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開始5分でサービス終了した伝説のバグゲーに転生したんだが攻略できない!  作者: 那須 儒一
第四章 魔王討伐編

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第73話 夜の帳

「スタちゃん、ただいま……」


「ママ、おかえり!」


離婚の件を知らないスターナは普段通りアーシャさん迎え入れる。


「アーシャ、久々だな!」


「ふふ、ミスティちゃんもただいま」


「シルヴィアと申します……」

「メルフィーです」

シルとメルフィーはそろって気まずそうに頭を下げた。


「そんなにかしこまらなくていいわよ。

さっそくご飯にしましょうか」

アーシャさんは腕まくりをして、さっそくキッチンに立つ。


その間に、スターナとミスティにはそれとなく離婚の話を伝えた。


「結婚って大変なのね……」


ため息をつくスターナのとなりで、ミスティはしたり顔で頷く。


「うむ……愛とはままならぬものよ」


俺自身も結婚への憧れなんてない。

というか、彼女すらできたことないのに……想像すらできなかった。


でも、バグオラの婚姻システムってのは、意外と悪くないのかもしれない。

打算や駆け引きがなく、純粋に互いの好感度で結ばれるなら、それはそれで幸せなことなのかもしれない。



「今日はクリームシチューよ!」

甘くミルキーな香りが湯気とともに鼻腔をくすぐる。


「わあ! アーシャ様、料理が得意なのですね」

シルが両手を合わせて目を輝かせている。


「シルヴィアさんはお料理はされないの?」


「はい……騎士の家系でして、武と礼節以外は人並み以下なのです」


「へぇ、シルって騎士だったのな」


俺の言葉にシルが横目で睨む。


「私に興味がないダイチ様は、私の素性など覚えていませんものね!」


「うっ……」

シルのやつが一番、先日の一件を引きずってんな。


「ダイチ様、シルは根に持つタイプだから、どこかでフォローを入れた方が……」

メルフィーがそっと耳打ちする。


「てか、元はといえばお前が余計なことを漏らしたせいだろ」

俺はメルフィーの足をぐりぐりと踏みつける。


「いだだだだ……ダイチ様、ごめんってば……」


「ダイチ、食事中に目の前でイチャイチャされては、気になって敵わん。のう、スターナ?」


ミスティがスターナに目配せをする。


「私は……別に……」


なんか、好感度が下がったせいか、俺への風当たりが強い気がする。


俺はみんなのことが大好きなのに……辛い。


「ふふ、なんかしばらく見ないうちに面白いことになっているわね」

アーシャさんがイタズラな笑みを浮かべる。



夜は更け――好感度が下がりきった俺は一人で寝ていた。


ガチャ――

扉が開き、ヒタヒタと足音が近づいてくる。


おぼろげに人の気配を感じるも、睡魔が勝って誰が来たかは確認できなかった。


温かい……背中に温もりが触れる。


誰だ……?

いや、このサイズ的にスターナじゃないな。


誰よりも大きい……もしかして……

「アーシャさん?」


「ごめんね。起こしちゃったね。

一人で寝るの久々だったから……なかなか寝つけなくて……」


「アーシャさんならいつでも大歓迎ですよ」


「ダイチさん……少し見ないうちに逞しくなりましたね」


アーシャさんの指が、俺の背中をそっとなぞる。


「くすぐったいですよ」


「ふふ、ごめんなさいね。

久々にいたずらしたくなっちゃって」


アーシャさんの吐息が、俺の首筋をほんのり濡らす。


「アーシャさん……カーリンとは、これでよかったの?」


「……今は、話したくないわ……」


無遠慮な質問だったか。


「ごめん」


「ううん。いいのよ。

私のことより、ダイチさん……ロザリアちゃんのこと、聞いたわよ。連れ戻さなくていいの?」


「ああ、ロザリアちゃんが選んだ道だ。

俺が阻むわけにはいかないよ」


「うんうん。大人になりましたね」

そう言いつつもアーシャさんは、俺の頭を撫で、子ども扱いをする。


俺は振り向き、アーシャさんと視線が重なる。


合わせ鏡のように互いの瞳を映す。


「……ダイチさん……」

アーシャさんは目を閉じた。

薄暗くてよく見えないが、彼女の唇がかすかに震えている気がする。


これ……いいんだよな?


「アーシャさん……いいんですか?」


彼女は目を瞑ったまま微笑む。


「そういうのは確認しちゃダメなんですよ」


俺はそっと唇を近づけた。


ガタッ! ガタッ! ガタッ!


「きゃっ!」

突然、ベッドが大きく揺れた。


「なんだ、地震か?」


二人で慌てて飛び起きたが、揺れている様子はない……。


「ごめんなさいね。

なんか、私、変になってたみたい……」

ネグリジェ姿のアーシャさんが、そのまま体を隠すようにして、部屋から出ていってしまった。


「あっ……」

俺は去りゆく彼女に手を伸ばすが……届かなかった。


「はぁ……」

誰もいない部屋で、ため息だけがやけに大きく聞こえた。


それにしてもさっきの揺れ、何だったんだ?

今までこんなことなかったのに……。


起き上がり、ベッドに異常がないか、薄暗いなか見渡す。


暗くてよく見えないけど、ベッドの足も破損はしていない。


軽く揺らしてみたが、傾いていたり、特に異常は無いように見える。


耐久値もまだあるしな……念の為クラフトしなおすか。


クラフト→解体→シングルベッド作成


一瞬だけベッドを解体して新たにクラフトし直した。


えっ……かすかな違和感が俺の視界に残像として残る。


解体したわずかな時間……ありえないモノが……映り込んだ気がする。


俺は恐る恐るベッドの下を覗き込む。


闇夜に輝く、白銀の双眸そうぼう


「うわっ!?」


ぬるりとベッドの下から彼女が這い出てきた。


「シル……いつからそこに?」


「いつからですか……《《ずっと》》……ですよ」


「ひっ……」

思わず情けない悲鳴が漏れる。


「ダイチ様が、先日ミスティ様を部屋に連れ込んでいたので、万が一に備え、あの日から毎晩ここで寝泊まりをしております」


それが、何に対しての万が一なのか、俺には分からなかった。


「その……シル……せっかくだから隣で寝るか?」


「それはアーシャ様との行為がうまくいかなかったので、私で代替しようという腹づもりですか?」


「そ、そんなわけ……」

ないとも言い切れなかった。

俺の唇は未だに人の温もりを求めて、乾いている。


「誰かの代わりは嫌です……」

シルは当然のように再びベッドの下に潜り込み息を潜めた。


こんなの……怖くて眠れない……。

彼女の気持ちは俺には理解できなかった。

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