守護者同士の決戦
「どうしてそう配慮できないんだよ……」ですか。
確かに私は、そういう事は出来ません。性に合わないのもありますが、本質は私が人の心を理解していないだけでしょう。
子供の頃からスパイとして育てられてきた私は、人の心が分からないのが最大の欠点として揶揄されてました。
結局その欠点は直らないまま、今に至ります。
「私たちのこれも、慈善事業ではありません。時に守り、時に切り捨てながら月の平和を守る」
「その理念に基づき過ぎて敵を増やしちゃ世話ないぜ?」
「それは……確かにそうでしたが、こうなってしまったのなら倒すのみですよ」
「いや、ここは俺に任せて欲しいんだぜ。あいつの事はよく分かってるし、また仲間に引き戻せるかもしれない。それに、うぐいすとは根本的に合わないみたいだから」
「そうですか。なら頼みます」
「あ、でも剣は借りてくぜ?」
反抗する気力もなく、言われるがままジャンズソードを渡して、蒸身出来ない私は空間に一人取り残される。
「どうして私は、いつもこうなんでしょうかね」
これは言い訳だ。そして、本音でもある。
人の心自体は持っている。驚いた時は驚くし、ちゃんと泣きたい時には泣く。それでも、他人の心は理解出来ない。
そもそもこの感情自体も、私がてっさと出会ってようやく手に入れたモノです。その時は十五歳。我ながら、色々と遅いです。
八年前、火星からの諜報員として月面帝国に潜入していた私は、これまた人の心がないという理由から失敗して逃亡を余儀なくされてしまいました。
「それしか生きる道がなかったんだろ?」
その時はまだ月面帝国軍に勤めていたてっさに出会い、私は初めて世界に光が見えた気がしました。ですがてっさは、私を拾った際のゴタゴタで出世コースから外れてしまったと後に聞きました。
あと、私を追い詰めたのがカリバー隊長だった事とかも。
まあ、こんな二人をエイアに入れてくれたのでちゃんとめちゃくちゃ感謝してますよ。
「あの人は、星々の煌めきをその手に掴んでいる人だ」
私は、影だ。陰だ。遠く離れているから存在出来ているけど、近づいたら消えてしまう。
今は正義を生きる支えにしていますが、それも含めてどれが自分か、何が自分なのかが分かりません。全く。その上拗ねて、てっさにもあんな事を言ってしまった。
「託しましょう。あの人に」
「やっぱり、てっささんが来ると思いましたよ」
「そっちもやっぱりそうか……ちゃんと、決着をつけないといけないと多分分かってたんだぜ。ずっと」
さっきも言ってた。ずっとこうなると思ってたって。
これが人間としても、生物としても愚かな決断だって事は百も承知だ。僕もあの村の一人なんだ……どこかで腐っていて、どこかで愚か。
それでも、守りたい人がいる。命がある。だったら、後悔しないように戦うしかない。
「決意なき覚悟に意味はない。覚悟なき決意に意義はない。僕はもうどちらの意も果たした……僕は守護者だ。何が敵であろうと返り討ちにしてやる‼︎」
「何かを守ろうと願う者を傷つけるのは、もはや正義でもヒーローでもないのかもしれない。だけど今はただ、今まで助けられてきた全てに報えるほどの未来を、俺は——‼︎」
互いに、もう覚悟は決まっているはずだ。
「神よ、アマちゃんよ……神装‼︎」
「悔いは無しだぜ……蒸身‼︎」
てっささんの手には、うぐいすさんが持ってた剣が握られていた。てっささんの武器がジャンズガンなら、ジャンズソードとかだろうか。
睨み合いの時間。先手後手に意味はないので、ただただ緊張感があるだけ。
「さあ、行くぜ‼︎」
どういう攻撃かと思ったけど、正面から切り裂いてくるだけだった。簡単に回避できて拍子抜けしたけど、初激はただの朝ごはん。
「「甘い‼︎」」
カウンター気味に攻撃を入れようとすると、さっき使ってなかった左手の手に握られたジャンズガンから逆に攻撃をもらってしまった。最初からこれが狙いだったんだと思うと、やっぱり強いっぽいなこの人。
「やっぱり強い。流れるような銃捌き、あまりにも熟練し過ぎている。どれだけ修行を重ねたんですか」
「当然。まだまだ行くぜ‼︎」
ジャンズソードの切り上げを踏んで止め、カウンターされるよりも先に拳で一発。そこから連撃で押し込むが、上手く捌かれる。
てっささんの反撃を、大ジャンプして躱した。
「あまりこういうの詳しくないけど、その格闘術はなんか名前ついてるんですか?」
