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英雄達の忘備録  作者: 雪下ソユキ
Record3:コンチェルト・フィナーレ
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15/24

空夢のイントロ

Record3、開幕‼︎

 日常。

 それに対して君は、どう思っているだろうか。


 退屈? それとも幸福? それとも苦痛? 人それぞれだろうけど、俺は何気ない日々がこの世で一番大切なものだ。


 ――という長々しく鬱陶しい感じの前置きなんか置いといて、俺の名前は水田(みずた)愛音(あいお)。漢字だけ見ると女性っぽいが、普通に男だ。


 昔はよくそれでいじられたもんだよ。


「ただいま〜」


「お帰り、ダ〜リン? ご飯にする? お風呂にする? そ・れ・と・も・私?」


 この可愛い生き物は、小野(おの)ヒカレ。高校から付き合っていて、最近やっと結婚出来た。


 今は新婚生活一年目の、仲良し夫婦である。



 ……これ、自分で言うのくっそ恥ずいな。



「そういえばダーリンの誕生日パーティー、清田(せいた)と天華(てんか)が来れるらしいよ。それ以外はまだ連絡来てないよ」


「本当か⁉︎」


「……毎度思ってるけど、ダーリンはあの二人の事も結構好きだよね。いや、likeの方なのは分かってるよ?」


 清田と天華は、こっちも高校生の頃からの付き合いで、そっちは事実婚状態で、いつかちゃんと結婚出来るのを俺も待っている。


「さてと、お風呂一緒に入る?」


「いやちょっと今日は……」


 いつもの日常と呼ばれるものも、ヒカレと一緒ならいつだって光り輝いている。




「あれが出来てから、もうかなり時間が経つなぁ」


 俺が見てるのは東京スカイツリーの、更にそこにくっついている謎の生物である。


 巨大な、人のようなトカゲのような……摩訶不思議な生物は、ある日現れたと思えばそのままスカイツリーの上で立っている。

 手はまるで縛られているかのように浮いており、未だに科学者が解明に勤しんでいる。


「オカルトが有ってもいいと思ってはいたけど、まさかここまで大胆に来られると反応に困るよな」


 オカルトにロマンを感じるのは、それがロマンだから。そう思っていたから、あれを見てから一切ロマンを感じなくなってしまった。


 あ、そうだ。あれを国は、《グラシャライ(特異怨念)》と名付けたらしい。




「ふぅ……今日も仕事終わりっと。爆速で終わらせたら、上司が融通を利かせてくれて助かったな」


 今日が俺の誕生日だからと、すぐに仕事を終わらせた俺を定時より前に返してくれた。

 西暦2052年、とっても良い世の中になった。


「ほう、それが貴方にとって幸せですと?」


「そうだが……って、お前誰? 今すっごい良い気分だから、あんまり邪魔しないで欲しいんだけど」


 唐突に後ろから話しかけられて、振り向くとライトブルーの髪色と謎の刺青が目立つ男だった。


「その程度が、貴方の幸せなのですかと、そう聞いているんですよ。私は」


「は……? 幸せに決まってるだろ……?」


 そう返答すると、その男は心底呆れた顔をしていた。まともな回答だと思っていたが、やはり人と人は違うって事なのだろうか。


「そうですか……私の名前はエンド。また会いましょう」


「いや俺、二度も会いたくな……ってもう消えたし」


 とりあえず逃げ足が早いという事だけは分かった。




「「愛音、誕生日おめでとう〜‼︎」」


「ありがとう〜‼︎」


 ヤッベェ幸せで死にそう。これ以上の幸福があっても、そんなのいらない……そもそもあるのか?


