根源に在る事実
「……ただいま」
「……ああ。おかえり」
俺の両親は既に亡くなっており、帰りを待つのは俺を引き取ってくれた今の父さんしかいない。
それと同時に、俺の正体が怪人であるという事を知っているのは、父さんだけである。
「今日、トルギスとかいう奴と会った。そいつは、《ツヴィオ》とかいう新しい怪人組織を作りたいってよ」
「……そうか。流石に俺はもう、戦えないな」
「当然でしょ。流石に父さんも年なんだから、俺的にもあまり無茶はしてほしくないよ。それに、戦えたら戦えたで、それはそれで後進育成的に良くないでしょ」
父さんは、元々《ヴィツィオ》の首領を倒した伝説のヒーローだった。
だが、その日に負った傷で引退しており、もう二度と表舞台に戻る事はないだろう。
「これも、あの日以来使っていないからな」
かつて父さんが怪人と戦う力を得る為に使っていたアイテムも、朽ち始めていた。つまり、かつての父さんは、変身ヒーローだったという事だ。
《ヴィツィオ》の首領が倒された後、組織の基地の崩壊から傷だらけの父さんが助けてくれた事が、全ての始まりだ。
「とにかく、気をつけろよ。お前は……」
「うん。分かってる」
学校では、大抵三人で話す。というか、俺はあの二人しかまともな友達がいない。まあ、あまり人に好かれない性格なんだろう。
性格は治んないだろうし、そこら辺は割り切ってる。
本や映画など、娯楽が好きだ。
楽しんでいる間は、厄介なこの感情達を退けられるほどに没入出来るからだ。
「だから、いつも私達がいない時は本読んでるんだ〜」
柚子に昨日の話を一部隠しながら伝えたら、そこの場所に私も連れてってと言ってきたから、学校帰りにその裏路地に連れていった。
「ここで襲われてたんだよな、こいつ」
「本当、めちゃくちゃ助かったわ。あのまま連れ去られていたら、どうなってた事やら」
とりあえず、トルギスという怪人の人攫いに襲われかけて抵抗してたところだった……という事にしてある。
なんか、まるで現場検証でもしてるのかって思うくらいに柚子は真剣な瞳で昨日俺が人攫いにあった場所の周辺を観察している。
「ん〜。もうちょっとで分かりそうなんだけどな〜」
「何がだ?」
「ん……真相とか?」
「なんでそこで疑問形なんだよ」
なんか軽いノリで進んでるけど、これ本当に分かるんだったら軽くホラーなんだが。というか、これ実はかなりヤバい状態なのではなかろうか。
いや、流石に大丈夫だと信じたい。
「組織の……勧誘?」
大丈夫……だよな?
「ねぇ……来ってさ」
柚子の瞳は、俺をしっかりと捉えていた。
バレたくない。俺は、日常という名の幸せの結晶を決して壊したくない。恐怖が、蛇のように俺に絡みつくのがよく分かった。
どうすればいい。口を塞ぐでも、何がなんでもこの状況を破壊出来ない。俺は所詮、怪人という生物であって超越者じゃない。記憶を書き換えたり、世界ごと上書きなんてもってのほかだ。
「わ……」
待て、俺は破壊といったか?
もう既に……俺は、手遅れなところにまで来てるのかもしれない。
逃げられない。逃れられない。いつだって、俺はどうしたっても変われない。
そもそもどうして俺は、こんな泥まみれの道を歩もうとしているんだったっけ。解放すれば全てが済むはずの話だったのに、どうして俺は。
「な、なんで……なんでお前が⁉︎」
俺は……なんで、柚子の首を絞めているんだ?
「ばけ……もの⁉︎」
柚子の首から手を離し、俺の腕を見ると、黒く怪人の体へと変化していた。まだ人間の部分が残っているが、それでもほぼ怪人の姿だった。
こんな所で? 嘘だ。俺は、今まで散々注意してたはずなのに。何故? どうして? 俺は、俺はあ?
