第65話 黒幕
【チャプター7-4 影】
寺院に入ると、黒い麻布を羽織った門徒たちが、俺たちを待ち構えていたかのように武器を構えていた。
「シュラ組とカーリア組は結託しているとみていいですね」
「正確には、オルヴィエート藩主とカーリア組ね」
シルの言葉をメルフィーが訂正する。
おっさんが情報だけ流していた。
大方そんなところだろう。
「数が多いわね……」
シルがロングソードを抜き半歩下がる。
「大丈夫だ。全員同じ顔……たぶんザコ敵だ」
レベルも低いし余裕だろ。
なんせ、メルフィーは3522レベル。
シルに至っては7682レベルもある。
レベルだけで言えばレメリアよりも高い。
“ネコパンチ”
メルフィーの拳が門徒を蹴散らす。
兎姿なのに何でネコパンチなんだ?
よくわからないが、強いからいいか。
“カタラクトブレード”
シルのロングソードが煌めき、巨大化する。
光剣が振り下ろされ、眩い閃光とともに敵が吹き飛ぶ。
クラフト:社長椅子
俺は赤い豪奢な椅子を出しておりあえず腰を下ろす。どうせ俺は役に立たないから、開き直って実況に専念する。
門徒は50人はいるが、だいたい500レベルぐらいだ。二人の敵じゃないだろう。
まあ、レベル1の俺よりは遥かに強いが。
「おやおや、血気盛んで怖いですねぇ」
よく通る高めの男声が寺院に反響する。
スキンヘッドに痩身の男が槍を持って物陰から出てきた。
レベル685……うん、雑魚だ。
「貴様は?」
シルがロングソードの鋒を男に向ける。
「銀閃どの……お初にお目にかかる。
私は、カーリア組、ウェルシュタイン家当主、
ハーマン・ウェルシュタインだ」
「私の二つ名を知ってなおも挑んでくるか?」
「……あれ? なんか変な臭いがする」
メルフィーが周囲をクンクンと嗅ぎ回る。
……体が……これは……梓に掛けられた麻痺の魔法と同じ感覚だ。
「みんな! 麻痺ガスだ!」
気づいた時には遅かった。俺たち三人は脱力して地面に倒れる。
「くっ……卑怯者!」
シルヴィアが声を張る。
「ふっ、威勢だけは立派ですね」
ハーマンは、シルヴィアの頬に舌を這わせる。
「ひっ……」
「このまま嬲り殺してあげますよ」
「やめろ! シルに手を出すな!」
「ほほう。では、あなたから殺してさしあげましょうか?」
男の注意が俺に向けられる。
「やるならメルフィーからにしてくれ!」
メルフィーは種族のせいか、防御とHPがやたら高い。彼女のほうが時間を稼げるはずだ。
「おい! ダイチ様、私を売るなー!」
メルフィーがもがくが、体は思うように動かないみたいだ。
今のうちになんとか助ける方法を――。
“闇討ち”
天井から影が降ってきた。
「な、何者!」
影はハーマンの肩に飛び乗り、首筋に苦無を突きつけた。
「あなたが、黒幕でしたか……」
シノメちゃんだ!
「お前は、シュラ組の犬!」
「犬じゃありません。シノメです」
一瞬にして、苦無がハーマンの喉笛を裂いた。
「裏切ったな……オルヴィエート……」
呆気なかった。ハーマンは最後の言葉を残し息絶えた。
俺の背後から気配が近づく。
「啖呵を切った割には負けそうになってんじゃん。
だから、俺っちの力が必要だったってのに。
ま、これで青年を楽して捕まえることができたわ」
「おっさん……」
まずい、ここまでがおっさんのストーリーだとしたら、俺はここで……
視界が真っ暗になった。
❇
体が重い……目覚めるとスターナが俺に寄り添うように寝ていた。
「ここは……天国か?」
「どこの国よ……それ……」
スターナが目を開き薄目で俺を見つめる。
彼女の青紫色の瞳にランタンの弱々しい光が、薄く反射する。
「ダイチ……生きているって信じてた……」
「おっさんは?」
「これまでの企みを全部吐いたわよ。
ナージャ王女の護送クエスト……貴賓馬車の中には爆弾が大量に積んであって、そもそもナージャ王女なんて乗ってなかったのよ」
スターナのため息が俺の顔にかかる。
「なら、あのクエスト自体がおっさんのブラフだったのか?」
「そうね……」
「ナージャ王女は?」
「既に、おっさんが攫っていたらしいわ。
カーリア組のハーマンが自分の屋敷に幽閉してたみたい」
「ハーマンの目的って何だったんだ?