「ありとあらゆる戦闘術を教わったからな。これは、それを組み合わせた実質我流だぜ‼︎」
軽いノリで言ってるが、バラバラなものを組み合わせて戦うのはかなりの難しさのはず。それぞれ我が強いだろうから、感覚だけで何とかなるものではない。
てっささんは武器を捨て、格闘戦にシフト。
てっささんの連撃は、僕なんかとは違って反撃の余地を一切与えてない。
「あまりにも強過ぎる。これがてっささんの本気……‼︎」
負ける。このままじゃ、負ける。
このまま格闘戦で挑み続けていれば、負けるのは明白。基本的に武器なんてないから、格闘戦で負けてしまっていると勝ち目がない。
「このまま、負けてたまるかぁ‼︎」
覚悟だけじゃ足りない。この力が神々しい存在から生まれたモノなら、超常的ならば……僕の力に応えてみせろ。
その全を以て、敵に打ち勝て‼︎
「《黄金螺旋》‼︎」
金色の輝きを持つ糸状の光が、僕の世界を包んでいく。
説明なんてない。
どうやって使うかも分からないはずなのに、何故か勝てる自信が湧いてくる。この不思議な高揚感は、僕もまた誰かに宿られているのだろうか。
「お前は、逃れる事が出来ない‼︎」
「くっ……まさか、ここまで。でも、さっきのままだったらそっちも不完全燃焼になるだろうし良かったぜ‼︎」
すぐに格闘戦が不可能だと判断しただろうてっささんは、すぐに武器を拾って黄金線を撃ち抜き、切り裂く。すると、二撃で切断された。
かなりの硬度だけど、切れないわけではないと。
「くっ……テラスは、本当にこれで良いんだぜ⁉︎」
「いいよ。正義とか世界とかに振り回されて大切な人を失う希望なんかより、ただ一人でも世界と戦う絶望が良い‼︎」
てっささんは黄金線に攻撃して加速したりと工夫したりしているけど、今度はあっちが防戦一方だ。
線を張り巡らせた状態で、更にそれを埋めるかのように視界全体を包み込む。徐々に接近していたのが仇となったなてっささん‼︎
「全範囲攻撃⁉︎ ジャンズ……ブラスト‼︎」
焦りの顔が見えたのに、ジャンズガンの必殺技で光の中に穴を開け、ジャンズソードでその穴を維持し続けて僕の攻撃が止むまで凌いでいた。
それでもかなりのダメージだっただろうけど、あまりにも技術に差がありすぎる。
「こ、こじ開けて……⁉︎」
一発で決まるなんて思ってない。やっぱり間を空けずに、畳み掛けるしかない。
回避されるのは前提として、攻撃から回避の方向を誘導しつつ誘導した方へ僕が直接一撃。これが一番最適だろう。
「アマテスだけを選んだら後悔してないと自己暗示をかけてるだけで、間違いなく後悔するんだぜ。そのくらい、自分でも分かってるんだろ?」
「所詮、後悔のない選択なんてない。詭弁だよそれは」
「詭弁で結構だぜ‼︎」
正直、てっささんと戦うのは仕方ない。避けては通れない道だと理解している。あの人にも、守りたいモノがあるんだろう。
それはあっちも分かってるはずなのに、まだ説得を諦めてない。
「さっきのはうぐいすが悪かった。ちゃんと説得すれば、あいつもアマテスを助け出そうとしてくれるはずだ」
「……本当、そろそろ怒りますよ。あの口ぶりからして、月かどっかからの分析だとアマちゃんを殺さないと止められない的な結論が出たんですよね?」
「それは……」
「だったら、そろそろ倒れてください‼︎」
致命傷は与えてないが、かなり追い詰めた。
誘導して一撃の戦法がかなり効いた。てっささん化け物じみてるから反撃ももらったけど、あっちに比べたらほぼないようなものだ。
運命は大抵残酷って知ってはいたけど、もっと何かあったんじゃないかって思う瞬間もある。
それも、また儚き願いに過ぎないんだろうけど。
こりゃあ大分きついんだぜ。
だとしても、ここで倒れるわけにはいかない。さっき助け立ちにきてくれた男の人は、多分俺たちだったら何とかなると見込んで他の助け立ちに行ったのだろう。
「負けない……んだぜ‼︎」
そもそも、結局はうぐいすのせいだ。あれがなければ、殺すしかない状況でもなんとか説得が成功したのかもしれないのに。
再び、金色の糸が俺を包もうとしていた。
「これで全部、終わらせます‼︎」
「そうだな。終わらせよう」
多用し過ぎたせいで、カウンター戦法は通じ辛くなっている。本当、前が見えない気分だぜ。
「ジャンズロード……オーバーブラスト‼︎」
エネルギーを纏った突進技。単調だけど、その代わりに金色の糸を寄せ付けない。だけどやはり単調さで、簡単に回避されてしまう。
