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開始5分でサービス終了した伝説のバグゲーに転生したんだが攻略できない!  作者: 那須 儒一
第四章 魔王討伐編

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第79話 スターナ編:落星

苔むした巨大な便器……当初の白い輝きは色褪せ、ここに飛び込むのを躊躇わせるには十分だった。


私たちは便器の縁に立ち、魔界へ通ずる濁った水面を見下ろす。


「これは……想像以上だねぇ……」


オルヴィエートさんが生唾を飲み込む。


「誰から行きます?」

ロザリアちゃんが恐る恐る尋ねる。


「そうね……えいっ!」


「うおっ、エマさん! 何を!」


エマさんが突然、ガスタージャさんを押し、便器の中へ落とした。


「ぎゃぁぁぁぁ! 誰か、助けてくれぇ!」

ガスタージャさんは過去のトラウマが蘇ったのか完全にパニック状態だ。


普段の威厳ある姿が、見る影もなくなっている。


――次の瞬間、突然、水が流れ出した。


「ガスタージャさん。ごめんなさい。安全確認のために……ね?」


「うわぁぁぁぁ!」

ガスタージャさんは悲鳴を上げながら濁流に呑まれていった。


「さあ! 皆さん! 行きますよ!」


エマさんが掛け声を発し、自らもガスタージャさんの後に続いた。


「えっ、えっ!?」


「きゃっほー!」

リリムちゃんも後に続く。


状況を理解する間もなく、渦巻く水流の中、皆、次々に飛び込んだ。



い、息が……。


水流に呑まれ、呼吸もままならない。

たどり着いた先は円形の鉄枠で囲われた、池のような場所だった。


水は澄んでいて特に異臭などもしない。


「ここは……?」


既にみんな柵を乗り越え、荒廃した大地に足を下ろしていた。


空は曇天と紫電で埋め尽くされ、

殺風景な景色が地平線の先まで広がっている。


「ここが、魔界……ママがここにいる」


リリムちゃんが周囲を見渡す。


半年間も消息を絶っていたんだ。

ダイチたちがどうなっているか……考えたくもなかった。


大丈夫……大地はきっと生きている。


今度は私がダイチを助ける番……

どこにいても、必ず見つけ出す……。


私は自分に言い聞かせるように拳を握りしめた。


「あれ、ダイチくんじゃないか?」


決意を固めていると、ライドウくんの声が響く。


彼の視線の先……ん?


場違いな巨大な木造の屋敷――手入れの行き届いた庭先の水浴び場に捜し求めていた彼がいた。



「きゃはははは、ダイチ様、冷たいです!」


「ははは、ほら、くらえ!」


逃げるシルヴィアさんに水をかけるダイチ。


こっちの気持ちなど露知らずいちゃついていた。


「おいっ、ダイチ……」


自分の喉から出たとは思えないほどの、どす黒く低い声。


「ひっ、スターナ……落ち着くのだ……」


「リリムちゃん……邪魔しないで……」


私は二人に詰め寄った。


「ふぎゃっ!」


なに……これ……突然、見えない壁に阻まれた。


「スターナ! 助けに来てくれたのか!」


私たちに気づいたダイチがこちらに駆け寄ってくる。


「なによこれ……」


「たぶん、チャンク抜けバグだ。世界の裏側に入り込んでしまったみたいで抜け出せないんだ」


ダイチは時々意味不明な言語を話す。

何を言っているかさっぱりわからない。


「なるほどな……それで、半年もの間、抜け出せずにいたのか……」


オルヴィエートさんは納得したように頷く。


「どうすれば助けられるのでしょうか……」

シノメちゃんも口に手を当て考え込んでいる。


抜け出せないのは分かったけど……

「ダイチ……シルヴィアさんと何をしていたの?」


「あ、ああ……暇すぎて水遊びをだな…シルヴィア」


「そうです、スターナさん。別にふざけてたわけではないですよ」


薄い布地を着たシルヴィアさんが、ダイチに腕を組み胸を押し当てている。


「むほっ、シル……こんな人前で……」


なんだろう……心配していた自分がバカみたいだ。


ガンッ!

私は透明な壁を殴りつけた。


「ひっ……おい、スターナ……なんか、怒ってないか?」


「ダイチ……ママも、みんなも心配していたんだよ? なのに、あんたは……」


ガンッ、ガンッ、ガンッ。


私は言葉とともに拳を何度も打ち付けた。


ピシッ――

空間に亀裂が入る。


「ダイチくん、その調子でスターナさんをもっと怒らせるんだ!」


私の背後でライドウくんが叫ぶ。


「えっ、怒らせるったって……もう、充分怒っているだろ……」


「ダイチ様……私のここ……熱くなっている」


突然、シルヴィアさんが、ダイチの手を掴み、自身の胸に押し当てる。


「お、おい! シル、何を!」


「ダイチ……あんたってやつは……」

私の目の前で見せつけるように、いちゃついて……許さない。


拳が熱を帯びてきた。


パリンッ!

薄氷が割れるような音が響き、透明な壁が砕け散った。


「スターナ、誤解だ!」

黒い布地一枚履いているダイチが後ずさり、

地面に尻もちをついた。


「誤解? 何が?」


言葉とは裏腹に彼の指はシルヴィアさんの胸を揉みしだいていた。


「私、他の皆さんも呼んできますね……」

シルヴィアさんは私の殺気を察知してか慌てて、屋敷へ駆けていった。


「スターナ……許して……」


私はダイチの胸に飛び込んだ。


「今回ばっかりは、本当に許さないから……」


どれだけ心配したと思っているの……

ダイチの無事を何度、星に願ったか……。


分かっている。彼は悪くない。

それでも、怒りを通り越して、涙が溢れてきた。


「スターナ……ごめん……」


ダイチの手が私の頭を優しく撫でる。


「ホントだよ……ごめんじゃ済まないんだからね……」


どうせ、私は彼を許してしまう。

どうしようもなくダイチが好きなんだと……そんな自分が情けなかった。


「撫でないで!」


せめてもの反抗に、彼の手を払い除けた。

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