第77話 スターナ編:星を辿って
5人が消息を絶って、もう半年が経つ。
ダイチ……もう、待てないよ。
私はインベントリにできる限り食材を埋め込んだ。
「ママ……ごめんね……」
夜明け前に私は屋敷を出た。
「スターナ! 待つのだ!」
路地を進んでいると、背後からリリムちゃんの声が響く。
彼女は肩で息をしていた。
「リリムちゃん……止めても無駄だよ」
「違うのだ……リリムも行く!」
「でも、危ないよ……」
「リリムだって、ママとダイチが心配だもん!」
リリムちゃんも、私と一緒で置いていかれた身だ。
気持ちは誰よりもわかる。
「うん。そうだよね……ごめん。
リリムちゃんも一緒に行こう」
「うん!」
一人じゃないってことが少しだけ嬉しかった。
「スターナ……まずはどうするのだ?」
「私たちで闇雲に進んでも魔界にすら辿り着けないと思うの。だから、オルヴィエートさんたちにお願いしてみる」
「そっか、おっさんなら魔界の行き方も知ってるかもしれんの」
私とリリムちゃん二人で城門の前に立つ。
ダイチ抜きでここから先に行くのは初めてだった。
やっぱり、ダイチはすごいな……今まで一人で皆を先導してきたんだ。
同じ立場になって、初めて彼の気持ちがわかった。
こんなにプレッシャーが大きくて、心細いなんて……返ってきたら、少しは優しくしてあげようかな。
そんなことを考えていると、落ち着いた声が静まり返った街に響く。
「二人とも、本気なんだね……」
振り向くと、梓ちゃんとエマさんが立っていた。
「うん。止めても無駄だから!」
梓ちゃんを恨んではないけど、二度も邪魔はさせない。
「わかってるわよ。
これを渡しに来ただけだから……」
彼女はそう言って手を差し出した。
「これは?」
青い宝石が埋め込まれた綺麗な指輪。
「アーシャさんからよ」
「えっ、ママが?」
「スターナが今使っている指輪より、性能が高いから役立つだろうってさ。スターナが旅立つときは渡して欲しいって頼まれてたの」
「むふふ、さすがアーシャさん。
スターナのことは全部お見通しみたいだね」
私の隣で、リリムちゃんが頭の後ろで手を組み、体を揺らす。
「ママには敵わないな……」
私は梓ちゃんから指輪を受け取り、ガラス玉の指輪を外して付け替えた。
「皆さんはガルデルド帝国へ行くのですよね?」
エマさんが前に出る。
「はい、聞こえてたみたいですね」
「ふふ、それなら私がオルヴィエートさんへ橋渡しをしましょうか?」
「えっ、いいんですか?」
「ええ、元より私も一度カーリア組に戻って自身の無事を伝えたいと思っていましたので」
「ぜひ、よろしくお願いします!」
「お安い御用ですよ」
エマさんがついてきてくれるなら心強い。
「梓ちゃん。ママをよろしくね」
「ええ。この世界では、アーシャさんが私のお母さんみたいなもんだから……スターナが帰ってこなかったら私が代わりに娘になってあげるわ。だから、安心してよ」
梓さんは冗談っぽく笑ってみせた。
「ダメだよ、ママは渡さないんだから!」
「それなら、みんな無事で帰ってきて。
……本当なら私もついていきたいんだけど……レベル的に足手まといだから……」
「梓ちゃん!」
エマさんが梓ちゃんに抱きつく。
「ちょ、どうしたのよ、エマさん」
「私、必ず戻ってきますから!」
エマさんは梓ちゃんの胸に顔を埋め、頬ずりをする。
「なんなんだ、あの二人……」
リリムちゃんが首を傾げている。
「リリムちゃん、私も同意見……邪魔しちゃ悪いし、行こっか」
私とリリムちゃんは軽く挨拶をして、城門から伸びる橋へと歩き出す。
「ちょっと、置いていかないでくださいよー!」
エマさんが慌てて追いかけてくる。
その後ろでは、梓ちゃんが力なく手を振っていた。
❇
ゴンドラ要塞を越え、西にひたすら歩き続けた。
次第に雪に足が取られるようになる。
容赦ない冷気も相まって体力を一層奪われていく。
今まではダイチのクラフトで野宿というか、野営も簡単だったが、私たちだけではそうもいかない。
雪国という厳しい環境の中、
私の星魔法で冷気を遮断して、リリムちゃんの炎魔法で暖を取った。
ダイチがいたことでどれだけ、快適に旅ができていたのか、今ならわかる……ダイチ……会いたいよ。
❇
一週間ほどかけて、ようやくバルデルド帝国に到着した。
また、この地に足を踏み入れるなんてね。
「きゃっほー! ついた、ついた!」
リリムちゃんは雪洞の街で、両手を上げてはしゃいでいる。
「スターナさん、大丈夫ですか?
少し、休んでからオルヴィエートさんのところへいきましょうか」
「ううん、大丈夫。
……こんなとこで立ち止まってらんない」
「あれ……スターナちゃん……えっ?」
ふと聞き覚えのある声が響く。
「あっ、おっさんみっけ!」
リリムちゃんが、目を見開いているオルヴィエートさんへ突撃する。
「うおっと! リリムちゃんまでいるのか……それに、エマさんも……」
オルヴィエートさんは華麗にリリムちゃんを回避して、リリムちゃんはそのまま雪溜まりに激突する。
「オルヴィエートさん。お久しぶりでございます。その節はお世話になりました」
エマさんから謎の威圧感が出ている。
「あー、すまん。ダイチをけしかけた件だな。
あれは、俺っちが悪かった」
オルヴィエートさんはあっさりと平謝りする。
「私は心が広いですから特別に貸しということにしてあげますね」
「あ、ああ……俺っちにできることなら何なりと……」
「だ、ダイチと皆を助けて!」
私はオルヴィエートさんに詰め寄り、和装を掴む。
「うぉ、待て待て、こっちは何がなんだか……まずは事情を話してくれよ」
自分一人じゃダイチを救えない……悔しい……彼の衣服を握りしめる手に力が籠もる。
「お願い……お願い……」
泣いちゃダメだ。堪らえようとしたが、視界が徐々に滲んでくる。
その時、彼の手が私の頭を撫でる。
オルヴィエートさんはしばらく黙って私を見つめていた。
「スターナちゃん……君たちが来たことで、俺っちのストーリーも書き換わったみたいだ。
仕方ない……今回は俺っちに任せてほしい」
こうして、オルヴィエートさんと一時的に同盟を組むこととなった。




