第71話 婚姻システム
翌朝、間にリリムを挟み、
目覚めたレメリアと視線が交わる。
リリムが口を空けて寝ている中、気まずい空気が流れる。
「おはよ、レメリア」
「ああ……」
「なんだか、こうしていると、俺たち家族みたいだな」
「な、何を言っている!
誰がお前のようなちんちくりんを夫に迎えるというんだ!」
「なに言ってんだ? 年齢差的に夫じゃなくて息子だろ……こんなおばさん嫁には……ふぎゃっ!?」
レメリアの拳が俺の御尊顔にめり込む。
そのまま1デスしてしまう。
再び、ベッドの上にリスポーンする。
「レメリア、ひどいくないか?」
「私はこれでも、32歳だ!」
「なら、やっぱ、おばさんじゃん……ぎゃっ!?」
2デス目。
「もう、勘弁してください……」
「お前がふざけたことを言うからだろ!」
「んー」
間に挟まれたリリムが寝苦しそうに、体をよじる。
シー……とレメリアが唇の前で人差し指を立てる。
俺はリリムの頭を軽く撫でてやる。
「むふー」
……ったく、幸せそうな顔で寝やがって。
「ダイチ……私の身になにかあったらリリムを頼むぞ……」
「おいおい、こんなとこで死亡フラグ立てんなよ。リリムはここまでなんだかんだ一人で頑張ってきた。何かあっても心配いらないさ」
「そうだな……でも、母親としては心配なんだ」
この先ファフニール戦の時のように、
リスポーンできない場面もあるだろう。
俺は皆を護れるのだろうか。
「レメリア……大丈夫だから」
俺は、レメリアの頭を撫でてやる。
「私まで子ども扱いしなくていい……」
そういいつつも、レメリアはわずかに俺の方へ頭を預ける。
「また、遊びに来るから」
笑顔を残し、
魔剣ヨグ=ソトースでファストトラベルをする。
❇
番人から解放され、ようやく自宅に戻ってきた。
「ただいま」
「ダイチ!」
屋敷に戻ると真っ先にスターナが俺に抱きつく。
「大丈夫だ。番人は倒した」
「そうなんだ。私には見えなかったから、よくわかんないけど……とにかくよかった」
スターナは俺の胸に顔を埋める。
――ん?
シルがなぜかスターナの背後に立つ。
なにをするつもりだ?
突然シルは、スターナの脇に手を入れ、体を持ち上げる。
「「えっ?」」
俺もスターナも呆気にとられた。
「よいしょっと」
シルは抱えたスターナを脇に置き、俺に抱きついてきた。
「ダイチ様! 会いたかった!」
「ちょっと! シルヴィアさん!」
スターナがシルの肩を掴む。
「何でございましょう?」
シルヴィアは白銀の髪を揺らし、白々しく首を傾げる。
「私が先にダイチに抱きついてたんだよ!」
「それが……?」
「まあまあ二人とも、俺のために喧嘩をするなよ」
俺は両脇に、シルとスターナを同時に抱きしめる。
「ふん、私はダイチ様と体の関係を持ったことがあります!」
シルがスターナに謎のマウントを始める。
残念ながら俺の記憶には残っていないが。
「な、ダイチ! あんた……」
「いや、スターナ、身に覚えはないんだ」
「ダイチ様……ひどい……」
シルが顔を伏せて泣き出した。
「ダイチ、抱いておいて、さすがにそれはないわ」
さっきまで喧嘩していたのに、
スターナは今度はシルの肩を持つ。
「にゃははは。朝から騒がしいですなあ」
メルフィーが背後でにやにやしている。
「ぬし様……そろそろ、誰を娶るか腹を括るときではないか?」
ミスティも腕組みをして会話に参戦する。
「わかりました。誰がダイチ様の第一夫人になるか話し合いましょう」
シルの声かけで女性陣は一階の談話室へと集まる。
……主役の俺を完全にそっちのけで話が進んでいく。
【チュートリアル:婚姻システム】
登場人物が結婚を意識した際、互いの好感度が80%以上で婚姻が成立します。ただし、婚姻が成立した後、どちらかの好感度が30%を下回った段階で離婚となります。
やけにリアリティのあるシステムログが流れる。
話し合いを始めた四人の頭の上にハートマークが風船のように浮かび上がる。
中には数値が点滅していた。
これが好感度か……。
視界の端に俺からの好感度も表記される。
スターナ92% ↔ 俺100%
シルヴィア98% ↔ 俺100%
ミスティ82% ↔ 俺100%
メルフィー22% ↔ 俺100%
へぇ、これって自分が誰に好意を寄せているのか、客観的に見れるのか……ちょっと面白いな。
「ねぇ、ダイチってば、なんで全員に対して好感度100%なのよ……」
スターナが横目で睨む。
これ、他の皆にも数値が見えるのかよ。
た、確かに……可愛い女性はみんな好きだなんて、口が裂けても言えない。
「ほら、俺って基本的に博愛精神の持ち主じゃん?
