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開始5分でサービス終了した伝説のバグゲーに転生したんだが攻略できない!  作者: 那須 儒一
第四章 魔王討伐編

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第72話 秘訣

俺はまだまだ甘かった。

このままじゃ俺はダメだ……彼女すらできたことのない俺が所帯を持とうなんて。


結婚という壁が絶望となって立ちはだかる。


ここは先人たちに師事を仰ぐべきだ。

今まで避けていた。

アーシャさんを奪われた劣等感、喪失感から……俺は二人を敬遠していたのかもしれない。


アーシャさんが結婚して、初めて二人の新居を訪れた。


この国ならどこにでもあるような、二階建ての西洋風の建物。

白基調とした石壁に緋色の鮮やかな色彩を放つ屋根。


庭には花や野菜が植えられていた。

綺麗に整えられた花壇は家主の性格を体現しているようだった。


ふぅ……ノックしようとするが、思わず手が止まる。

震える拳を握り締めてかしの扉を叩く。


「どちら様……ん?」


そこには奴が立っていた。


「カーリン……久しぶりだな」


「おおっ、ダイチ殿……久しいな。

アーシャなら今出ているぞ。今日は如何様で?」


アーシャさんはいないのか……。

いや、この際アーシャさんを射止めたカーリンから話を訊くのも大事だな。


「カーリン!

あなたを一人の男として、頼みがあります!」


こいつに頭を下げるのは屈辱だが……プライドだけで結婚どころか彼女すらできねえ。


「ふむ。とりあえず立ち話もなんだ。入りたまえ」



カーリンとテーブルを挟んで向かい合う。


昨日の経緯を掻い摘んで説明する。


「なるほど……結婚をして、好感度を維持するには……か。分かった。話を聞く限りダイチ殿はボロさえ出さなければ、好感度は高いのだろう?

それを維持する方法を学ぶ方が早い」


「確かに」


「いいか、結婚とはいかにイニシアチブを握るかが大事だ。隙を見せたら、相手をつけ上がらせてしまう」


「ふむふむ――というと?」


「まずは、こっちから相手の顔や機嫌を窺うな。強気に一方的に命令して、従わせろ」


「それが、通じなかったら?」


「夫の地位がいかに高いか懇々《こんこん》相手に説き、自分と結婚できていることがいかに幸せかを理解させるんだ」


「俺……地位なんて……何もないけど……」


「大丈夫だ。その場合でも、相手よりも優れている部分を押し通せ。相手のできないところを突き、そこを責めるのだ。ダイチ殿なら大丈夫だ。英雄という称号は何よりのステータスだ」


「なるほど。相手を下げて、相対的に自分をよく見せるってことだな」


「そういうことだ。

もうすぐアーシャが帰ってくる。私が見本を見せてよう」


「ありがとうございます! カーリン師匠!」


目から鱗だ。結婚とは一種の決闘――永遠の死闘なんだな。



「ただいまー……あら、ダイチさん?

いらしてたのね」


アーシャさんは相変わらず綺麗だ。

流れ星のような金髪に慈母のような微笑み。

未だ衰えない彼女の輝きに思わず目を奪われてしまう。


「おい、アーシャ! 今朝の朝食どういう了見だ?主菜以外に副菜を三品作るだけではダメだ。質も担保して初めて役割をこなしたといえる」


「……はい」


アーシャさんが力なく返事をする。


これがイニシアチブってやつか。


「それに、部屋が汚れているぞ!」


「申し訳ございません……」

アーシャさんの声のトーンが以前より低い気はするが、二つ返事で従っている。


さすが、師匠……やっぱり結婚できる男は違うな。


「……ったく、使えない奴だ。そんなんだから人としても魔術師としても半端者なのだ。少しは私を見習うといい。私は先日も、王女から栄誉賞をいただいたのだぞ?」


これが相手を下げて、自分の地位を誇示するってやつか。


「はい……」


【アーシャからカーリンへの好感度が減少し30%を切りました。好感度が不足しているため離婚が成立しました】


「「えっ……」」

カーリンと俺の声が重なる。


「カーリンさん。今まで我慢してきましたが、あなたとはもうやっていけません。ダイチさん、一緒に《《我が家》》に帰りましょうか?」


「あ、ああ」

状況を飲み込めず、短い返事を返すことしかできなかった。


「アーシャ、何を言う……お前の家はここではないか?」


「カーリンさん。あなたと私はもう、《《他人》》です。気安く話しかけないでいただけますか?」


「アーシャ、待ってくれ……私が悪かった。

私を見捨てないでくれ……」


「大丈夫ですよ。あなたとの婚姻は解消されましたが、同じギルドメンバーです。これからは、仲間として、あなたを支えますよ」

アーシャさんは笑顔を保ったままだったが……目の奥は笑っていなかった。


俺はアーシャさんに手を引かれながら、愛が壊れる瞬間を目の当たりにした。


カーリン……もしかして、お前は俺のために反面教師を演じてくれていたのか……

すまない。お前の犠牲を無駄にはしないから。


俺は唇を噛み締め、アーシャさんとともに、家を後にした。

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