第78話 スターナ編:星に願いを
「では、諸君……さっそく魔界を攻略していこうと思う」
ちゃぶ台を囲んで、座布団の上で全員が顔を揃える。
オルヴィエート邸で改めて、作戦会議が始まった。
こんな状況だけど、ライドウくんとロザリアちゃん、二人に久しぶりに会えたことが嬉しかった。
「この中で、魔界に行く方法を知っている者はいるかい?」
「「……」」
オルヴィエートさんの質問に対して、
皆が沈黙を貫く――そんな中、一人の男が手を挙げた。
「これは意外だな。
ガスタージャ殿、詳しく教えていただこうか」
……ガスタージャさん?
どっかで聞いたことのある名前ね。
……ダメだ、どうしても思い出せない。
「正規ルートではないのだが、その……ダイチ殿が作った巨人用のトイレとやら……その行き着く先が、魔界だった」
「そういえば、ガスタージャさんは、ダイチくんによって、一度トイレに流されてたんだっけ」
ライドウくんが顎に手を当て考え込むような仕草をしてみせる。
「皆まで言うな!
あの時の屈辱……正直、もう忘れてしまいたい」
あっ!?
……ようやく思い出した。
戦争で対峙した、あの黒い鎧の男……確か十騎士、断空のガスタージャって名乗ってた気がする。
あの時は、鎧で顔がよく見えなかったから、わかんなかったわ。
「それは、皆で……そのトイレに流されるということですか……?」
「「うっ……」」
ロザリアちゃんの発言で全員の表情が固まる。
「その巨人用トイレとやらはどこにあるんです?」
エマさんの質問にライドウくんが口を開く。
「アルスタイン王国近郊の西の平原ですね」
「せっかく、ここまで来たのにまた後戻りするのか……」
リリムちゃんが肩を落とし大きくため息をつく。
「正規ルートでの魔界への行き方が分からない以上、その巨人用トイレとやらに流されるしかあるまいか。
明朝にここを発つ。客室は好きに使ってくれて構わない。それまでゆっくりと羽を休めてくれ」
こうして、作戦会議は終了した。
❇
「スターナさん……久しぶりだね」
解散した後、ライドウくんがこちらに歩いてきた。
「ライドウくん、元気そうだね」
離れて一年も経っていないのに、彼の顔が少し大人びた気がする。
……って、だめ。私にはダイチがいるんだから。
そんな、浮ついた気持ち、良くないよね。
「スターナさん……少し話せるかな?」
「え……うん……いいけど」
話? なんだろう?
彼の真剣な眼差しに、思わず声がうわずる。
彼に誘われるまま、居間に面している濡れ縁に腰を下ろす。
昼夜もわからないこの国で、雪解けの地面を踏みしめる人々の足音だけが響いていた。
ライドウくんは口を噤んだまま、足元の雪を見ていた。
「話って?」
「あんまり、回りくどい言い方は好きじゃないから、単刀直入に言うね」
「え、う、うん……」
彼の言葉を待つ――白い吐息が漏れ、闇の中に溶ける。
彼は決心したように私を見つめた。
「僕はスターナさんが好きだ……」
「えっ!? ライドウくんが私を好き?」
「ごめん、驚かせてしまったね。
大丈夫だよ。スターナさんがダイチくんを好きなのも分かっている。だから、僕の告白を受け止めてくれるだけでいい」
私にはライドウくんの意図が分からなかった。
「どうして、こんな時に告白するの?」
「今、伝えておかないと、この先、僕が想いを伝える機会が永久に訪れないと思ってね。
それに、僕はダイチくんのことも好きだ。だから、二人を悲しませたくないし、幸せになってほしい」
ダイチの気持ちがわからなくて、
ライドウくんが気になっていた時期もあった……でも、私は、もうダイチを選んだ。
肝心のダイチは私のことをどう思っているか、まだわからないけど。
「ずるいよ……自分だけすっきりしたような顔をして……」
「ふっ、スターナさんもダイチくんと再会できたら、想いをぶつけてみるといい。彼は恋愛に関しては疎いからね」
ライドウくんは、想いを伝えることよりも、私を後押ししたかったんだ。
ダイチは鈍いから……私からちゃんと伝えなきゃ、ね。
「ライドウくん……ありがとう」
「僕は何もしていないよ。僕の要件はこれで終わり。さぁ、明日も早いし先に寝ててよ」
「え、ライドウくんは寝ないの?」
「うん、もう少し空を眺めているよ……」
「おやすみ……」
「ああ、おやすみなさい」
去り際に振り向くと、空なんて見えない雪洞の国で、ライドウくんは光り輝く天井を眺めていた。




