第82話 最後の選択
魔王城の最上階――そこに彼女はいた。
「皆さん、魔王です!」
エマさんがモーニングスターを構え、玉座に向ける。
「ナージャ王女……」
「ダイチ様!」
ナージャ王女が俺に抱きつく。
歪な角が生え、肌も薄紫色に変色しているが、この香りは間違いなくナージャ王女だ。
「お迎えに上がりました」
「遅すぎます……」
【チャプター 終章】
【魔王ナージャを討伐せよ】
ここに来て最悪のログが流れる。
ナージャ王女を倒したら……エンディング?
……まずい!
慌てて、おっさんの方を振り向く。
震える手には小太刀が握られていた。
――直後、おっさんが消えた。
おっさんの凶刃がナージャ王女の喉元に迫る。
“クラフト:鎖”
地面に楔を打ち込まれた無数の鎖が、間一髪のところでおっさんを拘束する。
「ダイチ……離せ!
魔王を倒せばクリアだ!」
おっさんの目はマジだ。瞳孔が開ききっている。
本気でナージャ王女を殺す気だ。
「ど、どういうことです!」
ナージャ王女が驚き、尻もちをつく。
「そうだな。クリアを目前に諦めきれるわけないか……おっさん、それでも俺はナージャ王女を殺させるわけにはいかない」
“かまいたち”
シノメちゃんが短刀を振り、無数の斬撃が鎖を断ち切る。
「シノメ、よくやった!」
“星魔法・スターフィールド”
スターナが発動した広範囲の重力場が、
俺たちの動きを鈍らせる。
「ちょっと、おっさん! どういうつもりよ!」
スターナのお陰でなんとか、場を牽制できた。
「こいつを倒せば……私は帰れるんだ……」
おっさん……やっぱり、諦めきれてなかったんだな。当然だよな。おっさんにとっての現実は元の世界だ。
おっさんはこの重力場の中、なんとかナージャ王女に近付こうとする。
「おっさん、早とちりが過ぎるぜ……エンディングは一種類だけじゃない」
「何?」
ようやく、おっさんは足を止めた。
「あんたにも、ストーリー分岐の詳細が見れるんじゃないか?」
おっさんの視線がかすかに動く。
エンディング分岐を確認しているんだろう。
俺にも見えるならおっさんにも見えるはずだ。
「……本当だな。
だが、ダイチはもう一つのエンディングを選べるのか?」
「仲間同士でこれ以上、殺し合いはしたくない。
だから、構わない」
「ダイチ……そのエンディングって?」
スターナの青紫の瞳が不安そうに俺を見ている。
隠し通すわけにはいかないか……
「ナージャ王女と結婚して、
魔王の側近として生きることだ」
「ダメだよダイチ……そんなの私が許さない!」
スターナが食い下がる。
「みんな、少し落ち着け!
猶予があるなら話し合ってはどうだ?」
レメリアが燃え盛る剣を地面に突き立て、注目を集める。
「レメリアの言うことも分かるが、
話し合いで、俺とおっさんの選択は変わらないぞ」
「ナージャ王女はどうされたいんですか?」
ライドウが提案する。
「私は……
殺されるか、ダイチ様と結婚するかですよね?
そんなの結婚がいいに決まっています」
ナージャ王女は俺の腕に絡みつく。
「わかっているよ。
俺もみすみすあなたを殺させはしない」
俺はもう覚悟を決めた。
ナージャ王女と共に生きると。
「ねえ、ストーリーを進めないという選択肢もあるわよ」
「ミスティ様の言う通りです。
私もダイチ様の結婚には反対です……
クリアしたらダイチ様もいなくなるんですよね?」
「シル……正直、クリア後にどうなるかは俺たちにも分からない」
エンディング分岐がわかっても、
エンディング後の道筋は記されていないから。
「オルヴィエートさん……もし、クリアしたらこの世界からいなくなるのですか?」
ロザリアちゃんが、おっさんの腕を掴む。
「ロザリア様……やめてください」
シノメちゃんが間に入ろうとする。
「なによ、シノメちゃんだって、オルヴィエートさんがいなくなったらいやでしょ!」
「……」
シノメちゃんは、顔を伏せるだけで、何も言い返さなかった。
「リリムはダイチの気持ちに任せる……でも、離れたくない」
「リリム……」
俺たちはそれぞれ望む結末が違う。
どれだけ時間をかけて話し合っても答えは平行線のままだろう。
最悪の結末は、痺れを切らしたおっさんが、
ナージャ王女を手にかけてしまうこと。
それだけはなんとしても避けたい。
ナージャ王女を失うぐらいなら……
俺の腹の内はとうに決まっていた。
全員の顔を見渡す。
そして、俺は覚悟を口にした。
「ナージャ王女……俺と結婚してくれ」
「えっ……!」
ナージャ王女は目を見開きこちらを見つめる。
彼女は一呼吸置いて頷いた。
「はい!」
みんな、呆気に取られていた。
【ストーリークリア】
「どうして、ダイチ!」
スターナが叫ぶ中、白い光に包まれた。
「スターナ……愛している」
最後の言葉は彼女には届かなかった。
これで……ゲームクリアだ。
ラスボス戦が告白一つで済むなんて、何とも呆気なかった。
でも、何よりも重い選択だった。
【エピローグ】
何もない白い空間。
俺も含め5人の影が何もない空間に立っていた。
――互いに姿は見えない。
この世界に飛ばされた転生者か?
梓とおっさんと……残り二人は誰なんだろう。
ま、俺の世界が全てじゃない。
呪術国家側の主人公とおっさんが殺したっていってた、錬金術国家側の主人公かな。
考えても無駄か……もう少しみんなといたかった。
俺の想いに呼応してか、ゲームログが出現する。
【強くてニューゲーム】
【コンティニュー】
【ゲームを終了する】
もちろん、最後の選択は決まっている。
微笑みと共に、俺の体は光に溶けていった。
ここまでご愛読ありがとうございました。
と言いたいところですが、ゲーム設定に則ってマルチエンディング方式となります。
各エピローグは随時更新していきますので、もうしばらくの間、お付き合いください。