雪洞をぶち壊して、平等に日光を――って叫んでたわよ」
「同じ組でも思想が違うんだな。
エマさんには、悪いことをしたな」
「ま、配下の家の不始末って意味じゃ責任はあるんじゃない?」
「そうだな……他のみんなは無事か?」
「ええ、囮にするためにおっさんが、殺さないよう命じてたらしい。おっさんの目的はダイチだったから……」
「今回、何で助けてくれたんだろ?」
「よくわかんないけど、ストーリーが変わったからって言ってたわよ」
それが嘘か本当かはおっさんにしかわからない。
「……明日、ナージャ王女を連れて故郷に帰りましょう」
「ああ……そうだな」
俺の故郷は、日本じゃない。
俺は――アルスタイン王国――インフラ整備のダイチだ。
❇
夜明けとともにおっさんと視線を交わす。
おっさんの隣にはシノメちゃんとロザリアちゃんもいた。
「ダイチさん……すみません。
私、オルヴィエートさんについていきます」
ロザリアちゃんの心はわかっていた。
「おっさん……大事な人にまで、嘘をつかないように生きろよ。ロザリアちゃんを泣かせたら許さないからな」
「私……ダイチさんには何度も泣かされましたよ?」
「うっ……それを言われると……何も言えない」
「はは、肝に銘じておくよ」
おっさんはいつものふざけた調子から、少しだけ柔らかくなった気がする。
「ごめん。僕もオルヴィエートさんについていくよ。ロザリアが心配だから……」
「ライドウくん……そんな裏切り者についていくの? それに、学園はどうするのよ?」
スターナが、ライドウを薄目で睨む。
「スターナさん、ごめん……オルヴィエートさんが信用できる人物か見極めるまでは、ロザリアを一人にはできない」
この場には、俺とおっさんがいる。
――補正無しの純粋な好感度勝負だ。
ロザリアちゃんには酷いことをしてきた。
おっさんを選ぶのも無理はない。
俺は、自分の主人公という立場に甘えていた。
「スターナ……ライドウについて行ってもいいんだぞ……」
引き止めて捨てられるよりは、自分から送り出したかった。
「私をみくびらないで。
私は、あの日……髪飾りをもらったあの日からダイチのそばを離れないって決めたんだから!」
なぜか怒られてしまった。
「ありがとう。スターナ……」
それが、恋心から来るものかは分からなかったが、今は俺を選んでくれたことが素直に嬉しかった。
「さて……話はまとまったかしら?」
シルが場を仕切る。
「今生の別れじゃないんだから、みんな笑顔笑顔!」
メルフィーが場を和ませる。
「えっ……てか、お前らも来るのか?」
「藩主様にお供するは当然の務め!」
シルが胸に手を掲げ、敬礼のようなポーズをしてみせる。
「はぁ……わかったよ」
「ダイチ様! また、私を救ってくれた!」
突然、ナージャ王女に抱きつかれる。
重っ! 思わず倒れ込む。
あれ……ナージャ王女……なんか、太ってね?
腰回りの肉もついたというか……気持い、丸くなった気がする。幽閉されている間に太ったのか?
「……と、そんなことは今はいいか」
俺は魔剣ヨグ=ソトースで次元斬の裂け目を作る。
「ダイチさん……たまには会いに来てくださいね!」
ロザリアちゃんが笑顔で手を振る。
「ああ……」
「私も、また……デートしたいです……」
おっさんの影に隠れながら、シノメちゃんが顔を伏せる。
そうだな……人間関係は0か100じゃない。
本来、グラデーションがあるものだ。
それをゲーム世界に来て初めて学ばされるなんて……皮肉な話だ。
それこそ勝ち負けなんて初めから無かったのかもな。
四人に手を振りながら次元に飲まれていく。
「そうだ。言われっぱなしじゃ癪だから、俺っちからも青年に一言……呪術国家――マーズの主人公と遭遇したら逃げろ……奴はキャラを消滅させることができる」
おっさんの不穏な言葉を残し、裂け目は閉じた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
これにて三章は終了です。
よろしければ、高評価、ブックマークをいただけるとモチベーションに繋がります。
今後ともどうぞよろしくお願い致します!