「ダーリン? 大丈夫?」


「……ああ、ちょっと幸せで死にかけてた」


「死んだら嫌だよ?」


「そういう事じゃない……」


 たまに、ヒカレは冗談を真に受ける事がある。大体俺に関しての事だから、まあ愛されてるという事だろう。


 つまりただの惚気だ。


「いや〜やっぱり二人のいちゃつきを見るのは栄養ですよね。清田くん」


「結婚しても相変わらずで安心したよ。ま、今日は愛音の誕生日だし、俺と天華のいちゃつきは自粛かな」


「え〜? 残念〜」


「「いや、めちゃくちゃいちゃついとるがな」」


「「そっちに言われたくない」」


 俺とヒカレの言葉に、すかさず反撃を入れてくる。その辺も含めて、昔と変わってないな。



「そういえば、銀状総理がまた総理になったってね。あの人一体何年やってるんだろう」


「自分の誕生日パーティーなのに政治の話か? 俺はその辺の話題、疲れるからパスだ」


「政治の話というより、銀状総理の話だよ。あんまり話した事なかったけど、実は俺あの人のファンでさ〜」


 銀状総理。

 正義の二文字がよく似合う人で、この世全ての戦争(あらそい)を終わらせた事で、現代の英雄と呼ばれている。


 とにかく本当に、一つ一つかっこいい。なんかすっごいイケおじだし、声もいい。今の渋めで重厚感のある声も、昔の若さもあるのに大人っぽい声も凄い良い。そんで、喋る言葉が一々かっこいい。男として惚れるわあんなん。