「そうです。所詮貴方は、そちらの運命から逃れる事は出来ない。そちらの運命は、ですが」
どうにも出来ないのか? 俺には。
「……よく言うよ。この子に、何か仕掛けた事なんて側から見てた私からも分かるのに」
後ろを振り向くと、ムーン・ミナスがそこで立ってた。
最悪、このまま俺をこの人に倒してもらった方が良いだろうか。この期に及んで覚悟が決まらない愚か者は、このまま生きていても良い事なんてきっとない。
「逃げるよ‼︎」
「「なにっ⁉︎」」
ムーン・ミナスは、俺を引っ張って逃げる事を選択した。その衝撃で、俺はトルギスと全く同じタイミングで全く同じ反応をしてしまった。悔しい。
ムーン・ミナスに連れられ、俺は廃墟へと入った。
「俺をどうする気だ?」
「まず慌てず深呼吸をして、心を落ち着かせて。そうすれば、段々怪人の姿から人間へまた戻れるはずだから」
「あいつらは⁉︎ あいつらはどうなったんだよ‼︎」
ムーン・ミナスに連れられここまで来てしまったが、あいつらを置いてきてしまった。
あいつらが無事じゃなきゃ、俺が運良く生き残ったって、何も意味がない。いや、俺が死ぬ意味は増えるか。そういう意味では意味がある。
「大丈夫。私の優秀な仲間がさっき病院に運んでくれて、命に別状はないみたいだから。信頼して、ゆっくりと落ち着かせて」
「……あぁ。分かった。本当、ありがとう」
そこからおよそ十分くらいかかって、俺の体は完全に人間に戻る事が出来た。
「ありがとう。ムーン・ミナスさん」
「ムーンさんにしてくださいよ。それかミナスさん」
「じゃあミナスさんで」
俺は正座しながら、椅子に座ってる彼女を見上げた。よく見ると、というか当然ながら美人だ。
「まずそもそも、なんでここに助けに来れたのかを言っておきます。前回会ったその後、少し興味があって貴方の事を調べさせてもらったのですが…」
何故興味を……?
と思ったけど、まあ話の腰を折る事しか出来ないだろうから、一旦頭の隅っこにしまった。
「…実に興味深い。《ヴィツィオ》壊滅時に、首領を倒した伝説のヒーローの養子となった。そして、薄々勘づいてましたけど怪人」
「よく調べましたね」
「情報を仕入れるのは得意ですから。それで調べた後、またすぐあのトルギスとか言うのも現れると思ったのですが、見回ってたら丁度発見したというわけです」
調べる技術も凄いが、恐らく丁度発見したのも含めて運がとても良いようだ。運の良さも、強さの一つという事だな。
「……単刀直入に聞きますが、私の見立てから貴方は何か隠している確率が1192%です」
「1192作ろう鎌倉幕府じゃないんだから……それで? どうしてお前はそう思ったんだ?」
「まず、最初に引っかかったのは、怪人から生まれた怪人二世なんて沢山いるのに、何故わざわざ君を選んだのか」
「それは、偶々救って懐かれたとか自分が救って愛着持っただとか、一部の人にはそうやって通してるはずだが」
まだ、その一部が誰なのかは分からない。父さんの口ぶり的に、恐らくは政府などの上層部辺りが妥当だろうか。
「そう。ある程度はそれで説明はつく。けど、もう一つはトルギスが貴方に何故ここまで執着していたのか」
「生き残った怪人はまだ沢山いるとはいえ、無限にはいないのだから念入りに誘うだろ」
「……そもそも何故私が助けに来れたのか。それは、最近この近辺で多発している怪人による怪人殺害の真相を追ってきてたからです。トルギスは、いつもだったら勧誘を断った者をすぐ殺してます」
まあ確かに、この二つ単体ならまだ偶然や運で片付けられるが、両方が繋がってしまえばそれはもう言い逃れは出来なくなるな。
いい加減、諦めよう。
「……その二つに訳があるとするならば、それは――
俺が、《ヴィツィオ》首領の息子だからだ」
俺は語り始めた。この命の始まりを。
宿命ってやつですね。オチとして丁度良かったからだけど、衝撃の事実! みたいな感じですね。意外と分かりやすかったりするんですかね。