人類を等しく愛しているからさ」
我ながら無理がある。
「私、正確には人間じゃないんだけど……」
【メルフィーからダイチへの好感度が19%に減少】
あれ、なぜか好感度が下がったぞ。
「てか、メルフィーから俺への好感度低すぎないか?」
「うーん。ダイチ様ってばお顔が少しユニークじゃない? 私の好みに合わないのよね」
「おい、ユニークって悪口じゃねえか!」
「メルフィー、口が過ぎますよ!
ダイチ様のお顔は少々万人受けしないだけです」
「ホントよ! ダイチはやや見劣りするってだけで、間近で見れなくはないわよ!」
「シル……スターナ……それ、全然フォローになってないから」
心の奥深く、鋭い刃物が突き立てられた気がした。
【メルフィーからダイチへの好感度が基準値に満たないため、破局となりました】
「てか、メルフィーはそもそも、名乗りを上げてなかったろ」
「確かに、なんでか巻き込まれちゃった」
婚姻の条件を満たしているのは、スターナ、シル、ミスティか……。
「シルヴィアさん。知らないでしょ……以前、ダイチが、私の下着を盗んで……それを、満面の笑みを浮かべ……履いてた……」
「スターナっ、なぜそれを……」
「えっ……ダイチ様……嘘ですよね?」
【スターナの口撃によりシルヴィアからダイチへの好感度が90%まで減少】
まさか、俺の悪い面を告発して、シルヴィアの好感度を下げる気だ。
「ならば、これはどうだ?
ぬし様は寝ているスターナの脇を舐めたことがあるぞ!」
「ひっ……ダイチ……あんたキモすぎ……」
スターナが自分を抱きしめ、小さく悲鳴を上げる。
【ミスティの口撃により、スターナからダイチへの好感度が83%、シルヴィアからダイチへの好感度が85%まで減少】
「や、やめてくれ……これ以上は、俺が耐えれない……」
「次は私の番……ダイチ様は夜の営みの際に、☓☓☓☓☓☓☓を☓に☓☓して☓☓☓☓☓☓☓☓とねだるのです」
「ぬし様……それは、ちょっと……妾でも許容できぬ……」
「私も、ちょっと無理かも……」
【シルヴィアの口撃によりミスティからダイチへの好感度が63%まで減少。スターナからダイチへの好感度が58%まで減少】
【ミスティとスターナからダイチへの好感度が基準値に満たないため破局となりました】
「シル、それ、本当の話なのか?」
たぶん、ストーリーがスキップされた時の話なんだろうけど……俺、キモすぎるだろ。
でも、確かにそういう癖はあるかもしれない。
「やっぱり、覚えてないのですね……」
シルの目尻に涙が溜まる。
「そう言えば、ダイチ様、シルヴィアの名前、別の女性と間違えてたよ」
メルフィーが最後の最後で爆弾を落とす。
「やっぱり、私……遊ばれていただけなのですね……」
シルが泣きながら家の外へ飛び出して行った。
【メルフィーの口撃により、シルヴィアからダイチへの好感度が70%まで減少しました】
【基準値に満たないため、シルヴィアとダイチは破局となりました】
【この場に条件を満たす者が存在しないため、今回のお見合いは破談となりました】
なんだこれ……結局、俺がいろいろと暴露され、好感度を下げられたイベントだった。
虚しさや羞恥心や恋心がごっちゃになって、気づけば、俺の目を涙が伝っていた。