「良いのか〜? 浮気じゃないのか〜?」


 もう清田は酔ってる。このメンバーの中でも、、清田さんが一番酔いが回りやすいのか。少し意外だ。


「大丈夫ですよ。だって、ダーリンが私をこの世で一番愛しているの、分かってますから」


「……清田さん。私、最近清田さんが神翔桜美ってアイドル推してるの知ってるんですからね? あれ、私にとっては浮気なんですけど」


「あっはっはっは……ごめん」


 修羅場かな? 修羅場かも。




 日々はいつも変化していくものだ。

 それに置いていかれないように、いつも俺はニュースを見る事にしている。


「信仰教団メフィヴェントねぇ……最近は、このニュースばっかりやってるなぁ」


 同じニュースが長々とやってると飽きる……と、いうよりかはそういうニュースは大体精神にダメージを与える事が多いのだろう。


 けど今回は、これが清田が解決した事件に関係しているという事もあるだろう。清田は探偵で、天華がその助手をしていて、漫画みたいに事件を解いている……偶に。


 少し前、清田はメフィヴェント絡みの事件を解き、更に謎に包まれていたメフィヴェントの黒い闇に触れてしまったらしく、やっと会えたのが今回のパーティーだった。


「世界平和なんて望まない。この幸せな日々に、ずっとずっと……浸かっていたい」



 ザザザ ザザザ ザザザ



 あれ、テレビが突然砂嵐に包まれた。スノーノイズと呼ぶらしいが、大抵こういう時、物語だと誰かが語りかけてくるんだよな。


「こんにちは。愛音さん」


「お前、昨日の……エンドとか名乗ってたやつか。というか、どうやってテレビから話しかけてる……?」


 オカルトじゃなくて技術的に可能なら教えてほしい。これでちょっとヒカレを驚かせたい。


「……もう一度聞きます。貴方は、今の日々が幸せと、そう断言するのですか?」


 無視かぁ……まあ、答えは変わってないけど。


「俺は、今の日々で十分を超えるほど幸せだよ」







「……それが全て嘘偽りの、夢の中の物語だとしても?」


 言葉が理解できなかった。


 いや、理解……したくなかった。


 これが夢? 幻? 試しにほっぺをつねってみるが、ちゃんと痛みは感じる。なにより、この温かみを感じる日々が嘘偽りなんてあり得ない。


「ありえない……なんて言葉こそ、ありえないんですよ。あ、でも私の言葉は別に信じなくてもいいですよ?」


「じゃあ、お前が何を伝えたいんだよ」


「どこまでも幸せな空想な世界に貴方がいるとして、でも貴方は現実に行く権利を持っているとする。だけど、行かないのも自由。だったら貴方はどうしますか?」


 俺には、あまりにも残酷な選択肢に思えた。

 どこを現実とし、何を空想とするかなんて、それは普通の人に与えるにはあまりに大きい選択肢だ。


 そもそもそこが空想でも、そこで幸せならそれで良いんじゃないかって俺は思う。


 物語の主人公のほとんどは、そこで仮初ではなく現実を選ぶ事が出来る。けど、そこにはその先に待つ全てを乗り越えるという強い意志があったはずだ。


 俺には、それがない。


「例え空想だとしても、幸せでいられるならそれで良いと思うから、権利があっても行かないかも……というか行かないな。現実には」


「空想という事実が、ずっと貴方を苦しめますよ?」


「空想が現実かなんて、誰かが決めるものじゃないよ」



 すると、エンドは突然長々と考え始めた。


「……なるほどなるほど。ま、貴方が愚かで良かったとでも、言っておきましょうか?」


「は……?」


「私には嘘が分かるんですよ。だから、今の言葉が嘘だという事も簡単に分かるんですよ」


「俺は、己の魂から出た言葉しか喋った覚えはない‼︎」



 その時、視界が激しく揺れた。


「どうなってる……?」


 ベランダに出て街を見るが、空は焦げ、ビルは徐々に消滅していき、人は何処にもいなかった。


「街が……いや世界が消えていってる。なんで、俺は何か間違えたのか? まさか、エンドの言っている事は本当だったのか……?」


 突然、俺の体は宙に投げ出された。

 まるで反重力を受けているかのように、焼け焦げた空へと体は進み、そのまま視界は暗転した。








「ようこそ……ここが、滅亡と絶望の世界だ‼︎」


 エンドの声が聞こえ、目を覚ました。


「なんだよ……なんなんだここは……⁉︎」


 空は赤暗く染まり、荒廃した街の周りには大量の死体が転がっていて、街にあったビルは、崩れるか死体がくっついて赤く染まっているかの二択である。大地は砂漠と化していて、黒く染まっているところはおそらく死体から出た血なのだろう。


 赤く染まった東京スカイツリーの上には、未だ揺るがず《グラシャライ(特異怨念)》が顕在していた。


「君のおかげだよ」


「俺の、おかげ?」


「君があの時嘘をついたから、あの幸せな牢獄から僕達は脱出できたんだ。まあその余波で、世界は今こんな有様だけどね」


  つまり、つまりは……俺のせいで、大勢の人が?


