第61話 クロスプレイ
翌朝、おっさんが神妙な面持ちで口を開く。
「かなりまずい状況になった。
スーリア組の連中が、躍起になってエマ藩主の行方を追っている。既に誘拐または、暗殺を視野に入れ捜索しているみたいだ」
「……異邦人の目撃証言も出回っているみたいです」
シノメちゃんが補足する。
「異邦人って俺らのことだよな?」
「間違いなくそうだの」
なぜかミスティはしたり顔で頷く。
「シノメさんの情報通りなら、早く都を出たほうがいいね。ダイチくん、魔剣で街の外まで飛べるかな」
「ああ、問題ないぜ、ライドウ。
一晩寝たから、MPも全快だ」
レベル1のMPじゃ次元斬は日に2回が限界だ。それを差し引いても便利すぎる魔剣だが。
「ナージャ王女の行方を追うならルミア組を探るといい」
「あれ、もう一つ派閥がなかったっけ?」
「武闘派集団のラマハ組だな。
彼らはそもそも陰謀なんて企てない。というか、政に心底興味がない集団だ」
「確か、武の追求だったか……」
「てか、ルミア組の新藩主は謎の男なんでしょ?
どうやって探るのよ」
「スターナちゃんの言う通り、俺っちですら、新藩主の姿を拝んだことはない。
……シノメから、ルミア組の拠点集落の地図を預かるといい」
「あれ、おっさんはついてこないのか?」
「これ以上は足がつきそうだからな。
シュラ組の傘下共を危険には晒せねえ。
みんな、少しの間だったが、楽しかった――
ここまでしか力になれねぇが、後は達者でやんな」
結局、おっさんの目的はわからなかったな。
「オルヴィエートさん、ありがとうございました!」
ロザリアちゃんがおっさんと握手を交わす。
「ああ、ロザリアちゃん。落ち着いたら遊びに来てもいいぜ」
「はい! 必ず!」
ロザリアちゃん……えらくおっさんに懐いたな。
「ダイチ殿……お元気で……」
シノメちゃんが頭を深く下げる。
「ああ、またデートに行こうな」
シノメちゃんの頭を軽く撫でてやる。
「ぬし様、デートってなんのことだ?
また、別の女に唾をつけたのか?」
「ミスティ、人聞きの悪いことを言うなよ。
俺の魅力にみんな惹かれているだけさ」
「ほら、ダラダラしていたら、おっさんたちに迷惑がかかるわよ!」
スターナに背中を押されながら、後ろ髪を引かれる思いで魔剣ヨグ=ソトースを振る。
「では、《また》――」
おっさんの言葉に見送られ俺たちは、次元の狭間に飛び込んだ。
❇
【パーティーが解散しました】
あれ……ここは?
座標は確かに都の外を指定したのに……周囲は、青い石を滑らかに削って創り上げた宮殿だ。
みんないない……俺一人だけ。
どういうことだ?
黒い修道着を着た男たちが俺を取り囲む。
フードをすっぽり被り明らかな敵意を持って、手には剣が握られていた。
格好からして、カーリア組の連中だろう。
「やる気満々のところ悪いが……退かせてもらうぜ!」
魔剣ヨグ=ソトース!
俺は再び次元の狭間を潜る。
今度こそ……外へ!
❇
【チャプター7c-2 もu4とりjeじは】
文字化け……久々にバグっているな。
転移先の座標がズレたのもバグのせいか?
凍てつく寒さが皮膚を刺す。
真っ白な銀世界――目の前に彼女が立っていた。
「シノメちゃん……」
彼女の手には苦無が握られている。
その指先はかすかに震えていた。
「シノメ……手を出すなよ」
「……御意」
シノメちゃんがこの言葉で従う人は一人しかいない。
「どうやって次元斬の座標をずらした?」
視線の先におっさんが立っていた。
右手には小太刀――彼の黒い瞳は雪を遮るように俺を見ている。
「青年の転移の座標を誘導する呪いだ」
「俺を殺す気なら、別に今このタイミングじゃなくてよかったんじゃ?」
「そうだな、ただ殺すだけならいくらでもチャンスはあった。でも、リスポーンしてしまう」
「……?」
おっさんの言っている意味がわからなかった。
「手間だが、物語に沿って青年を殺さなければ、ストーリーが進まないんでな」
「まさか――!?」
「ああ、俺っち……いや、私はガルデルド帝国サイドの主人公だ」
バグオラはリリース当初、スタート地点を四つの国から選べるという話だった。
結局、製作が追いつかず未実装のまま、
アルスタイン王国ルートしか存在しなかった。
俺は違和感を感じながらも見逃してた。
季節の無いこの世界で、おっさんが“冬”と言っていたこと……風呂という概念が無かったこの世界で、“久々”だと言っていたこと……。
「この場はおっさんとの決闘ってことか」
「青年……いつまでゲーム気分でいる?」
「どういうことだ? だってゲーム世界だろ」
「ストーリーに沿って死ねば、青年はリスポーンしない。バッドエンドを迎えて、物語から永久追放される」
……死ぬってことか。
おっさんの言うことは本当だろう。
俺の仲間も物語に殺された。
「主人公でも、死ねば終わりなのか?」
「ああ、錬金術国家……ラファートの主人公は……私が殺した」
この世界で幾度となく死を経験した。
負ければ終わり……理屈ではわかっていても、
現実味はなかった。
「俺の仲間は?」
「他の者は逃げおおせているさ――なに、青年が退場したら、彼女らは私が面倒を見よう」
「今さら、信用できるかよ。
……そんなに元の世界に帰りたいのか?」
「ああ……妻の墓参りがあるからな。
さぁ、おしゃべりはここまでだ……」
一瞬だった――気づいた時にはおっさんは俺の懐に潜り込んでいた。
「さらば――」
俺は、諦めて目を閉じた。
ふわっと、風がよぎった。
目を開けると、目の前で紫色の髪が揺れている。
「すみません……若様……」
シノメちゃんの腹部に小太刀が突き刺さっていた。
「シノメ……情に絆されたか」
おっさんは、突き刺さった小太刀を抜き、容赦なくシノメちゃんを蹴り飛ばした。
「ぐっ……」
シノメちゃんが倒れた。雪の上が赤く染まる。
「てめぇ!! 来い、魔剣ヨグ=ソトース!」
初めてだった。――いや、この世界で初めてだった。
こんなに誰かを憎いと思ったのは……。
慣れない手つきで、おっさんの頭上から魔剣を振り下ろす!
キンッ!
俺の太刀筋に合わせて、おっさんが軽く小太刀を振り上げると魔剣が空を舞った。
都合のいい覚醒イベントなんて無かった。
俺は物語に――いや、おっさんに敗北したんだ。
――今度こそ終わりだ。




