第67話 違和感
俺、スターナ、ミスティ、シルにメルフィー。
5人での新たな生活がスタートした。
家から出られなかったあの頃が懐かしい。
当時とは変わってしまったけど、変わらないものもある。
残った者、去った者、新たに訪れた者。
形は違えど、離れていても仲間だ。
気恥ずかしくて口には出さないけど……。
まずは、《《4人》》で部屋の割り当てを決めることにした。
「空いている部屋なら、どこでもいいぞ」
「私は角部屋が落ち着くからそこでいい」
メルフィーが一階の隅の部屋を指差す。
「ええっと、シルヴィアさんは、どこにします?」
まだ、シルに慣れていないのか、スターナがよそよそしく尋ねる。
「お気遣いありがとうございます。ただ、私はダイチ様と同じお部屋で暮らしますので、ご心配には及びません」
シルはさも当然のように告げる。
「えっ!」
「ちょっと、そんなのダメよ!」
スターナがツインテールを揺らしながら食い気味に否定する。
「なぜです?」
「うっ……」
スターナがシルの圧に押される。
「俺としてもシルと同じ部屋で嬉しいから別に異論はない」
「いや、とにかくダメだったら!」
騒いでいると、突然玄関の扉が開け放たれ、懐かしい顔が飛び込んできた。
「ダイチー! おかえりー!」
「リリム!」
久しぶりの再会に彼女を抱き上げる。
「リリム! お前はなんて可愛いんだ!」
久々のリリムに思わず頬ずりをする。
「んぎゃー! やめれー!」
リリムは俺の頬を手で押さえ、必死に抵抗する。
「今回は、いろいろと大変だったな」
その背後でレメリアが微笑む。
「本当に大変だったよ。
レメリアも変わりなさそうだな。今はリリムと自宅で暮らしているのか?」
俺はリリムの頭を撫でながら、レメリアに尋ねる。
「ああ、あの人と……家族三人でな……」
亡くなったリリムの父親……二人がいないのは寂しいが、これでよかったのかもしれない。
俺は家族と向き合ってこなかったし、
今更会いたいとも思わない。
でも、一緒にいられるなら、それに越したことはないんだろう。
❇
コンコン……。
夕暮れ時、屋敷の扉がノックされる。
「はいはーい!」
スターナが小走りで玄関先に向かう。
「ママ!」
「スタちゃんっ! 無事でよかった」
アーシャさんがスターナを抱きしめる。
「アーシャさん……お久しぶりです」
俺は何となく他人行儀になってしまう。
「ダイチさんも……おいで……」
アーシャさんが手を広げる。
少しだけ気恥ずかしかったが、スターナと一緒にアーシャさんの抱擁に包まれる。
その後は、久々にアーシャさんの手料理をみんなでいただく。
シルとメルフィーもすぐに輪に溶け込み和気あいあいと過ごした。
――ミスティを除いて……。
❇
「ミスティ……」
彼女の部屋を尋ねるが返事がない。
よくよく考えれば少し前から、違和感はあった。
口数が少なくなり、俺が声を掛けても反応が返ってこないことが増えた。
一番気になるのは、皆が――いや、俺も含めミスティのことをあまり気にかけなくなった。
まるで、《《初めからそこにいなかったみたいに》》……。
「入るぞ……」
部屋に入ると、窓が開け放たれていた。
夜風が流れ込み、カーテンがゆらゆらと揺れていた。
星空を見上げるミスティの体がかすかに透けて見えた。
「ぬし様……」
「ミスティ……お前……その体……」
彼女の体から少しずつ黄緑色の光の粒子が蛍のように舞い、漏れ出ていた。
「たぶん……妾はもう長くない……」
「それ、どうしたんだよ!」
ミスティを抱きしめようと手を伸ばしたが、彼女の体にノイズが走り、すり抜けた。
「わからない。ぬし様が物語を進めるにつれて、体に違和感が……たぶん、世界が妾を異物とみなしとる」
……ミスティは本来、この時代に存在しない登場人物。いわば、バグのような存在だ。
「ごめん、俺が無理やり連れてきたから……なのに、お前に構ってやれなくて……」
ミスティは首を横に振る。
「ぬし様は悪くない……もともと妾の物語は終わりを迎えていた。最愛の勇者に裏切られ、憎み、返り討ちにあった哀れな女……妾の物語は定められたバッドエンドだった」
「ミスティ……俺はミスティのこと……」
「ぬし様、気休めはやめてくれ……ぬし様たちとの生活は、おまけのサイドストーリーのようなもの。それでも……妾にとってはハッピーエンドだった」
「俺は……何もできないのか?」
「ぬし様……それなら、妾が消えるまで隣にいてほしい……」
目元を拭い、ミスティの隣に座る。
ミスティが俺の肩に頭を預ける……温もりも重さも感じない。
「ぬし様……」
「……」
涙が溢れ、言葉が思うように出てこない。
「ぬし様、こっちを向いてくれ」
ミスティの方を向くと、彼女の唇がそっと重なろうとして――触れなかった。
交わせない口づけを終えると、彼女の口元はかすかに動いていた。
それが俺に何を伝えていたかは、分からなかった。
ミスティの体が粒子となり、星空に溶けていく。
消えていく最後の瞬間まで……彼女は微笑んでいた。




