頃には、クルリラ博士は意識を取り戻していた。どうなってんだよ。
「愛さん……どうなってるんですか? この人」
「いや分かんない……分かってたまるか。こんな超人的な生命力。全人類こんな感じだったら、もう少し世界は幸せだったんじゃないのか?」
「人の夢ですね」
「人の夢ですわぁ……」
確かに人の夢だけど、なんかもうその次元すら超えてる気がするぞ。
悩んでいると、耳元に優しい歌声が聞こえてきた。なんの歌かは知らないけど、幸せな気分になる歌。
「アリアスさんって歌、上手いんですね。心が温まるような、心地よい歌声です」
「え? あ、そうかなぁ……歌手じゃないけど、なんか歌に関連する仕事をしてた気がするんだよね〜」
「顔がいいからアイドルもいけそうだけど……例えばだけど、音楽科の教師とかやってそう」
「なんかそんな気がしてきた〜」
「それでいいんですか」
「いいんですよ。きっとそれで」
今考えても仕方ないところは確かにある。今はそれぞれが役割を持って、必死に生きてる。ただそれだけの今なのだから。
遠くから、とてつもない轟音が響き渡る。
「怪獣?」
「そうみたいです。アリアスさん。皆んなを……そして何よりもリーリを、頼みますからね」
「分かってる。気をつけて」
「あぁ。行くぞ。エイジー‼︎」
時計を天に掲げると、俺はいつの間にかグラシャライのコックピットの中にいた。
「準備はいいな?」
「おうよ‼︎」
「グラシャライ……発進‼︎」
グラシャライはスカイツリーから勢いよく飛び上がり、怪獣の所まで一っ飛びする。巨人が五体おり、怪獣はその奥で鎮座している。
「容赦無く人を殴り飛ばす感覚……やっぱ慣れないな‼︎」
動きが鈍い分、倒しやすい。コックピットから動かしているとはいえ、同時に意識もリンクしている。あまり良い感覚ではないのは確かだ。
「足や手に意識を集中すると、一時的だが少し攻撃力が上がる。使ってみろ‼︎」
「それ最初に言ってくれないかなぁ……」
試しに足に意識を集中させ、大きく飛び上がる。
「エンドネスキック‼︎」
巨人三体を撃破。そして着地後、すぐさま手に意識を集中させ、残りの二体へと攻撃する。
「エンドネスパンチ‼︎」
巨人二体を撃破。これであとは、怪獣だけだ。
「このままの流れで、怪獣も倒せるか? こういう時、調子に乗って負けるのが定番なんだが」
「とやかく言う前に、まずは攻撃してみなさい」
「分かった。エンドネスパンチ……っ⁉︎」
怪獣は、エンドネスパンチを無防備に食らった。だが、怪獣は微動だにせず、そこに鎮座していた。
次の瞬間、グラシャライは謎の衝撃波で弾き飛ばされていた。
前の亀の硬さとも違う。あれはただただ攻撃力が足りなかっただけだが、これはそもそも攻撃そのものがあいつに通じていない。
とにかく、残りの攻撃も試してみよう。
「「エンドネスフルビーム‼︎」」
これが、俺達の繰り出せる最大最強の攻撃。なのに、あの怪獣はそれでも余裕そうに鎮座している。それどころか、さっきより更に強い衝撃波でこちらを吹き飛ばした。
「ぐわぁぁぁぁ‼︎」
「やっと分かった。あの怪獣の能力は、こちらの攻撃を吸収して、衝撃波に変換する能力」
「そう‼︎ この怪獣の能力は反射。その代わり衝撃波しか繰り出せないけど……人を蹂躙するには、十分なのさ‼︎」
エンドが、大声で解説を入れてきた。こんな大声で喋って、よく喉が枯れないもんだと素直に感心する。だがまあ、それどころじゃないが。
このままだと、負ける。
「怪獣よ‼︎ こいつに止めを刺してしまえ‼︎」
やっぱり、俺にヒーローなんて無理だったんじゃないのか? 立ち上がろうとしても、少しの恐怖が俺の動きを止めてしまう。
刹那。
「がんばれぇ‼︎ あいおさぁぁぁん‼︎」
「……そうだな。そうだよなぁ。俺が、ここを守れるただ一人なんだよなぁ。負けるわけには、いかないよなぁ‼︎」
力を振り絞り、立ち上がる。
「愛さん‼︎ 貴方に渡したいものがあるから、とにかく飛び上がって‼︎」
「わ、分かった‼︎」
言われた通り飛び上がってみると、所謂ジェットパックのようなものが背中に合体した。
「クルリラ博士がお礼に、ラルガさんとイルガさんとガルガさんと協力して作ったんだって‼︎」
「ありがとうって言っといて‼︎ あと、アリアスさんもありがとう伝えてくれて‼︎」
多分、リーリに応援をしようと提案してくれたのはきっとアリアスさんだ。みんなには色々と、助けられっぱなしだ。
それはそれとして、開発のスピードどうなってんの。
本当、おかしな世界だ。
「「フラインググラシャライ‼︎」」
「なんなんだ……なんなんだよ、それは‼︎」
名前はさっきから即興で考えている。エンドは、この力にキレてるはず。流石に名前にキレてるんじゃないはず。
「あとね〜? さくらぎってひとから、そのかいじゅうならうみをかつようしてって‼︎ いってた‼︎」
二回目の叫びで、リーリはお疲れのご様子。
海を活用か……海は今、汚染状況にある。そういえばさっきエイジーは、反射する過程に吸収とか言ってたな。
「……なるほど。反射の破り方の一つ。供給過多と、内部攻撃を同時に行おうってことか。行くぞ‼︎」
「大体理解した。共に行こう‼︎」
ジェットの噴射を利用しながら、怪獣を掴んでそのまま海の方へと運び、海に投げ入れる。
「反射の破り方。まずは、反射の効力が及ばない内部を直接攻撃する事。海は馬鹿みたいに広がってる。吸収から反射までの過程が間に合わないし、同時に内部からじわじわと壊していく」
つまり、めちゃくちゃダメージ与えて内部から壊そうって話だな。
その辺の対策してなかったのは意外だが、そもそも怪獣がどういう存在なのか知らないし、そう考えたら結構賭けだったかも。この作戦が通じるかどうか。
「撃破を、確認しました」
「了解。戻ろう」
ま、倒したから良いか。
コックピットの中には、とある文字が刻まれている。
「《怨念探偵》か……何を示しているんだ?」
どういう意味を表すかは分からない。グラシャライに関わる何かなんだろうが。
「聞いても、グラシャライは何も答えてはくれないぞ。いつかは教えてくれるかもしれないが」
「そもそも、こいつ意志あるのか?」
「ある‼︎」
「あるんだ……」
ますます謎が深まった。エイジーも、敵でない事を祈りたいが、確証は出来ない。信頼しても良いとは思ってるが。
このままじゃまずい。このままでは、俺達の目的の達成は不可能だ。
「なんて強さだ……このままじゃ、全ておじゃんだ」
あいつらに、助けを求めるしかないか。




