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開始5分でサービス終了した伝説のバグゲーに転生したんだが攻略できない!  作者: 那須 儒一
第四章 魔王討伐編

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幕間 おっさんの憂鬱

――夢か……。


冷たい石レンガの無機質な温度とは裏腹に、私の体は熱を帯びていた。


じっとりと粘りつくような汗を拭う。


隣で寝息を立てるロザリアちゃんは、

幸せそうに私の右腕に抱きついていた。


「若様……大丈夫ですか?」


仄暗い影から声が響く。

シノメか……何度も断っているのに、彼女は寝ずの警護は怠らない。いったい、いつ休んでいるのだろうか。


「……またあの夢をだ」


私のストーリーは暗殺が主だ。


ラファートの主人公……メアリス。

殺した……彼女が、転生者だと知ったのは……彼女の首を小太刀で掻き切った後だった。


……その日を境に私は悪夢にうなされるようになった。


「シノメ……隣で寝てくれないか?」


「えっ、若様……えっ!?」


普段冷静なシノメが、分かりやすく取り乱す。


「すまん、嫌だったらいい……」


「いえ、少々驚いただけです……」

シノメは影から姿を現し、私の左側に潜り込む。


人に囲まれれば囲まれるほど、人の温度に溺れていく。


人殺しが人肌で安らぎを得ようなど、我ながらあまりにも身勝手だと思う。


春香はるかを喪った温度を別の女性で埋めるなど……すまない……。


届かない言葉を心の奥底にしまい込む。


あいつとは正反対だな。

アルスタイン王国の主人公……ダイチの顔が脳裏によぎる。


青年の唯一尊敬できるところは、この世界に順応し、この世界を愛しているところだ。


――私とは正反対だ。


不幸を振りまき、他者を踏み躙り……妻のためだと殺し続けた――その信念さえも今では腐り落ちてしまった。


「……死にたい」

何度も自死を試したが、リスポーンのせいで《《本当の意味》》で死を迎えることすら許されなかった。


自分でも気づかぬうちに、心の声を吐露していた。


シノメが私の左手をきつく握る。


「若様……そのようなことは、二度と口にしないでください。シノメは、若様がいないと……」


彼女は震えていた……

「すまない……」


私は、これからどうすればいいんだ。


終わりの見えない物語に押しつぶされそうだ。



朝になると、シノメは姿を消していた。


「オルヴィエートさん! おはようございます。

今日はデートに行きましょう!」


「おいおい、急だな」


起きがけにロザリアちゃんは、少し乱れた寝癖を手ぐしで整えてから、私の腕を引っ張る。


彼女が眩しすぎて私は直視できなかった。

彼女の輝きに照らされ、より一層自分の醜さが際立つ気がした。


それでも、ロザリアちゃんは私を離してはくれない。



彼女に手を引かれ“かまくら食堂”と書かれた大衆食堂に連れてこられた。


「この食堂、この前行って美味しかったんです。オルヴィエートさんに紹介したかったんですよ」


「俺っちの地元の名店を、他国出身のロザリアちゃんが案内するのかい?」


「ふふ、確かに変ですね。でも、シノメちゃんからあまり外食されないとお聞きしましたので」


あいつ……余計なことを。


妻の手料理の味を忘れたくないなんて……

目の前ではしゃぐロザリアちゃんにはとてもじゃないが言えない。


「お待ちどうさま。注文した生姜焼き定食になります」

髭面で大柄の男が定食をどかっと目の前に置く。


「俺っちが注文したのは、銀鮭定食なんだけど……」


「あっ、やばいっ、またやっちまった!

おやっさんにドヤらされる!」


貫禄たっぷりな見た目なのに、ここの店主が怖いのか? 変な大男だ。


「なら、私がいただきますよ!」

ロザリアちゃんが生姜焼きの御膳を自分の前に引き寄せる。


「まてまて、俺っちのと間違ったんだろう?

ロザリアちゃん、何を頼んだんだ?」


「焼き鳥丼を頼んだんですけど……目の前で注文したのに忘れたんですか?」


「うっ……」


「さっきから、オルヴィエートさん上の空ですよね。せっかくのデートなのに……」


「デートかはさておき……悪かった」


「あのー、お取り込み中すみませんが、注文ミスの件は……」

大男はおずおずと尋ねる。


「はぁ……わかったよ。俺っちが焼き鳥丼を食うよ」


「ありがとうございます!」

大男はぎこちなく頭を下げてる。

その姿になんとも言えない愛嬌を感じた。


「お前さん……名は?」


「我はガスタージャと申す」


「ん……ガスタージャっていやあ、あの十騎士の?」


「正確には、元十騎士だ。

今は魔剣を奪われ、十騎士の称号は剥奪された」


「そうなんですね……ガスタージャ様、可哀想です」


「……ここの仕事を失ったら、妻と子を養えなくなる……今回は助かった」


大男が心なしか小さく見える。


「お前さんさえよければ、シュラ組に入るか?

賃金は今の三倍は出すぞ?」


「なっ、三倍!

だが、おやっさんへの恩義もある。簡単には裏切れん」


「わかったよ……」

私は大きく息を吸い込んだ。


「おい、店主はいねぇか!」

ありったけの大声で怒鳴り散らす。


「へいへい、何事だ?」

厨房から厳つい禿げ頭の男が出てきた。


「お前さんとこの大男が、注文を間違ったぞ」


「おいっ! お前、これで何度目だ!」

慌てるガスタージャを店の店主が怒鳴りつける。


「ひっ!」

ガスタージャは肩をすぼめ体を小さくする。

 

「お前、もうクビな」


ガスタージャの恩義はあっさりと崩れ去ってしまった。


「そんな、おやっさん……」


「店主、それならこの大男、シュラ組で雇ってもいいか?」


「ああ、構わねぇぜ。むしろ邪魔だから持っていってくれ」


店主はあっさりとガスタージャを見捨てた。


強引な作戦だったが、上手くいった。

私もダイチを見習い、仲間を増やすとしよう。


一人で背負うには、この物語はあまりにも長い。


「これからよろしくお願いします、ガスタージャ様」

口を開け呆然と立ち尽くすガスタージャに、

ロザリアちゃんは丁寧に頭を下げる。


「店主の承諾も得られたことだし、これからよろしくな」


私の差し出した手を握り返すことができないくらい、ガスタージャは放心していた。


「家族を養うんだ。プライドや恩義だけでは飯は食えんだろ」



「新たな仲間に乾杯!」


その晩、さっそく歓迎会を開き、盃を交わす。


「ロザリア、お酒は体に悪いから飲んだらダメだぞ」


「兄様、いいじゃありませんか」


ライドウ君が妹のロザリアちゃんの盃に、リンゴジュースを注ぐ。


「若様、おかわりをどうぞ」

シノメは芋焼酎を私の盃に注ぐ。


「こうなったら、とことん飲むぞ!」

ガスタージャは半ばやけ酒を煽るように、ハイペースで飲み進めていた。


兄弟、主従、家族、同盟、仲間、好敵手――この世界に来て多様な繋がりを目の当たりにした気がする。いや、それは前世でも存在していたが、ようやく私が認識するようになったと言った方がいいな。


春香、もう少しだけ待っていてくれ。


私は盃を掲げ、飲み干した。

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