「終わりです……エルドスマッシュ‼︎」
腹に強烈な一撃。臓器もいくつか傷ついたかもしれない。それでもまだ蒸身から解けていないのは、意地に近いものなのだろうか。
「終わった……いや、なんでまだ⁉︎」
「ジャぁンズぅ……スラァァァァァッッシュ‼︎」
最後の力を振り絞り、テラスを切り裂いた。
ギリギリだったから深く切り込めなかったが、まあそれで良かったんだぜ。別に、倒したいわけじゃないんだし。
「あの時、俺に言ってくれたんだぜ。アマちゃんに全てを投げ出すって言葉……そこには、救う事も含まれるか?」
「それが……彼女の為になるの、なら?」
「そう……なにも、守る事や助けてあげる事だけが人を救うわけじゃないんだぜ。怒って叱ってあげたりする事も、時にはちゃんと大事なんだぜ」
「でも……彼女を殺すしかないのなら、僕が——」
「勝手に諦めんなよ‼︎」
てっささんの声が、世界を揺らし、星々に轟き、何よりも僕の魂に響き渡っていた。
「理屈じゃないんだよ。俺は‼︎ テラスも、アマテスもが幸せな日々を掴める未来を望んでる。少なくとも、俺はそれを諦めた覚えはないんだぜ?」
「それは、でも、だって……」
「でもじゃないし、だってでもないんだぜ。今この場で重要なのは、テラスがどうしたいかだ」
「僕は、僕は……皆んなで、生きて帰りたい‼︎」
「だったら、今すぐにアマテスを止めて……皆んなで帰るんだぜ。方法なんて、後から勝手に見つかるはずだぜ‼︎」
方法がどうかより、諦めるか諦めたくないかが大切。
覚悟とか後悔とかを意識し過ぎてて、忘れていた事だった。いや、この選択をした自分自身が勝手に蓋をしていたのかもしれない。
「行こう、テラス‼︎」
「うん‼︎ あ、でも、てっささん傷は……」
「このジャンズガンには、一応ちょっとした回復能力があるんだぜ。骨に傷が入ったくらい、少しすれば治るぜ‼︎」
何かが見える。
黒ずんだ、血塗れの、壊れた、吐瀉物のような匂いと、人の意思のような禍々しい光。それは、ただ、僕達を突き刺すように包もうとしていた。
嫌悪感が湧くからと拒絶しようとも、その感情がそれを更に大きくする。
「《滅悪憎絶源》か?」
「テラス⁉︎ 何が、何が見えてるんだぜ?」
これに繋がってはいけないと、本能が感じてる。
感覚が何処にもない……というより、自分が自分を見失ってしまってるって事か。
「人類の破滅願望そのもの。人類史における破壊の歴史を、その後に為される創世なしで語られている。プロパガンダ専用教科書って感じかな。多分アマちゃんも、これに接続した」
「そうか。それが……」
「うん。多分これが……アマちゃんが、あんな事した理由だと思う‼︎」
このままじゃ、終わらない。
僕は絶対に、皆んなでハッピーエンドに突き進む。正しさも、大切な人も、全部手に入れて、未来へ行く。
僕は決して、見失ってない。僕はここにいるし、てっささんもすぐ側にいる。僕の何を乖離させようとも、僕自身は変わらない。だから、こんなのは通過点だ。
にんしきぃよ……貫けぇ‼︎
「帰って……これた‼︎」
接続は遮断された。ベルトの中からも、完全に気配が消えた気がする。使えなくなったら、どうしようとか思ってたけど、これだったら大丈夫そうだ。
「これからもよろしく。エルドナイトドライバー」
「お、名付けたんだ。良い名前だと思うぜ‼︎」
「ありがとうございます。てっささん」
多分愛称があった方が愛着が湧きやすい。だからずっと考えて決めてはいたけど、正義の敵になってもう名乗れないかなって思ってた。
あの姿の名前は、金色の騎士だ。
お母さんから教えられたヒーローを思い出して決めたものだ。てっささんと一緒なら、その名前を名乗っても許される気がした。
「すみません。あれは、言い過ぎました」
「あまり気にしないでください。僕もまあ色々と暴走してしまいましたし、それでなあなあにしましょう。むしろ、これで疲れたのはてっささんですから」
という事で二人で土下座したけど、そのままは申し訳ないからとてっささんも土下座した。
いや、なんでやねん。
「そろそろ、行こうぜ」
てっささんに呼びかけられ、僕達は向かった。アマちゃんの元へ……この村の全てを、終わらせる為に。
せめて少しでも、ハッピーエンドにする為に‼︎
少しでも...まあ、失い過ぎましたからね。




