第74話 再会
「よっ! 梓!」
アルスタイン王国に戻って来てから、
梓に会っていなかった。
久しぶりに梓の自宅に勝手に上がると、濃い緑色の長い髪の女性がラフな白シャツ姿で椅子に腰掛けていた。
「あっ、ダイチじゃん。
聞いたわよ。無事に冤罪は免れたんでしょ?」
「貴方は!」
梓の言葉を遮り、緑髪の女性は目を見開き、椅子から立ち上がる。
「なになに?
エマさん、ダイチを知っているんですか?」
「エマ……どこかで聞いたことあるような……」
麗しい女性……一目見れば忘れないんだけどな。
「エマ・キサラギ……カーリア組の藩主です」
「あっ! 俺が下着姿で飛ばした僧侶か!」
まさかアルスタイン王国に飛ばされていたとは。
「あー、なるほど、ようやく話が繋がったわ。
――“パライズ”」
「ぐぇ……梓……何を……」
梓の突然の妨害魔法により、俺の体に麻痺がかけられる。
「エマさん。こいつに、仕返していいわよ」
「ふふ、そうしてもいいんですけど……梓さんと会えましたし、アルスタイン王国のこともよく知ることができましたから。今回は大目に見てあげます」
「エマさんは優しすぎですよ」
「おい……お咎めなしなら麻痺を解いてくれ……」
「ごめん。私、回復魔法は専門外だから」
「仕方ありませんね――“快氣”」
エマさんが俺の体に手をかざすと、
白い発光とともに体の痺れが徐々に緩和されていく。
「エマさんってば回復魔法を使えたんだ」
「いいえ、これは魔術ではありません。
武術の一種です。己が生命力を他者に分け与え、癒す回氣術といいます」
理にはかなっている。MPが少ないガルデルド帝国においてはHPを活用した回復術が主流なんだろう。
「エマさん、その説は大変ご迷惑をおかけしました。お詫びに、ヨグ=ソートスで帝国に帰してやるよ」
エマさんは静かに目を閉じて、首を真横に振る。
「いえ、せっかくですからこれを機にしばらくアルスタイン王国に滞在して見聞を深めようかと」
「そうか、それならしばらく同盟を結ばないか?」
「同盟ですか? 逆にいいのですか?
我が配下のヴェルシュタイン家の者があなたを嵌めようとしたと、風の噂で聞きましたが……」
「別にいいさ。おっさん……いや、オルヴィエートとも共謀していたみたいだし、そのせいであんたを襲ったのも事実だ」
「では、ここはお互いに水に流すということで」
エマさんは手を差し出した。
俺は差し出された手を握り返した。
❇
「どういう経緯で梓と一緒に暮らしてんだ?」
「ええ、誰かさんに下着姿で飛ばされたあと、身動きが取れなかったところに、ちょうど梓さんが通りかかったんです」
「下着姿の女の人が物陰にかくれていたからびっくりしたわよ」
「お詫びと言ってはなんだが、二人で暮らす用に家をグレードアップしようか?」
「あー、確かにそれもありね。
エマさん、いいよね?」
「ええ、家主の梓さんがいいなら、私は構いませんよ」
クラフト:レンガの家(灰色)
2LDKほどの平屋をさっそくクラフトする。
三角形の屋根に、灰色と黒いレンガがまばらに敷きつめられ、貧民街には不釣り合いな家が建つ。
「家具も特別にセットでクラフトしたぜ」
「わぁ、ありがとう!
ダイチもたまには役に立つじゃない」
梓は感心したように部屋中を見渡す。
「うるせえ、藁の家に創り変えるぞ」
「すごいですわね。ラファート顔負けの錬金術ですね」
「ラファート?」
「アルスタイン王国の南に位置する錬金国家です」
「へぇ、新ロケーションか……」
錬金の国……少しだけ興味が湧いてきた。
「あんた、また別の国に行くつもりなの?」
梓が俺の内心を見透かす。
「なんだ? 寂しいのか?」
「はっ、何言っての?
もっかいパライズをかけるわよ」
梓はガチトーンで手をかざす。
「じょ、冗談だって!」
多少はデレてくれてもいいのに……手厳しい。
「お二人は仲が良いのですね」
エマさんが柔らかい笑みを浮かべる。
「仲良くなんてありませんよ。同郷なだけです」
梓が全力で否定する。
「同郷……ですか。
原界と呼ばれるもう一つの世界ですね」
「へぇ、そういう設定なのか。
ちなみに、アースとやらに行き来はできるのか?」
正直、俺たちの転生理由も繋がりも不明だ。
ゲームの世界なのは間違いないんだろうけど。
実際にゲーム世界へ転生ってのはどういう理屈なんだ。ま、それを言い出したら異世界転生物全般が意味不明なんだが。
バグオラのストーリーがあとどれだけ続いているのかも分からない。まだまだ、道のりは長そうだ。