「なんでだよ……みんな、俺のせいで……俺なんかのせいで死んじまったって事かよ‼︎」


 飲み込めない。飲み込める訳がない。今までの幸せな記録が全てが夢で、俺の選択のせいで大勢の人が死んで、けど俺だけは生き残っている。


「ウエアェアアアアアアア‼︎」


 真横から、巨大な巨人が現れた。《グラシャライ(特異怨念)》ともまた違う、目も鼻も口もある白い巨人。


 俺はすぐ逃げ出した。幸い、動きは遅い。


「あの巨人は、《エンスピ》と呼んでね……怪獣を守る役割を持っているんだよ」


「怪獣……?」


 よく遠くを見ると、もう一体の《エンスピ》と巨大な怪獣らしき生き物がゆっくりと移動していた。


 無我夢中で東京スカイツリーをよじ登り、なんとか展望デッキに辿り着いた。心なしか、夢の中よりも圧倒的に力がついてる気がする。


「痛っ……⁉︎」


 頭に本が降ってきた。ふと、上を見上げるとそこには、《グラシャライ(特異怨念)》の断片らしき球体があった。

 そしてそれは、二回ほど禍々しい光を放った。


「呼んでるのか? いやでも、これしかないか……‼︎」


 壁をよじ登り、そのまま断片らしき球体へと飛び込む。


 すると、断片の中に取り込まれ、その中はまるでロボットのコックピットのようになっていた。


「これは……? いや、まさかそんなってうわぁあああ⁉︎」


 球体は突然動き出し、スカイツリーの上部分を突き破りながら俺ごと《グラシャライ(特異怨念)》の中に取り込まれた。


「お主、ヒーローになる覚悟はあるか?」


 コックピットの中にある、謎の球体が話しかけて来た。

どうしてそうなってるかは知らないけど、よくあるロボットのサポートAIみたいなものなのだろうか。


「我はエイジー。お主、ヒーローになる覚悟はあるか?」


「ヒーロー? 俺が? 今更? でも……これ以外、選択肢はないんだろ? だったら、やってやろうじゃねぇか‼︎」


 《グラシャライ(特異怨念)》は、まるで俺の手足の如く動き始めた。


「気づいたか? お主の思念とリンクして、これは動くように設計されている。細かい動作を思念で、大雑把な動きは操縦機による動作で十分だろう。要は使い分けじゃな」


 武器らしきものが何処にもないから、とにかく巨人相手に殴る蹴る、体当たり、頭突き、チョップ、ボディープレスと、様々な攻撃を試してみる。


「ダメージはあるみたいだけど、有効打になってるか?」


「巨人は人間と同じく、胸の辺りと頭が弱点だ‼︎」


「了解‼︎」


 二体いるうちの、片方はまず頭を押し潰して、もう片方は勢いよく胸の辺り……正確には心臓を殴った。


 巨人は、まるで人間かのように血を流し、だがその後すぐに爆発した。あまり、こういうのは得意じゃないかもしれない。


「まだ怪獣がいるぞ‼︎」


「分かってる‼︎」


 巨大な亀のような見た目をしたその怪獣は、甲羅から雷のような電撃をこちらに飛ばして来た。


「避けろ‼︎」


 怪獣から遠ざかるように逃げてみるが、回避した先に雷が落ちて直撃してしまった。


「ぐぅっ……こいつ、誘導してたな⁉︎」


 怪獣が、甲羅を回転させながらこっちへと突撃して来た。なんとかジャンプで躱したが、かなりのスピードだし当たってたらまずかった。


 そしてなによりも、なによりもだ。


「ゲームとかでよく見る動き方じゃねぇか‼︎ 亀って別にそういうんじゃないだろ‼︎」


 怒りのまま拳をぶつけるが、甲羅は硬すぎてダメージが入っていないようだ。


 頭や尻尾を攻撃しようにも、すぐ甲羅の中に引っ込む。


「戦いづらいな……ああ、なんだかこう、必殺技みたいなのないのか?」


「……あるぞ?」


「あるの⁉︎」


 あるかな〜? でもないよな〜? とか思ってたのに、普通にあるんかい。びっくりして栗になるわ。


「口から、巨大な必殺ビームを放つ事が出来る。発動の為のコードは、グラッジチャージからの……」


「了解‼︎ グラッジチャージ‼︎」


 《グラシャライ(特異怨念)》は口を大きく広げて、そのまま体の至る所で紫の光を放出していた。


 怪獣はそれを危険に思ったのか、電力をチャージしてそれを一つの巨大なビームにしてこちらへと放つ。


 だけど、もう遅い。


「「エンドネスフルビーム‼︎」」


 ビームが激しくぶつかり合い、散る光がその激しさに美しさを与えていた。それでもすぐに、こちらのビームが打ち勝ち、怪獣の甲羅を貫いた。


「お疲れ様でした。我々はスカイツリーにいつもいますから、出番になったらその時計で呼び出してください」


「……あぁ。分かったよ」


 スカイツリー周辺に落とされた俺は、まずは生存者を探す。その目的の為に、ゆっくりと歩き始めた。



 ガザッ……ゴゾッ……


「生きてる、子供だ」


 瓦礫の中の隙間から、子供が一人で泣いていた。その少女に手を差し伸べてみる。


「一緒に、来るか?」


「うん……」


 俺達は荒廃した世界で、前へ進み始めた。

今のところ、世界観全く違いますね。

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